@第27話 自分のやりたい事は?
@第27話 「自分のやりたい事は?」
―――――秀人たちが戦闘していたすぐ近辺では―――――
「ぐっ・・・!!」
銀色の熊型フォーサー、ザフラストレイターが
カエル型フォーサー、カオティックフロッグのダミー人形の突進を受け、
緑野病院へと続く道路を転がる。
彼らは元々、緑野病院入院棟の駐車場で戦闘をしていたはずであるが、
ザフラストレイターが一方的に弾き飛ばされる事で
戦場をやや移動していた。
「・・・まだ続けるのか?」
「ハァハァ・・・これで終わると思うなよ・・・?」
フロッグの問い掛けに、熊は苦しそうに応答する。
もはやこの戦いの勝敗が明白なのは言うまでもなく、
熊は自身の命が危うい状態にまで追い詰められていた。
それでも、彼はまだ逃げようとはしない。
「俺はなァ、こういう状況が好きなんだよ!
相手が強いほど、戦いは楽しい・・・。」
ザフラストレイターはその執念深さで見れば
全フォーサー中でも上位に位置する事であろう。
しかし、今回の相手はその執念のみで倒せる敵ではなかった。
ダミーとは言えども、
戦闘能力はあのカオティックフロッグ本物に近い。
「じゃあ望み通り・・・殺してやるよ!
僕は大切なものを守らなくちゃいけないから。」
カオティックフロッグはくぐもった聞き取りにくい声でそう言うと、
まっすぐに熊へと向かって跳躍する。
その巨体からは想像もできないほど俊敏な動き。
今の熊にそれを避けるための体力は残されていない。
「・・・ハッハッハッ!!良いぞォ!!」
ザフラストレイターは両手を広げ、
まっすぐにそれを見据える。
と、次の瞬間、激しい衝撃と共に
熊の身体が宙を舞い、力なくアスファルトを転がった。
「・・・僕は大切なものを守るんだ。
こんなヤツに負ける訳がない。」
カエルは独り言つ中で、
一台の”装甲車”が道路の向こうから接近してくる事に気付いていた。
緑系の迷彩柄の装甲車はカエルの10mほど手前で停止し、
すぐに運転席から長身の男性が降りてきた。
濃緑色のシャツに白いスラックスを身に付けている。
「・・・まったく、何の騒ぎかと思いきや、
死んだはずのフォーサーにこうして遭遇、とはね。
それも、結構ヤバいヤツに。」
北川高校の国語教員、内垣外 奏修。
どこからか噂を聞き付けてやって来たのか、
偶然通りかかったのかは不明であるが、
彼に目の前の敵と戦う覚悟があるのは確かであった。
「僕は大切なものを守る!」
カエルの標的が瞬時に切り替わる。
「大切なもの・・・ねぇ。
何の事か分からないけど、
俺にも俺の大切なものがあるんでね。」
内垣外は右手にしたDEADチェンジャーをスナップで開き、
コマンドを入力。
《Hello world!! Excuse me?
Answer、Answer、Answer、Answer・・・》
「シング・アゲイン。」
《Certified!!》
そのまま内垣外は腰に巻いたベルトのバックルへと
DEADチェンジャーを装填する。
《Forcible execution!!
Identify your identity!!》
ガイダンス音の電子音声とほぼ同時に、
彼が乗ってきた装甲車の後部ドアが開き
内部から多数のアーマーパーツが飛び出し、
彼の身体へと自動で装着されていく。
両肩に2本の巨大なガトリング砲を備えた迷彩柄の戦士、
モガナオメガが出現。
「悪いけど、俺は伊集院さんと違って、
フォーサーとかアトラクターとかが大嫌いなんだよねぇ・・・?
状況を見るに、話し合いの余地も無さそうだし、
今回は無条件で俺の自由にやらせてもらう。」
モガナオメガはそう言いながら腰に装填した機器を開き、
コマンドを入力する。
《Customize your DEAD!!
Answer, Answer, Answer, Answer・・・》
「”テシガナデルタ”、起動。」
《Certified!!》
再び装甲車の後部ドアが自動で開くと、
内部からアーマーパーツが次々と出現する。
それらはモガナオメガの身体の脇に飛行して接近すると、
元々装着しているアーマーと入れ替わる形で
彼の身体へと取り付けられる。
数秒で装着が完了し、
そこに現れたのはグレーと黒系の迷彩柄で全身を彩られた
モガナオメガよりも細身の戦士、
“テシガナデルタ”であった。
両肩のガトリング砲もモガナオメガの時とは違い、
軽量化を図るために小型化されている。
更には、彼の両手の甲部分からは
新たな装備である銀色のブレードパーツのようなものが伸びている。
「この世界は争いの世の中。
自分の欲望を達成したいなら、
他人を押さえ付けるしか方法はないんだよねぇ!」
語気が荒くなったと思うと、次の瞬間、
テシガナデルタはその場から勢いよく走り出した。
・・・それはまるでスケートのような滑らかな動作。
テシガナデルタの両脚裏に搭載された移動用ローラーにより、
実現可能となった動きである。
カエルはそれを見ると、
逃げる様子を見せないどころか、
その迷彩柄の戦士へと向けまっすぐに跳躍した。
テシガナデルタは瞬時に方向転換をし、
カエルの巨体による突進を避けると、
すぐにその背中を追うように加速する。
次の瞬間、標的を逃がし、
地面に降り立ったカエルの背中を、
2本のブレードが同時に貫通した。
「何っ?」
焦るカエルが振り返る前に
テシガナデルタは両手のブレードを引き抜き、
素早く距離を取る。
「やっぱりねぇ。
お前は再生能力を失っている。
偽物・・・っていう解釈で問題ないだろう。」
テシガナデルタのブレードによって貫通されたカエルの腹からは
謎の液体が溢れ出し、再生している様子は見られない。
「正直さ、”無限再生”の化け物を倒せる自信はないけど、
お前なら多少の希望はありそうだ。」
「僕は・・・大切なものを守るんだ!!」
カエルは背中から生えている2本のイモリの尻尾のようなものを自由自在に操り、
その先端で敵を貫くが如く高速で伸ばす。
素早いローラー操作によりそれを回避したテシガナデルタは
両腕のブレードを構え、カエルへと高速接近する。
しかし、それを読んでいたのか、
カエルの尻尾はUターンするように曲がり、
テシガナデルタの背中を追う。
尾の突き攻撃が命中する直前、
テシガナデルタは地を蹴り放ち、
その場で2mほど跳躍した。
自分の下を通り抜けた2本のぬめり気のある尻尾目掛け、
両手のブレードに全体重を乗せた斬撃を繰り出す。
「ぐぅっ!?」
切断された尻尾の先端はアスファルトに転がり、
致命的ダメージを負ったカエルに大きな隙が生まれる。
着地したテシガナデルタは急加速でカエルへと迫っていく。
「この刃の切れ味は素晴らしいねぇ・・・。
“ケリタリツヌタシキ剣”だっけかあッ!」
テシガナデルタの接近に備え、
カエルは右手の拳を握り締め、
目の前の敵目掛けてそれを繰り出すが、
咄嗟の判断で敵の頭部を狙ったカエルの誤算であった。
テシガナデルタは姿勢を低くしてそれを回避すると、
カエルの腹へと素早く斬撃を叩き込んだ。
その軌跡はカエルの腹部から背中にかけてまっすぐ辿り、
カエルの上半身はゆっくりと地面へ崩れ落ちた。
「ふぅ・・・足りないねぇ。」
テシガナデルタは腰のDEADチェンジャーを引き抜くと、
アーマーは全自動で彼が乗ってきた装甲車の後部へと収納され、
元の内垣外が現れた。
彼はそのまま自分の背後をチラッと見やる。
と、そこには負傷したカエルの代わりに
緑色の水たまりができているのみであった。
「・・・誰だよ、こんな工作したのは。」
短い独り言を漏らすと、内垣外は
すぐ目の前の装甲車へと乗り込み、
元来た道を引き返すのであった。
―――――その頃―――――
・・・この俺、アブソリュート・アーツ社の
フォーサー対策関連研究室長である岡本 龍星は、
単独で石川県を訪れていた。
わざわざここを訪れた理由は紛れもない、
危険性が発覚した”中二宮Xレア”の回収だ。
裏中二宮Xレア2作目、
「断絶甲帝ディスコネクト・キャンサー」
は石川県のとある浪人生に託したのだが、
電話でその危険性を十分に説明しても
返還の意思を見せてはくれなかった・・・。
よって、研究室長である俺がこうして出向いてきた訳である。
今、俺は駅前の喫茶店にいる。
髪にオレンジ色のメッシュが3本入った
とある男性と向かい合って座っているのだが、
どうも彼は不機嫌そうな様子を隠さないようだ。
「んだからあ!!」
その男性は目を細めて俺の事を見やり、
テーブルのブラックコーヒーをすする。
「キャンサーを俺に託してきたのは
アンタらアブソリュート・アーツ社だろ?
アンタらの都合で勝手に回収するなんて・・・。」
「吉澤 敏生・・・すまない。
君をキャンサーの適合者と最終的に認めたのは研究室長の俺だ。
しかし、あの発明は駄作だった・・・。
これ以上使い続ければ、いずれお前の体はボロボロになる。」
「それは何回も聞いたよ。
でもさ、俺にはもうキャンサーが絶対必要なんだよ!
俺には・・・。」
「・・・依存症の一種か?
確かに、中二力を解放する際、
普段引き出せないような力を出す事によって
快感のあまり中毒症状が出る事は考えられるか・・・。」
俺が知る限り、チューニドパワーシステムの中毒者は前例がない。
俺自身、実際に元々は使用者であった経験があるが、
そこまでの快感というほどの快感は得られなかった。
その上、吉澤 敏生が戦闘に過剰な興味を示したとしても、
中二宮Xレアの装着者は、
性格面も重視され、選抜されている。
いくら中身の読めない人間という生き物であろうと、
異常な行動は起こさないはずだが。
「俺は・・・キャンサーとして戦う事しか・・・」
吉澤 敏生がボソッと呟いた
その瞬間だった。
「ギャアアアアアアアアア!!!」
物凄い声量の悲鳴が2人の耳を劈いた。
喫茶店の中にいる人たちも驚いて
一斉に立ち上がって窓の外を確認し始める。
「何事だ・・・?」
俺は目の前の敏生を気にせず、
走って喫茶店の出口から外に出ると、
声の聞こえた方向へ視線を向ける。
500mほど先に最寄り駅の入り口が構えているのだが、
その入り口に、俺は明らかな異常を察する。
・・・見覚えのない2人の怪人の陰が通行人を無差別に襲っている。
俺は急いで喫茶店の前に停めておいた
ピスケスの専用バイク、PPSへまたがると、
フルフェイスのヘルメットを被り、まっすぐに向け急発進した。
俺が500mほどの道のりを走る間にも
前方から絶えず悲鳴が聞こえてくる。
しかも、俺の視界にはその悲鳴を上げながら息絶える人間が映り込む。
・・・何という有り様だ。
頭に血が上り、怒りが爆発する。
「お前らッ!!」
俺は駅の駐車場まで接近すると、
大声を上げて2体の怪人の注意を引こうと試みる。
が、逃げ回る人々に掻き消されて、
怪人の注意を引き付けられない・・・。
「くそっ!」
俺はヘルメットを投げ捨て、
バイクからバックル部分が金色、他が白色のベルトを取り出し、
遠心力を利用して腰に巻き付けた。
更に、続けて電子辞書型の変身機器、
DEADチェンジャーを取り出し、
画面を開き、必要なコマンドを入力。
《Hello world!! Excuse me?
Answer、Answer、Answer、Answer・・・》
「・・・シング・アゲイン!!」
《Certified!!》
案内音声を終えたDEADチェンジャーを
腰に巻いたベルトのバックルへと装填。
《Forcible execution!!
Identify your identity!!》
専用バイクのシートのフタが開き、
内部から飛び出してきた大量のアーマーパーツが俺の周囲を回り始める。
それらは見栄えの良い金色の粉塵となり、
俺を包み込む。
顔は”龍”を擬人化したようなデザイン。
両肩からは金色の長いマントが伸びる。
全身を皮膚のように覆う装甲は黄金の”鱗”のような突起になっている。
腰には白い剣を備えており、
俺はそれをメインウェポンとして戦闘に臨む事になる。
・・・専用バイクPPSには
これまで中二宮Xレアであるピスケスのアーマーが収納されていたが、
伊集院 雷人からDEADを託されて以後、
改造によってPPSはDEADを収納するバイクに変更されている。
変身を完了した俺が怪人に接近しようとしたその時、
足元に何やら重量のあるものが落下してきた。
「なっ・・・!?」
自分のすぐ目の前に落下したその物体を見て、唖然となってしまう。
・・・それは人間の上半身。
血まみれのその死体は、首から上をもぎ取られていて性別すら分からない・・・。
刃物で切り取られた、というよりは、
力任せに引っ張られたという様子。
その死体を中心として血だまりがみるみるうちに広がり、
俺の足を浸らせる。
「フザけるなあッ!!」
俺は2人の怪人のうち、
近い方にいた、筋肉が溢れる怪人の右肩を握り、
無理やりこちらを向かせた。
と、俺には一切気付いていなかったのか、
体格にそぐわず、その怪人は容易く体勢を崩した。
俺は怒りのあまり、
その怪人の顔面へと力いっぱいに右フックを繰り出すと、
防ぐ隙の無かった怪人の顔が凹んだ。
怪人は何歩か後退した後、
駅の前の段差に躓き、尻もちをつく。
「・・・不意打ちとは卑怯な。
見たところ我々の仲間では無さそうだが、
お前は何者だ?」
その筋肉質の怪人は俺に視線を向けたまま
やおら起き上がる。
「俺は・・・”クリエイター・ノヴァイ”。
お前はフォーサーかアトラクターか分からないが、
今の犯行の様子を見ていれば始末すべき敵である事に
間違いはなさそうだな?」
「・・・その名前に聞き覚えはないが、
ブラックマイスターの邪魔をする事の重大さを知るが良い。」
その怪人は上半身が黄色、下半身が青色だが分かれ目がはっきりしないため、
腹の部分で色が混色している。
体型は非常にマッシブで、両腕の筋肉が特に目立つ。
そして頭部は大きな逆三角形を模したような形で、
その中心に顔部分が丸く表現されている。
左目が閉じ、右目は目玉が飛び出そうなほど大きく見開いた不気味な様は
対峙する敵を威圧する。
顔面は全体的に青と黄が左右非対称に複雑に使い分けられているようだ。
「という事は、お前はアトラクターという訳か。」
「・・・俺の名前は”激神インテンス・トール”。
そして・・・。」
トールと名乗った怪人は
背後で暴れ続けている黄色と赤の混ざったような怪人を指差す。
「あの怪人はフォーサーをモチーフとしたNEOという人形、
ヘネアークリキセラ18(エイティーン)。」
未だに逃げ遅れた一般人を襲い続ける
その”人間の形をした溶液の塊”はトールの紹介に反応し、
一時手を止め、ゆっくりとこちらに接近してくる。
それは身体の輪郭がかろうじて分かるといった程度の
液体型フォーサーであり、かたつむりのように
滑らかにアスファルトを進行する。
「・・・俺様を悪く言うヤツは・・・全員始末する。」
クリキセラと呼ばれた怪人は意味不明な呟きを発すると同時に、
その様子からは考えられない俊敏性で
俺の方へと向けて跳躍した。
「くっ!」
俺は間一髪で地面を転がり、
その溶液の突進を避ける。
「2対1で悪いが、早めに決着を付けさせてもらおう。」
俺は片膝立ちの状態でふと顔を上げると、
前方5mほどのトールが勢いよく踏み出し、
俺の頭部目掛け、蹴り上げるようなキックを繰り出した。
「甘い!」
咄嗟に腰の白い剣を引き抜き、
低姿勢のまま突き出されたトールの右脚を切り裂く。
「・・・何?」
トールはそのまま何歩か後退。
それを確認した俺は、
一気に距離を詰め、右手に握った剣でトールの上半身をまっすぐに狙う。
が、見掛けによらず、
トールは素早い動きで太い右手を曲げた状態で突き出してきた。
剣の先端はまっすぐにその腕を捕える。
しかし、剣の勢いはそこで完全に殺されてしまった。
「フッ、まぁそう簡単には勝たせてくれないという事か。」
俺は力任せにその突き立てた剣を前方に押し込むと、
トールはそれに抗わずに何歩か後退した。
「・・・随分と豪華そうなアーマーを身に付けているが、
どうやら性能も見た目通りのようだな。
これほどのアーマーをブラックマイスターが
把握し切れていなかったとは・・・。」
伊集院 雷人が開発したこのDEADを使うのは
今回が初戦だが、俺自身、その性能には驚かされている。
俺は以前、チューニドパワーシステムを利用した
中二宮Xレアのピスケスを装着して戦っていたが、
その時とは力の変換効率がケタ違いだ・・・。
これほどまで体格差のあるトールと
パワー面でほぼ引けを取らないとは想定できなかった。
「悪いが、これは俺が作成したものではない。
褒めるなら開発者を褒めてくれ。」
そう言いながら、俺は背後の殺気に気付いていた。
「俺様を・・・馬鹿にするなぁ!」
背後からの叫び声を聞きながら、
咄嗟に、その場で跳躍する。
と、俺の足元を液体の塊が高速で通過したのだった。
・・・そう、この場では俺1人に対して
敵は2人。
いくらこのDEADが高性能なアーマーとは言え、
骨の折れる仕事である事に変わりはなかった。
地に足が付いた俺は
その場でもう一度跳躍すると、そのまま乗ってきたバイクへと接近し、
シートの左脇部分から突き出たスカイブルーのパーツを握り締める。
「どこまでお前らの相手ができるかは分からないが、
互いに油断は禁物だ。」
俺は専用バイクから、
かつてのピスケスの大型武器、ウオ・ザ・ソードを引き抜いた。
「叫べ、砕け散れ、”究極”の意味を知れ。
歌神大宝剣シュトースツワン・ハイ降臨!」
ソードの刃の中心部分が縦一筋、青色に発光し始めると、
俺はそれを左手に握り、
標準装備であるクリエイター・ノヴァイ用の白い剣を右手に握った。
・・・ウオ・ザ・ソードは剣としては大型であるため、
その重量のせいで素早い動作が封じられてしまう懸念があったが、
今の俺にはパワー変換効率が上昇したDEADがある。
二刀流にしたところでそこまで動きに支障は来さないであろう。
「こけ脅しか!」
トールは接近すると、右拳を俺に向けて突き出す。
俺は素早く左手の大剣を振るう。
するとトールの右手の軌道はずれ、僅かな隙が生まれた。
その隙に右手の白い剣でトールを頭上から切り裂く。
「がッ!!」
顔面を切り裂かれたトールは両手で顔を覆いながら
姿勢を低くする。
そこに更なる斬撃を叩き込もうと企んだが、
トールの背後から現れる溶液怪人が立ちはだかる。
俺は構わずにそのドロドロした身体に向けて
左手の大剣を振るう。
が、その切っ先はいとも容易く溶液の中へと吸い込まれたのだった。
「?」
一瞬、自分の攻撃が簡単に通ったのだと考えたが、
すぐにそれは間違いであった事に気付く。
そのドロドロした塊は体内に入り込んできた剣を
まるで射出する勢いで体外へと排出したのだった。
左手に握る大剣を跳ね返された衝撃で
俺はそれを握ったまま宙へと放り出されたように回転する。
・・・ヤツの身体は変幻自在な”溶液”そのものであるようだ。
普通の斬撃では効果がないとすると、
俺が使える手段は1つしか残されていない。
「クッ・・・お前、俺を怒らせたな?
ここからは一切の手加減はナシだ。」
トールは腰のホルダーから
緑色の液体が揺れる試験管を取り出す。
そして、フタを取り外すと自身の口に向けて流し込んだ。
「うおおおおおッ!!
フルフィルモード発動!」
突如、トールの右腕が意識を持ったかのように変形を始める。
すぐに彼の肘から下の腕部は巨大な銀色の槌と成り果てた。
「聖槌アキュレイト・ミョルニル。
これを生成した時点で俺の勝ちは決まったようなものだ。」
「フッ、随分と早計なヤツだ。
頭の悪さが伝わってくる。」
俺の挑発に苛立ちを隠さないトールは
そのまま変形した右手を大きく振るった。
と、あろう事かそのミョルニルは彼の腕を外れ、
物凄い勢いで回転しながらまっすぐに俺の方へと向かってくる。
「そういう武器だったか。」
俺は瞬時に姿勢を低くし、
その回るハンマーの直撃を避ける。
が、俺のすぐ背後でUターンした槌は
再び俺を捕えようと迫って来る。
「・・・追尾機能も付いているだと?」
二本の剣を振るい、その全自動ハンマーを迎え撃つが、
あまりの威力に俺はそのまま弾き飛ばされた。
勢いを殺さずにミョルニルはトールの右腕へと戻る。
「・・・なるほど。
2対1は厳しいという訳か。」
俺はやおら起き上がりながら
自分の前後にいる怪人を交互に見据える。
・・・実際、今の追尾ハンマーの攻略イメージは掴めている。
あれを発射したトールは右腕を失った状態になるため、
その隙を突く事すらできれば十分に勝てる可能性がある。
しかし、攻略方法が限られる溶液怪人がいるため、
その隙を簡単に突く事はできないであろう。
「こんなに早く弱音を吐くとは思わなかったが、
勝敗は最初から決まっていた事だ。
抵抗しなければせめて楽に葬れるが?」
「悪いが、最後まで抵抗させてもらおう。
・・・まだ負けが確定した訳でもない。」
俺にはまだ隠している奥の手がある。
しかし、それを使用するには
周囲1kmほどの人間の非難を完了させなくてはならないのだ。
「話をしている時間が勿体無い。
消えろ!!」
前後の怪人がほぼ同時に獲物目掛けて走り出す。
と、その時だった。
「・・・おらよおおお!!」
突然、一台のバイクが俺の背後に割り込んできて、停止した。
場にいた俺たちの中で
その異色のライダーに気を取られない者はいなかった。
「吉澤 敏生・・・!?」
バイクに乗っていたのは
“カニ”を擬人化したようなオレンジ色の戦士だった。
各部分に分厚い装甲が施され盛り上がっており、
さすがにトールには劣るものの、ガッチリとした印象を受ける体型になっている。
頭部は、カニのハサミが全開になったようなパーツが
前に突き出す2本の角のように取り付けられている。
・・・そう、その姿は俺が開発に携わった
断絶甲帝ディスコネクト・キャンサーに間違いない。
「・・・俺は自分の意思で変身したんだ。
研究室長だか何だか知らんけど、
文句は受け付けないぜ?」
「フッ、通常なら力ずくでも取り返すべきなんだろうが、
今は逆に恩に着るところだろうな。」
キャンサーは俺の言葉の意味を汲み取ったのか、
俺の背後にいる溶液怪人の方を向く。
「ここからはフェアな対戦ができそうだ。」
俺は前方のトールをまっすぐに見据え、
両手の剣を構えた。
トールは取り乱すような様子はなく、
右手のミョルニルを発射する体勢を整えて
こちらの出方を見計らっている。
―――――その頃、東京のアブソリュート・アーツ社では―――――
「ったく、何で私がこんなヤツの接客を・・・。」
アブソリュート・アーツ社8階のとある接客室には、
落ち着いた青色のやわらかいソファが2つ備えられていて、
それに挟まれる形で四角いテーブルが置かれている。
その片方には足を組み、
随分と偉そうな恰好をした社内の人間が不機嫌そうな様子で座っている。
もう一方には、
黒いパーカーに黒いジーンズを身に付けた
いかにも怪しいオーラを纏う人間が無表情で席に着いている。
先ほどまで話を続けていたせいか、
目の前の緑茶で喉を潤している。
「しかも、こんな変な客の世話をさせるなんてな。
新上 臣道・・・。」
蔭山 神門が目を細めて目の前の客を見やる。
「あぁ、別に変な客で問題ない。
だからこそ、俺はわざわざここに来た。」
大きな目をギラギラさせて話す新上 臣道は
以前、アブソリュート・アーツ社に侵入し盗み出した
“滅裂銃士ディコンポーズ・レオ”を返還すると共に、
自分についての秘密を蔭山へと打ち明けていた。
「・・・お前の話が真実だとすれば、
お前の意識はネットワーク上に存在していて、
元の身体を操る事で現実世界にアクセスしているという事か。
よくそんな馬鹿げた事を考えたもんだな。」
「当時、城ヶ崎の研究チームから
無断でHR細胞による手術を受けた際、
俺は自分の身体、そして”思考”が変化する事を恐れた。
だからネットワーク上に俺の記憶と性格を内包するデータ領域を残しておけば、
安全に生き残る事ができると思った。」
「・・・当時のお前はそんな技術を持っていたという事か?
世界は広いものだ。」
蔭山はそう言いながら、
再び鋭い視線を新上へと向ける。
「ところで・・・お前の目的は何だ?
これまでの話を総合しても、
お前がわざわざここに来た理由は見当たらないのだが。」
蔭山の問いに対して、
新上の応答は少し間が空いた。
「・・・俺は、3週間ほど前、
城ヶ崎を殺害する事で長年の目的を果たした。
だからこそ、俺はそこで生きる意味を見失ってしまった。」
「フッ、そもそも生きてさえいないようなヤツがよく言うな。」
蔭山の毒舌も気にせず、
新上は間を置きながら続ける。
「本物の新上 臣道は確かに”プログラム”だ。
今、この人間が話す言葉を決めているのも、そのプログラム。
だが、俺はプログラムとして行動すべき使命を終えたと思っている。」
「・・・まさか、人間に戻りたい、とでも?」
「察しが早い。
プログラムと化した俺は復讐を終えてから考えた。
どうすれば元の新上 臣道に戻る事ができるのか・・・と。」
蔭山はまっすぐに新上の顔を見据える。
・・・蔭山は普段、人間を観察し、
その人間より自分が上か下かという判断で露骨に扱いを決めている。
そのため人間観察力は優れており、
彼にとって新上の真意を読むという事はそこまで難しい事でもなかった。
そもそも、それが特殊な接客に蔭山が当てられた理由である。
“彼の言う事に嘘はない”
それが蔭山が出した結論であった。
「お前が言いたい事は分かったが、
どうしてここを訪れた?
どうも、盗んだアーマーを返還するという目的だけではないようだが?」
「・・・とりあえず人間の味方でもしようかと思った。
ここは”変なアーマー”で人間を守るための研究室があるのだろう?」
それを聞いた蔭山は意外そうな表情を見せる。
「人間に戻るために、あえて一般人らしくない事をするのか?」
「現代の日本には余暇の手段が溢れているが、
何をすれば人間らしくなれるのかは不明だ。
そうなると、手っ取り早い手段が転がっているのなら、
そちらを選択すべきだと考えた。」
「手っ取り早く、か。
そんな簡単な問題でもないと思うが、
お前と私たちの利害関係が一致するというのであれば問題ない。」
蔭山は真顔でそう言うが、
彼にはしっかりとした考えがあった。
・・・アブソリュート・アーツ社で開発された中二宮Xレアは
既に危険物として使用が禁止されている。
しかし、それは使用者が人間である時のみの制約。
人間を操るプログラムが自らその使用を希望しているとなれば、
合法的に戦闘用の人材を確保できる。
何より、新上 臣道が仮に殺害されても
アブソリュート・アーツ社にとっては何の不利益も被る事はない。
蔭山は口元に僅かな笑みを浮かべると、
それを隠すように右手で口を覆った。
「余談にはなるが、さっきも言った通り、
俺はサイバーセイバー。
かつてこの会社のシンギング・ウォーズというゲームへと不正アクセスし、
戦闘の練習をさせてもらった。
そのゲームの開発者である伊集院 雷人は
今、どこにいる?」
新上の言葉を聞いた途端、蔭山の表情が曇る。
「あの”ディスガイザー”の事など、知った事か。」
「・・・伊集院 雷人は
10年前に自殺の報道が流されていたが、
最近になって目撃証言があるようだな。」
「さすがはネットワークに通じる意思、というべきか。
・・・ヤツは生きている。
今度はこの現実世界で直接的にゴミの排除をしているらしいが、
私にとってはどうでも良い。」
蔭山はふて腐れた様子でフローリングに視線を落とす。
「そうか・・・。
俺の立場上、一言、挨拶しておこうかと思ったのだが。
かつて、伊集院 雷人は
俺と同じく、城ヶ崎の実験台にされたはずだ。
体内に初期型のHR細胞を注入されている。」
「ヤツの体内に・・・HR細胞が!?」
蔭山は驚きのあまり、
叫びながらソファから立ち上がった。
「あぁ、俺の情報ではそうなっているが。」
「・・・ヤツが・・・ヤツがHR細胞を?」
我を失ったように同じ言葉を連呼する蔭山は
そのまま接客を忘れ、よろよろとした足取りで部屋を出ていった。
「アレを使えば・・・ディスガイザーを・・・
伊集院 雷人を始末できる。」
蔭山が不気味な笑いと共に繰り返し吐き出す言葉は
誰もいない廊下の静寂に打ち消された。
―――――その頃、石川県では―――――
「食らえッ!!」
断絶甲帝ディスコネクト・キャンサーが
専用バイクを変形して装着した両武器腕、
カニ・ザ・アームズを目の前の溶液怪人、
ヘネアークリキセラ18(エイティーン)に押し付ける。
と、次の瞬間、
カニ・ザ・アームズのハンド部分から銃口が出現し、
その穴から炎が噴き出した。
打撃攻撃を一切受け付けなかった溶液怪人は
その炎では容易くダメージを負った様子で後退する。
・・・キャンサーの専用武器、カニ・ザ・アームズは
背中を通して両腕に装着する武器腕である。
通常の手と同様、両手に可動式の指パーツが備えられていて、
近接戦闘を得意とする。
それに加え、内部には銃口を隠しており、
必要に応じて遠距離戦も可能となっている。
「・・・大丈夫か?
アブソリュート・アーツ社の研究室長さん?」
キャンサーは背後を振り返り、
もう一方の戦闘の様子を確認する。
そこでは、全身が金色の龍をモチーフとしたクリエイター・ノヴァイと、
青と黄色の対象色で目を引く激神インテンス・トールとが
戦闘を繰り広げている。
「しつこい蠅だ・・・!!」
トールは変形した右腕のミョルニルを射出しようと試みるが、
ノヴァイの二刀流の近距離攻撃を防ぐのに手いっぱいで
得意なブーメラン戦法を完全に封じられていた。
「これが蠅に見えるなら
メガネを変えに行った方が良いな!」
優勢に見えるノヴァイは
両手の剣で繰り返し斬撃を繰り出すが、
それを全て防がれているのも事実であった。
「俺はコンタクトなんだよ!!」
2人の攻撃はほぼ同じペースで交互に交わされ続け、
戦闘は一向に進まない。
「・・・さっさとこっち片付けて
後ろに混ざった方が良いか。」
キャンサーは再び溶液怪人へと銃口を突き付け、
強化型火炎放射を仕掛ける。
どうやら炎にめっぽう弱い溶液怪人は
火には迂闊に近付く事ができないらしく、
回避に専念し、攻撃を中断している。
「吉澤 海斗!
お前が来なきゃ俺はここでやられていた。
身勝手な要望だが、そこの溶液怪人は任せる。」
ノヴァイは背後を軽く見やる。
「だから、俺は俺の意思で戦い続けるって言ったろ?」
キャンサーは苛立ちを隠さずにヘネアークリキセラを殴り付ける。
・・・キャンサーの戦闘能力は岡本の予想以上であった。
そもそも、石川県の浪人生である
吉澤 海斗の中二力は
他の中二宮Xレア装着者と比較してもダントツに高ランクだったが、
それが戦闘にもそのまま表れている。
「フッ、頼もしいな。」
ノヴァイの変身者である岡本 龍星は
戦闘中の敵であるトールのミョルニルを弾きながらも、
脳内で考える事があった。
・・・それは自分の”協力者”の存在。
かつて、彼は、悲しむ人を少しでも減らすという目的のため、
単独で無謀な挑戦を仕掛けた事がある。
しかし、そこには必ず、隠れた”仲間”の存在があった。
彼は過去の経験からそれらを失う事を恐れ、
必要以上に距離を縮めないように気を付けていたが、
いざという時に仲間の存在は
間違いなく彼の心の支えとなっていた。
それには、さすがに本人も気付いている。
「くそっ!いつまで続けるつもりだ!」
巨体を動かすためのスタミナが切れてきたのか、
トールの動きはだんだんと鈍くなってきている。
「それは・・・こっちの台詞だッ!」
トールの戦闘事情を見通したノヴァイは両腕により一層の力を込め、
2本の剣で同じ軌跡を描く。
これまでの程度では考えられないほどの強力な斬激を叩き込まれたトールは
思わず後退しながらバランスを崩し、尻餅をついた。
その隙を見逃さず、
ノヴァイは跳躍しながら剣を空中から叩き付ける様に切り裂いた。
「グあッ・・・!!」
真っ二つに開かれたトールの腹部からは
紫色の液体が噴き出るように飛び出し、
アスファルトを見る見るうちに染めていく。
数秒と経過しないうちに
そこにはトールの変身が解け、元の人間が仰向けに倒れた状態で現れた。
「フッ、死なない程度に抑えてやったから感謝しろよ?
ブラックマイスターについて、思う存分吐かせてやる。」
挑発が聞こえないのか、喋る体力が残されていないのか、
トールの変身者は目をつぶったまま動かなくなった。
「さて・・・」
ノヴァイはすかさず背後を振り返る。
と、溶液怪人の相手をしているキャンサーは
自身の装備を自在に使いこなしながら
戦闘を続けていた。
「こっちは片付いた、混ぜてもらうぞ。」
ノヴァイはそう言いながら、
再び2本の剣を構え、走り出した。
・・・ちょうどその時だった。
今の今まで明らかな優勢を見せていた
キャンサーの挙動が、明らかにおかしくなり始めたのだ。
「くっ・・・チクショー・・・」
両肩を震わせながら地面に両膝を付き、
その場で動けなくなった。
ノヴァイこと岡本の脳内で
危険信号が作動するまでに時間は要さなかったが、
彼の目の前の敵がその隙を狙うスピードの方が速かった。
人間の形を維持する溶液が
右手に当たる部位を前に突き出し、
その手の平から瞬時に高速の流水を発射した。
その水はキャンサーの頑丈な装甲を部分的に破壊し、
彼の身体の前方から後方へと向かって一直線に貫通したのだった。
・・・岡本の頭の中が真っ白になる。
溶液怪人の攻撃方法は”ウォータージェット”と呼ばれるもので、
チタンやアルミなどの金属を加工する際に利用されるものである。
それは一点に巨大なエネルギーを集中する事により、
水で金属を切断できるというものであるが、
まさか、自分の”仲間”が目の前で
そんな残酷な攻撃を受けるとは予想できただろうか?
岡本の中では瞬時に
15年以上も前のトラウマとも言える出来事がフラッシュバックした。
それは彼の行動の原点とも言える、
血生臭く、残酷で、取り返しのつかないもの・・・。
思い返す価値など微塵もなく、
今の岡本にとっては確実に不必要なものであった。
@第27話 「自分のやりたい事は?」 完結




