@第30話 幸福な世界??
@第30話 「幸福な世界??」
・・・時刻は既に23時30分を回っている。
俺は今日の朝、東京に来てユニコォンと戦い、
予定では夕方には岩手に戻る予定だったけど、
用事ができて今日は東京に泊まる事になってしまった。
「あーったく、伊集院ってヤツはどこに行ったんだよ・・・。」
この俺、陽遊 基は
とあるミーティングルームに招かれ、
四角く囲まれたテーブルで、
他の4人の客と顔を合わせている。
そのうちの2人は俺から見て左サイドのテーブルに、
もう1人は右に、最後の1人は正面に座っている。
「何か、用事があると言っていたな。」
オレンジ色のチェックのシャツを着た、
20歳前後に見える黒髪マッシュヘアーの男が口を開く。
「そういや、アンタらの名前まだ教えてもらってないよな!
暇だから紹介してくれよ!」
目の前の3人はみんな、決して仲良しの友達じゃない。
その3人の緊張を解くためにも、
この場を和ませたい。
「・・・僕は八重樫 亮太だ。
中仙道様が率いるブラックマイスターに所属している。」
空いた間を埋める様に、先ほどのマッシュヘアーが自己紹介する。
肌が色白だし、声が高いし、顔付きも女子っぽいけど
たぶん、名前的に、イケメン男子って事で大丈夫。
“八重樫ちゃん”でいいと思う!
「・・・俺は中仙道 武雅という。
“旧”ブラックマイスターの首領であった。」
白いスーツに全身を包み、髪を右サイドだけ長く伸ばした若い男性だ。
スーツは似合っているけど、一目で不審者だって分かる。
顔付きも凶暴そうな感じで、なんか怖い・・・。
ちなみに、中仙道が率いる”旧”ブラックマイスターは、
八重樫ちゃん以外の人間からは見放され、
こんなにショボい組織になっちゃったっていうのは午前中にサラッと聞いた。
「・・・次は私ですか。
上戸鎖 祐樹と申します。
普段はレボリューショナイズ社の研究所に務めております。」
最初の2人よりも年上に見える細身のメガネ男が口を開く。
さすがは”研究者”って感じが出てる。
でも、俺には引っ掛かる点があった。
「アンタ、その声、前に聞いた事あるんだけど、
もしかしてフォーサーの王とかって言ってたヤツ?」
「ああ、通りで私も見覚えがあると思っていました。
あなたがアーマー、アリエスの装着者でしょうか?」
やっぱりね。
あの時はマジで殺されそうになってヤバかったけど、
今となってからウジウジ言う必要はないかな。
「その通りさ!」
「まぁ、終わった事は水に流しましょう。」
いや、それ俺が言うセリフだろ・・・。
「俺は内垣外 奏修。」
唐突に正面の男が喋り出した。
短髪ヘアーをチクチク立ち上げた、常に不機嫌そうなその男を
俺は元々知っていた。
俺が通う高校の国語の先生だ・・・。
「そういや、あの時は俺も世話になったな?」
「・・・ダブルガトリングアーマーの方ですか。」
上戸鎖は僅かに苦笑する。
「・・・とりあえず、自己紹介も済んだ事だし、
みんなで大富豪でもやるか?」
俺は椅子の下に置いといたリュックからトランプを取り出し、見せる。
「おかしいだろ・・・?
いくら親交を深めるとは言え、僕たちはそれぞれ敵同士。
この作戦が終わったら戦う相手なんだ。」
八重樫ちゃんが不快そうな顔を見せた。
見た目的に絶対ノッてきそうなのに、真面目ちゃんかよ・・・。
・・・と、その時、部屋の入り口になっていたドアが開き、
消えていた男が姿を現した。
「待たせたな。後からもう一人参加するかもしれぬが、
とりあえず私達でミーティングを始めるとしよう。」
伊集院 雷人・・・。
見た感じは普通の長身のイケメン。
でも、ヤツからはただならぬ気配を感じる・・・。
「・・・我々でテロ組織”バーバレス”を始末するにあたり、作戦を練る。」
室内の俺以外のヤツらの表情が一瞬で変化した気がした。
彼は俺の正面のテーブルに座り、言葉を続ける。
「もう一人の参加者である岡本 龍星は
ブラッディ・オーバーキラーからバーバレス日本支部、
及び本部の場所に関する情報を入手したそうだ。
我々でそこを襲撃し、バーバレスを消滅させる。」
伊集院は淡々と、大雑把に、
作戦概要を説明した。
「俺たちだけで怪しげな組織を根絶やしにできるのか?」
俺は遠慮なく大声を張り上げた。
敵が謎すぎて全然イメージが掴めないんだけど・・・。
「敵の戦力がまったく不明である以上、
事前調査というものが必要だ。
それは私が担当する。」
「・・・伊集院さんが行くなら俺が代わりに行きますよ。」
伊集院の隣の内垣外が口を挟む。
「いや、敵にはあの時柳宋 衛久守がいる。
おそらく彼と対等に戦えるのは私だけだ。」
「・・・。」
伊集院は午前中、俺らと分かれた後に
都内でバーバレスの幹部と戦闘をしていたらしい。
それが聞いた話だとヤバいヤツだったらしくて・・・。
「・・・話を戻そう。
私が調査に行き、それから更なる緻密な計画を練る。
順序的には先に日本支部を潰し、
その後、ロシア北部に構えられたバーバレス本部を狙う。
抵抗がある者は、計画から降りてもらっても構わぬ。」
「危険を孕む事は承知ですが、
皆、バーバレスに対して何らかの”借り”があるのでしたら、
このチャンスを利用しない手はないでしょう。」
上戸鎖はやる気満々のように見える。
席を見回しても、反対するようなヤツは出てこない。
・・・すると、そこで、再び入り口のドアが勢い良く開いた。
「遅くなったな。」
入ってきたのは俺も見覚えのある、
アブソリュート・アーツ社の岡本 龍星だった。
・・・気のせいか、以前とは少し顔付きが変わったように見える。
忙しいのかな?
岡本さんは入って来るなり、伊集院を見据え、言う。
「アンタの情報通り、この男を連れてきた。」
そう言い、岡本さんは右手に握っていた
縄のようなものを引っ張った。
すると、その縄の向こう、部屋の外から、
1人の人間がよろけながら歩いてきた。
「・・・あの人は!?」
見覚えがある。
直接会った事はないと思うけど、
テレビとかで何回か見た事があった。
「・・・その人は、アブソリュート・アーツ社の社長、
園原 紫苑か?」
ブラックマイスターの怖そうな首領、
中仙道が驚いたような顔をしている。
全身が紺の高級そうなスーツ、両腕には輝く時計とリング、
それで腰には縄、ときた。
そりゃあビックリするだろ。
「この人間はバーバレスと関わっていた事を認めた。
テロ組織に加担した危険人物だ!」
岡本さんが社長を睨み付けながら罵倒するが、
社長は何も言い返さずに、俯いている。
「・・・君たちがバーバレスを倒そうとする理由は何だ?」
「?」
力無さそうに園原社長が言う。
「バーバレスは私たちを好き勝手に利用し、
その挙句に殺害しようと試みていました。
その行為の意味を、思い知らせるのですよ。」
上戸鎖の発言を聞くと、
園原社長は深いため息を吐いた。
「・・・バーバレスは世界を救うために人選をしている。
それに君たちが落選したというだけで
組織を潰すというのか?
君たちの方がよほど傲慢に思えるが?」
彼の話を、室内の全員は黙って聞いている。
「君たちは”平和な世界”を創りたくないのかね?
君たちのくだらない仕返しを果たすために、
平和の可能性を失う事になるのだよ?」
園原社長の言葉は、
挑発にも、皮肉にも、また嘘にも聞こえなかった。
「バーバレスはね、平和を願う世界中の人間達の援助で、
極秘裏に成り立っている組織なんだ。
・・・世界には君たちのような幸福レベルが比較的高い人間ばかりじゃない。
明日を生きるための食料にすら飢える人もいる。
いつ死ぬのか不安で耐えられない人もいる。
君たちの仕返しは、その人たちを殺す事になるのだよ?
それでも、君たちはバーバレスを倒すのかね?」
・・・その問いに、俺は即答できなかった。
もし仮に、バーバレスが本当に世界の平和を目指す組織なら、
ヤツらを敵にしたところで、完全に悪者は俺たちになる。
「・・・平気で殺し合いさせるようなヤツが、
世界平和を望める訳がない!」
沈黙を破ったのは八重樫ちゃんだった。
「・・・僕たちブラックマイスターは、
バーバレスのせいで分裂し、
その過程で殺さなきゃいけない仲間もいた。
これのどこが”平和”なんだ・・・。」
「君たちブラックマイスターも同じようなものではないか。
全国でテロを起こすなど、一体何を考えている?」
園原社長の口調が強くなる。
「フンッ、生憎だが、
俺たちブラックマイスターは”平和”など求めていない。
裁かれるべき者を裁ける世界を創る、
という目的で活動していただけだ。」
・・・にしても、アイツらの暴動はやり過ぎだけどね。
まぁ、仲間に裏切られて2人しか残りませんでしたーってなったら
そりゃ、ちょっとは同情しちゃうけど。
「・・・私も平和な世界には興味がないですね。」
上戸鎖が不敵な笑みを浮かべた。
ちょ、コイツら全員自己チュー野郎か・・・。
園原さんせっかく良い事言ってるのに台無しだよ!
「園原さん、私も平和な世界を創るためには、
規模が小さい事から始めるべきだと思っています。
新世界のために今の世界を犠牲にして良いはずがない。」
しばらく黙って話を聞いていた伊集院は、
今まとめた考えを発表。
「・・・俺は伊集院さんと同じだ。」
隣の内垣外先生も続いた。
「・・・との事だ。
俺たちにとってバーバレスは排除すべき敵でしかない。」
岡本さんは吐き付けるように縛られた社長へと告げる。
「君たちの行為が”功”であるか”罪”であるか、
その結果を見てから決めるが良い。
・・・最も、仮にバーバレスを倒せた場合、の話であるが?」
社長はふて腐れたように俺たちを睨み付ける。
「・・・残念ながら、僕を含めて、
ここに揃っている人たちは
ゲームで言う”ラスボス級のキチガイ”だらけだ。
バーバレスは、喧嘩を売る相手を完全に間違えたんだよ。」
「フンッ、キチガイか。面白い表現だ。」
八重樫ちゃんの発言を聞いた中仙道が笑い出した。
「・・・君たちがバーバレスを排除したとして、
その後の地獄の様な世界を想像できるかね?
果てるはずであった争いは続き、
死ぬ必要の無かった人間が次々と死に行く・・・。
君たちの旅路の果ては恐ろしいものであると、なぜ分からない?」
社長は必死に俺たちを止めようとしている。
それはたぶん、バーバレスに脅されて、とか
そういう次元の話じゃないように聞こえる。
・・・社長はこれまで、
本心から、バーバレスを支援してきたんだ。
今の不完全な世界を、ヤツらが変えてくれると信じて。
「・・・私は当時、大学を出てすぐに大会社の社長となり、
富と名声と有り余る財力を得た。
何一つ不自由ない生活へと突き進んだ私は、
その過程で恵まれない人が大勢いる事に気付いた。
私個人として、積極的に、恵まれない子供たちへ向けて
多額の資金援助を続けてきた。
しかし・・・それでも現状は変わらない。
生まれる国が違うだけで、命を繋げない人が大勢いる。
私は・・・それを変えたかった。
変えてもらいたかったんだ。世界の”仕組み”を。」
「それは少し、幻想的と言いますか、
非現実的と言いますか、実に子供らしい意見ですね。」
社長の必死の訴えを、上戸鎖がぶっ壊す。
「本当の平等を目指せば、それは平等ではなくなります。
社会主義経済のように。
私は日本に生まれ、ある程度の学歴で研究員となった。
以前の努力分の見返りがしっかりと戻ってきたのです。
・・・死ぬしかない他の国の子供の事なんて知らないですよ。」
皮肉たっぷりの様子で上戸鎖が続けた。
コイツ、分かりやすいゲス野郎だなオイ・・・。
マジでよくいるラスボスじゃん。
ここで主人公が「お前には分かる訳がない!!」とかって反論する展開だよね?
「・・・俺もガキには興味が無い。
生きる事ができないヤツは死ねば良い。」
中仙道が気怠そうな感じで続くと、
社長は、信じられないような顔で中仙道を睨む。
お前ら・・・さすがにちょっとは空気読めよ。
俺らギャグのレベルで完全に悪役サイドじゃん!!
「・・・さっき僕、ラスボス級のキチガイって言ったでしょ?
何言っても無駄だよ・・・。」
八重樫ちゃんも
さすがに引いてるように見える。
「・・・君たちは”悪者”だ。
社会の敵だ!!」
繰り返される園原社長のその言葉が、
後の俺に少なからず影響を及ぼすなんて、
この時は想像もできなかった・・・。
「俺は・・・みんなが安心して中二病でいられる世界を創るんだ。」
思わず口走っていた事実に、周囲の人たちの視線で気付いた。
「・・・中二病、ですか?」
上戸鎖がクソ真面目な表情で問う。
良い大人が中二病とか言うと笑えるけど、
俺にとっては真面目な話なんだ。
俺は一度両腕を失って、逃げようとして、あらためて気付いた。
『俺が本当にやりたかった事』に。
「・・・悪の敵が出てきて、自分がヒーローになって戦って。
そういう中二病の発想は誰もが楽しいと思う。
でも・・・それが現実になった時点で話は変わる。
あくまでも楽しいのは、それがただの”空想”に過ぎないから。
世界が変わった今、中二病は廃れてしまった。
だから、俺はありのまま中二病でいられる普通の世界を創る!
名付けて【チューニクス・ファンタジア世界】だッッ!!」
俺は気付けば席を立ち、
右手の人差し指を天井に向けて決め台詞を放っていた。
「・・・んで、その世界を創るためにバーバレスを倒すというのか?」
中仙道が真顔で訊いてくる。
「バーバレスを倒した後、俺はここにいる全員を”殺す”。」
さすがに重い言葉を喋った自覚はあるけど、
まさか10秒以上も沈黙に陥るとは思わなかった。
「・・・別に良いのではないでしょうか。」
この沈黙を破ったのは上戸鎖だった。
「私もバーバレスを倒した後に見据える目的があります。
それはローズ・ブレイカーとなり、一般人を超える力を持つ者にとって
何ら不自然な事ではありませんよ。
この同盟の期限はバーバレスという組織を完全に解体する、
その瞬間まで。
これに異論は出ないでしょう?」
園原社長を除く室内の人間たちは一斉に頷いた。
「・・・ちょっと早いが、用事があるために
俺はこれで失礼する。
後々、必要な連絡はする。」
園原社長を捕まえてきた岡本さんはそう言い、
1人で部屋を出ていった。
・・・なんか、あの人は前と変わったような気がする。
こういう会合の場だったら率先して意見をまとめてたし、
はっきりと意見を述べていたはずだ。
ヤバい事でもあったのかな?
「園原社長、あなたは私たちがバーバレスを始末するまで
身柄を拘束させてもらう。
聞きたい事も山ほどあるものでな。」
伊集院はそう言いながら席を立ち、
園原社長を縛っている縄を握った。
―――――その頃―――――
・・・ここはバーバレス日本支部。
10畳ほどの会議室では
首領である”ドラスティック”の他に、
3人ほどの人物が顔を合わせて会合を開いていた。
「しかし・・・こうしてドラスティック様が
日本にいらっしゃるのは貴重な機会ですね。」
ジェントルマン、と表現するのが適した雰囲気の、
紺色のスーツに身を包み、ヒョロっとした背の高い男性が
ドラスティックを見やる。
落ち着いた、太い声が礼儀正しさを象徴する。
「バーバレス日本支部、武装開発担当幹部、
加賀屋 尊さん、
あなたの活躍は聞いております。
よく材料が調達しにくいこの日本で
”アレほど”の発明が可能でしたね?」
「人工生命体”NEO”は、まだ戦闘能力的には問題がありますが、
使い捨ての人形と考えれば貴重な戦力になります。」
自分の発明を自慢する加賀屋を
冷たい目で見やる男が口を開く。
「でも、アレは生産コストが馬鹿高いだろ?
いちいち電気信号を植え付ける必要があると聞いたが?」
「時柳宋 衛久守、
新入りの武力担当幹部は黙っていてください。」
「・・・俺様は支部を移動しただけであって、
新人ではない。言葉を選べ。」
衛久守の言葉に、加賀屋は舌打ちをした。
「・・・それにしても、相変わらずそこの女は静かだよな。」
この部屋で顔を合わせているのは
ドラスティック、
加賀屋 尊、
時柳宋 衛久守、
と、その他にもう一人の人間がいる。
先ほどから黙って4人で囲むテーブルを凝視している
その身長160cmほどの小柄な女性は、
自分を話題に出されたためか、視線を衛久守の方へと移した。
「話は全て聞いていますよ。」
肌は白人のように美しい白色で、その瞳は青色。
髪は茶髪というよりも金に近く、
白いワンピースに身を包んでいる。
顔だけは、なぜか日本人らしいそれであり、
それに準じて日本語も流暢だった。
「幸福シミュレーション担当幹部、”アンブレラ”さんです。
昨日この支部に入った衛久守さんは知らないと思いますが、
彼女は必要以上に無口です。
無理に喋らせないようにしてください。」
「そういう事です。」
アンブレラと呼ばれた女性は衛久守へと僅かに微笑みかける。
「まぁ、俺様は外に駆り出される事の方が多いからな。
お前とは関わる機会が言うほど無いだろう。」
そう言い、衛久守はアンブレラから視線を逸らす。
・・・衛久守は彼女と視線を合わせる事で、
一見可愛らしいアンブレラの奥に眠る、
“何か”を察していた。
衛久守は優性遺伝子を集めて創り出された人間であり、
戦闘とは無関係な、そういったものを見抜く能力も高い。
しかし、いくら衛久守でも
ほぼ初対面であるアンブレラの素性までは読み取る事はできない。
そもそも、このバーバレスの幹部に選抜される人間が
ただの可愛らしい女性である訳がなかった。
「それでは、もう時間も時間ですし、
お開きとさせていただきましょうか。」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・・・この私、ドラスティックが会合を打ち切ると、
衛久守以外の2人は席を立ち、
部屋を出ていった。
「しかし、お前も大変だな。
あんなヤツらと仕事しなくちゃならないのだろう?」
衛久守は口元を歪め、私を見据える。
「これも・・・人間の”幸福”のためですよ。」
「そう言えば、お前の幸福指数はどのくらいなんだ?」
幸福指数というのは、
バーバレスが開発した拡声器のような特殊な計測装置を、
対象の人間に向ける事で計測される、数値の事である。
「私の今朝の計測では24でしたが。」
幸福指数は0を最小、100を最大として表示される。
つまり、100はその人間に何一つ不満がない状態、
逆に0は不満しかない状態。
「まぁ、バーバレス入団当初のお前よりは
だいぶマシになってきたな。」
・・・この時柳宋 衛久守は
過去の私について、他の人間よりも詳細に知っている。
「あの時の私は・・・単なる抜け殻でしたからね。」
私は椅子に座って天井を見つめたまま、
頭の中に自然と湧き出てくる物事に思考を預ける。
・・・”アレ”から、どれだけの時間が経過したのだろう?
“アレ”が無ければ、私はここにはいなかったのだ。
私が世界を変えるチャンスを掴む事などなかった。
・・・今からおよそ10年前。
高校2年生だった私は、
レボリューショナイズ社で極秘裏に進められていた、
新技術の実験に協力していた。
それは、先日、殺害された城ヶ崎 厚が中心となり、
動いていたチームであった。
元々は”ネットゲーム”の腕を見込まれて、
それに関する協力を要請されたという感じであったが、
徐々に別な事でも協力を要請されるようになった。
・・・それが現在のHR細胞に関する研究だとは
当時の私は分からなかった。
いや、正確には、
HR細胞がここまでの驚異になるとは思わなかった。
しかし、私はその研究に危険性を感じ、
彼らの研究を失敗に導くようになった。
最も、自分が関わる研究にしか干渉できなかったが、
その危険な研究の邪魔をする事こそが
自分のやるべき事だと思い、陰ながら必死で妨害を続けた。
いつ嗅ぎ付けられるかと怯え続ける、恐ろしい日々を過ごした。
・・・今思えば、馬鹿だったと思う。
危険な研究を続ける者たちの邪魔をする事が、
どれだけの危険を孕む事なのか、
当時の私は理解できていなかった。
・・・私が協力を続けて約1年後、
私が高校3年生の2月、大学の二次試験前だった。
いつものように塾から自宅に帰ると、
両親が居間で殺害されていた・・・。
殺害は銃などではなく、
単純に家にあった包丁で行われたそうだ。
しかも、ヤツらは証拠品を自在に操り、捏造し、
私を両親殺害の犯人に仕立てた。
必死に抵抗したものの、私ではどうする事もできず、
全てが無駄だった・・・。
その後、裁判で懲役2年の判決を受け、
牢獄生活を送る事になった。
・・・そして出所後、20歳となっていた私は、
1週間と経たないうちに
街でバーバレスの幹部に声を掛けられ、
私は世界規模のテロ組織へと勧誘された。
聞いたところ、
当時のバーバレス首領である”トランクエライズ”が、
「世界を変えられるほどの”過去”を背負った人間」
を選抜し、幹部へと推薦しているとの事だった。
それはまさに、計測された幸福指数が極端に低い、
この世界に大いなる不満を持つ人間だった。
私はそのうちの1人。
当時、自分が世界を変えられるとは思わなかったが、
自分を牢獄に追い込んだ城ヶ崎への
復讐のチャンスだとも思い、
身寄りのいない俺はバーバレスへの入団を決意するが、
すぐに”復讐”は無意味である事に気付いた。
バーバレスは元々、より多くの人間が
幸福になれる事を目的として活動している組織。
バーバレスの幹部たるものに”復讐”という概念はない。
世界を幸福にし得る要素すべてを掌握し、
より多くの人間を幸福へと導く・・・。
世界の幸福を妨害する要素には、
その兵力で立ち向かい、鎮圧する。
ただそれだけである。
・・・私は入団して間もなく、バーバレスの行動理念を尊重し、
彼らにこの身を捧げる事を決意した。
・・・そう、二度と私の様な不幸な者が出ない世界を創るために。
それから、私は独学でプログラミングを勉強し、
バーバレス・ロシア本部の、鎮圧システム担当幹部、
ソフトウェア専門として活動してきた。
・・・バーバレスに入団してから2年目の春までは、
私は熱心なテロ組織の幹部であった。
しかし、ある出来事が私のそれまでの行動を変えた。
初代の首領である”トランクエライズ”の方針は、
徐々に、”幸福を及ぼす事のできない人間”たちを
始末する方向へと動いていった。
それは私が求めた世界ではなかった・・・。
一般民は一般民でも良い。
その一般民を幸福にできる存在の一部に、
私はなりたかっただけであったのだから。
・・・そして、私はトランクエライズを始末すべく、
本部内の研究施設から必要なものを集めた。
アメリカのZZZZZ社にて研究されていた
“優性遺伝子”による強化を図り、
どこの誰のものであるか分からない優性遺伝子を注入した細胞を、
自分へと取り入れる作戦を立てていた。
当然ながら、他の研究員などには隠れて。
その際、バーバレスの武力担当幹部でもあり、
ZZZZZ社の優性遺伝子を出生時から組み込まれた存在、
時柳宋 衛久守の協力を得て、
私は無事にその優性細胞の奪取に成功。
私の体内へと注入した細胞は、私の全身に影響を及ぼし、
私は水色の寄生虫、
コマンディング・パラサイトを操る怪人、
“フェロシャス・リゾルバー”となった。
それは他者の体内に自分の寄生虫を投入する事により、
その寄生された人間の体細胞を突然変異させ、
また別の怪人へと進化させるという、
唯一無二のローズ・ブレイカーであった。
私は自分も含め、そうした寄生虫によって誕生した怪人を
まとめて“コマンダー”と呼んだ。
・・・私は無事に首領、トランクエライズの暗殺に成功し、
私への賛成派団員たちのみを集め、
新たな新生バーバレスを始動させた。
最も、反対派の人間はごく僅かであった。
それはトランクエライズの計画が手詰まりになり、
彼が思考停止に陥った事は、団員の誰が見ても明らかであったからだ。
私は研究員などを除く幹部クラスの団員たちには
自分の寄生虫を強制的に植え付けた。
テロ組織であるバーバレスでは、
その内部でいつ何が起きるのかは分からなかった。
コマンダーの体内に寄生させた寄生虫は、
私の意思で自由に操る事が可能であった。
要は、従わない者を内部から痛め付けたり、
私に抵抗する者からは怪人への変身能力を奪ったりもした。
これにより、私は、池田 和也は、
気付けば団員が認めるバーバレスの首領となっていた。
世界を幸福にするための準備は
完全に整っていたのだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「抜け殻、か。
しかし、あの時、お前に協力して正解だったと俺様は思う。
トランクエライズがあのままこの組織を動かしていれば、
下手をすれば、この地球は全面核戦争に至っていただろう。」
私は目の前の椅子に深々と座っている衛久守の声で
現実に引き戻された。
「そうなればもはや、幸福も何もないでしょう。」
「しかし、お前は大切な事を忘れている。
トランクエライズは元々あんな提案をしていた訳ではない。
・・・世界を救うための頭を持っていなかった。
おそらく、脳みそが容量オーバーだったんだろうな。
こんな一国レベルを超える兵力を保有するテロ組織だ。
一歩間違えば、世界の平和は逆転し、混沌の世の中と化す。」
私は瞬時に衛久守が挑発を仕掛けていると読めた。
「私に、世界を救うだけの頭が無いという事でしょうか?」
「そこまでは言わないが・・・。
何が正しいか、また、何が間違っているか。
常にお前の良心に問い続けろ。
一度曇り切った目では、それは見極められなくなる。」
「ほう、武力担当らしからぬ助言ですね。」
私の返しに、衛久守は短いため息をついた。
「・・・お前の目が腐った時、
お前を止められる人間はバーバレス内にはおそらくいない。
パラサイトを保有するお前は圧倒的優位に立っている事は事実だ。
だからこそ、力を持つ者は”目”を大事にしなければならない。
善と悪を見極められる・・・目を。」
暴力的な見た目に反して、
衛久守は私並みには世界について考えている。
彼の主張に、私と意見が食い違う点は見当たらなかった。
「そんな事は承知していますよ。」
私はそう返し、席を立った。
@第30話 「幸福な世界??」 完結




