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ブレイキング・ローズ  作者: まるマル太
第4章 背後に潜む怪しい影??
33/42

@第29話 駄目だった。すべて間違いだった。

@第29話 「駄目だった。すべて間違いだった。」




支配の狂人と化したフォーサー、

トランセンデンタル・オーガナイザーが召喚した大型ビーム砲の砲撃により、

周囲は眩い光に包まれると同時に、

耳をつんざく地響きに見舞われる。


砲撃地点を中心としてアスファルトはめくり上がり、

光の影響で視界が奪われる。




・・・数秒後、元の明るさを取り戻した国道沿いには

オーガナイザーとドミクロンのみが立ち尽くしていた。




衛久守えくすは消えたのか?」

ドミクロンは呟き、周囲を見渡すが、

あの筋肉質な黒い塊は見当たらない。

かと言って、亡骸がビーム砲によって消滅したような形跡もない。


「・・・何らかの逃げる手段を持ち合せていましたか。

 悔しいものです。」

そう言いながら、オーガナイザーは怪人態の変身を解き、

元の上戸鎖かみとくさり 祐樹ゆうきへと戻った。


「その声、聞き覚えがあると思っていたが、

 昨日、ブラックマイスター基地前で顔を合わせたフォーサーだったか。

 名前は?」

ドミクロンも変身を解き、伊集院いじゅういんへと戻る。


上戸鎖かみとくさり 祐樹ゆうきと申します。

 あなたには本来、恨みがあると言った方が自然でしょうが、

 今回ばかりは礼を言わざるを得ません。

 ・・・あなたがトレディシオン・ルイナーを破壊した事で

 私は更なる高みへと足を踏み入れる事が出来た。」

「何があったかは分からぬが、

 それでフォーサーの姿が変わっていたという事か。

 ・・・ところで貴様、”バーバレス”と

何らかの関係があるような話をしていたが?」

伊集院いじゅういん上戸鎖かみとくさり

10mほどの距離を保って会話を続ける。


「私は以前、バーバレスに資金援助を受けていました。

 しかし、彼らは私を見限り、援助を中止するばかりか、

 刺客を送り込むまでに至った。

 ・・・戦況の不利もあり、刺客に殺害されかけたところを、

 ブラッディ・オーバーキラーに助けられたのですよ。」

「・・・なるほどな。話はだいたい見えた。」

そう言い、伊集院いじゅういんは腕組みをした。


上戸鎖かみとくさり、貴様が正々堂々の勝負に興味が無ければ、

 我々と手を組め。」

それを聞いた上戸鎖かみとくさりは、一瞬、

戸惑いの表情を見せ、ほう、とだけ呟く。


「心配する事はない。

 これは一時的な協定に過ぎぬ。

 あの、バーバレスを根絶やしにするための、な。」

「・・・良いでしょう。

 しかし、時が来れば私は無情にもあなた方を裏切るでしょう。

 それでも良いと言うのであれば。」

強化された身体を手に入れた上戸鎖としても、

まったく規模の分からない敵を

単独で始末しようとする事には抵抗があった。


・・・互いに互いを利用するだけの協定であっても、

ヤツらを潰す事にはそれなりの価値がある。


それが、2人が内に秘める結論だった。




「フッ、良いだろう。

 このブラックマイスターのテロ騒ぎが収まった後、

 協力者が集まる集合場所を指定している。

 今からそこに案内しよう。」






















―――――それから数時間が経過した―――――




・・・時刻は20時30分過ぎ。

石川県を訪れていた岡本おかもと 龍星りゅうせい

既に東京のアブソリュート・アーツ社へと戻ってきていた。


しかし、行く前の使命を背負った彼の勇ましい姿から一変した、

今にも死にそうなほど弱り切り、絶望したその容姿は、

社内で比較的近い立場であった蔭山かげやまですらも驚かせた。




「・・・なるほどな。

 つまり、信用していた仲間を一度に2人も失ったと言う訳だ。」

蔭山かげやまは、同じ事を何度も繰り返す岡本おかもとの言葉を

あまりにコンパクトにまとめ上げた。


4人ほどを接客できるこの客室には、

岡本おかもと蔭山かげやま以外の人間はおらず、

2人は向かい合ってソファに座っている。




「・・・俺は結局、何も守れない・・・。

 守れないだけではなく、平気で見殺しにする・・・。

 俺に・・・世界なんて救えないんだ・・・。」

生気を失った岡本は、

虚ろな目を半開きにして譫言うわごとを繰り返す。


「悪いけどな、私が何と言おうと

 お前は変わらない事なんて容易に想像できる。

 私は、この会社で私以上の功績を残している

 お前を非難する事はない。

 ・・・が、今の魂の抜け殻と化したお前を称賛するつもりも毛頭もうとうない。」

「俺は・・・仲間を殺したんだ・・・。」

蔭山かげやまの言葉は岡本に届いていないようだ。


「・・・常に精神的にも肉体的にも好調な人間なんていない。

 今がどうしても気に食わない、

 手詰まりの状況なら、過去の栄光にしがみ付けば良い。

 岡本、お前は何がしたくてこの会社に来た?」

その言葉を聞くと、譫言を吐いていた岡本は黙りこくった。


「・・・悲しむ人間を一人でも減らす・・・ため。」

「お前はかつて、その目的のために

 あの伊集院いじゅういん 雷人らいとに挑み、負かした。

 あの時・・・私は当時のアクセス権限で密かに

 ゲーム中のパラメータを変更し、

 お前に少しでも有利に働く様に設定していたんだ。

 お前の武器の発動時間を延長して、な。」

岡本の視線は床を向いているが、

真実を語る蔭山の話はちゃんと届いている。


「何が言いたいかと言うと、

 私は当時、学生だったお前に託したんだ。

 そしてお前は期待通り、偉業を成し遂げてみせた。

 お前が掲げた目標はあの時にちゃんと達成されていたんだ。」

「・・・それが、何だって言うんですか?」

「今、お前が仲間2人を見殺しにした事は事実だ。

 だがな、自分の目標を多少なりとも達成してきた自分を

 そこまで卑下ひげする必要もないという事だ。」

そこまで言うと、蔭山かげやまはソファを立ち上がった。


「私の性格上、お前が正常に戻るまで付き添う、

 なんて事はごめんだ。

 後は、自分で過去を振り返って、それに飽きたら未来を見据えろ。」

蔭山はそのまま部屋を出て行ってしまった。




残された岡本は、言われた事を整理するように両手で頭を押さえ込み、

両目を閉じる。


・・・かつて、高校生時代の岡本は

“過去は現在に活かすためにある”と考え、

過去の失敗を、ある意味では成功に繋げる事に成功した。


しかし、それは”振り返りたくない過去”を

打ち消すために彼が努力した結果であり、

過去の栄光を思い返し、満足するというような経験はない。


・・・過去を思い返す事で後悔にも満足にも取れる。

それは岡本にとっては気持ちの悪い矛盾だった。

彼にとって過去とは、”正すべき悪”でしかない。




「やはり、無理だ・・・。

 どうすればこんな俺でも世界を救える・・・?」

放心状態の岡本が再び譫言うわごとをこぼす。




と、その時、接客室の扉がゆっくりと開いた。

蔭山かげやまが再び入って来たのかと思い、

岡本はそちらを見やる。

しかし、それはあまりにも彼の予想外の来客だった。




「・・・動かないで。」

岡本はあまりの恐怖に立ち上がり、

そのまま肘を曲げて両手を上げた。


・・・部屋に入ってきたのはハンドガンを握り締めた小柄な女性。

岡本の古くからの”仲間”であり、

大人になった岡本を支え続けていた人物のうちの1人。


「・・・瑠璃川るりかわ・・・なぜ?」

株式会社ジュエルエレメンツの若き女社長、

瑠璃川るりかわ 琥珀こはく

いつものように、パール色のタイトスーツに身を包み、

全身に高級そうなアクセサリーを散りばめた彼女がそこにいたが、

彼女がこの場で自分に銃を向ける事の意味を、

岡本はまったく取る事ができなかった。


「・・・バーバレスの命令。

 それだけ言えば龍星りゅうせいは分かるはず。」

「な、んだと?」

その時、岡本はハッと気が付く。

元々、彼女は自分の父親をブラッディ・オーバーキラーに殺害されて、

その復讐のためにアブソリュート・アーツ社に貢献してきたという事。

そして、オーバーキラーはその時に

バーバレス協力者たちの会合を襲撃した事・・・。


そこから導き出される結論は、

彼女の父親がバーバレスの協力者であった故に、

瑠璃川るりかわ 琥珀こはく本人も関係者であるという事。




「龍星に何も恨みはないけど、命令には逆らえない。

 ・・・ねぇ、覚えてる?

 私が10年前に言った事。」

「11月の末に教室で話した事・・・か?」

岡本の返しに、瑠璃川るりかわは驚きの表情を見せる。


「・・・ビックリした。

 まさかどうでも良さそうにしてた龍星が覚えてるなんて。」

「あの言葉が、今のお前の行動の伏線になってるなんて、

 俺もビックリだな。」

そこから5秒ほどの沈黙が続いた。


「・・・人は追い込まれれば何でもできる。

 本気で追い込まれた人は何をするか分からない。」

岡本が記憶を辿りながら唱えた。


「その通りよ。

 その言葉通り、私は龍星が予想もしていない事を成し遂げる。」

瑠璃川るりかわはその小さい手に収まらないような銃を

両手でしっかりと構え、狙いを定めた。


「・・・ハハハハ・・・ハアアアハッハッハッハアア!!

 そうかッ!そう言う事かッ!!」

突如、岡本は両手を上げながら

狂ったように笑い始めた。

対照的に、始終真顔で銃を向けていた瑠璃川るりかわ

警戒するように目を細める。


「はぁ・・・こんな時に狂ったの?

 悪いけど私はそんな事で止められないよ。

 私も辛いけど・・・仕方がない!」

「そういう事だったんだ・・・!!

 全てそういう事だったアアアア!!

 アアアハッハッハッハッハアアアア!!」

笑い狂う岡本へ向けて、

瑠璃川るりかわは容赦なく人差し指を引き金にかける。


が、次の瞬間、

瑠璃川るりかわの背後のドアから現れた男によって、

彼女は背後から両手を拘束された。

同時に、持っていた銃が床を滑る。




「ちょ、ちょっと何やってるんですか!?」

オドオドノッポこと、研究員の中田なかた あらたである。

180cmを越える身長の彼には、

そのヒョロい体格に見合わないほどの力が備わっている。


「クッ・・・この変態!放しなさい!!」

瑠璃川るりかわが叫んで振り払おうと暴れるが、

その抵抗は恐ろしいほどまでに無力であった。


「あ、あなたが何かヤバい事考えてるなら、

 それを全部教えてもらいます!」

「放せ!放せ!!」

そのやり取りを、岡本は見ているだけには留まらない。




――――――――――――――――――――――――――――――――




・・・俺はしゃがみ、

すぐ足元に転がってきた銃を拾った。

先ほど、瑠璃川るりかわが俺に向けて構えた銃のグリップは、

まるでカイロのように温かい。


彼女にはそうしなければならない理由があったのだろうが、

そんな事は俺にはどうでも良かった。

・・・”赤の他人”である、ヤツの事情など。




「バーバレスは世界を救うの!!

 この壊れた世界を!!」

泣き喚く瑠璃川るりかわの額から、

一瞬にして鮮血が噴き出した。


彼女は3秒ほど叫び続けたが、

すぐに頭を垂れ、絶命した。

彼女のスーツが見る見るうちに赤く染まっていく。


見ると、彼女を押さえ付けていた中田は

目をこれでもかと言うほど丸くして、

瑠璃川るりかわの死体を見つめている。

中田は白衣姿であったが、

その白には、しぶいた彼女の血がよく映えている。




「・・・どうして・・・?」

沈黙を破り、中田が静かに口を開く。


「どうしてですかッ!?

 この方は、瑠璃川るりかわさんは・・・

 岡本さんの大事なお友達なんでしょう!?

 何で・・・何で・・・こんな簡単に・・・。

 こんな容易く人殺しができるんですか!!

 僕が押さえ付けているうちに

 話し合えば和解もできたはずです!!

 それなのに・・・それなのに・・・。」

これほどまでに感情的になった中田は初めて見た。

目に大粒の涙を浮かべ、鼻をすすっている。

間違いなく、演技ではない。

でも、彼に同情するつもりはなかった。


・・・自分が"悪い"なんて考えられなかった。




「中田、その”お友達”のお陰で、

 ようやく俺は気付いたんだ。」

俺はまっすぐに中田を見据えると、

彼も目を逸らさずに俺の顔を睨み返す。


「過去を振り返る事は無意味である、と。

 そして、俺が世界を救うにはどうすれば良いかを。」

「え・・・?」


・・・そう。

俺が瑠璃川るりかわと同じ高校で、

ある同じ目標を目指して、

共にあの日々を過ごしていたなんて事は”夢”だ。

そんな事実は無かった。

もしあったとしたならば、

そんな過去は俺が消してやる。


過去は・・・無意味で無価値な存在であると気付くのに、

これほどまでに時間を要したのは自分でも意外だった。


・・・つい先ほどまで、もぬけの殻と化していた自分が憎い。

俺には、思考停止している時間は無い。

世界を救う俺にはな。




「お前が今抱えているような”ゴミ”を始末すれば、

 少しでも世界は救われる・・・。

 悲しむ人を減らす事ができる!

 そうだ、俺は・・・」

俺が再び目を見開いて中田の顔を見据えると、

彼は思わず目を逸らした。


「悪を滅ぼす・・・”正義の味方”だアアア!!」

俺は右手の銃を床に投げ捨て、

ドアの入り口へと歩を進める。

そして泣いている中田のすぐ隣で一度立ち止まった。

その180cmを越える巨体はガタガタと震えている。


「俺は今の件で、アブソリュート・アーツ社にいられなくなるだろう。

 中田、これまでご苦労だった。

 俺は世界を救ってみせる。

 ・・・この、自分の手で。」

そう言い残し、俺は部屋を出た。

時間も時間という事もあり、

瑠璃川るりかわの死体が発見されるまでに逃げ去る事は容易だ。




・・・俺はそのまま社内にある

フォーサー対策関連研究室の本部へと寄り、

自分の荷物をまとめていた。


「・・・あの女はバーバレスだった。そうだな?」

不意に背後から話し掛けられ、振り返る。


蔭山かげやまさん・・・。」

そこには、全てを察したかのような蔭山かげやま 神門かなとが立っていた。


「接客室の中田は、死体を抱えたまま放心状態だったぞ。

 アレはいくら何でも・・・手荒過ぎだ。

 しかも、お前は"既婚者"だろ?

 後先考えない行動は慎め。」

腕組みをしながら話す蔭山かげやまが目を細める。


「悪は排除しなければならない・・・。

 俺はあの女に裏切られてようやく気付きました。

 そして・・・俺が世界を救う。」

俺が話すと、10秒ほどの沈黙が続いた。


「・・・やはり、岡本。

 お前は第二のディスガイザー、

 第二の伊集院いじゅういん 雷人らいととなってしまった。」

蔭山かげやまの発言に、俺は思わず口元が歪んでしまう。


「そうか・・・あの男の理論は正しかった・・・。

 俺がかつて掲げた思想では世界は何も変わらなかった。

 ・・・あの男のような、大胆な思想が無ければ世界は・・・。」

「やめろ!」

蔭山かげやまが声を張り上げた。


「岡本!今ならまだ戻れる。

 高卒で入社してきた頃の、大きな夢を背負ったお前にッ!」

「戻ったところで何の意味がある!?

 ・・・あんな俺じゃ、世界は救えない!

 何も変えられないんだ!!」

俺が蔭山かげやまに対して暴言を吐くのは、

記憶が確かならこれが初だった。


「俺は・・・あの頃の目的を果たすために、

 手段を・・・変更するだけです。」

「そうか・・・。分かったよ。

 もう私ではお前を止める事はできないらしいな。」

蔭山かげやまはそのまま踵を返し、

入り口のドアへと進んでいく。

その哀し気な背中を見送る事に対し、

俺はまだ抵抗があった。


「お前が”本当に”世界を救った時、

 私はお前を英雄と褒め称えよう。

 それまでは・・・私の前に姿を現さないでくれ。」




――――――――――――――――――――――――――――――――




私はそう言い残し、部屋を出た。




・・・約10年前、

私は伊集院いじゅういん 雷人らいとが製作したゲーム、

シンギング・ウォーズの企画担当を行っていた。


だが、彼は「社会の浄化」と称し、

そのゲームを利用して、とんでもない犯罪行為を繰り返していた。


・・・私は全力で犯罪者に加担していただけだった。

あの男になら、自分の能力を捧げる価値があると思い、

仕事に全力を尽くしてきた。




・・・しかし、私はあの男に裏切られた。




以降、この会社の様々なプロジェクトに回されてきたが、

あの男ほどの威厳を持った人間、

つまり、私が能力を捧げる価値のある人間は、

皮肉にも現れなかったため、

私は長い期間、仕事にも、やり甲斐を感じられなかった。


私は自分よりも能力の低い人間の手助けをする事が

あまり好きではないのだ。

そのせいで、度々他の人間から恨みを買う事が多い気がする。




・・・その約9年後、

岡本おかもと 龍星りゅうせいが中心となり

開始された”フォーサー対策”のプロジェクトでは、

私には何か、直感的に得られたものがあった。


それは9年前と同じく、

プロジェクトリーダーの才能がズバ抜けていたという事による

満足感、充実感が重なったものであった。

しかも、岡本おかもと 龍星りゅうせいは、昔に

あの伊集院いじゅういん 雷人らいと

アブソリュート・アーツ社から追い出してくれた、

私の中では”正義のヒーロー”的存在であった。


高卒で入社してきた彼を私はずっと知っていたが、

その時、初めて色々と語り合ったのを覚えている。

彼には才能だけではなく、明確な目標があった。

それを私は気に入り、進んで手を貸してきた。




・・・そんな岡本ですら、

平気で犯罪行為を認める人間に成り果ててしまった。


人間は一度変われば簡単には戻って来られない。

私はそういった誰かの帰りを

待つなどという事は、絶対にしないように心掛けている。


・・・実態のないものを追い続ける事は儚い。


先ほどの岡本に掛けた言葉も、

その場で思い付いたせめてもの”別れ”の言葉。


・・・もう私が岡本のプロジェクトに尽力する事も、

彼を信用する事もないだろう。

再び顔を合わせる機会もないかもしれない。




―――私はまた、尽力すべき人間を間違えたんだ。―――




次に尽くした人間には、私は裏切られないという保証はない。

そもそも、私の目の付け方に問題があるのかもしれないが、

あまりにも負ってきた精神的傷が深い。


また、同じ事を繰り返して・・・裏切られ・・・。




・・・私は気付くと、

廊下の窓を開け放ち、その枠に両手を掛け、

片足を乗り出していた。


「そろそろ潮時しおどきなのか・・・?」


6月頭であるこの季節の夜には

まだ適度に冷たい風が吹く。

そんな心地良い風を全身に受けながら、

私は・・・決心するのだった。






















―――――その頃―――――




・・・ここは窓一つない、明るい蛍光灯が照らす無機質な室内。

40畳ほどの広さを持つ部屋には

50台ほどのPCとデスクが同じ向きに5列ほどで並べられ、

それぞれに同じ黒っぽい服を着た人間達が座り、

キーボードを打ち鳴らしている。


彼らの背側に当たる、部屋の入り口では、

2人の男が立ち話を進めていた。




「まさか、お前が日本に来ているとは、

 想像もできなかった。」

筋肉質な男が口を開く。

昼間に伊集院いじゅういんとの戦闘から離脱した

時柳宋じりゅうそう 衛久守えくすである。


「日本で不穏な動きが見られましたからね。

 それに、もし、あの男がこの場所を特定して

 攻め入ってきた時にはどうしますか?」

衛久守えくすと話す人間は、

細身でメガネを掛け、上下を深緑色のスーツで包んだ男性だ。


「俺様が何とかして」

「できないでしょう?」

衛久守えくすの言葉をメガネの男が遮った。


「ブラックマイスターから貸与されていた”アトラクト”が無ければ、

 あなたは今日あの場で死んでいましたよ。」

「・・・咄嗟の判断で危険物と認めた上で飲んだが、

 効き目が異常な栄養ドリンク、といった感じだったな。」

「あなたでも、あの伊集院いじゅういん 雷人らいとは倒せません。

 となると、我々バーバレスとしては最も警戒すべき人物のうちの1人。

 早めに消しておきたい。」

「・・・確かに、アイツの強さは俺様の想像を上回っていた。

 でもな、それで勝てないと決め付けられるのは早い。」

「いえ、もう手は打ってあります。

 そのために私がわざわざここに来たのです。」

メガネの男は自分の両手の平を見つめた。


「私の計算が正しければ、

 近いうちにあの伊集院いじゅういん 雷人らいとはここに来る。

 早めに消さなければ、我々の計画に支障を来すでしょう。」

そう言い、目の前のPCを操作する人間達に視線を移す。


「・・・世界の幸福度シミュレーションだったか?」

「そうです。

 どうすれば最も多くの人類が”幸福”になれるのか、

 この部屋では日々シミュレーションを行っています。」

「俺様も、それには興味がある。」

衛久守えくすは真剣そうな顔付きになり、

歩きながらPC画面を1つ1つ見回り出した。


「バーバレスは、世界構築欲せかいこうちくよくを持つ者に資金援助をし、

 金銭的問題を解決させた上で、その欲望を育てると共に、

 その欲望がもたらす状況を観察する。」

メガネの男は、誰に言うでもなく、

ボソボソと呟き始めた。


「しかし、その観察には多くの月日を要する。

 よって、未だに我々が合格点を下した世界構築欲せかいこうちくよく所持者はいない。

 しかも資金提供を受ける人間は、

 他のローズ・ブレイカーに目を付けられ、殺害されていく・・・。」

「”ドラスティック”さんが考えた手法は

 もう手詰まりって事か?」

一通りPCを見終わった衛久守えくすが割り込む。

ドラスティック、というのは、状況から察して

メガネの男のコードネームのようだ。


「・・・我々の想像以上に、

 ローズ・ブレイカーの発達が進んでしまったという事です。

 この日本では・・・。」

そう言いながら、ドラスティックはメガネのつるを

右手の中指でクイッと上げた。


「そう言えば・・・お前は日本人だった。

 以前、データベースで本名を見た事がある。

 確か・・・池田いけだ

「私をその名で呼ぶな。」

次の瞬間、衛久守えくすは喉元を両手で押さえ、

その場に膝から倒れ込んだ。


「・・・悪いな。口が、滑った。」

衛久守えくすは真顔で謝罪すると、

息を弾ませてやおら立ち上がる。


「やっぱり、この寄生虫の効果は絶大だな・・・。」

衛久守えくすの身体には、

彼をコマンダーたらしめる寄生虫が植え付けられている。

それはドラスティックによって操られているのだ。


「・・・その名で呼ばれると・・・思い出してしまうのですよ。

 子供の頃の呪われた日々を・・・。」

ドラスティックはそう言いながら、再びメガネのつるをいじる。


「呪われた日々・・・か。」

「私は私の様な呪われる人間をこれ以上増やさないためにも、

 “幸福度”を極限まで追求しなければならない。

 平和な世界を・・・作るために・・・。」











@第29話 「駄目だった。すべて間違いだった。」 完結





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