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ブレイキング・ローズ  作者: まるマル太
第3章 新たな敵??ブラックマイスター!?
26/42

@第23話 フォーサーの始まり、そして終わり!?

@第23話 「フォーサーの始まり、そして終わり!?」




・・・俺が謎の男からHR細胞と思われる液体を注入されてから

既に5日が経過していた。


俺は今、楽な姿勢で病院のベッドの背もたれに寄り掛かり、

窓の外を眺めている。

時計を見ると9時34分。

既に朝食を終え、今は物思いにふけっている。

・・・あの謎のマスク男が言う通り、

俺がユニコォン戦の時に負傷し動かなくなった手は

完全に元の両手に戻っていた。

そのお陰で病衣を身に付ける必要もなくなり、

自宅から持ってきてもらった普段通りの私服で過ごしている。


もちろん、俺の担当医のおじさんにはめちゃくちゃ驚かれた。

医者も、そして俺自身も、

もう俺が一生の義手生活を送る事をある程度は決めていたが、

まさか一晩で元の両腕が再生するとは、奇怪現象以外の何でもない。


そんな驚く担当医を前にしても、

俺は謎のマスク男にHR細胞を投与された事を黙っていた。

HRS、ヒューマン・リィンフォース・システムは

フォーサーの出現により国で禁止された治療法であり、

要は法律上で俺が逮捕されても何も不自然じゃないんだ・・・。

実際、治療を施される側よりも施す側に非があると考えるのが普通だから

俺にはそこまでの罰は下されないだろうけど、

逆に、そうなると俺の担当医がピンチになる。

一応そういう配慮もある。


担当医は俺の両腕の検査を実施し、

そこに何が起こったのかを確かめようとしていたけど、

検査は2種類ほどですぐに終了し、

何事もなかったかのように俺に退院予定日を教えてくれた。

・・・担当医は俺の腕のHR細胞を見つけたんだろうか?

自分の立場を守るために敢えて黙って見過ごしたのか、

それとも本当に検査結果では判定不能だったのか、

患者側にはどちらとも言えない。


・・・でも、俺はここ数日間、

ただ単純に心が躍るような感覚で満たされていた。


俺の両腕は完全に元通り。

今まで通りペン回しをするにも差し支えない。

ゲームもできるし、日常生活に必要な他の動作も難なくこなせる。

まるで時間を巻き戻して、自分の好きなように

歴史を作り変えてしまった感覚・・・。

自分が危険な事に手を染めている自覚はあるけど、

後悔は全くと言って良いほどない。

俺は間違いなく現在を肯定している。

そして、そんな自分を制御できていない自覚もない。


俺の人格は、HR細胞の投与によって

間違いなく少しずつ変わってきている・・・。




色々と頭の中で考える事はあるけども、

今日の正午頃には母親が車で迎えに来て、

俺はこの緑野病院から退院する事になっている。

・・・難しい事は後でゆっくり考えよう。

今は腕が治ったばかりだという事もあって、

冷静な判断ができなくなっているのかもしれない。


数日前まであれほど否定していた窓の外に映る景色が、

今の俺に目には明るく、美しく、映える。

外は快晴で、まるで俺の退院を喜んでくれているようだ。

俺は思わず、口元に微かな笑みを浮かべる。

と、その時だった。


陽遊ようゆう はじめさーん!

 お友達が見えています。」

この数日間、俺の世話をしてくれた看護婦さんが

部屋の外から俺に呼び掛けている。


「はーい、どうぞー!」

俺はご機嫌のあまり、大声で返答に応じると、

すぐに病室の扉が開き、看護婦さんと共に

車いすに乗った1人の女性が現れた。


「お前は・・・高沢たかさわ れつ?」

車椅子に座っていたのは、

クラスで前の席の蔵本くらもと 秀人ひでとの友達であり、

糖尿病でこの緑野病院へ長期入院中である高沢たかさわ れつだった。


「本日退院するはじめさんにお話があるそうで、

 れつさん本人の希望でここまで連れてきました。

 それでは、ごゆっくり。」

そう言い、看護婦さんは微笑みながら

室内にれつの乗った車いすを滑らせ、

スライドドアをゆっくりと閉めた。


「・・・はじめ君、退院おめでとう。」

ドアのすぐ前のれつ

弱々しながらも俺の顔をしっかりと見据え、口を開いた。


「あ、あぁ、ありがとう。」

俺としては、何回か秀人ひでとと一緒に

れつのお見舞いには来た事があったけど、

人見知りなのか、俺の性格が苦手なのか、

彼女がそこまで俺とは関わりたくなさそうに見えたから、

自分の中では一定の距離を置いているつもりだった。

俺がこの緑野病院に入院した時も、

れつが入院しているっていうのは頭にあったけど、

知り合いだからって顔を合わせに行くような気持ちはまったくなかった。


それがどうした事か、

まさか彼女の方から退院直前の俺に顔合わせに来るとは・・・。

入院棟は外科も内科もひとまとめになっているから、

彼女の病室とは階数が違うだけで、

一応、直線距離だとエレベーターで2階ほど降りれば

俺の病室にはすぐ来れるような位置にはあるけど。




「・・・腕、大丈夫だったんだね。良かった。」

れつは微かに笑顔を見せながら呟く。

たぶん、お見舞いに来た秀人ひでと

勝手に俺の怪我を教えたんだろう。


「あぁ、何か、急に良くなっちゃって・・・。」

何だろう・・・俺の中だと何とも言えない気まずさがある。

これまでれつと話す時には

いつも秀人ひでとのヤツが一緒で、

しかも会話の主導権は彼が握っていた。

たぶん、単独でのれつとの会話はこれが初めてになるのか。


俺は気まずさのあまり、

病室の入り口とは真逆の窓をゆっくりと見据えた。

すると、俺はふと気掛かりな事に気付いたんだ。




「あの・・・れつは外の景色見てて

 イライラする事とかあるの?」

俺が咄嗟に投げたその問いは、

今の話題としてはぎこちないものなのは確実だ。

でも、俺はふと気になったんだ。

自分が両腕を失った時、

外ののどかな世界が憎らしくてたまらなかった。

それは、俺なんかよりも長く、

ずっと入院しているこの女子も同じ感覚なんだろうか?

だとしたら周りを見ただけでイラつくとか

頭が狂いそうなものだけどね・・・。


「・・・フフフフ、何それ!」

れつは不自由なはずの身体を

まるで一般人のように動かし、

右手で口を覆いながら笑い始めたのだった。


「俺はさ・・・約1週間前にここに来た時、

 窓から見える、自分の事情とは真逆の平和な景色を見て、

 無性に腹が立ったんだ。

 俺がこんなに苦労しているのにって・・・。」

「なるほど・・・確かにここの庭園はのどかで気持ち良さそうに見えるよね。

 でも・・・私は特に何も思わなかったよ?」

「それは、どうして?」

特にイライラしないのに理由はいらない、と分かりつつも、

俺は質問を繰り返す。


「私はね・・・ここに来てから変な能力が身に付いちゃって、

 そのおかげで一日中病室に籠ってても暇しないんだ。

 カッコ良いものじゃないんだけどね。」

そう言いながら彼女は恥ずかしそうに顔を背ける。


「能力って・・・どんなもの?」

病室にいてできる事なんて、俺が思い付く限りでは一つしかない。


「・・・”妄想”っていうのかな?

 言葉は悪いけど、私は入院してから妄想力が異常に高くなった。

 それで、目を瞑って妄想すれば、

 自分の記憶の中のどんな場所にだって行ける。」

「えっ?どこにも行けるってそれはちょっと言い過ぎじゃ・・・。」

「それは違うよ。

 妄想は度を超えれば身体なんて簡単に騙せる。

 そのお陰で、私は好きな場所に行った気になれる、

 と言うか実際に行けるんだよ。」

真顔で説明をしてくれるれつ

俺の目には何だか滑稽に映った。

気付けば、彼女は何となく親しみのおける女子になっていた。


「私は・・・中学校の頃に両親が離婚して、

 父親に引き取られたんだけど、

 その後の生活でも色々大変な目に遭ってね・・・。

 結局嫌になって高1の春休みに家出したの。

 でも、ろくに食べ物なんか手に入らなくて、

 そのまま倒れて、気付いたら糖尿病と診断されてさ。

 今思えば馬鹿だったと思うけど、

 そのお陰で私はこの”ファントム・ビジョン”を手に入れた。」

彼女は、サラッと自分の過去を語ってくれた。

それが俺にある程度気を許したために自然と出てきたものなら、

俺は嬉しい。


「・・・ファントム・ビジョン?」

「あ・・・えぇと、ファントム・ビジョンっていうのは、

 妄想で好きな場所に行ける能力の事ね!」

れつは取り乱しながら素早く説明を加えた。


「まさかお前、中二病なのか?」

俺のその言葉に対して、

れつは再び顔を背けて黙りこくった。

それは返答としては十分だった。


「まぁ・・・世間的にはそう言うのかな?

 とにかく、私はどこにも行けないからこそ、どこにでも行ける。」

彼女は恥ずかしさを振り切るように強めの口調で言い切った。


・・・もしも仮に、本当にれつがそうやって

病室にいながら色々な場所に行く能力を持つとすれば、

それは相当な妄想力がないとできない技に違いない。

そして、その妄想力はロイヤル・ハイパワード・チューニクスのこの俺を

遥か超えているだろう。

やっぱり、中二病界には思わぬところに逸材がいるものだ。




「・・・はじめ君はアブソリュート・アーツ社の

 中二宮ちゅうにきゅうXレアっていうアーマー付けて戦っていたんでしょ?

 私の理論がどこまで通じるかは分からないけど、

 たぶん、強力な妄想は必ず現実にできると思う。」

俺がアブソリュート・アーツ社からレンタルしていた

幻想覇者フィースネス・アリエスのアーマーは

既に返却を完了したから、

俺がもうあのアーマーを装着して戦う事はない。

でも、今はそんな話はどうでも良かった。


「あぁ、そうだろうな。

 俺は自分がヤバい中二病患者だと思ってたけど、

 お前ほどの中二力は無さそうだ。

 もっと鍛錬が必要だな・・・。」

俺は恥ずかしそうな笑顔を彼女に向けると、

彼女もそれにつられたように満面の笑みを見せた。


たぶん、れつはその自身の異常なまでの妄想を

俺が戦いに活かせると思い、わざわざ教えに来てくれたんだろう。

それはもう戦う機会のない俺には

結果的に無意味な事だったけど、

その気遣いの分のお礼はしてあげたい。




「ちょっと1階の自販機で何か買ってくる。

 お前は何が飲みたい?」

俺はベッドから降り、脇に置いてあったスリッパに足を通す。


「じゃあご馳走になろうかな。

 私は何でも良いよ。」

「もしかして・・・お前はその妄想で

 味覚も自分の好きなように変えられるとか?」

「さすがに味は限界があるけど、ある程度なら可能だよ。

 前に緑茶をメロンソーダにする事はできた。」

また恥ずかしそうな表情を見せる彼女の脇を通り過ぎ、

俺は病室を早歩きで飛び出した。




・・・エレベーターを使って1階まで降りると、

広いロビーの隅に自販機のコーナーがある。

コーナーとは言っても、3台しか設置されていないから、

そこまでの選択肢はないんだけどね。


「・・・うーん。」

俺はラインナップを次々と目で撫でるように見回すけど、

自分が飲みたいものが見当たらない。

特にコレが飲みたいっていうものはないし、

目を引く様な新商品も入っていない。

れつの分は勝手に緑茶と決めているから良いけど、

ここで自分の分を買わずに

メロンソーダ味の緑茶を飲むれつを見つめるのも気が引ける・・・。


「すみません・・・。最初に良いですか?」

その呼び掛けにふと我に返り、背後を振り向くと、

おそらくお見舞いに来たであろう母親らしき風貌の女性が

困ったような顔でそこに立っていた。

どうやら、俺が邪魔になっていたようだ。


「あっ、どうもすいませんでした!」

俺はサッと脇に身体を移動し、女性に自販機を譲る。


確かに、今回は、

決めないでジロジロ見ていた俺に非があると思う。

実際自分が被害に遭うとイライラするしね・・・。


その女性は素早く硬貨を入れると、

すぐにボタンを入力し、そのまま落ちてきた飲み物を取り出した。

迷いなき決断・・・小さな事だけどこれはこれでカッコ良い!


そんな事を考えながら

俺は自販機脇のガラス張りになっている庭園へと続く通路を見据えた。

日の光が差し込み、10mほどの通路を明るく照らしている。

・・・一度も庭園に出ないで退院するのもアレだし、

せっかくだから、少し外に出てみるか。




ガラス張りの通路を通り過ぎると、庭園に続く茶色の扉が現れ、

そこを開けると花壇が並ぶ庭園に出る。

そこまで広くはないけど、日当たりが良くて、

ここの入院患者には心休まる場所である事に間違いはない。


とりあえず庭園は見渡せたし、

ゆっくりしてる暇はないから

さっさとドリンク買って病室に戻らないと・・・。


踵を返し、そのままガラス張りの通路に戻ろうとした、

まさにその瞬間だった。


「ぐはああっ!!」

突然、そう遠くないところから男性の呻き声が聞こえてきた。

俺は思わず周囲を見渡すが、特に変わった様子はなく、

のどかな庭園は先ほどのままだ。

でも、その庭園を抜けた先の入院棟の陰になる部分で

怪しげな物陰が動いたのを俺は見逃さなかった。

明らかに俺の姿を見て慌てて陰に隠れた様子だった。


・・・このまま放っておいて気付かないフリをしようか?

それとも、追い詰めて事情を訊くか?

どちらにしろ、俺には悪い予感しかしない。

先ほどの男性の呻き声からも分かる通り、

犯人は何かしらの暴力的手段を持ち合せている事に違いない。

もしも・・・それがフォーサーだったら・・・。


俺はもう、そういうのには一生関わりたくないんだ・・・。


もし、また両腕を失うような事があったらどうする?

またHR細胞が手に入るという上手い話はないだろうし、

今度も腕だけで済むという確証もない。

以前、アリエスを装着して戦っていた俺は、

いつ死んでもおかしくない状況にいた。

思い返せば背筋が凍るほどの恐ろしい状況の中に

気付かないうちに足を踏み入れていたんだ・・・。




「おい、そこに隠れているヤツ!

 早く出て来いよ!!」

気付けば、自分の迷いを振り切るようにそう叫んでいた。


「・・・バレていたのか。」

返答はもはや小さな呟きだったが、俺の耳には届いた。

それは妙にくぐもった男性の声だ。


「ならば仕方がないな。」

男は俺の死角から意外にもすんなりと姿を現した。

・・・だけど、その姿は案の定、人間のそれではない。

日光を反射して光り輝く銀色のロングコートを羽織り、

背中にはリュックのような収納ケースを背負った、

明らかな怪人がそこに立っていた。

しかも、その姿には見覚えがある。


「お前は確か・・・東京の西岡刑務所から脱獄したヤツだな?

 何でこんなところに・・・。」

ここは岩手県。

東京からはとても近いとは言えない。


「・・・厄介なんだよ。

 ニュースで人間態の姿まで公開されてしまったものだから、

 どこに行っても必ず俺の正体に気付く人間がいる。

 今始末したそこに倒れている男も、

 この湯原ゆばら 海斗かいとの人間態を見て勘付いたんだ。」

「それで、この数日間でここまで逃げてきたと?

 ご苦労な事だな・・・。」

俺は顔に笑みを浮かべるよう意識して

目の前の怪人との会話を続ける。

なるべく余裕があるように見せ掛ける方が抑止力にもなる。


「お前は、随分と元気なようだが、

 何かこの俺と戦う手段でもあるのか?

 もしなければ・・・。」

そう言うと、怪人は背中のケースから伸びている

剣の持ち手らしきものを握った。


「このイノベイティブ・コンクルーダーの餌食になるぞ!」

怪人は剣を引き抜き、先端をまっすぐに俺へと向ける。


「・・・な、何も無い訳ないだろ!

 俺は、このぐらい余裕を見せてるんだ。

 お前なんか相手にもならないだろうからな!」

俺はそう言いながら少しずつ後ずさりを始める。

ちょうど俺と怪人は建物に寄っているために

病室の窓からは俺らの様子は見えないだろう。

そして実際、ヤツに対抗できる手段は何もないんだ。

このままじゃ・・・。


「じゃあ、早く準備しろ。

 俺も忙しいからな。そう待っていられないぞ?」

コンクルーダーは俺の後退にペースを合せて

自らは前進を始めた。

まるで俺に何の手段もないのが分かっているかのように・・・。


「まぁまぁ、そう焦るな。

 今すぐボコボコにしてやるからさ。」

もう全身からの冷汗が止まらない。

必死にこの場をやり過ごせる方法を思案してみるけど、

どう考えても無謀だ。


・・・そこでふと、俺はさっきの病室でのれつの言葉を思い出した。


『たぶん、強力な妄想は必ず現実にできると思う。』


この場で妄想を現実にできれば・・・。

一番の理想は、コンクルーダーが勝手に死ぬ事。

それは、まず、どうやっても叶わない。

と、なると、

俺が望むのはコンクルーダーを”死なせる”技を手に入れる事。

ヤツを撃退する力を得る事。

それしかない!




「そろそろ無駄話は終わりにするか。

 自分の不運を呪うんだな!」

コンクルーダーはそう言いながら庭園の芝生を蹴り放ち、

俺との距離を一気に詰める。

もう時間はなさそうだ!


「俺は・・・俺は・・・。」

自分に言い聞かせるように、繰り返し呼び掛ける。

脱走犯である目の前のフォーサーを殺すんだ。

俺なら・・・できるはず!!


距離を詰め切ったコンクルーダーは2mほど跳躍し、

両手で剣を握り、俺に振り下ろすように迫る。

俺は思わずその場で両腕を交差させ、斬撃を受け止めようと備える。


・・・次の瞬間、自分の右腕に走る鈍い痛覚に

俺は異変を感じざるを得なかった。

相手はフォーサーであり、

その斬撃となると痛みを感じる前に腕が切り落とされる事だろう。

そのはずなのに、俺は確かに鈍い痛みを感じている。

鈍い、というのは

怪人の剣で切り裂かれた痛みにしては”足りない”という意味だ。




コンクルーダーも違和感を覚えたらしく、

すぐさま後退し、俺との距離を5mほど開ける。

その隙を見て、俺は自分の腕に視線を向けると、

そこには信じられない状況が展開されていた。


剣を受け止めた俺の右腕からは出血がなく、

斬られた箇所が僅かに凹んでいるだけなのである。

とても、人間の腕とは思えない・・・。




「お前、まさかそんなトリックを仕掛けていたとは。

 あっさりと騙されてしまったな。」

コンクルーダーは動揺し、両手で剣を構え、

戦闘体勢に入っている。

こうなれば、設定を合わせる他ないだろう。


「フフフフフ・・・ハァッハッハッハああ!!

 見たか!俺はこの力でお前を倒すんだよ!!」

俺がそう叫び終わると同時に、

自分の意識とは関係なく、右腕が鼓動を始めたのだった。

まるで、心臓が右手にあるかのような、

ドクンドクンという激しい鼓動。

俺はここで自分の身体に何が起きているのかを悟る事になった。


次の瞬間、俺の右腕は内部からめくれ上がるように

紺色の光沢を放つ金属質な皮膚へと変貌した。

戸惑う暇もなく、右腕から身体に向かって皮膚の変化が連鎖し続ける。

それは更に身体を伝わって両足、頭部、反対側の左腕まで伝達され、

俺の身体はサイドに白いラインが入った紺色の怪人へと変貌してしまった。




「・・・お前は・・・何者だ?」

動揺するコンクルーダーの問いに答えるべく、

俺は一歩右足を前に踏み出した。


「俺はフォーサー・・・だあッ!」

俺の意思とは関係なく、全身に力が入る。

まるで目の前の敵を倒せと言わんばかりに。


俺は自分がどういう能力を持ったフォーサーなのか

まだ分からない。

だから、まだ名前も決めようがない。

この戦いで色々と試しながら、更にはヤツを倒す必要もある。

新フォーム初登場にしては仕事が多くて大変だけど、

ここでやらなきゃ、殺されるだけだ。

・・・それは困る。

せっかく僅かでも俺は本当に”妄想”でチャンスを得たんだ。

それなら、出来る限りの抵抗はしないと、

教えてくれたれつにも、自分にも申し訳ない!




「お前、名前を明かさない気か。

 良いだろう、フォーサーに重要なのは戦闘能力だからな!」

コンクルーダーは再び剣を振りかざしながらこちらに迫って来る。


・・・見たところ、この紺色のフォーサーには

すぐ使えそうな武器が備わっていないし、

あの”岩のフォーサー”みたいに怪力で戦えるほど筋肉が付いてもいない。

じゃあ、どうやって戦えば良い?


俺は辺りのもので武器になりそうなものを探す。

と、庭園の花壇に担当者が置き忘れたであろうシャベルが

無造作に置かれている事に気付いた。

武器としては中二力のかけらもないけど、

リーチが何気に長いし、今は見た目を気にしている時じゃない!




迫ったコンクルーダーの斬撃を前転で避けると、

そのまま俺は花壇のシャベルの柄を握った状態で立ち上がる。

その一連の動作で、俺はフォーサーの身体が

前に装着していたアリエスよりも

かなり身軽である事に気付いた。

さすがに、アーマーよりは身体に馴染んでくれるようだな。

ってか身体そのものだし。


「お前、フザけてるのか!ちゃんと戦え!」

コンクルーダーの言葉を完全に無視して、

俺はシャベルの柄の真ん中辺りを握り、

ヤツの顔面を突き刺すようにそれを突き出した。


さすがに焦りを見せたコンクルーダーは防御体勢に入るのが遅れ、

俺のシャベル突きをもろに顔面へと食らったのだった。


「ぐっ!!」

コンクルーダーは左手で顔面を覆い、

走りながら急いで俺との距離を取る。


今のペースでいけば勝てそうだけど、

たまたま不意打ちが決まっただけっていう可能性もある。

しかも、このシャベルはそう長くは使えないと思う。

今も、ヤツの顔を殴っただけで先端が曲がってるし、

柄が折れればそこで終わりだ。

このフォーサー用の武器はどうやって出すんだろう?




「くそっ・・・油断させやがって!」

俺の視界には、10mほど前方にコンクルーダー、

そして、その後ろに入院棟の駐車場が映っている。

駐車場には、おそらく病院の器具を運ぶためであろう

大型トラックのお尻が見えるけど、

アレでコンクルーダーを跳ねられれば

さぞかし気持ちが良いんだろうな・・・。


「ん?何だ?」

俺は突然、自分の左腕が変形し始めている事に気付いた。

ぐにょぐにょと動き出した俺の左腕には

青色のレーザー砲のようなものが出現した。

左手首に造形されているおかげで、

左手は問題なく使用できるデザインになっている。

でも、それはレーザー砲とは言えども、

直径20cm程度の小型のものであるせいで

コイツ大丈夫かと心配になるぐらい迫力がない。


でも、俺はそのレーザー砲にヒントがありそうだと、

直感で理解できた。

今俺が望んだ妄想をこのレーザー砲で実現できる・・・。

そんなチューニクスな事も一応考えてみる。


・・・とりあえず、やってみる価値はあるな!


俺はそのレーザー砲のようなものを

コンクルーダーの奥に見えるトラックのお尻へと向け、発砲する。

すると、そこから青い光が一直線に飛び出しトラックを貫いたが、

そこに損傷は見られない。

やっぱり、この使い方はこれで当たりかも・・・。




「今度は油断しない!」

前方からは、コンクルーダーがさっきと同じように迫る。

でも、その後ろからはもっとヤバいものが迫ってきていた。


「おーい、お前の後ろ見てみろ!」

「は、後ろだと?」

次の瞬間、突如現れた大型トラックによって、

コンクルーダーは撥ねられ、芝生へと仰向けに叩き付けられた。

急いで起き上がるコンクルーダーに追い打ちをかけるように

大型トラックはまたもや彼を撥ね飛ばし、

その2度目の落下地点上を、何事もないように再度通過した。


「うがあああっ!!」

さすがにトン単位のトラックにうつ伏せで踏み付けられたコンクルーダーは

声を上げて苦しみ始める。

でも、俺はその状態をキープしたまま、

トラックをその場から動かない。

・・・そのトラックを操っているのは俺だからな。


「俺は・・・この左手のレーザーを数秒間照射した対象の構造を把握し、

 そのシステムを自由に掌握する事ができる。

 ただ、おそらくその対象は無機質の機械製品に限るけどな。」

今、俺の脳内には、

目の前に広がっている視界に被さるように、

トラックの運転システムの情報まで流れ込んできている。

なかなか慣れないけど、これは使いこなす事ができれば

相当な武器になるはずだ。


「ぐう・・・この変な能力・・・。

 本当に、お前は何者だ!?」

トラックの下敷きになったコンクルーダーが

どうにか顔だけをこちらに向け、苦しそうに問う。


「俺の名前は・・・メカニクス・マグニファイアーだ!!」























―――――その頃、都内のとある事務所前では―――――




「ここで、本当に間違いないのでしょうか?」

この私、上戸鎖かみとくさり 祐樹ゆうき

秘書の野佐根のざねと共に

ブラックマイスターの本拠地と思われる2階建ての事務所を訪れていた。


「この4日程、私が独自に調査をしました。

 ここにブラックマイスター関係者が出入りするのを

 複数回確認しました。」

野佐根のざねは事務所を見回しながら淡々と述べる。




・・・結局、私は自分の欲望について見直すために

ブラックマイスター首領と自称していたリヴァイアサンとの再戦を望み、

秘書の野佐根のざねに調査をさせていた。

その過程でこの事務所がピックアップされた、という訳だ。


その事務所は町外れにあるという原因だと思われるが、

古くてすすけたもので、とても悪の組織の本拠地とは言い難い。




野佐根のざねさん、現在時刻で、中の人間は?」

「それは私にも定かではありませんね。

 数日間見張っておりましたが、日によって出入りがバラバラで、

 現在の状況は予測できません。

 覚悟を決めて入る他ないでしょう。」

そう言いながら、野佐根のざねの右手は

既に事務所の入り口のドアノブへと掛かっていた。

さすがに気が早すぎる・・・。


「ブラックマイスターは未だに規模が分かりません。

 この中から100人以上の団員が出てきても・・・」

私はそこまで口に出すと、自分で気付く事となった。

どの程度の団員で構成されているのかすら

謎に包まれていたブラックマイスターの本拠地は

今、目の前にあるのだ。

そしてその本拠地は古臭い2階建ての事務所。


「気付きましたか、上戸鎖かみとくさり様?

 このボロ事務所に入れる人数など、そう多くはありません。

 私が見張っていた時も、同じ顔が何度も出入りしていました。

 となると、この組織の重要人物は相当に限られてくるハズです。」

なるほど・・・。

と、なると、私がリヴァイアサンとの

再戦を望めるチャンスも十分にあるという事か。


「いきますよ?」

野佐根のざねが自身の視線を

手を掛けたドアから私の顔へと移したその時、

彼女の表情が若干曇ったのが分かった。


私は警戒してすぐに背後を振り向く。

と、私の背後5mほど後ろには一人の男性が立っていた。

全身黒いスーツに赤と黒のチェックの模様が入ったネクタイを身に付けている。




「・・・あなたは?」

私は見覚えのない男に不信感を覚え、問う。

明らかにその男は私たちに用がある、といった佇まいだ。

ここがヤツらの本拠地の前だという事を考慮すると、

ブラックマイスター団員の1人である可能性が高い。


「・・・私の名は伊集院いじゅういん 雷人らいとだ。

 見たところ、お前たちはブラックマイスター団員ではないな?」

男は私の問い掛けに淡々とした返答をする。

・・・伊集院いじゅういん 雷人らいとだと?

その名前を、私は確実に聞いた事がある。

約10年前に流行していたネットオンラインゲーム

シンギング・ウォーズの開発者、及び運営担当であったが、

彼は既に亡くなっているはずなのだ。

あの報道が嘘だとすれば生き延びている可能性はあるが・・・。

如何せん、私がアブソリュート・アーツ社には明るくないため、

詳しい事情はよく分からない。


「あなたは、伊集院氏のなりすましですか?

 それともご本人なのですか?」

「フッ・・・そんな事はどうでも良い。

 私がここに来た理由はただ一つ。

 ブラックマイスターという愚かな組織の解体だ。」

・・・つまり、伊集院も私と同じように、

ブラックマイスターに用があってこの場所を突き止め、

駆け付けてきた、という解釈で良いだろう。


「残念ですが、ブラックマイスターとは

 私が先にコンタクトを取ります。

 そのため、あなたはそこで待っていてください。

 もしも、あなたがどうしてもというのであれば、

 こちらも少々手荒な真似をせざるを得ないのですが?」

私は姿勢を正し、右手をまっすぐと前に突き出した。


「フッ・・・どこの誰かは知らぬが、

 この私の”快楽”の邪魔をするというならば仕方がない。」

伊集院を名乗る男はスーツのポケットから電子辞書のような電子機器を取り出すと、

それを開き、下画面を何度かタップした。

完全に入力するコマンドを覚えているのか、

視線は始終、私の方へとまっすぐに向けられている。


入力が終わったかと思うと、

彼はスーツの留めてあったボタンを2個所、開け放った。

すると、彼の腰には変わった形状のベルトが巻かれていたのである。

ベルト部分が黒く、妙に大きなバックル部分が赤い。

見たところ、そのバックルに彼が握っている電子機器を挿入する設計に見えるが。




《Hello world!! Excuse me?

 Answer、Answer、Answer、Answer・・・》

「シング・・・アゲイン。」

《Certified!!》


ふと見ると、車道では伊集院の背後から

一台のサイドカー付きバイクがこちらに向かってきていた。

しかし、そこにライダーは搭乗しておらず、

自動運転で走行しているようだ。


そのバイクは彼のすぐ背後で停止すると、

サイドカーから次々と大量のパーツが飛び出してきたのだった。

それは黒く、まるで塵のように伊集院の周囲を囲み、

彼を中心として空中で回り始める。




「これはこれは、高度なアーマー技術ですね。」

声に反応して身体の横を見ると、

事務所の前にいたはずの野佐根のざね

いつの間にか私の隣に立っていた。


野佐根のざねさん、手は出さないでくださいよ?

 ・・・ジェネレイト!」

私が掛け声を叫ぶ事で、

漆黒の怪人、トレディシオン・ルイナーが出現した。


前方を確認すると、伊集院の身体にもアーマーの装着が終わり、

戦闘体勢に入ったように見える。

そのアーマーは彼の身体を黒いロングコートで包むような形状で、

その上に強さでも主張するかのようなレッドのラインが目を引く。

しかし、最も強烈な印象を放つのは

顔面がドリルのように中心が突き出ているデザインになっている事で、

人間の顔のパーツ配置が一切ない。

外見だけではフォーサーとも捉えかねないだろう。




「私の名は、トレディシオン・ルイナーと申します。」

「ほう、お前がフォーサーの王とやらか。

 初めて見たが、話は聞いているぞ。

 ちなみに、このアーマーの名前はドミクロンだ。」

「それは光栄です。

 さて・・・そちらからどうぞ?」

私は右手の人差し指を曲げ、伊集院を挑発してみせる。


「そういう事であれば、遠慮なく行かせてもらおう。」

ドミクロンはそう言うと、

こちらに向かってまっすぐ歩き出した。

彼は戦闘体勢とは思えない、規則的な歩幅で迫って来る。

彼の腰に下げた黒い大型の刀も抜刀せずに、

まるで「不意打ちをかますならご自由に」、といった様子だ。


「初見だというのに、随分とナメられたものです。」

私はその場で両腕を組み、足をやや開き、

彼と同じように余裕を見せた動作に入る。


「フッ・・・余裕と言うものは、

 生まれるべくして生まれるのだ。」

ドミクロンがそう言ったかと思った次の瞬間、

なんと、彼はその姿を瞬時にしてくらませた。

こちらに接近していたはずの黒い戦士は

突如としてどこかに消えてしまったのだ。


「何?」

私は組んでいた腕を解き、周囲を見渡す。

私の錯覚である可能性も示唆したが、

どうも視界を動かしてもヤツの姿はどこにも見当たらない。


上戸鎖かみとくさり様ッ!」

背後で観戦していた野佐根のざねが声を上げたかと思うと、

その瞬間に、私は自身の背中へと不意に打撃を食らった。


思わず身体を180度回転させ、状況を確認すると、

何と、そこには消えたはずのドミクロンが

右の拳を突き出した姿勢で静止していたのだった。




「これは・・・瞬間移動ですか?

 何という大技をお持ちのようですね。」

原理は不明だが、ヤツが一瞬で私の背後に移動した事に違いはない。

そうなると、思っていたよりは厄介な事態だろう。


「フッ、安心しろ。

 私は”ゴミ”以外の人間は殺害しない。

 お前がゴミであるという確証が持てぬ以上、

 お前をこの場で始末するといった事はないだろう。」

ドミクロンは姿勢を正すと、

その瞬間に残像を残して再び姿を消すのだった。


「くっ・・・!」

私は思わず背後を振り向き、

両手を交差させ、先ほどの拳の位置を意識した防御体勢に入る。

が、私の体勢が整う前に、

私の腹部に強力な蹴りが命中した。


私はそこから5歩ほど後退し、

腰の脇部分に装備されていた秘密兵器を取り外した。


「こうなれば、私もスピードで勝負しましょう。」

私は”オルトメタパラウォッチ”を自身の左手首へと素早く装着する。


「・・・この私に勝るスピードを誇るとでも?」

ドミクロンは10mほど前方で両腕を組んだまま、

私の準備が整うのを待っている。

どうやら、よほどの自信があるようだ。


「後悔は受け付けませんが、良いですか?」

左腕のウォッチの2本針のうち、

片方を時計の6へと合わせる。

通常、オルトメタパラウォッチは時計で言う12時の状態から

片方の針だけが秒針の要領で動き出し、

それに伴いトレディシオン・ルイナーのモードチェンジを行うアイテムであるが、

このように特定のモードが発動する時間帯まで

針をあらかじめ移動させる事により、

時間制限付きではあるがそのモードを自由に発動させる事が可能である。


「後悔は、どちらが味わうのか、

 楽しみではあるな。」

ドミクロンはそう言うと、腰にぶら下げていた

大きな刀の持ち手を握り、それをさやから引き抜く。

すると、彼の右手には刃部まで漆黒の斬馬刀らしき刀が握られた。


私はそれを確認し、右手の平でウォッチの針を止めている中心部分を

勢いよく叩いた。

これがこのアイテムの発動条件である。


《オルトォ!メタァ!パラァ!》

野太い男声のガイダンス音と共に、

秒針がチッチッチッと動き始めた。

そして、それと同時にルイナーの身体は瞬時に金色へと変色する。




「テレフタルロッド、エタンジオールランス、ジェネレイト!」

パラモードのルイナーから生成された黒い棒と白い槍を、

素早く両手で握り、それらの先端同士を突き合わせる。


「合体!ポリエチレンテレフタラートシャフト!」

2本の武器は1つのシャフトと化し、

私はその武器を両手で握り、まっすぐに前方のドミクロンへと向ける。


「ほう、随分と派手な配色になったようだが、

 性能面での変化はどうなった事やら。」

ドミクロンは淡々とした口調で威嚇を向けてくる。

が、その隙が出そうなタイミングでも、一切の隙が無い。




私は地を蹴り放ち、ドミクロンへと接近を開始すると、

今までとは比べ物にならない速度で景色が流れ、

同時に、ヤツの姿もすぐ目前に迫って来る。


「フンッ!」

金色のルイナーがシャフトの先端を突き出すと、

それに反応して相手も黒い刀を盾の如く突き出してくる。


すると、私のシャフトはその重そうな刀に弾かれ、

それと同時に私は思わず一歩後退した。

しかし、ドミクロンは盾として扱った刀をすぐに握り直し、

間髪入れずに薙ぎ払うような格好で刀を振るう。

それを確認すると、私はバックステップを3回ほど切り、

素早く刀の斬撃を避けた。

が、最後のステップを切り終わった私は思わず

右手に握っていたシャフトを傾け、守りの姿勢に入った。


私が3回目のバックステップを切った直後には、

ドミクロンの刀は私の身体のすぐ前を通り過ぎたところであった。

それにも関わらず、ステップ後の着地の際には、

彼の刀は私を突き刺すかのような動きで再び私に迫ってきていた。


・・・パラモードのスピードですら、

ドミクロンの謎の高速移動には追い付けないというのか?


あろう事か、動揺した私はその刀の切っ先を

確実に防御する事ができなかった。

シャフトで防いだはずの突きは、そのラインを容易くすり抜け、

ルイナーの右肩へとまっすぐに突き刺さった。


「ぐうっ!?」

激しい痛みに、私はその瞬間にシャフトを手放し、

左手で自身の肩を押さえ込んだ。


「フッ・・・情けない。」

戦況を察した時には、もう手遅れだった。

ドミクロンの斬撃は私の上半身と下半身を分け隔てるが如く、

綺麗な軌跡を描きながらルイナーを切り裂いた。




「ぐあっ!!」

私は倒れ込むようにして地面を転がった。

背後で、野佐根のざね

私の名を呼びながら近付いてくる足音が聞こえるが、

右肩の痛みに耐える事が精一杯である私には

彼女の声ははっきりとは認識できない。

自身の怪人態へと変身も解けて、

私は元の上戸鎖 祐樹へと戻っていた。


「・・・当たり所が少し悪かったか。

 まぁ、その部位であれば命には支障を来さぬだろうが。」

野佐根のざねに上半身を起こされながら

うっすらと目を開けると、

私のすぐ目の前にはドミクロンが腕を組み、立っていた。


ヤツにピンポイントで攻撃された部位は二の腕寄りの右肩。

心臓なら下手をすれば死んでいただろうから、

それに比べればまだマシな部位に違いない。

だが、この痛みは何だ・・・?

肩を刺されただけでこれほどの痛みに襲われるというのか?


「・・・伊集院いじゅういん・・・絶対に許しません。

 あなたはここで確実にこの上戸鎖かみとくさりが・・・。」

私は野佐根を振り払うと、どうにか立ち上がった。


・・・私はこれ以上の苦痛には耐えられない。

当然ながら、それはこの凄まじい右肩の痛みではない。

相手に負けるという、この上ない屈辱。

相手に”支配”を強要されるという、虚無感。

私はHR細胞の過剰注入によって強力なフォーサーとなり、

そのお陰で確実に支配を進められる身体を手に入れたはずだった。

それなのに・・・。

カオティックフロッグに敗北し、逃げ去り、

同じようにしてリヴァイアサンにも殺されかけた。

それでは事足りなく、ここで伊集院を自称する男にも負けるというのか?




「ほう、貴様は随分と執念深いようだな。

 そこまで言うのであれば、今度は左肩も仕留めてやろうか?」

「・・・その口、今に塞いでやります。

 ジェネレイトッッ!!」

私は全身に力を入れて、そう叫ぶ。

今は右肩がやられたせいで右手が思うように動かないが、

そんなものは関係ない。

・・・ここで伊集院を殺す。

それだけしか今の私には興味がない。


上戸鎖かみとくさり様・・・?」

背後の野佐根が不可思議な様子で接近してくるのが分かった。


「来るな!ここで私はあの男を殺すのです!」

「いえ、怪人態への変身は・・・?」

私は彼女の発言により我に返り、

自分の上半身を見回すように確かめる。

なんと、そこには

トレディシオン・ルイナーの堅い装甲は構築されていなかった。


・・・怪人態へと変身できない?

そんな馬鹿な話はない!

いくら体力を消耗していようと、

変身できなくなる事は今までに一度もなかった。

一体、なぜ・・・?




「詳しい事は分からぬが」

「・・・?」

突如、目の前で私を観察していたドミクロンが口を開いた。


「もしや、先ほど私が攻撃を仕掛けた位置に

 HR細胞を注入していたりはしないか?

 フォーサーへと変貌するきっかけがHR細胞だとすれば、

 その細胞を破壊した時点で怪人態への変身は不可となる事だろう。」

私はその発言を聞くと同時に、頭が真っ白になり、

思考が停止していくのが分かった。


・・・私は他のフォーサーのHR細胞を5個注入しても

自分はフォーサーとなる事ができなかった。

そして諦めずに6体目のフォーサーを殺害し

その者から手に入れたHR細胞を注入したのは、

確かに右肩の二の腕寄りの箇所だった・・・。


となると、トレディシオン・ルイナーを構成していた主成分は、

その最後に注入した右肩のHR細胞だったに違いないだろう。

それが先ほどの突き攻撃によって失われたという事は・・・。




上戸鎖かみとくさり様!?」

背中からまっすぐに地面へと倒れる私を、

野佐根が途中で受け止めた。


「私は・・・私は・・・もう・・・フォーサーではないのですよ。」

「何を言っておられるのですか?」

野佐根のざねはまだ状況が把握できないらしく、

困ったような顔で私を見ているが、

もう私にはそれを説明する気力など残っていない。


「作戦は・・・すべて中止です・・・。

 もう・・・私は・・・全てを失ったのです・・・。」

自分の意思とは関係なく言葉を吐き出す私の横を、

ドミクロンが通り過ぎた。


「悪いが、私にはお前を気遣う暇はない。

 今からここは戦場になる恐れがある。

 せいぜい、安全な場所に避難するが良い。」

そう言いながら、ドミクロンはブラックマイスター本部の事務所に歩み寄ると、

入り口のドアを蹴り飛ばした。


「あぁ、そうさせてもらいましょうか・・・。」

力無くよろよろと立ち上がる私を

心配する様子で野佐根が付き纏ってくるが、

何を話しているのか理解できない。


・・・今は、しばらくの間、思考停止して頭を落ち着かせたかった。


























―――――その頃、岩手では―――――




「くそっ・・・こんなところで・・・。」

大型トラックの下敷きとなったコンクルーダーは

全身の動きを封じられたまま、

悔しそうに独り言を漏らしていた。


「フフフフフ・・・この俺をナメたのが間違いだったな!」

俺は自身の両肩から地面すれすれまで垂れ下がっている

2枚の軟質プレートのようなものを吹いてくる風に合わせて揺らし、

自分の活躍をその被害者本人にアピールする。


「・・・腕さえ動かせればお前なんかァ!!」

コンクルーダーの両腕はトラックに上手い具合に挟まり、

彼はうつ伏せのまま動けない。

彼が背負っている武器庫には色々な武器の持ち手が見えているけど、

腕を封じてしまえば、それらは何の意味もなくなる。


「ところでお前・・・何でフォーサーになったんだ?

 刑務所内でHR細胞を打ち込まれる事なんてないだろ!」

俺は余裕のあまり、質問を繰り出した。


「・・・そうだと思うだろ?

 でも、あの刑務所は既にHR細胞の実験場だったんだ。」

そう答えた声は、明らかにコンクルーダーのものではなかった。


俺がその声が聞こえてきた駐車場の方を見据えた瞬間、

コンクルーダーが今まで以上の叫び声を上げた。

見ると、巨大な半円のような形をしたカッター型武器が

コンクルーダーの頭に突き刺さり、彼は既に絶命していた・・・。


「何だと?」

俺はその駐車場の方から他のフォーサーが歩いてくると思ったが、

そこに出現したのは見覚えのある人間だった。


「お前は・・・俺にHR細胞を与えてくれた・・・。」

そう。

こちらに向かって歩いてくるのは

数日前に俺にHR細胞を注射したマスク男だった。

あの日と同じ服装をしているため、

瞬時に判別できた。


「今の戦い、すべて見せてもらった。

 ・・・おれの名前はコンセキュエント・デステニだ。」

男は俺のすぐ前のトラック脇まで来ると立ち止まり、

なぜか自分の自己紹介を始めた。


「ん?それって要はお前がフォーサーって事か?」

それは明らかに日本人の名前ではなかった。

となると、彼の怪人態の名前である可能性が高い。


「それはどうでも良い。

 それよりも、まずは君がフォーサーになれた事を祝い、

 耳寄りな情報を教えてあげよう。」

謎のマスク男は数日前と同じような口調で、

淡々と話を進めていく。


「情報・・・とは?」

「明日、ブラックマイスターによる第2回全国一斉テロが行われる。」

「何!?」

俺はそれを聞くと、怪人態を解き、

元の陽遊ようゆう はじめへと戻った。


「お前、それをどうやって知った!?」

俺はそのマスク男の胸ぐらを両手で掴み、

必死に問い掛ける。

目の前の男が変なヤツである事は数日前から理解していたけど、

何者かは未だにハッキリしていない。

もしかすれば、俺をはめる罠の可能性もある。


「落ち着け。詳しい事は場所を変えて話そう。

 ここでは誰かに聞かれる恐れがある。」

男に手を払われ、俺は多少の落ち着きを取り繕う。


「・・・そういう事なら、少し待っていてくれ。

 俺は病院の中に用がある。」

さっきの戦闘で忘れていたけど、

俺は元々、れつに飲み物を買っていく約束をしていた。

あれから既に10分くらい経ってるから、

彼女には不自然に思われているのは間違いないだろう。

早く戻らないと・・・。


「分かった。ならば今から30分後、

 正面玄関前で待ち合わせだ。」

マスク男の言葉が終わるか終わらないか際どいタイミングで

俺は入院棟に向かって走り出した。




ガラス張りの通路を抜け、

自販機コーナーで急いで缶の緑茶を2本買い、

それを抱く様にしてエレベーターへと駆け寄った。


幸い、エレベーターはどれも空いており、

すぐに乗る事ができた。

6階へと到着すると、俺は自分の病室に向かって再び走り出す。

エレベーターからは歩いて15秒ぐらいですぐ到着する位置だから、

俺はそこで若干の平常心を取り戻した。


見ると、俺が出ていったままで病室の扉は開いている。

俺はその扉を掴み、勢いを付けて中へと駆け込んだ。


・・・でも、そこにれつの姿はなかった。

さっきまで入り口のすぐ前で車椅子に座っていたはず。


おそらく、俺が遅いから

自分の病室に帰っちゃったんだろう。

ならば、せめてものお詫びで俺が自分で彼女の病室に出向こう。


そう思った俺が踵を返して再び病室を出ようとした

その時だった。

俺の様子を見に来たであろう担当の看護婦さんが

室内に入ってきて危なくぶつかりそうになった。




はじめさん!どこ行っていたんですか?」

俺が病室から消えたのが心配だったのか、

看護婦さんは妙に焦っている。


「いや、ちょっと自動販売機のところに・・・。」

俺は笑顔を見せるけど、看護婦さんの表情は変わらない。

・・・ここで俺は、看護婦さんの焦りの原因が俺ではない事に気が付いた。


「大変なんです!高沢たかさわ れつさんが!」




・・・俺はあまりにれつが元気な様子で話すから

つい忘れていたんだ。

彼女が重症な糖尿病患者である事を。

そして、もうすぐ両目の視力を失うという状況だという事を。


彼女は妄想の力で困難はどうにかできると言っていた。

その影響だと言えなくもない状況で、

俺はついさっき、自分の身を自分で守る事ができた。

でも、それは俺にあらかじめHR細胞が打ち込まれており、

その奇跡が起こる”前提条件”が備わっていたからこそ成し得た技だ。

何の条件もないところに妄想だけがあったとしても、

それは単純な妄想にしかならないんだろう・・・。


れつから教えてもらった最強とも言える妄想の恩恵を

俺が得て、彼女自身が得られないなんて、

こんな虚しい話はない・・・。


それならば・・・俺に何かできる事はないのか?

俺が烈の奇跡を引き起こす”前提条件”をつくる事ができれば・・・。

でも、俺は、何をすれば彼女を助けられるんだろう?

当然、俺に医学的な知識は皆無。

それに加え、妄想力だって彼女には劣る。

こんなヤツが・・・人様の奇跡を引き起こせるのか?








@第23話 「フォーサーの始まり、そして終わり!?」 完結







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