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ブレイキング・ローズ  作者: まるマル太
第3章 新たな敵??ブラックマイスター!?
23/42

@第20話 十人十色の欲望

@第20話 「十人十色の欲望」






―――――山村高校の襲撃から既に丸1日が経過した―――――




この俺、陽遊ようゆう はじめは昨日の戦いで両腕を負傷し、

急きょ緑野病院へと入院する事に決まった。

既に俺は病衣を身に付け、病室のベッドに横になっており、

右横の大きな窓の外には昨日から一変した晴れ晴れとした風景が広がっている。

静かな個室で俺はぼーっとしながらその切り取られた景色を眺めていた。

・・・その、俺の事をまるで気にしないような憎らしい景色を。


俺が装着していたアリエスのアーマーの両腕部が破壊された後、

岩のフォーサー、グラビティロードと

ガトリング迷彩こと、モガナオメガによって

聖獣せいじゅうグラスプ・ユニコォンはどうにか撃退する事ができた。

モガナオメガの両腕に装着された回転カッターの破壊力により、

一撃でも命中させれば戦況を覆す事ができるという優勢な点もあったため、

それを危惧したユニコォンは俺たちにある程度の力を見せ付けた上で

逃亡を図ったんだ。


だけど・・・そんな事はもはや今の俺にとってはどうでも良い。

俺の両腕は骨まで砕けていて、もう前腕全てを義手にする以外に

日常生活で今までのように手を使う方法は残っていないらしい。

こんな事になりそうなのはよく考えれば予想できた事だった。

ユニコォンの身体能力は異常なもので、

校内で格闘戦になった時も俺は

ヤツの攻撃を防ぐだけなのに尋常ではない痛みを感じていた。

凄く危ないヤツだったんだ・・・アイツは。


そもそも、俺は何であんな化け物たちと戦おうなんて思ったんだろう・・・。

俺はフィースネス・アリエスという特別な護身道具を貰ったに過ぎなかったはずで

あの装備で人を助ける必要なんてどこにもなかったんだ。

昨日も、学校から一人で逃げ出せば良かったんだ・・・。

あの状況なんだから誰も俺に文句を言ったりしない。

ただ、俺はアリエスという武器を持っている意識に束縛されて

ブラックマイスターを追い払って皆を助けたいなんて考えていた。

馬鹿々々しい・・・。

そんな事をするのはテレビのヒーローだ。

現実世界で意味も無く「みんなを助けるんだ」なんて思う人はいないと思う。

中二宮Xレア開発者の岡本さんみたいに

ちゃんとした理由があるなら良いけど、

俺には理由らしき理由は思い返してみれば何もない。

ただ中二病の力で自分を守れるなら、

と思ってアリエスをレンタルしていただけだ。


我ながら情けない・・・。

俺は何をやってるんだろう・・・。


ぶっちゃけ、俺に中二病の力が無ければこんな事にはならなかったと思うけど

俺は中二病を恨んだりはしない。

中二病の力を使って誰かと戦うっていうのは

ロイヤル・ハイパワード・チューニクスとして俺が密かに望んでいた事なんだ。

でも、それは望んでいるのが良いのであって、

実際に戦う事はそこまで楽しくはない。

言葉で表現しようとすれば難しいけど、

望んでいる状況が現実になった時点で、

それは望んでいる本来の姿ではなくなってしまう。

中二病的思考で色々とチューニクスな事を考えるのは楽しいけど、

その色々な事が現実になるのはごめんだ。

矛盾しているようだけど、俺の中ではちゃんと区別できる。

だから、中二病自体を憎んだりはしない。

問題なのは俺の安易な決断だったんだ・・・。


義手を付けるかどうかはまだ決めていないけど、

日常生活で最も使う腕という部位を負傷した以上、

その選択を拒まざるを得ないだろう。

だけど、もう俺は変身したりする事はない。

フォーサーやアトラクターと戦う事もない。

俺は圧倒的中二病患者、ロイヤル・ハイパワード・チューニクスとして生きていく。

特別な生き方なんていらない。

ただ、そのロイヤルでハイパワードな特別な生き方を想像するのは楽しい。

俺はやっぱりどこまでも中二病なんだなぁ・・・。

それも純粋な、普通の中二病。

・・・これからはずっとこういう平和な中二病患者でいたい。

もう怪人の事なんか一生考えない。

アリエスの装備や専用バイク、SHFシープ・ホーン・フィース

明日アブソリュート・アーツ社の研究員が引き取りに来る事になってる。

そうすれば俺はようやく普通の中二病患者に戻る事ができるんだ。




結局、俺は勢いで行動して後悔した事になるんだろうか?

そうだとすれば悔しいな・・・。

護身道具で最後は自分の身を滅ぼした自分の他に

恨めるような人間はいない。




























―――――その頃、都内のとある建物内にて―――――




「よし、時間だ。始めるぞ。」

長テーブルが四方を囲むように並べられた室内の窓際で、

白いスーツに身を包んだ男が大きな声で言い放った。


中仙道なかせんどう様、

 昨日は自らレボリューショナイズ社に赴かれたとの事ですが、

 よくぞ御無事でおられました。」

藍色のスーツに身を包んだ男が深く頭を下げる。


八重樫やえがしよ、この俺が負ける訳がないだろう?

 だが・・・状況は予想外の結果となってしまった。」

「Aランク適合者、つまりアトラクター4名と連絡が取れなくなるとは・・・。

 山村高校の生徒である坂本さかもと 荘乃そうの

 翼獣よくじゅうスターダスト・グリフォンに覚醒したのは喜ばしい事ですが、

 Aランク適合者は極めて稀です・・・。

 中仙道なかせんどう様を含めてもアトラクターは6人しか残っておりません。」

「まさに、その事だな。

 どうやらフォーサーの中にも

 我々の想定を超える戦闘能力を持つ者が複数いたらしい。

 ソイツらに同志が消されたともなれば、嘆かわしい事だ。

 だが、この先、Bランク以下の者が突然Aランク適合する可能性も有り得る。

 今は引き続き当初の作戦を進めるとしよう。」

中仙道なかせんどうは外の様子を眺めていたが、

そう言い切ると、ようやくメンバーが揃う席へと着いた。


「今後、更なる戦闘の激化が懸念されるが、

 それを考慮して我々の組織ブラックマイスターを抜ける者はいるか?」

そう言うと、中仙道なかせんどうは座っている

アトラクトAランク適合者の顔へ次々と視線を移していく。


「・・・誰も出ないか?

 という事は、この先も我々の目的のためであれば

 命を落とす事も止むを得ないという意思の現れと解釈するぞ。

 何も本心に反する事はない。

 ブラックマイスターはいずれ世界を変えるが、

 団員へと意思を強要して変革を望むほど飢えてはいない。」

中仙道なかせんどう様、それは違います。」

「何?」

突如割り込むように発言したのは、

トップスを白い皮製のジャケット、

ボトムスにインジゴのジーンズを着用した

成人前と思われる若い男性だった。


「我々はアトラクトにAランク適合した時点で

 その意思を強制されるべき人材です。

 他のフォーサーやアーマー装着者との戦闘に恐怖して

 この組織を抜けるような愚か者は

 そもそもブラックマイスターへと入団していません。

 そして、ブラックマイスターはそのような者たちによって構成され、

 その成果を成し得るべきでしょう。」

「・・・ユニコォンの明慶あけよしか。

 確かに、この組織はそうあるべきだろうな。

 おそらく、連絡の取れなくなった4人も

 我々のために命を落とす事を誇りに思ってくれた事だろう。」




――――――――――――――――――――


この俺、中仙道なかせんどう 武雅むがが団員を見渡すと、

残りの5人は次々と大きく頷くのであった。

・・・このくらいの意思が無ければ

そもそもこの社会で犯罪として捉えられる事を

平気な顔で遂行する事はできぬか。

だが、その行為はいずれ我々が構築する社会のために必要な事だ。




・・・今から4年前の2021年、

俺が22歳の時にこのような組織を立ち上げたのには理由がある。




俺が中学校3年生の高校受験直前の時期に、

母親が自分の勤めていた会社の研修旅行へと旅立った。

母は明るい性格で、会社のデスクワーカーの他にも

ムードメーカーとして社内では慕われていたらしい。

逆に、父親は人との関わりが好きではなかった、

というのと創作意欲の興味から

自宅でもできる書き物関連の仕事を請け負っていた。

雑誌に掲載するための記事を依頼されて書いたり、

他には趣味で短編小説を書いたりもしていた。


今思い返せばあの頃の生活は十分に幸せだったと言えるだろう。

父のネガティブな思考を母のポジティブさでフォローしたり、

逆に母の軽率な決断を冷静な父が改善させたりもしていた。

その様は、子供の俺から見ても微笑ましい光景だったに違いない。


しかし、この世で永久機関とも言えるような事象はない。

その俺の幸せな家庭も、ある時にその「有効期限」を迎える。


・・・母親が研修旅行に旅立った後、

もう俺が生きている母の顔を見る事はなかったのだった。

母の死因は旅先での事故だった。

9人乗りのジャンボタクシーに大型トラックが正面衝突したとの事で、

運転手も含めた旅行参加者全員の遺体は激しく損傷し、

主に姿も分からないほどにまで潰されていたとの事だ。


母を失った俺は耐え難い精神的苦痛に毎日明け暮れた。

母の死後、約1週間後に控えていた高校受験も、

受ける事なく済ました。

中学3年生までとは言え、自分を育ててくれた母親だった。

失うという言葉では表現できないほど、

俺は絶望を味わう事になった・・・。


だが、それは俺だけではなく、父親も同じだったのだろう。

人と関わるのが苦手だとは言えども、

母親と子供には優しくて真面目なライターだった父親は

母の死亡以降、人が変わったように狂い始めた。

毎日、ビール瓶3本は欠かさず飲み干すような恐ろしい酒豪に変貌し、

それまで習慣の無かった喫煙も始めた。

そして1人息子であった俺を酔っ払い際に激しく暴行した。

以前の様子からは考えられない凶暴さを見せるようになった父を、

俺は心のどこかで少しずつ憎み始め、

いつしか、殺してやりたいという欲望を持つほどになった。


しかし、俺は父からの暴行を受けるようになってから2ヶ月程度で

田舎の方の親戚に引き取られた事を最後に、

俺の家族は遂にバラバラになった。

その後、すぐに父親は以前にもまして

ネガティブな短編小説を好んで書くようになったが、

かえってリアリティの追及を欲する読者の好評を得る事で

一気に有名人へと上り詰めたのだった。

父親の姿はあれ以来見ていないが、

母の死を自分の評判のために平気で利用するような父を

俺は激しく恨むようになっていった。




・・・そして母が亡くなった事故から1年程度経過し、

例のトラック運転手の初公判が開かれた。

俺はそこで犯人が「飲酒運転」によって

ジャンボタクシーと衝突したという事を初めて知った。

当時、併願の高校に通っていた俺は、この犯人を呪った。

この犯人が母を殺したせいで、

父が変わり、俺の家庭は崩壊した。

この犯人がいなければ俺は今頃、

元の幸せな家庭で両親と共に楽し気な生活を送っていたのだろう。

そう思えば思うほど、犯人の首を欠き切ってやりたい衝動に駆られた。


・・・しかし、俺はその裁判の結果に驚愕する事となる。

犯人に課された刑は7年の懲役のみ。

俺が母の死によって受けた精神的苦痛とは、

この程度の刑罰で片付けられるものであったのだろうか?

・・・その答えは俺の精神構造を把握するもの、

すなわち俺自身が決めるべきだ。


俺はそこでとある決断をした。

定められた「決まり事」が狂ったものならば、

その「決まり事」を変革してやれば良い。

俺の矛先は最初は父親、次に母親の殺人犯、

そして、最後はこの日本の「制度」へと変遷を辿っていった。

全てが俺にとっては恨むべきものであるが、

決まり事を変えてしまえば、その全てを封殺する事が可能だと信じた。


そう信じた俺は高校を卒業した後に大学へと進学したが、

学年が上がっても、その当時の思いは変わらずに、

ただただこの「おかしい世の中」に抗う事ばかり考えていた。

俺は親戚の協力も得て、無事に薬学部へと進学したのだった。


世界を変革するにあたり、

最初に求めるべきは他者を排除し、また従わせる”力”だ。

当時、大学の研究室内で俺の思想を理解し、

手を貸してくれた人間3人の協力を得る事ができたため、

大学側には極秘に人体強化溶液「アトラクト」を開発した。

元々は人間の意思を調整するような薬の開発を進めていたのだが、

偶然にも、約30分間、

人間を超える超人の力を発揮させる薬が出来上がったのだった。


アトラクトの開発成功は俺の計画に拍車をかけた。

その強化溶液は、一部の非常に高い適合率を誇る者に対して

怪人へと進化する能力を付与する事に気が付いた。

気が付いたというのは、

俺がその怪人”アトラクター”となった最初の人物だという事だ。

俺の協力者3人を含めても、アトラクターの形態への進化を遂げたのは

唯一人、この俺、中仙道なかせんどう 武雅むがだけであった。


物理的な力、というのは権力の象徴である、というのは

先人たちが世界の歴史において証明している。

俺は理系出身であったが、得意科目は政治・経済・倫理などの公民科目であり、

受験後もそれらを独学で学習を進めるほどには歴史、

詳しく言えば”人間の思想”に興味があった。


もはやこの俺がアトラクター、

世刑海獣せいけいかいじゅうディザイヤー・リヴァイアサンの力を手に入れた事により、

俺が望み続けてきた制度の変革を実現する事が現実の話となった。

・・・しかし、俺はそこでふと思い出すように気付くのだった。

おそらくではあるが、世界には、

自分らと同じように物理的な”力”を求め、

日々怪しげな研究を続ける者が数え切れないほど存在している可能性があると。

そうなれば制度を変えるほどの相対的に巨大な力は

俺のみが手にしている事にはならない。


―――この程度では憎き制度は変えられない―――


そう考えた俺は、まず自分と同じ意思を持つ集団を組織する人間を増やそうと、

宗教団体を名乗りながら色々な方面から密かに同志を募った。

なぜに宗教団体を立ち上げたのかというと、

俺のリヴァイアサンとしての能力には”精神干渉”というものがあったからだ。

それは俺が人間態の時にでも使用する事ができるために、

俺は自分の意思で目の前の人間の気分を変える事ができる。

そこで俺は自ら教祖となり、

宗教組織、ブラックマイスターを動かす事に決定した。


そこからは順調に同志も増え続け、

俺のブラックマイスターは社会から隠れて規模を拡大していった。

そのようにして巨大化したブラックマイスターの目的は

俺の当時の意思と変わらず、制度の変革だ。

そのためには、まず国民の”一般意思”が変革を要求する必要がある。

一般意思とはルソーが定義するそれと同義だ。

より多くの国民が一丸となり、この社会制度への変革の意味を見出す。

その時点で既に社会はゆっくりと変革を開始している。


より効果的にそれを可能とするには、

現代の制度で裁けないような事例を国へと、国民へと押し付ければ良い。

俺を含めたアトラクトAランク適合者はもはや純粋な人間ではない。

その悪事を裁くとすれば、必ずや国も、国民も、

俺らを裁くための新たな制度を求めるはずである。

そこで求められるべきは・・・悪人への制裁の強化。

より容易に犯罪意識の高い人間を

まるで鶏のように“殺処分”できる決まり事を取り決める事に成功すれば、

それは俺が求める「アンスパリングジャッジメント世界」の実現へと繋がるのだ。


それと同時に、噂でしかないが

謎の連中が破壊活動を行うような組織に対して

資金提供をしているという話を聞いた事がある。

我々はその資金提供を受けて重要な組合組織を買収し、

より法という名の制度の改革への可能性を掴み取る事を目的としている。


悪人が正しく裁かれ、

善人が安全、安心に暮らせるような世界。

俺はそれを心から望む。

自らが悪人のベールを被るというのは矛盾を見出すかも知れないが、

第一に変革されるべきは制度そのものなのだ。

そのためには自分たちも含めた悪人の力を借りる必要がある。

俺は自分たちが正義だとは思っていない。

だが、変革後の世界では、社会では、

心のどこかで我々ブラックマイスターが正義となる事を期待している。




――――――――――――――――――――




中仙道なかせんどう様、俺は1週間後に控えた2回目のテロで

 もし自分が命を落とそうとも、悔やみはしません。

 世界を変えるための一歩になると思えば、

 その程度は承知の上ですよ。」

ユニコォンの明慶あけよしは少し興奮した様子で勢いのままに続ける。

このブラックマイスター団員の中には中仙道なかせんどう以外にも

それぞれが望むような世界変革を求める者たちが集っているが、

明慶あけよしという青年の世界変革への願いは人一倍強かった。

その願いの原点は当然ながら本人の過去に起因する。


「そのくらいの覚悟があれば何よりだ。

 お前の求める世界を作るためにも、

 今はこの世の中に我々の存在を知らしめるのだ。

 そうして、日本の制度の欠陥を自らに認知させ、

 日本という国は自分たちの変革を強く欲するようになる。

 その時は近い。」

中仙道なかせんどうが冷静な口調でそう言い切ると、

まるで部屋の外で話を聞いていたかのようなタイミングで

とある人物がドアを開けて室内へと入ってきた。




「・・・遅れてしまって申し訳ございません。」

外から入ってきたのは人間、というよりも立派な「怪人」であった。


「遅いぞ、コンセキュエント・デステニ!」

明慶あけよしは声を大にして注意をする。


・・・コンセキュエント・デステニの容姿は、

ひとことでまとめると、いかにもどこかの悪役っぽいデザイン。

全身「黒」を基調としているが、腕などの上半身の一部、

また顔などは濃い紫でまとめられている。

特筆すべき特徴は、顔が人間の形ではないという事だろう。

四角い顔枠の中に赤い一つ目が浮かんでいる。

人間でいう顔面にあたる位置にはその程度の情報量しかない。

しかし頭部に目を向けると、人間でいう両耳の部分から

機械を思わせるような平たい三角型のパーツが、角のように2つ伸びている。

そして肩からの黒いローブが足まで垂れていて、

ローブに隠れた身体も顔同様メカメカしいデザインのようであるが、

一応人間の身体のフォルムと近いものとなっている。


メインウェポンとして両腕に装着された紫色の半円型カッターは、

身体のサイズと比較してだいぶ大きく、その迫力を放つ。




「・・・デステニ、お前は今日どこに行っていた?

 今日はこの本部にてブラックマイスターの

 重要会議があるのは知っていただろう。

 無断でいつものように席を空けるとは何事だ?」

ユニコォンの明慶あけよしが体をデステニの方へ向け続ける。


「申し訳ありません。

 ちょっとこちらの用がありまして・・・。」

デステニという怪人からはくぐもった男性の声が聞こえてくるが、

彼に動作は見られない。


「ブラックマイスターの中で唯一公認されている”フォーサー”、

 コンセキュエント・デステニか。

 私は今初めて見たぞ。」

八重樫やえがしという名の男が独り言のように呟く。

すると、それに賛同するような呟きが室内に溢れる。


「ほう、初顔合わせの者もいるようだな。

 ならば正式に紹介しておこう。

 彼はアトラクターではない”フォーサー”であるが、

 我々に助言をもたらす協力者だ。

 この組織が成り立って間もない頃、俺も助けられた。」

中仙道なかせんどうはそう言いながらデステニとの距離を詰め、

彼の隣に並ぶように立った。


「おれは・・・コンセキュエント・デステニと申します。

 よろしくお願いします。」

そう言うと、デステニと紹介されたフォーサーは深く頭を下げる。


「・・・なぜ変身を解かない?

 この会議室で怪人態でいる必要はないだろう。」

八重樫やえがしは不審そうに尋ねる。


「そういう約束だ。

 ヤツの人間態は明かしてはならないそうだからな。

 この俺でも見た事はない。

 が、その助言の適格性から、

 彼は優秀な協力者である事に間違いはない。

 無意味な内乱は起こさぬように。」

組織の首領である中仙道が紹介を終えても、

他のAランク適合者たちは何やら納得がいかないような様子であった。

当然の事、その存在を知っていたユニコォンの明慶あけよしも含め。


「それでは、1週間後の第2回目の作戦について、

 詳細な確認を進めていく。」

中仙道はそう言い、自分の席へと戻ると、

平然と話し合いを再開するのであった。



























―――――その頃、上戸鎖かみとくさりたちは―――――




上戸鎖かみとくさり様、調子はどうでしょうか?」

会議室のソファに座った野佐根のざね

窓際のデスクに座っている私へと問う。


「・・・身体の調子は問題ありません。

 ですが私は・・・この先どうすれば・・・。」

昨日、私は対峙していたリヴァイアサンから逃げ、

自身の安全を確保したが、

それは言うまでもなく私にとっては屈辱でしかなかった。

私はあのリヴァイアサンに”支配”されたのだ。

私の意思の叫びとも言えるであろう支配という行為を

他者へと譲ってしまった。

それも、他のローズ・ブレイカーへと・・・。


当然、物理的に勝てない相手という存在がいて不自然ではない。

そう頭では分かっていても、身体が落ち着いてくれないのだ。

支配という私の最大の欲望を完全に抑制するというのは

不可能だという事だろう。

そのためには本格的にトレディシオン・ルイナーを強化しなくてはならない。

その結論までは辿り着く事に成功したが、

肝心の方法が思い付かない。


「あのウォッチを使用する事により、

 多少の戦闘能力強化を図る事は不可能でしょうか?

 現にトレディシオン・ルイナーはサイクロプスを追い詰めましたよね。」

「確かに、あの3モード変形のうち、

 特に最後のパラモードは自身の動きを高速化し、

 相手を翻弄する技に長けています。

 しかし・・・リヴァイアサンはあのモードでは確実に倒せない・・・。

 ヤツのあの地響きを起こす拳を食らえば、

 例え一撃だとしても即死です。

 あんな恐ろしい戦況でまともに戦える訳がないでしょう?

 それに・・・。」

「リヴァイアサンは精神干渉攻撃を持つ。

 それによってこちら側の動きは徹底的に鈍ります。

 更に、あの怪物の硬質化した皮膚による防御力は異常・・・。

 全ての攻撃を受け切った上で即死の攻撃を放つというのが

 ヤツの戦法でしょうが、これは戦闘において非常に有効です。

 おそらく、あの堅い防御を突破すれば道は開けるはずですが、

 戦闘を拝見した状況から判断すれば、

 トレディシオン・ルイナーにはそれができません。」

野佐根のざねが私を責め立てるかのように

リヴァイアサンを分析した結果を公表する。

しかし、私に気遣わず的確な状況判断ができるという点は

個人的には評価点に値する。


「・・・もはやあの怪物は相手にせず、

 逃げるという事に徹すれば問題ないのでは?」

「それはできません。

 私の欲望が私に対して囁くのですよ。

 あの怪物を倒せ、と。」

「ならばその欲望を見直してみるというのは如何でしょうか?」

私は、軽い様子で出てきた野佐根の言葉が瞬時に耳に焼き付く。

・・・欲望を見直す?


上戸鎖かみとくさり様、あなたの”支配”という欲望は

 実に明確であり、そして同時に抽象的でもあります。

 支配という文字だけが宙を浮くような現状では、

 本当の欲望を満たす事はできないでしょう。」

「それは・・・。」

野佐根の言葉を理解するのには多少の時間が掛かった。

確かに、私の欲望はどうすれば「完全に」果たされるのだろうか?

目の前のものに私の力を見せ付ければ

そこにこそ絶対的な支配が実現されるという事を

私は固定観念として自身の内部に持っている。

だが、それは終わりの見えない永久とも言える反復施行である。

何をすれば私の内部にある全ての欲望が満たされるのかは、

不明のままだ。


そして、現状では力を見せ付けられていない。

そこに現実と理想のギャップが生まれ、

思考内では安静を取り戻せないでいるのだろうか?

ならば・・・欲望自体を見直す事で

もしかするとリヴァイアサンを”支配”できるというのか?


「フッ・・・野佐根さん、

 あなたは見かけによらず意味深い事を呟くのですね。

 どうやら、リヴァイアサンを”支配”する事を

 諦める必要はなかったようですね。」

私が僅かな笑みを野佐根へと向けると、

彼女は役目を終えたとでも言うように

ソファから素早く立ち上がり、軽く一礼をして部屋を去っていった。


・・・結果を変えずに、見方を変える。

その過程で以前と同じ道のりを辿っても構わない。

問題なのは、どのような感情と共にその道を通過するのか、

という事なのだろう。


私は必ずリヴァイアサンを”支配”してみせる。



























―――――その頃、とある地下室では―――――




「・・・そこでなぜか奴らの思想が

 伊集院いじゅういんさんと似通っていると思った訳ですが。」

8畳ほどの薄暗い地下室には

用意されたデスクの椅子に座り、キーボードを操作する人間が1人、

また彼の横に立ってPC画面を見ながら話す人間が1人いた。


内垣外うちがいと、私は世界変革などは求めない。

 そのユニコォンとやらが汚染された人間世界に価値を見出し、

 その人間に可能性を求めて世界変革を開始する旨を話していたというならば、

 それは私から見ればあまりに愚かで、つまらぬ野望だ。

 かつての私の思想を曲解した者のイタズラなのかは分からぬが、

 その手口は過激で、私の唱える”ゴミ”の条件を満たしてしまっている。」

白衣姿の伊集院いじゅういんはキーボードを打つ手を止め、

見上げるように隣の内垣外うちがいとの顔を見据える。


「・・・という事は処刑リストにヤツらも追加、ですよね?」

「言うまでもない。

 だが、アトラクターとやらの技術は今のところ不明な点が多い。

 あれだけのテロを社会から隠れて計画していたとなると、

 ある程度の規模を誇る可能性も否めない。

 そこで、今回の処刑は私が自ら担当する。」

伊集院いじゅういんはそう言いながら再びPC画面へと目を移し、

何やらキーボードを素早くタイピングし始めた。


「・・・これは、黒スーツの男たちですか?」

PC画面に映し出された映像は、

設置された自動カメラで都内の街路を映したようなものだった。

次々と異なる場所の映像に切り替わり、

その映像には黒いスーツに身を包んだ男たちが

建物から出てくる様子が映し出されている。


「これは昨日の早朝、都内の監視システムにハッキングをして入手した映像だが、

 これらの建物から大量の黒服たちが出てきている。

 よってこの中のいずれかが例のブラックマイスターの本拠地、

 あるいは集合場所である可能性がある。」

「場所がこれだけ鮮明に分かっていれば俺が行きますけどねぇ・・・。

 伊集院さんにもしもの事があったら危険ですし。」

「いや、今回は私が単独で行く。

 これは私の好奇心から来る”衝動”なのだ。

 ・・・邪魔をしないでもらおうか。」

伊集院は口元を歪ませ、そのまま椅子から立ち上がった。

その口だけを歪ませた何とも言えない笑みを見ると、

内垣外うちがいとは目の前の男が殺害を楽しむ処刑人である事を再認識した。


「フッ・・・どうやら、訪問客のようだな。」

伊集院がそう言いながら出入り口になっているドアを見据えると、

次の瞬間、それはゆっくりと開き始めたのだった。


「・・・あんたは、こんなところで仕事しているのか。」

ドアをくぐり現れた人影の正体は、

アブソリュート・アーツ社の岡本おかもと 龍星りゅうせいだった。

藍色のスーツに身体を包んでいる。


岡本おかもと 龍星りゅうせいか。随分と久しいねぇ・・・。」

内垣外うちがいとが彼の顔をまじまじと見据えながら

驚いたような声を漏らした。


「明かりを抑えたLED照明を用いて何か問題でもあるか?

 それより、昨日の今日で早速この私の秘密基地を訪れるとは、

 一体何事なのだ?」

伊集院はどこか皮肉そうな感情を込めてそう訊く。


「・・・あんたに預けに来たんだ。

 俺が開発したチューニドパワーシステムを。」

岡本は真剣な眼差しでまっすぐに伊集院の顔を見据える。


「それは、随分と急な話だな。

 何があったというのだ?」

「結局、俺が主立って開発したアーマーは未完成のままで、

 それを使用していた陽遊ようゆう はじめ

 酷い目に遭わせてしまった・・・。

 もう俺にアーマーの開発をする権利などないんだ・・・。

 だから、今までの研究で得た技術の全てをあんたに託す。

 それで少しでもこの世界の"救済"に繋がるのであれば、

 俺の研究を是非あんたに受け継いでもらいたい。」

そう言うと、岡本は右手に握っていた大きなスーツケースを開き、

内部の細々とした様々なパーツが見えるようにケースを傾けた。


「フッ・・・皮肉なものだ。

 お前は10年前に私を倒すために挑み、その望みを見事叶えた。

 その後は私と対立する事で差別化された思想を持ち、

 研究を続け、アーマーの開発に至ったに違いないだろう?

 私への対立心が具現化されたとも言えるそのアーマーを私に託すと言うのか?」

伊集院が腕組みをしながらそう言うと、

岡本はケースをパタッと閉じた。

すると、次の瞬間、その場で静かに頭を垂れたのだった。


「俺はあんたを敵だとも思っていないし、

 むしろ俺なんかよりも俺の理想を実現するに相応しい人間だと思う。

 だからこの通りだ。

 俺の・・・俺の研究をどうか完成させてください。」

その後、10秒ほど沈黙が続いたが、

伊集院が乾いた笑いをこぼす事でそれは破られた。


「私がそのような研究を引き継ぐとでも?

 預かってやる事に抵抗はないが、

 私はこれを完成させるとは言わぬぞ?

 それでも良いのか?」

伊集院は呆れたように渋々そう言うと、

岡本おかもとは頭を上げ、

手にしていたスーツケースを伊集院へと差し出した。

それが彼の答えをしっかりと示している。


「サンプルパーツと・・・これは研究に関するデータか?」

伊集院はケースを即座に開け、中身を確認しながら呟いた。

彼はまず中から黒いUSBメモリを取り出し、

それを見せ付けるように岡本へと突き出した。


「その通りだ。

 ・・・では、俺はこの辺で失礼する。」

岡本はそう言うが早く、

元来た出入り口の扉へと急ぎ、そこから去っていくのだった。


「・・・例のチューニドパワーシステム、ですかねぇ。

 ニュースとかで話題になってる。

 でも、伊集院さんのDEADデッドシステムさえあれば

 もはやこんなものは存在価値すらないでしょう。」

内垣外うちがいとは伊集院の手元のケースの中身を見ながら

吐き捨てる様にそう言う。


中二宮ちゅうにきゅうXレア、か。

 人間の脳だけで動力源が確保できるアーマーという点は評価できるが、

 そのパワーの変換効率が悪い。」

伊集院は再びデスクに座ると、

USBメモリをスロットへと挿した。


「伊集院さんはこの中二宮ちゅうにきゅうXレアの事をどこで?」

「アブソリュート・アーツ社の社長である園原そのはらからデータを入手した。

 そもそも、私を10年弱も閉じ込めて生活させていたのはあの男だ。」

伊集院は軽快にキーボードを打ち鳴らし、

岡本おかもとが持ってきたUSBの中身を確認していく。




「・・・これは、脳のリミッターを解除するために脳への負担が大きく、

 使用者のアーマー使用回数に制限がある。」

「そんな危険なアーマーを平気で開発していたんですか?

 使い道はなさそうですねぇ。」

「しかし、脳のリミッター解除という、

 DEADデッドとは違ったパワーソースを持つために、

 DEADでは不可能な部分から力を引き出す事ができるという長所もあるようだ。」

伊集院が操作するPC画面には

中二宮Xレアの基本構造が画像と共に表示され、

伊集院はそれを物凄い速さで自身の頭に入れていく。


「ならば、DEADデッドと同じチートエンジンである

 永続神力えいぞくしんりょくアベイレイヴ・ワールドを

 第二のパワーソースとして導入して使用するのはどうなんでしょう?」

「言うまでもないが、

 そうなると使用者の脳、身体と双方に相当な負担がのしかかる事になる。

 ・・・だが。

 それを実現した”新型アーマー”の性能は実に興味深い・・・。」

画面上には、何やら全身が紫色で、

特に頭部の金色の湾曲した角が目印となる、

新型アーマーの全身像が表示されている。

だが、未完成な設計図のようで、

ほとんどが人間状態のサンプルモデルとなっているようだ。




「この画面上のアーマーは何でしょうか?」

「おそらく、岡本のヤツが途中まで開発をしていた強化中二宮Xレアだろうな。

 相当な初期段階で名称を決めるまでにも至らなかったようだが、

 どうやら羊をモチーフとしているようだ。

 ・・・これにアベイレイヴ・ワールドを組み込む過程を潜れば

 ダブルパワーソースの恐ろしい性能を誇るアーマーが完成すると思われるな。」

「しかし、それを操るには、中二病である上に、

 尋常じゃない負担に耐える事ができる”適合者”が必要なのでは?」

「・・・問題はその点だけだ。」

伊集院はキーボードを打つ手を止め、

椅子の背もたれに寄り掛かった。


「そもそも、このアーマーを完成させる必要があるのかは疑問であるが、

 適合者はいないでもない。」

伊集院がそう言うと、内垣外は不思議そうな表情を浮かべた。


「それだけの条件を満たす適合者が存在するのですか?」

「身体への負担を抑えるには、身体を強化すれば良い。

 ・・・フォーサーのようにな。」

「な、それは!?」

内垣外は驚きと共に大声を上げる。


「その中二病体質とやらを持つフォーサーを探せば、

 このアーマーを託す事ができる。

 無論、適合者となるには性格を加味する必要があるが。」

「相手はフォーサーですよ?

 伊集院さんの開発したアーマーを託すなんて・・・。」

「フォーサーが全員"ゴミ"だという確証はないだろう。

 中身を確認してみない事には判断はし兼ねる。」

「そこまでして・・・伊集院さんは何を望むのですか・・・?」

内垣外の言葉を最後に5秒ほどの沈黙が続いたが、

伊集院はPC画面に目を向けたまま口を開いた。


「私は自分でも自身の欲望が分からぬのだ。

 “浄化”したいのか、それとも”殺害”を楽しみたいのか。

 悪人以外に対して殺害衝動を覚えた記憶は無い。

 が、その処理の際には必ずや、心が躍るような錯覚に囚われる。」










@第20話 「十人十色の欲望」 完結









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