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ブレイキング・ローズ  作者: まるマル太
第3章 新たな敵??ブラックマイスター!?
27/42

@第24話 理想を潰して理想を超える!?

@第24話 「理想を潰して理想を超える!?」




・・・はじめが謎のフォーサー、

コンセキュエント・デステニを名乗る人間から事情を聞いている頃、

都内のブラックマイスター本拠地内では

とある2人が顔を合わせていた。




―――――――――――――――――――――――




「これは、驚きました。

 まさかあの伝説の伊集院いじゅういん 雷人らいとさんが

 現代に生きているとは・・・。」


この私、伊集院いじゅういん 雷人らいと

ブラックマイスター本拠地と思われる住居へと侵入したところ、

内部には白いスーツに全身を包み、

頭髪を右サイドだけ長く伸ばした20代と見える男が

1階のロビーにて待ち構えていた。

男はやけに凶暴そうな顔付きをしているが、

彼の言葉は敬語を用いた丁寧なもので、

まるでホテルか何かの接客を受けているような感覚に陥る。


「フッ、伝説、とまで言われるとは心外だが、

 この私がここを訪れる理由は貴様らの排除に他ならぬ。

 ・・・ところで、お前の名は?」

私が目をつぶり、静かにそう言うと、

目の前の男は真剣そうな顔付きに変貌した。


「俺は・・・中仙道なかせんどう 武雅むがと申します。

 俺は、伊集院さん、あなたの理想に惹かれ、

 手本とする事でこの組織を形作る結果に辿り着きました。

 この世界に、つまり社会に、不要な人材は排除すべき。

 あなたは噂ではそのような理想をお持ちであったと聞いています。」

男は始終私の顔を見据えたまま、

真剣な口調でそう述べた。


「フッ、この空白の10年間、そのような形で

 私の意思は残留していたという事か。

 確かに、それは間違ってはいない。

 他者を平気で貶すような”ゴミ”人間は始末すべきであろう。」

「ならば・・・なぜ俺たちブラックマイスターを排除しようと?」

中仙道なかせんどうを名乗る男は、

感情のあまり右足を一歩踏み出し、私に問う。


「それは、貴様らの意思が私とは異なる事に他ならぬ。」

「俺たちの理想が、伊集院さんと違うと?

 そんなはずはないです。

 俺はあなたを見習い、ここまで組織の運営を続けてきた。」

「フッ・・・笑わせるな。

 お前たちは何を思ったか人間を無差別に殺害している。

 それは社会汚染に直結しているのだ。」

「違う!俺はこの社会を変革し、

 新しい世界を構築した後、

 そのゴミ人間を自動で排除できる制度、新たな法を創る!」

・・・これは、随分と馬鹿げた話だな。




「貴様、社会の変革、と言ったな?

 私は社会変革なるものを一切望んだ覚えがない。

 その理由は、人間が虚無なものである故に、

 いくら変革を繰り返しても意味を成さぬからだ。」

「・・・人間が、虚無なもの?

 そんな事を主張すればあなた自身も・・・。」

「あぁ、そうだろうな。

 私は十分、虚無な人間たちの仲間だろう。

 だからこそ、変革は成し得ない。

 ・・・が、しかし、私でも黙って見ていられない状況がある。

 それはその虚無な人間たちの中に、

 他者の利益に平気で干渉する”ゴミ”が現れる事だ。」

「では、伊集院さん、

 あなたはそれを排除するだけで・・・満足であると?」

中仙道なかせんどうの目付きがキツくなる。


「満足、というよりかは、

 それしか成し得ない、といった感じであろうな。

 変革のために無実の人間が殺害されては

 変革自体がゴミそのものだ。」

私はあくまでも本心から湧き出た台詞を淡々と並べていく。


中仙道なかせんどう、お前は殺人の機能を持った社会を構築したとして、

 そこで自分たちが罪に問われる事なく、

 罪人を自動で殺害できる機械的作業を

 社会に負担させる事を目的としているのだろう?

 ・・・だとすれば、考えが甘すぎる。

 お前が”第一に”望むのは虚無な一般人と変わらず

 自身の擁護に他ならないからな。

 そんな事で罪人を裁けるのか?

 それに・・・。」

私は静かに目を閉じた。


「人を殺害する行為そのものが最高の愉悦だというのに

 その代行をこの社会に委託するとは、勿体無い話だ。」

私の視線を受けた中仙道なかせんどう

思わず目を逸らす。


「・・・すると、あなたはまるで娯楽のように人殺しを楽しんできた、

 という事でしょうか?」

その問いはあまりにも幼い。


「フッ、罪人を殺せば社会は多少なりとも浄化される。

 殺害の快感は私を満たし、浄化の恩恵は人々へと行き渡るだろう。」

「しかし・・・そんな小さな事を続けていてはいつまでも・・・」

「貴様、まだ分からぬか。

 理想の社会本体を求めるのではない。

 そこに至る”手段”を追い求めるのだ。

 それを継続する事で理想の社会は、世界は形作られていく。」

そこまで言うと、私はポケットから変身用機器を取り出す。


「・・・いや、いきなり社会を創る事が間違いである保証はない!」

「ほう、あれだけの破壊活動を行う事が理想社会に繋がるとでも?

 愚かだ・・・もはや救いようがない。」

電子辞書のようなDEADデッドチェンジャーを開き、

下画面にてコマンドを入力。


《Hello world!! Excuse me?

 Answer、Answer、Answer、Answer・・・》

ロビーへと鳴り響く待機音声。




「伊集院さん、俺は長年あなたを理想として歩んできましたが、

 たった今、気が変わりました。

 こうなれば・・・全力であなたを潰します。」

中仙道なかせんどうはスーツのポケットから

紫色の溶液が入った試験管を素早く取り出すと、

それを自身の口の中へと流し込む。


「・・・うおおおおおッッ!!」

中仙道の身体は見る見るうちに上下左右へ向け肥大化していき、

体色は緑や青系統の暗い色がぐちゃぐちゃに混ざり合った

下水のような色へと変化した。


「勝手に変な理想像を創り出したのは貴様に他ならぬが、

 潰せるものならこの私を潰してみろ。

 シング・・・アゲイン。」

《Certified!!》


チェンジャーのガイダンス音と共に、

事務所の外に停めてあるバイクのサイドカーから

アーマーを構築する無数のパーツがこちら目掛けて飛んでくる。




―――――――――――――――――――――――




2人のローズ・ブレイカーは

10mほどの距離を挟んで対峙した。


片方は赤いラインの入った黒いロングコートに

細身の軽装なデザインのアーマーを備えたドミクロン、

もう一方は2.5mという高身長に加え、

頭に1mにもなる真っ白な一角を備えた

海獣の姿のアトラクター、世刑海獣せいけいかいじゅうディザイヤー・リヴァイアサン。


いずれも相手の出方を見計らっているらしく、

変身を完了した位置から一歩も動かない。




「あなたの理想がどうであれ、

 俺はこのブラックマイスターという組織を維持する。

 その先に俺の望む世界はある。」

「フッ、ならば私は自分の理想の下に貴様を始末せざるを得ない。

 お前のアイデンティティーを・・・確立せよ。」


ドミクロンが踏み出した右足につられ、

リヴァイアサンは身構えるが、

その次の瞬間、黒い閃光となった処刑人は海獣の背後へと瞬時に移動した。

敵に振り返る隙も与えず、処刑人は斬馬刀による薙ぎ払いを繰り出す。

が、その時、斬馬刀を持つ彼の手には違和感が走った。


あのカオティックフロッグの硬質化した皮膚をも切り裂く、

人知を超えるスピードを乗せた重い斬撃、

そのはずが、目の前の海獣の皮膚に突き当たった瞬間に刀の勢いは殺され、

斬馬刀はまるで鋼鉄の柱にでも切り掛かったかの如く、

容易く弾き返されたのだった。


それを確認したドミクロンは

振り返るリヴァイサンの正面へとコンマ数秒で移動すると、

頭から縦に引き裂くように斬馬刀を上部から振り下ろす。

が、その斬撃も対象を捕えると同時に方向を変更し、宙へと放たれた。


リヴァイアサンという鉄壁の防御壁を前に、

ドミクロンは一度元の位置まで後退し、距離を取るが、

それを見兼ねた海獣は、今度は反撃と言わんばかりに

床を蹴り放ち、黒い処刑人へと迫っていく。


・・・海獣の動きは例え走る動作に入っても非常に遅い。

が、それは彼の威圧感を失わせる要因には程遠く、

その姿は猛獣と表現するにふさわしい。


海獣の繰り出すハイパワーの右フックを

処刑人は軽々と避けると、再び彼は一瞬で海獣の背後へと移動し、

手にしていた斬馬刀の先端を隙のできた海獣の背中へと突き当てた。

しかし、その的を絞った攻撃すらも、

リヴァイアサンの硬い皮膚には通らない。




「ほう・・・これほどの防御を誇る者は初めてだ。

 このドミクロンに腕力不足を感じさせた事は褒めてやろう。

 だが、私には処刑人としての”技”がある。」

そう言い、彼は腰に取り付けたDEADチェンジャーを開き、操作する。


《Answer、Answer、Answer、Answer・・・》

すると、変身時と同じように電子機器が待機音声を発し始めた。


「・・・アイデンティティー確立かくりつモード、起動。」

《Certified!!》




認証が完了すると、

外に駐車してあるドミクロンのサイドカーから

追加のパーツが飛び出し、素早く宙を伝って彼の下へと到着する。

その2枚の黒い無機質な翼は彼の二の腕部分で固定されると、

そのまま背中へと回り装着を完了する。

それにより、ドミクロンから全長3mほどの

機械質な翼が2枚生えたような姿へと変身した。


すぐに左右に付けられた2枚の翼は上下方向へと展開され、

その面積を左右対称に広げていく。

展開が完了すると、拡張された翼は

ドミクロンの身体正面側に角度を付けた

パラボラアンテナのような形状と化す。


ドミクロンが右手に握っていた斬馬刀は

その翼のパーツと連動するように持ち手の発光部分が鈍く光り始める。

《Over、Over、Over、Over!!》




「あなたのその技とやらで俺を殺せますか?

 俺は間違いなく最強のアトラクター、リヴァイアサンですよ。」

リヴァイアサンはドミクロンの技の準備が整うまでの間、

攻撃をせずに黙ってその様子を見ていたのだった。


「私のアイデンティティーはゴミを処理する事。

 そして、貴様のアイデンティティーは・・・贖罪しょくざいだ。」

次の瞬間、黒き閃光と化した処刑人は

右手に握る斬馬刀の先端で海獣の首筋を捕えた。

その斬撃は先ほどと同じように弾かれたが、

ドミクロンは成すべき事を成した様子で

ゆっくりと玄関側の部分へと後退していった。




「ん?・・・一体、俺に何をした?」

リヴァイアサンは不思議な様子で海獣の身体を見回しているが、

どこにも損傷は見当たらず、刺された箇所にも痛みすら感じていないようだ。


「フッ、その問いの答えは今に分かるだろう。」

「・・・訳が分からない。

 戦闘再開、だな。」

リヴァイアサンは何事もなかったかのように

漆黒の翼を生やしたドミクロンへと迫り、

右から左から、と次々と拳を繰り出す。




リヴァイアサンはその体質的特徴のせいで、

ほとんどの攻撃手段を巨大な両手の拳に集約している。

本来であれば、相手の精神に直接干渉する技、

“ストロングイェンモード”を使用し、

敵の動きを鈍らせてからその拳による攻撃で

早々に決着を付けられる程度の戦闘能力は持ち合せている。

そのモードの発動条件は恐ろしいほどの声量で「叫ぶ」事だ。


しかし、この場所は彼らの本拠地である事務所という事もあり、

建物の損傷を考えると、彼は大技を1つ発動できない状況なのである。




「・・・これは?」

巨大な翼のおもりを付けていても、

リヴァイアサンの拳を避ける事には難がないドミクロンであるが、

戦況には若干の違和感を覚えていた。


先ほど、アイデンティティー確立モードによって発動させた技は、

斬馬刀からのDSWデストラクション・サウンド・ウェーブの発射である。

DSWとは、聞いた者の脳に作用し、

その者の身体活動を狂わせる事が可能であるという、

処刑人、伊集院いじゅういんの必殺技と言っても過言ではない

究極クラスの反則技である。

彼自身は”ツヴァイブレイン”によりDSWの影響を受けないのだが、

リヴァイアサンにDSWの影響が及ばないというのは

不可解な話なのだ。




「さっきのがあなたの何かしらの技だというならば、

 俺には効果が無かったようですね。」

繰り出す拳を中断したリヴァイアサンは呟く。


「開発グループにいた俺自身、人体強化溶液アトラクトの効用は

 よく分かっていない。

 あなたの攻撃がどういったものなのかは分かりませんが、

 おそらく俺たちアトラクターにはそれを防ぐ機能が備わっている。」

「・・・ほう、なるほどな。

 貴様らのアトラクトとやらにより、

 脳へと何かしらの激しい作用が及ぼされていると言うならば、

 仮定の要因にはなるだろうか。」

ドミクロンは淡々と考えを述べたが、

彼の内心は先ほどまでの穏やかさを欠いていた。


・・・自慢のスピードから繰り出す斬撃もほぼ完全に防がれる。

・・・反則技であるDSWすらも受け付けない。

こうなると、伊集院にはリヴァイアサンを処理する方法が残っていない。

それは彼自身も納得せざるを得なかった。




「・・・我ながら、情けないものだな。」

「いきなり何を?」

「”ゴミ”を目の前にして処刑人の役目を果たせぬとは・・・。

 私は自身のアイデンティティーすら確立できぬというのか?」

ドミクロンの発言は具体性を欠いているが、

リヴァイアサンにはある程度の意味を取る事ができた。




「ならば、互いに出直しませんか?

 俺は、自分の技を発揮できる場所を選ぶべきであったと悔やみ、

 あなたは、俺を倒せる手段がない事を悔やんでいる。」

リヴァイアサンの発言から、

ドミクロンは目の前の相手が大技を隠しているという事を知るが、

彼にとってはそのような事は眼中になかった。


どうすればリヴァイアサンを殺害できるか。

その問いを考えるのに必死なドミクロンに、

細かい戦況など気になっている暇はない。




「私の中では非常に不快ではあるが、

 現状、やむを得ないだろうな。」

そう言い、ドミクロンは腰の電子機器へと手を伸ばすと、

その場で変身を解いたのだった。

それを確認し、リヴァイアサンも変身を解く。


「伊集院さん、俺はいずれ、あなたに証明してみせます。

 俺の理想がどれだけ美しいか、を。」

踵を返し、事務所の玄関を潜ろうとしている伊集院の背後から

リヴァイアサンこと中仙道なかせんどう 武雅むがは宣言する。

その宣言を聞いたのかは定かではないが、

伊集院は何も反応せず、そこから出ていったのだった。




「・・・アレが・・・。

 俺が理想としていた伊集院いじゅういん 雷人らいとか・・・。」

中仙道なかせんどうは気が抜けた様子で呟くと、

1階ロビーのソファへと勢い良く腰かける。


・・・中仙道なかせんどうは既にこの世を去ったはずである

伊集院いじゅういんの思想を受け継いでいるという自覚の下、

過去の恨みを今の力に変え、

ブラックマイスターを立ち上げ、計画を進めてきた。


そのはずが、中仙道なかせんどう自身がやってきた事を

伊集院いじゅういん本人から否定されたのだ。


彼は今、どのような心情なのだろうか?




中仙道は物思いにふけるように腕を組んだまま天井を見上げ、

数分の間、その姿勢で固まったまま動かないでいた。

ちなみに、この事務所は現在、中仙道以外の人員は

例のフォーサーとなって逃走した犯罪者、

湯原ゆばら 海斗かいとを追う作戦中であるため、不在である。

そのはずなのに、

何故か彼は先ほどからロビーの片隅に謎の気配を感じてやまない。




「・・・そろそろ出てきても良いんじゃないか?

 俺はさっきからずっと待っているのだ。」

痺れを切らした中仙道はソファから立ち上がり、

その気配の方向へと身体を向ける。


「・・・。」

謎の気配の正体は躊躇いなく、すぐにその姿を現した。


「やはり、お前か。」

中仙道なかせんどうは口元を歪め、短い微笑を見せた。


・・・黒いパーカーにグレーのスラックスを纏う若い男性。

それは同じブラックマイスター団員である

明慶あけよし つかさであった。




明慶あけよし、いつからそこにいた?」

「・・・先ほど、伊集院という男がここを後にする時、

 どさくさに紛れて裏口から侵入しました。」

「そういう事か。

 俺が求める世界に納得がいかないと?」

中仙道に思考を見通され、一瞬戸惑いを見せた明慶あけよしだったが、

すぐに元の鋭い視線を取り戻す。


「・・・中仙道様、あなたが第一に考えているのは世界ではない。

 あの湯原ゆばらという男を殺したいという、単純な復讐です。

 それはあなたにとっては大事な事なのでしょうが、

 我々ブラックマイスターにとっては不要な感情・・・。」

そう言いながら、明慶あけよし

パーカーのポケットから紫色の溶液が揺れる試験管を取り出す。


「あなたに・・・あなたにブラックマイスターの首領である権利はありません!

 これからはバーバレスに認められた俺がこの組織を引き継ぎます!」

彼はそのまま溶液を口に流し込むと、

聖獣せいじゅうグラスプ・ユニコォンへと変身を完了した。


「”バーバレス”とは何の名前だ?」

問う中仙道に構わず、ユニコォンはロビーの床を蹴り、

その勢いを付けた拳を中仙道に向けて突き出した。


























―――――数十分後、都内のとある会議室では―――――




「こうして会うのは久しいな、上戸鎖かみとくさりよ。」

ここはこの私、上戸鎖かみとくさり 祐樹ゆうきが借りている

とあるビル内の会議室である。

つい1時間前、伊集院いじゅういんを名乗る男と戦った私は、

そのまままっすぐにこの会議室へ戻ってきていた。


普段は私と野佐根のざね以外の者がここを訪れる事はないが、

今日は客がいる。




「そうですね・・・。

 こちら、旧レボリューショナイズ社研究員の太斉だざい たける氏です。」

突然の来客に状況を飲み込めない野佐根のざねに向かって、

私は太斉だざい氏を紹介する。


「・・・という事は、あなたが上戸鎖かみとくさり様にHR細胞を注入したという

 あの太斉だざい たける氏でしたか。」




太斉だざい たける・・・。

かつては共に研究員として働いていたが、

HR細胞の開発が遅れている事に苛立ちを隠せず、

そのままレボリューショナイズ社を去った人間だ。

現在は46歳にして自らが設立した岩山病院の医者となっている。


その岩山病院は、表向きは総合病院として成り立っているのだが、

実は太斉だざいのフォーサー研究に関わる実験場となっている。

その事実を知るのは太斉と他の協力者一部のみであるが、

私もそこで他人の体内で成長したHR細胞を投入する手術を受けた。


太斉だざい自身はローズ・ブレイカーではないが、

フォーサーの研究には大いに興味を示し、

日々、様々な実験を繰り返しているようだ。

数週間前には実験途中の生身のHR細胞が発見され、

事実の隠蔽いんぺいには相当に労を費やしたようだ。




「先生、東京を訪れるのでしたら、

 事前に連絡をいただければ良かったのですが。」

太斉だざい氏の病院は静岡にある。

よって都内でこうして顔を合わせる機会は少ないのだが・・・。


「何でも突然、岩手に用ができてな。

 その途中でせっかくだからここに顔を出したって訳だ。」

「岩手・・・ですか?

 何者かから先生に対しての依頼でしょうかね?」

「何やら、また面白そうな実験の材料が手に入りそうな予感がする。

 そのためならば私は長旅も厭わない。」

太斉だざい氏は目が大きく、垂れ目で、

一見すると優しそうな初老の男性に見える。

が、実際はフォーサー研究に情熱を燃やす、

一種の研究バカと言っても過言ではないだろう。

彼に悪意があるのかどうかは私でも分からないが・・・。




「そう言えば、先生にお伝えしなければならない事があります。」

「ほう?」

私はふと思い立ったように話題を変えたが、

太斉だざい氏がこの部屋を訪れて最初に脳裏に浮かんだものは、

その私が伝えるべき事に対する義務感であった。




・・・私はそれから数分の間、

先ほど起きた事を可能な限り鮮明に話した。


死亡したはずの伊集院を名乗る男と戦闘になった事。

その過程で、自分がトレディシオン・ルイナーとなるための

HR細胞を破壊されてしまった事。

自分がもうフォーサーとなる事には興味がない事。

自分の欲望を完全に諦めた、という事。


私が話し始めてから、

太斉だざい氏も、野佐根のざね

途中で口を挟むという事はしなかった。


その代わりに、野佐根のざね

ただでさえ不機嫌そうな表情を更に引きつらせ、

太斉だざい氏は失望したような様子で床を眺めていた。




「・・・だから、先生には本当に感謝していますが、

 私はもう、怪人になる事はできない。

 そして、怪人になる事を望みすらしません。」

太斉だざい氏にかかれば、

おそらく私が過去にやってもらった事と同じように

他のフォーサーからHR細胞を奪い、

私の身体に注入するという実験が可能であろう。

その過程で、私が新たなフォーサーになる可能性も十分にあるが

それがどのような影響を及ぼすのかが未知である以上、

私はこれ以上の実験は継続される事を拒むだろう。


上戸鎖かみとくさりよ・・・今までご苦労だったな。

 お前がそう言うのであれば、仕方がないだろう。

 レボリューショナイズ社の本社ビルが倒壊したせいで、

 あの会社の再建も面倒な事になっているだろうから、

 以後はレボリューショナイズ社の利益に

 大人しく貢献するのが良いだろう。」

太斉だざい氏は真顔で言葉を吐き出すと、

持ってきた重そうなキャリーバッグを引っ張り、

そのまま部屋の出口までスタスタと歩いていってしまった。


「あ、そうそう。

 お前のトレディシオン・ルイナーとしての伝記、

 というか活動報告というか。

 以後の私の研究の役に立ちそうなものを

 文書にしてメールで送ってくれると助かる。」

「分かりました。

 最後に先生のお力になれればと思います。」

私はそのまま頭を深く垂れて、太斉だざい氏を見送った。


報告文書は多少、自分の過去の傷を抉るような皮肉なものであるが、

あの方への最低限の礼儀としての義務だと思う。

そして、頭の中でざっと振り返ってみれば、

そこまで悪いものでもなかったのかもしれない。


自分の欲望を忠実に追い求め、

それに近付くという事は、

一種の娯楽であり、快楽とも言えるだろう。

それを思い出すのは、そこまで悪い事でもなさそうだ。




上戸鎖かみとくさり様、

 私はおそらく明日でこの会議室を去る事になるでしょう。」

間を見計らい、野佐根のざねが切り出した。


「了解しました。

 オーバーキラーさんの希望には沿えない形で終結した事は

 本当に申し訳ありません・・・。

 下手をすれば、彼は私を殺害しに来るかもしれないですね。」

「前にも申しましたが、私にもオーバーキラーの目的は分かりませんので

 それを肯定も否定もできないのは気持ちの悪いところですが、

 この面倒な戦いから逃れる事ができるのは羨ましい気持ちもあります。」

野佐根のざねはいつも通りの不機嫌そうな顔を

僅かに緩めると、長いため息をついた。


「・・・この世界、おそらく、皆、自分の”正しさ”を持っています。

 ローズ・ブレイカーたちの、いや、人間の戦いが終わる事はないでしょう。

 フォーサーの能力を失った私とて例外ではない。」





























―――――その頃、同じく都内のアブソリュート・アーツ社では―――――




「・・・それは本当の事なのか?」


フォーサー対策関連研究室のグループに割り当てられた一室で、

2人の男が立ったまま会話をしている。

2人とも白衣を着ているが、

背が高い方の男性は正面ボタンを開け放ち、

カジュアルな着こなしだ。


「ディスガイザーが・・・伊集院いじゅういん 雷人らいとが生きていたと?」

長身で天然パーマの男性は呆然と言葉を吐き出す。

まるで、自分の日記にでも記すかのように、淡々と。


蔭山かげやまさん、重要事項の報告が遅れて申し訳ありません。

 開発チームの活動に影響が出ると思い、黙っていました・・・。」

そう言い、頭を深く下げる男性は

研究室長の岡本おかもと 龍星りゅうせい

その動作に焦りは見られず、こちらも淡々とした振る舞いだ。


「・・・中二宮ちゅうにきゅうXレアの重大な欠陥の発見と共に

 プロジェクトを凍結するのまでは分かる。

 だが、研究成果をあの男に無償で手渡したとなると別件だ。」

「俺たちは悲しむ人を減らせるような開発を進めていました。

 が、それは俺たちでは完成させるに至らなかった。

 でも・・・伊集院いじゅういん 雷人らいとにならその希望がある。」

「・・・確かにあの男が天才の中の天才である事に異論はない。

 だが、その思考回路は一般人とかけ離れている。

 岡本、お前も知っているだろう?

 ヤツは列記とした”犯罪者”だ。」

蔭山かげやま 神門かなとは過去の後悔を噛み締める想いを露わに続ける。


「私は・・・私は過去にあの犯罪者に加担していた。

 それは私の後悔となって今なお私の中に残り続けている。」

「あの方は・・・伊集院いじゅういん 雷人らいとは必死で日本を守ろうとしています。

 そのやり方は俺にも納得がいきませんが、

 今はあの人間を”利用”すべき時だと思います。

 許可を得ず・・・勝手に研究成果を譲渡した事は謝ります。」

岡本が再び頭を下げると、それを睨み付ける蔭山は黙った。


「・・・岡本、お前はあの男に似ている。」

蔭山はやや取り乱した様子で呟いた。

言葉の意味を取れない岡本は不思議そうな表情を向ける。


「・・・あのディスガイザーがいくら強い意志を持つとしても、

 ヤツは手段を択ばない男だ。

 そして、そんな男に依存するお前も同じく、

 手段には拘ろうとしない。

 お前はいずれ・・・。」

伊集院いじゅういん 雷人らいとのようになる、と?」

発言を先取りされた蔭山は視線を逸らし、

不機嫌そうな顔で窓の外を見据えた。


「・・・まぁ、その事はもう良い。

 だが、さっきのお前の話にはもう1つ言及すべき点がある。

 園原そのはら 紫苑しおん・・・アブソリュート・アーツ社、社長についてだ。」

その疑問は同じように岡本にもあった。




伊集院の話では、彼は

園原そのはらの提案で約10年にも及ぶ隠遁いんとん生活を送った。

そうなると、園原そのはらはこの世界の状況について、

少なくとも岡本ら以上には詳しいはずなのだ。


しかし、それは普通に考えて不自然である。

アブソリュート・アーツ社は一部上場企業であるが、

その社長というだけで

人間1人を隠さなくてはならないほどの危機感を覚える事など、

そうある話ではない。

何かしらの情報経路を持つ、と考えるのが自然だろうか。


それに加え、園原そのはらの不自然な様子には

あの天才である伊集院いじゅういんが気付かない訳がない。

その点も不可解だろう。




園原そのはら社長は何者かに通じているのでしょうか?

 それも、あまり穏やかではない何者かに・・・。」

岡本の発言と共に、蔭山が向き返る。


「まだそれを決定付けるには早いな。

 これまでの中二宮Xレアのプロジェクトが凍結された以上、

 社内で何かしらの動きはあるはずだ。

 私は密かに社長の動向を調査してみる。

 岡本、お前はこれまで通り、

 その伊集院から授かったDEADというアーマーで

 人々を守る事を続けろ。

 今後、フォーサーやアトラクターの動きが活発化する事は目に見えている。

 それと・・・。」

蔭山は突如、声量を抑えて続ける。


「この事は他の人間には漏らすな。

 例えフォーサー対策関連研究室の人間にもな。」

「それは大丈夫ですよ。

 あ、あと、忘れていましたが、

 問題の裏中二宮Xレア2機の事なのですが・・・。」

岡本は静かに頷くと、忘れていた事をふと思い出したように付け足す。


「片方は盗まれた滅裂銃士めつれつじゅうしディコンポーズ・レオだろ?

 アレがまだ見つかっていないのは知っているが、

 もう片方の件は何だ?」

「はい、石川の浪人生に授けた”キャンサー”なのですが、

 これまでに研究員が2度出向いたにも関わらず

 アーマーを返却する気がないらしく、

 追い返され続けています。

 他の中二宮Xレアは全て回収が完了したのですが、

 あの2つだけはどうしても・・・。」

「中二宮Xレアシリーズはもはや危険だという事が

 お前が身をもって証明しただろ?

 早くそれも回収しないと二次的被害が出るぞ?」

「でも、それを知った本人に返却の意思がないのでは、

 なかなか厄介な事になります。

 現に、今はもう力ずくで取り返すしか方法は・・・。」

岡本の現状報告に、蔭山かげやまは黙ってしまう。


「・・・なら、研究室長であるお前が

 直々に石川に交渉に行けば良いんじゃないか?」

蔭山の提案に、岡本は微笑を見せながらため息を吐いた。






























―――――その頃、ブラックマイスターの事務所では―――――




「ぐうっ!!」

怪人増強溶液”トリメンダス”によって授かったウェポンである

エクストラオーディナリィレッグを装備した

聖獣グラスプ・ユニコォンが激しい勢いと共に床を転がる。


明慶あけよし つかさ

 このリヴァイアサンに反逆を仕掛けるとは、愚かなものだ・・・。」

世刑海獣せいけいかいじゅうディザイヤー・リヴァイアサンは

やおら立ち上がるユニコォンを見下ろす。


「あなたは・・・あなたでは世界を変えられない!

 この醜い世界を変えるのは・・・俺だ!」


ユニコォンは以前、

アーマーであるアリエスの両手部分を破壊した威力を誇る蹴りを

リヴァイアサンへと向けて繰り出すが、

その攻撃を受けてもなお、リヴァイアサンは一歩も後退せず、

反動でユニコォンを弾き返す。

そしてそのまま、ダメージすらもろくに受けていない様子で構えている。




「クッ!」

反動と共に弾かれたユニコォンはどうにか2本足で床に着地するが、

どう考えてもスペックの差でリヴァイアサンに勝つのは不可能だと悟っていた。

渾身の蹴りを放てば放つほどこちらがダメージを受ける。

明らかにパワーバランスがおかしい。


「まだ、今なら間に合うぞ?

 我がブラックマイスターに大人しく戻れ。」

「・・・使うしか、ないのか。」

ユニコォンは躊躇いながら、

腰のホルダーから真っ黒な液体が揺れる試験管を取り出した。


「ん?それは見た事がない溶液だな?

 アトラクトは紫色、トリメンダスは緑色のはずだが・・・。」

「これは・・・俺の協力者から得た”アウトレイジャス”だ。

 これであなたを倒す!!」

ユニコォンはそのまま漆黒の液体を口へと流し込む。

と、次の瞬間、彼は両手で頭を抱え、

たどたどしい様子で何かを呟きながら

膝から床へと崩れ落ちた。




「オレガ、コノ、セカイヲォォォォォ!!」

ユニコォンの身体の元々のデザインは

灰色の体色に群青ぐんじょう色のラインが

身体のサイドやら腕やらに

血管の如く張り巡らされた一角獣の姿をした怪人だったが、

謎の黒い液体を飲み込んだ一角獣は

群青色のラインが黒色に変色し、

胸部の大きな球のようなパーツはまるでシャボン玉の如く、

様々な色へと常時変色し続けている。


「ほう、ユニコォンが更なる進化を遂げたという事か。

 ・・・お前の名は?」

「オレハァ・・・狂聖獣きょうせいじゅうナイトメア・ユニコォン!!」

ナイトメア・ユニコォンと名乗る怪人は

名乗るが早くリヴァイアサンとの距離を詰め、

トリメンダスによって巨大化したままの右脚による回し蹴りを繰り出す。


リヴァイアサンは普通、相手の攻撃を避けるという事をしない。

それは相手の攻撃を避ける必要がないほどに

自身の防御が長けているせいでもあるが、

自身の次の攻撃体勢を整えるためでもある。


そのはずのリヴァイアサンが、

黒い一角獣の回し蹴りによって体勢を崩すとは

誰が想像できたのだろうか。




「何だと!?」

ユニコォンの思わぬ威力の蹴りに、

リヴァイアサンは3歩ほど後退して距離を放そうと試みるが、

闘争本能の塊となった黒きユニコォンはそのような隙を与えない。


次々と方向を変えながら、

助走を付けた回し蹴りを繰り出すユニコォンに対して、

防戦一方のリヴァイアサン。

致命傷を食らっている訳ではないが、

攻撃の隙がないのは事実だった。




「ぐう・・・まさかお前がここまでやるとは。」

リヴァイアサンは

命中さえすれば一撃で相手を殺せるに値する拳を放つ事ができるが、

それは敵の攻撃を完全に防ぐ事が可能という仮定の上で効力を持つ技である。

逆に、俊敏性は全てのローズ・ブレイカーの中でも最下位層に位置するため、

敵の攻撃が防げないという事態に陥ると、彼は良いサンドバッグと化してしまう。


「オレハァ、セカイヲ、カエルゥゥゥ!!」

黒いユニコォンの蹴りが再度リヴァイアサンの顔面へと命中した。

軽々と飛ばされる事は無いにしても、

リヴァイアサンには確実にダメージが通っている。


「・・・例えここで俺を倒したとしても、

 お前では正しい変革を行う事はできないだろう。

 それほどまで狂った戦闘マシーンと化してしまってはな!」

リヴァイアサンは目の前のユニコォンに向かって

巨大な右手の拳を突き出す。

ユニコォンは反応がやや遅れたが、

それを跳躍により避け、空中から右足での踵落としを

リヴァイアサンの頭部へと放った。


リヴァイアサンはよろめきながら前方へと何歩か歩み出るが、

その背中を床に降り立ったユニコォンに蹴られ、

うつ伏せの状態で床へと倒れ込んだ。


「くぅ・・・!」

倒れた海獣はすぐさまそこから立ち上がろうとするが、

思うように体をコントロールできない。

おそらく、これまでにこうして倒れ込む事は一度もなかったために

体勢を整える状況を経験していないのだろうか。


「コロス!!オマエヲ、コロス!!」

ユニコォンは狂い叫ぶが、

その語気に反して、なかなか追撃しない。


リヴァイアサンは疑問を覚え、

どうにかうつ伏せから仰向けの状態へと移行し、

周囲の様子を確認する。


と、そこには頭を抱え、

膝立ちの状態のユニコォンがいたのだった。


それを見たリヴァイアサンは

今とばかりに怪人態の変身を解き、元の中仙道なかせんどうへと戻ると、

事務所入り口のドアへと向かって走り出した。

彼は何度も後方を振り返りながら、ユニコォンの追い討ちを警戒していたが、

ずっと抱え込んだ姿勢を保ったまま彼は動かない。

おそらく、あの黒い溶液の副作用なのだと、中仙道なかせんどうは確信していた。

上手くいけば戦闘不能のユニコォンを殺害する事もできたが、

今は彼にとって保身の方が重要だった。

もうユニコォンが戦闘不能だという確証もない。




「ガアアアアァ・・・うわああああああああ!!」

中仙道なかせんどうが事務所から走り去って1分ほど経過すると、

ユニコォンが叫びながら床に突っ伏し、

変身が解けて元の明慶あけよしへと戻った。

彼はそのまま気絶し、意識を失った・・・。



























―――――その日の夜、10時過ぎ―――――




都内のとあるビルの一室では、

1人、上戸鎖かみとくさりがPCに向き合い、

自らの恩師とも言える太斉だざい たけるへの

報告書を文書作成ソフトでまとめていた。


それは、つい今日の午前まで、

自身がフォーサーであった間の日記のようなものだ。

フォーサーの能力を失った自分に失望する上戸鎖かみとくさりであったが、

太斉だざいへの最後の協力は一切惜しむつもりはなかった。


元はと言えば、上戸鎖がフォーサーとなったのは

太斉だざいの医療的支援のためであった。

となると、これまで自分に大きな夢を見させてくれた

太斉への協力を断る理由は彼の中にないのも分かる気がする。




「ふぅ・・・。」

上戸鎖は今まで書いた部分をざっと見直し、

一度、PCから目を離した。

既に、軽く1万文字は越えている。


報告書にて、できる限り詳細に綴りたいというのは、

太斉への協力のためでもあり、

同時に、自分の中にある何かのためであると、

上戸鎖は理解していた。

それが何なのかまでは解明できていないが・・・。




―――――――――――――――――――――――――――――




この私、上戸鎖かみとくさり

報告書をまだ書き足りないでいた。


更に詳細に、もっと様々な事を書き留めたい。

そう思いながらキーボードをタイピングし出すと、

不思議な事に自分の意思では両手が止まらなくなるのである。


それは、フォーサーであった頃の自分を思い返す事を

自分自身が楽しんでいるからなのだろうか?

ここまで書いてきたところ、どうもそれは違うような気もする。


ここまで綴った文章を読み直しても、

懐かしいとも、ましてや、面白いとも感じない。

そういった感情とは何かが違う。


一般的に人間がある動作をやめられなくなるのは、

脳内ホルモンが分泌され、反復による快感をもたらすためだ。


今の私にそのような快感があるのは事実だろうが、

自分では何が快感なのかが分からない・・・。

少し気持ちの悪い状況ではある。


しかし、この謎の感覚は以前にもどこかで感じた事がある。

それは確実に身体が覚えている事実だった。

それを今理解する必要はないだろうが、

このような特殊な感覚に陥った事があるとなると、

少しばかり気になる。




・・・再びタイピング作業へと取り掛かる。

キーボードを打ち鳴らし、

まるで日記の如く身体に起きた変化を綴ると、

一文を終える度にまた謎の快感がやってくる。


これは何なのだろう?


そこで私はハッと気付いた。

この感覚は、まさにフォーサー、トレディシオン・ルイナーとして

他のローズ・ブレイカーと戦っている時と同じもの。

だが、ならばなぜ今、こうして文章を書いているだけで

そんな感覚が思い出される?


・・・私の心からの欲望は「支配」。

トレディシオン・ルイナーとして戦っていた時には、

その力が及ぼす支配力を感じざるを得ない。

相手に自分の力を見せ付ける事で、私の欲求は

僅かばかりではあるが満たされつつあった。


その感覚と同じなのだ。


という事は、私は今何かを「支配」しているというのか?

報告書とは言えども、文章を書くだけで何かを支配するなど、

到底、常人の考えられる事ではない。

・・・不可解だ。


「誇れるものがあるとすれば・・・自身の体験か?」

私はそう独り言つと、

不意に身体の何ヵ所かが私の意思とは関係なく

鼓動を始めたのが分かった。

よく分からないが、今の私は”何か”で誰かを支配している・・・。

身体はそう判断を下した訳か。


・・・今は原因が理解できないが、

私はまだ支配欲を持ち続けている。

それは確かだろう。


再びPC画面へと目を向け、

タイピングを再開すると、

私の身体の各所の鼓動がますます早くなるのが分かった。




・・・その身体の部位が、

かつて他のフォーサーから摘出したHR細胞を注入した場所だとは

この時の私は理解していなかった。











@第24話 「理想を潰して理想を超える!?」 完結





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