@第21話 殺したいほど憎いヤツ
@第21話 「殺したいほど憎いヤツ」
―――――日付は変わらず、時刻は17時を過ぎていた―――――
都内のとある刑務所内では、何やら騒ぎが起きていた。
「逃げろッ!殺される!!」
「黙って死ねえええッ!!」
次の瞬間、凄まじい発砲音が遠慮ない様子で鳴り響く。
そして、その銃声と共に複数の人間の屍が
冷たい無機質な床へと崩れ落ちていく。
「止まれ!!湯原ッ!」
刑務所の通路を順調に進む湯原の前に
3人の看守が拳銃を構えながら立ちはだかる。
湯原、と呼ばれた囚人はもはや人間ではなかった。
銀色のロングコートを身にまとった、スマートな雰囲気を醸し出す”怪人”だった。
顔は凹凸がありジグザグしているが人間味を帯びており、
身体部分とあわせて見ても、人間の容姿に近い。
が、背中にリュックを背負うように装着された
メカメカしい「携帯型武器庫」がやはり怪人味を増幅させる。
武人の弁慶のように、様々な武器の持ち手が彼の武器庫から伸びている。
全体をまとめると、殺し屋といった感じの容姿だろうか。
「俺は湯原じゃねぇよ・・・。
俺はフォーサー、イノベイティブ・コンクルーダーだッ!!」
そう言い、コンクルーダーを名乗る男は
右手に握っていた自動小銃のような銃を看守たちに向けるが早く、
素早く引き金を引く。
「がはっ!」
看守たちはすぐさま死体に成り果て、
背中から落ちるように床へと倒れた。
「アンタら、悪く思うなよ?
俺は今更ながら牢の中でフォーサーに覚醒できたんだ。
逃走しない手はないだろう?」
コンクルーダーと名乗るフォーサーは
屍となって転がっている看守たちに向かって
会話をするかのように顔を近付けながら
何事も無い様子で通路を通過していくのであった。
―――――その頃、岩手県の基は―――――
・・・ふと気付くと、俺はうたた寝に入っていたようだった。
使えない両手を使わず、腹筋で上半身を起こすと、
そのまま脇に目を向け、外からの景色を眺める。
ちょうど時刻は17時を過ぎていて、夕焼けが庭園の木々を照らしている。
腕が動けば、俺は普通にそこら辺に歩いていって
散歩でも楽しみたいところだけど、そんな事はできない。
・・・義手を取り付けない限りは。
俺の両腕は腕としての機能は失っているけど、
一応見た目は健常者と同じ普通の腕だ。
損傷は内部だけに収まっていたおかげでこういう状態だけど、
もし義手を取り付けるともなればたぶん機械の様な腕になるんだろうか。
でも、それを拒めば俺の腕はもはやただの飾り・・・。
こんな究極の選択を迫られる事になるとはね。
「基さーん!面会希望の方をお連れしました!」
俺は病室の入り口から響く看護婦さんの声で我に返った。
面会者、という事は扉の向こうにいるのは両親ではない。
「あ、はい、お願いします。」
俺の返答を待って少し間があったが、
すぐにスライド式のドアは滑らかに滑り、
看護婦ととある男子が姿を現した。
「・・・秀人か?」
俺のお見舞いに来てくれたのは
同じクラスで席が前後の蔵本 秀人だった。
「基・・・本当に済まない。」
秀人は病室に一歩踏み出すが早く、
その場で咄嗟に頭を垂れ、静止した。
それを彼の背後で見ていた看護婦さんは状況を察し、
入り口の扉を閉めながら去っていった。
「・・・昨日、俺も一緒に
あのユニコォンに立ち向かっていれば・・・。」
秀人の会話はおそらく、一般常識的には意味不明なものだろうけど、
俺はちゃんと状況を分かっている。
「・・・なぁんてね、意味分からないだろうから最初から説明するよ。
昨日、お前が学校の廊下で」
「秀人、お前はフォーサーだったんだな。」
話に割り込んで、単刀直入に発言をまとめると、
案の定、彼は驚愕の表情で固まった。
だけど、その話の内容は、
俺の一言で片付けられる程度のものだった。
俺はあのコブラのフォーサーの声でその正体が分かり、
秀人も同じように、アリエスから聞こえる声で
俺の事が分かったんだろう。
「・・・基、知ってたんだな」
「怪人態になって声がくぐもっても、
元の声質っていうか、声の感じは人間の時と変わらない。
お前とは席が前後なんだから、その声は聞き慣れていた。」
俺は秀人とは正反対の方向の窓を見据えながら
話を進めていく。
それは照れ臭いからとかっていう理由ではない。
ただ、単純に、もう”そういう話”は聞きたくないからだ。
「・・・ネヴァーフーエヴァーっていう名前は俺が自分で付けたんだ。
もうちょっと蛇みたいなネーミングでも良いと思ったけど、
何か響きがカッコ良くてさ!」
「・・・お前がフォーサーだからって俺には関係ないんだ。
そんな話をするなら出て行ってくれないか?」
自分の方をまったく見ない俺を不審に思ったのか、
秀人は言葉に詰まっている。
たぶん、荘乃が変身したアトラクターを追ったけど逃がした、
みたいな話をしたいんだろうけど、正直なところ聞きたくない。
「・・・俺はさ、もう戦闘とかそういう事は考えたくないんだ。
ただの、普通の中二病患者になりたいんだ。」
「で、でもさ、お前がまさかあの
中二宮Xレア装着者だったなんて思わなかったよ!
俺が知らないところでお前は苦労していたんだろうな・・・。」
「もう出て行けよッッ!!」
俺が思わず声を荒げると、
秀人はさすがに迷惑だと理解したようで、
分かった、とだけ言い残して小走りで扉へと急ぎ、
扉の取手に手を掛けた。
「・・・基、お前はもう十分頑張ったんだ。
面倒な事は全部忘れる権利があると思う。」
秀人は一言一言を噛み締めるようにそう言うと、
逃げるように病室から去っていった。
「・・・面倒な事を忘れる、か。」
フォーサーとかアトラクターの事を忘れても、
俺の両腕はもう治らない。
忘れるだけじゃ何も解決なんてしないんだ・・・。
俺は窓の外を見ながらふと考え始めた。
・・・仮に、もしも俺があの時、
中二宮Xレアを貰っていなかったとしても、
そこら辺の頭のおかしいフォーサーに襲われる可能性はある。
という事は、もうこの日本がおかしいんだ。
何もしないで楽して暮らせるような社会がないのは分かるけど、
いつ殺されても分からない社会なんておかしいだろ!普通に!
じゃあ、誰かが変えてくれれば良いんじゃないのか?
全てのフォーサーとかアトラクターとかアーマー装着者を倒して、
平和だった、中二病的発想を楽しんでいた頃の
昔の様な社会をもう一度だけ創ってくれる人がいるとすれば、
俺はその人のために何だってしてやる。
・・・最後の犠牲という役割は俺が担ってやる。
だけど、もうこれ以上、俺みたいに馬鹿な目に遭うヤツは見たくない。
俺は動かないはずの右腕に
突如、力が入るような錯覚に陥った。
期待して視線をそこに移しても、あるのは無残な姿になった自分の右手。
だけど、俺は確かに今、右手の拳を握り締めている。
それは中二病という名の異常な想像力を持つ、
ロイヤル・ハイパワード・チューニクスとして俺が作り出した
現実に限りなく近い、幻覚だった。
―――――数分後、東京では―――――
『こちら、東京都の西岡刑務所前です。
本日未明、収容されていた囚人の中の1人が突然、怪人の姿へと変身し、
現在も内部で暴れているようです。あ!たった今出てきました!!』
刑務所の正門前には各メディアの取材班が押しかけ、
キャスターたちが意気込んだ様子で中継をしている。
よくよく見ると、野次馬の一般人も混ざっており、
軽いイベントブースのような有り様だ。
そんな彼らの前で刑務所入り口の自動ドアを蹴り開け、
遂にその銀色の怪人が屋外へと進行してきた。
報道陣が集まっている正門とはだいぶ距離が離れているが、
彼らが危険な事に違いはない。
『あれが例の怪人でしょうか!
噂のフォーサーとやらでしょうかね?』
報道陣の人間はその場から逃げるように中継を続けるが、
中にはより近くでその怪人を撮影しようと、
正門に張り付いて様子を見ている取材グループもある。
・・・と、次の瞬間だった。
物凄い轟音と共にカメラに映っていた映像が途切れ、画面にノイズが走った。
正門は凄まじい業火に包まれ、火葬場へと早変わりしたのだった。
爆発の範囲は広く、一部は逃げ切れたグループもいるが、
その周囲にいた人間が瞬時に死体と化してしまったようだ。
「・・・久々にココから出たな。」
その怪人は、たった今発砲した
対戦車用大型ライフル「イノベイト・バスター」を
自身の背中に背負っている大きな武器庫へと戻した。
彼は刑務所入り口の自動ドア前に立っているが、
建物の内部から看守たちが追ってくるような様子はない。
逃走の際の彼の目に映った者たちは全員消されたのだった・・・。
「これが・・・フォーサーってヤツの力か。」
イノベイティブ・コンクルーダーは
ライフルを握っていた右手の指を何度か開閉させ、
先ほどの発砲の手応えを再確認している。
どうやら彼は、偶然にも過去に注入したHR細胞が
刑務所内で数年経った今になってから突然変異を起こし、
フォーサーと成り果てたようだ。
コンクルーダーは囚人にあろう事か
堂々と正門までの道をまっすぐに歩き出す。
が、その時、彼は前方のとある違和感に気付いた。
先ほどの爆発があった地点から
何かの人影がゆったりとした歩調でこちらに近付いてきている。
それを察知したコンクルーダーはその場で立ち止まるのだった。
「へぇ、驚いたねぇ。」
「何?」
その接近してくる人影の正体は、
身長180cmほどで20代に見える若い男だった。
衣服の様子から爆発に巻き込まれた形跡はなく、
爆音を聞き付けてたまたま近くを通行していたために寄ってきた、
といった感じだろうか。
「東京にちょうど用があって来てたんだ。
そうしたら、何だか怪人がらみの事件のようだねぇ。」
その男は、内垣外 奏修であった。
都内にある伊集院の秘密基地からの帰り途中であろう。
「お前はフォーサーか?それともアトラクターか?
いや、状況を察するに、
収容されていた罪人がフォーサーに覚醒したというのが濃厚か?」
「お前は、確か・・・。」
コンクルーダーは、内垣外の顔を見据えながら、
突然ハッとしたように人差し指を彼に向けた。
「・・・思い出した。
お前は”ロックハンド”というバンドの内垣外だろ?
この姿に・・・見覚えは無いか?」
コンクルーダーはそう言うと、
瞬時に自身の変身を解き、通常の人間態へと戻った。
が、その人間を見た瞬間、
気だるそうな様子だった内垣外の表情が一変した。
「・・・お、お前はあの時の!?」
「どうやら、俺の事をちゃんと覚えていたようだ。」
コンクルーダーの人間態は初老の男性で、
頭には白髪が若干混ざっている。
何ら、そこら辺にいる民間人と変わりない姿をしているが、
内垣外は鋭い眼光でその男性を貫いた。
「湯原 海斗かッ!!」
内垣外は我を失ったかのような激しい怒りの表情で
ポケットから迷彩柄の電子辞書型機器、DEADチェンジャーを取り出す。
「ハハハ・・・ハッハッハッハッハアアア!!
ちょうど良かったねぇ!
湯原 海斗、ここでお前をあの世送りにしてやるよ!」
喜びとも怒りとも取れる表情へと変わった彼は、
着ていたジャケットのボタンを外した。
すると、彼の腰にはベルト部分がブラック、
バックル部分がチェンジャーと同じ迷彩柄の
ベルトが装着されていたのだった。
《Hello world!! Excuse me?
Answer、Answer、Answer、Answer・・・》
内垣外が構えた電子機器からは
待機音声が流れ始めた。
「あの世送りか・・・それは迷惑な話だ。
俺はこれから昔の様な私生活を楽しみたい。」
「黙れ!シング・・・アゲイン!」
《Certified!!》
内垣外は右手に握っていた電子辞書型機器を
激しくバックルへと装填した。
《Forcible execution!!
Identify your identity!!》
ガイダンス音が流れ始めると、
内垣外の背後にあたる正門前に停めてあった
装甲車の後部の扉が開き、
内部から次々とアーマーパーツが飛び出し、
それらが内垣外の全身へと自動で装着されていく。
「穏やかではないな・・・変身ッ!」
湯原は両手を自身の顔のすぐ前でパンッと軽快に鳴らす。
と、彼の身体はみるみるうちに
銀色のロングコートを羽織る怪人の姿へと変貌していく。
「果たしてこの、イノベイティブ・コンクルーダーを倒す事ができるか?」
湯原と呼ばれた脱獄者が変身したのは、
銀色のロングコートを身にまとった怪人。
背中には携帯武器庫を背負い、そこからは
近距離用、遠距離用含め、様々な武器の持ち手を覗かせている。
「お前は・・・お前だけは殺してやる!
絶対に殺してやるッ!!」
内垣外が変身したのは
全身を緑と灰色の配色の迷彩柄アーマーパーツで包み、
両肩にそれぞれ黒光りするガトリング砲を装備した
モガナオメガであった。
2人のローズ・ブレイカーは30mほどの距離差で、
ほぼ同時に変身を完了し、対峙する。
が、睨み合う間もなく、モガナオメガが距離を詰め始めた。
「食らえぇぇぇッ!」
取り乱したモガナオメガが両肩のガトリング砲を起動させ、
全速力で走りながら掃射を開始する。
銃弾はまっすぐにイノベイティブ・コンクルーダーに向かって飛んでいくが、
コンクルーダーは左右の素早いステップで銃弾を綺麗に避けつつ、
少しずつ後方へと下がっていく。
モガナオメガも走りながら上半身の向きを調整し、
ひたすらコンクルーダーを捕えようと狙うが、弾は一発も命中しない。
「・・・スピードはなかなかのようだねぇ。」
そう呟き、モガナオメガはガトリング砲の掃射を中断した。
銃弾には限りがあるため、無駄撃ちを避けたいというのは
ガンナーであれば共通の思考だろう。
が、その次の瞬間、
後方へ下がっていたコンクルーダーが突然地面を蹴り放ち、
前方に向かって加速を始めた。
「何?」
モガナオメガが再度ガトリングを発射する準備を整える前に、
加速の勢いを乗せ右アッパー放つコンクルーダーは
既に彼のすぐ目前に迫っていた。
「ぐっ!」
モガナオメガの頭部へとアッパーが直撃し、
彼は予想もしなかったあまりの威力に戸惑う。
「くっ・・・このパワーは・・・」
「鈍いなああ!」
怯むモガナオメガの胴体に、すかさずコンクルーダーは左フックを叩き込む。
もはや彼に避ける手段は残されておらず、
フックも直撃を免れない。
そして、間髪入れずにコンクルーダーは
背中から持ち手が見えていた銀色の剣を引き抜くと、
そのまま上から切り下ろした。
攻撃のラッシュを食らったモガナオメガは
思わず2,3歩後退する。
「フッ・・・その程度であの世送りにしてやるとは、よく言ったものだな。」
コンクルーダーは背中の武器庫へと
銀色の剣、イノベイト・サーベルを収納した。
だが、それとほぼ同時に彼は、
脇側から覗かせていた銃の持ち手へと手を掛けた。
拳銃などとは違う、散弾銃のような持ち手だ。
「!?」
モガナオメガがそれに気付いた次の瞬間、
コンクルーダーはショットガン、イノベイト・ブラスターを取り出し、
構えて間もなく発砲した。
かなりの近距離でそれを食らったモガナオメガは
10mほど飛ばされ、背中から倒れるように地面へと転がった。
「コイツ、相当なものだねぇ・・・。」
他のフォーサーを超える身体能力、
更に、あのトレディシオン・ルイナーのように
様々な種類の武器を瞬時に調達できるという特殊能力。
厄介な相手に違いない。
それでも、モガナオメガに逃げるという選択肢はなかった。
「・・・少し待ってろ。」
モガナオメガは立ち上がると、
彼の背後側にあたる正門前に駐車している装甲車へと向かって歩き出した。
「逃げる気か?それならそれで俺は構わないがな。」
「フザけるなよ?待ってろ、と言ったはずだ。」
返事を返すなり、モガナは装甲車後方の両開きの扉を開き、
その中へと入っていった。
「ほう・・・何が出てくるのか楽しみだ。」
コンクルーダーはその待ち時間に武器のメンテナンスをしようと、
背中の武器庫を地面へと下ろそうとした。
が、モガナオメガは5秒ほどですぐに装甲車から出てきたため、
ほとんどその隙は無かった。
「・・・これは処刑要塞AOリブーター。
たぶん、これでさっきよりは楽しめるはずだ。」
モガナオメガは両腕に自動回転式カッターを装着し、
その姿を現した。
ただでさえ輪郭が機械らしいモガナオメガは
大掛かりな近接武器を装備する事によって
更にメカメカしいアーマーとなる。
「両肩にガトリング砲、両腕には近接型のカッターか。
まさに要塞と言ったところだな。」
コンクルーダーは軽いファイティングポーズを取り、
モガナオメガを一直線に見据える。
――――――――――――――――――――
・・・俺が、内垣外 奏修が
あの出来事を忘れる事はないだろう。
5年前のあの悪夢を。
・・・俺は、いや、俺たち3人は”ロックハンド”という
マイナーバンドを続けていた。
それは俺が高校1年生の頃に始めたバンドであったが、
5年前の当時は既にシングルを4枚リリースしており、
それらの売れ行きも順調だった。
俺たちが結成当初から夢見ていたメジャーデビューも
もはや完全な夢という訳ではなかった。
約5年前の2020年4月23日、
ちょうど俺の地元でのワンマンライブを終え、
帰宅途中の俺たちを悲劇が襲った。
・・・高速道路を走っていた俺たちの車に、
後方から大型トラックが突っ込んだんだ・・・。
俺を含めたメンバー3人のうち、
俺と長谷川 調は軽症で済んだのだが、
後部座席に1人座っていた大道 響次は
追突により変形した車体に挟まれ、即死だった・・・。
メンバーの所在は岩手、神奈川、東京とバラバラだった。
そして俺と長谷川は同級生、
大道は一つ上の学年だったが、
皆がまるで同じ学校の同学年のように気が合い、
俺にとっては間違いなくそこが最高の居場所だった。
・・・そんな状況で残された俺たちは、
それきりバンド活動をピッタリと止めた。
大道が欠けた枠に誰かを募集する事もできたのだが、
俺たちと長い付き合いだったアイツに代われる人間などいない。
いや、代役が入ったところで何も意味が無い。
・・・あの3人じゃないと駄目だったんだ。
大道を失って気付いた俺自身の望みは、
メジャーデビューでも、有名になる事でも、
ヴォーカルとして聴衆の前で歌う事でもなかった。
そう、本当の望みとは、”仲間との日々”そのものだった。
そのため、俺はその日を境に、永遠に”求め続ける”事となった。
渇望、それこそが俺の真の欲望であり、
それは望むだけで、もう永久に到達する事が無い目標。
自分が何を求めているのかは明確に分かるが、
もうそれは手に入らない。
しかし俺は求め続ける事に意味を見出している。
そのような状況で把握した事は、
求める結果を発散し、
逆に理由を重要視するという行為にも意味はあるという事だ。
・・・俺があれだけ求めた日々を誰かに与える形で再現する事ができれば・・・。
俺はいつしかそう思うようになり、
気付けば教員免許を取得し、高校教師としての道を歩き出していた。
そんな生活に対して少なからず遣り甲斐を感じていたが、
3か月前、亡くなったはずの伊集院 雷人に勧誘され、
俺はDEADと呼ばれるアーマーの装着者となった。
その装着者となる事もまた、俺の渇望に繋がる。
俺は渇望をエネルギーとしてこれまでの人生を歩んできたのだ。
・・・が、そうやって生きてきた俺の中で、
今でもあの大型トラックの運転手には
言葉では言い表せないほどの恨みがある。
ちなみに、その犯人、湯原は飲酒運転の常習犯であり、
大道が亡くなった以前にも
様々な事件を犯してきていた事が後に判明した。
湯原 海斗・・・。
こんなクズ野郎に大道を奪われるというのは屈辱だったが、
俺にはどうしようもなかった。
復讐とは言えども、日本の制度では目には目を、というようにはいかない。
・・・だが、湯原がフォーサーとなったとすれば、
鎮圧という名目で湯原を殺害する事ができる。
俺たちの復讐が5年も経った今、ようやく達成されるのだ。
――――――――――――――――――――
「消えろおッ!!」
モガナオメガはファイティングポーズを取っているコンクルーダーに接近し、
高速回転するカッターを振り下ろした。
コンクルーダーは斜め後ろへステップを切り、素早くそれを避ける。
と、カッターが勢い余って地面に刺さり、コンクリートを粉砕した。
「その”扇風機”の破壊力はヤバそうだな。
まぁ、このスピードに付いて来られるかどうかは分からないが。」
「死ねぇッ!!」
モガナオメガはそのまま両腕を交互に突き出し、
ひたすらそのカッターでコンクルーダーを引き裂こうと試みる。
カッターが一撃でも命中すれば戦況は大きく覆る。
が、コンクルーダーは左右へヒラリヒラリと素早く移動し、
モガナ自慢のカッターも全く命中しない。
「お前自身のスピードが高ければ
その扇風機は恐ろしい武器になりそうだが、残念だ。」
「なめるなぁッ!!」
モガナオメガは次のカッター攻撃が避けられたのを見計らい、
両肩のガトリングをコンクルーダーの回避方向へと素早く向けた。
「何!?」
次の瞬間、2mも離れていない標的へ向かって、
無数のガトリング弾が掃射された。
さすがのコンクルーダーも回避するには時間が足りないらしく、
クロスした両腕で頭部を覆い、完全に防御体勢に入った。
「そうだ、それで良いんだよねぇ!!」
無数のガトリング弾はそのままコンクルーダーに叩き込まれ、
繰り返し硝煙が上がっている。
そのまま腕を交差した状態でコンクルーダーは少しずつ後退し始めた。
「この回転式カッターに気を取られ過ぎて、
メインウェポンであるガトリング砲の存在を忘れていたようだな。」
モガナオメガは快感とばかりにガトリングを連射し続ける。
それらの弾は、ほぼ全てコンクルーダーを正確に捕えている。
「ん・・・これはどういう事だ?」
掃射が開始されて5秒ほど経過すると、
異変を感じたコンクルーダーが小声で呟いたのだった。
「フフフフッ、そういう事か・・・。」
コンクルーダーが笑いを漏らした次の瞬間、
彼は自身の左サイドに向かって、突然、前転で転がった。
もちろんモガナはその動きに合わせガトリング砲を動かす。
コンクルーダーは転がった後、膝立ちになったまま
背中の武器庫からから銀色の剣、
イノベイト・サーベルを取り出した。
そんな彼にはすぐさま再びガトリング弾の嵐が迫り来るが、
今度は何も構えを取らず、その場で立ち上がる。
「どうやら、黙って死に場所を決めたようだねぇ!!」
「・・・それはどうだか?」
「何?」
モガナが不信感を露わにする中、
コンクルーダーは銃弾の嵐に自ら踏み込み、走り出した。
「はあああッ!!」
なんと、コンクルーダーの身体に命中した銃弾は次々と弾かれ、
地面に散らばっていくのであった。
「馬鹿な!・・・一体なぜだ?」
「隙ありだあああッ!」
ガトリング攻撃を攻略された事で焦るモガナへ向け、
コンクルーダーが急接近する。
残り3mほどまで距離を詰めると、
彼の手に握られたイノベイト・サーベルの剣先がキラリと光った。
「はあああッ!!」
接近後、衝突を狙っていたかに思われたコンクルーダーは
モガナオメガの横を素早く通り過ぎ、彼の5mほど背後で止まった。
・・・が、当然の事、彼はただ隣を通り過ぎたのではない。
「俺の、処刑要塞AOリブーターが・・・?」
モガナはすぐに異変に気が付いた。
彼の両腕に装着された回転式カッターは、
上腕に取り付けられていたモーター部分を両腕とも壊されていて
その機能を失ってしまっていた。
「さっきの一瞬で、両腕のモーターを破壊したと言うのか?
・・・しかし、なぜ連射した銃弾が跳ね返されたんだ?」
確かに耐性が高い相手はいるだろうが、
あれほどのガトリング弾に襲われれば無傷では済まないだろう。
が、コンクルーダーからはダメージを受けている様子が感じられない。
「どうやら、俺のこのコートには高性能な”防弾”機能があるようだ。
一度目に銃撃を受けたとき、腕部分に当たった銃弾が跳ね返されたのを見た。
硝煙のせいでお前にはその様子が見えてなかったのかもしれないが。」
モガナの背後で静止していたコンクルーダーが身体ごと振り向く。
モガナもつられて背後を振り向き、乾いた舌打ちを漏らす。
「多彩な武器による自在な戦法とそれを実現する高い身体能力、
それにその特殊な装備・・・。
ただの囚人のおっさんかと思ってたが、なかなか足りてるねぇ・・・。」
「そうだ。俺にはフォーサーの素質がある。
俺は囚人として生活するにはもったいない。
もっとこの才能を活かせるような事に携わりたいものだ。」
そう言いながら、コンクルーダーは背中へと手を伸ばし、
対戦車用大型ライフル、イノベイト・バスターを取り出した。
「さっき報道陣の集団に撃ったら、
コイツの威力は凄まじいものであったぞ?
お前は耐えられるか?」
「チッ・・・!」
モガナには頑丈な装甲が備わっているが、
対戦車用武器ともなると、その身の安全は確保できない。
それを計算して、脳内では退却を試みるが、
彼にはもはやそんな隙は残されていない。
次の瞬間、引き金の音と共に
モガナオメガを中心として大きな爆発が起こった。
すぐさま大量の炎、硝煙が巻き上がる。
「・・・お前は俺を倒せない。
それに面倒な追っ手が来る前にさっさと逃げないとな。」
そう言いながらコンクルーダーはライフルを武器庫へと収納し、
怪人態のまま壊れたゲートへと向かって歩き出すのであった。
―――――その日の夜、岩手の基は―――――
・・・さっき、担当の医者と話して重要な事を決めた。
俺は両腕に義手を取り付ける事にしたんだ。
やっぱり、腕が使えないっていうのは不便にも程があるから、
俺は見た目は犠牲に、黙って機械を自分の身体に埋め込む事を決めた。
もちろん俺の中では解決していない。
今の俺は普通の両腕を求めるくらいには腕に飢えていて、
義手を取り付けるから別にもういいや、っていうふうにはいかない。
人間、生きていれば色々な事を望むものなんだろうけど、
俺みたいに不幸になると、
腕があるだけで満足しそうな、ある意味凄く幸せな感覚を覚えてしまう。
俺みたいなヤツにしか考えられない事って実際にあるんだろうな。
「チクショーッ!」
俺は気付くと、ふと腹からそう叫んでいた。
自分の普通の腕が欲しい・・・そして普通の暮らしがしたいんだ!
ただそれだけなのに・・・フォーサーとかアトラクターとか
面倒臭い奴らのせいで、それは叶わない夢になってる。
おかしいだろ・・・そんなのおかしいんだよ!!
と、その時、俺の病室の扉がスライドした。
たぶん、大声に驚いて看護婦さんが入ってきたんだろうと思いつつ、
念のためドアの方向へ顔を向けた。
その瞬間、俺は思わず息を呑んだ。
「え?」
看護婦さんかと思ったが、違った。
・・・紫色のスラックスに黄色のワイシャツという
何とも派手な服装をした男性がそこに立っていたんだ。
これなら暗い夜道でも事故に遭う心配は無さそうだ、
っていうぐらい目立っている。
顔には立体マスクを付け、
目ぐらいしか顔が出ていないというほど、
マスクを上に上げて上手く顔を隠している。
髪は寝癖一つ無く、整然と整えられている。
見たところ、目の感じと服装から成人前に見える。
「お前、誰だよ!?」
興奮状態にあった俺はついそう叫んでしまった。
その声に反応した男は、人差し指を自身の鼻の位置まで持っていき、
俺に静かにするように促す。
ドアがゆっくり閉まり始めると、
男はまっすぐにベッドの俺に向かって歩いてくる。
「・・・君に良いものを持ってきた。」
男はマスクで隠された口から声を発するが、
それは俺が確実に聞いた事のない、初めて聞く声だった。
友達でもなければ、服装から見て病院の関係者でもないだろう。
「良いもの・・・?」
俺はゆっくりと近付いてくる男に
強い恐怖心を抱きながらボソッと呟いた。
「・・・おそらく、”おれ”は君の願いを叶えてあげられる。」
男は自分の事を”俺”と言ったが、
どこか違和感のある様子に聞こえた。
普段は違う一人称を使っているけど、
今は俺って言おうみたいな感じかな?
「君は・・・その腕を治したいんだろう?
だったら、治す方法がある。」
「何だと?」
男は俺との距離を3mほど空けて立ち止まると、
興味深い事を口にする。
それは、マスク越しでも十分に聞こえてくる。
男はゆっくりと自身のワイシャツのポケットに
慎重そうな様子で右手を入れ、何かを掴んで手を引いた。
そこに握られていたものは、注射器のようなものだった。
「お前、それ麻薬とかだろ!?
なんでそんなヤバいもの持ち歩いてるんだよ!!」
「・・・これは、麻薬でも何でもない。
これこそ、お前の両腕を治すために必要な唯一とも言える手段。」
男はそう言うと、注射器をまっすぐに俺の顔付近に近付け、
俺に中身が見えるように角度を変えながら見せびらかす。
中では透明な液体が揺れており、
素人の俺にはただの水のように見える。
「・・・これは何なんだ?」
「かつて、レボリューショナイズ社によって開発され、
その使用を約半年前に禁止された、いわゆる禁断の手法。
・・・HR細胞、だ。」
@第21話 「殺したいほど憎いヤツ」 完結




