@第19話 万人による万人の闘争!?
@第19話 「万人による万人の闘争!?」
山村高校の土砂降りの校庭では、
アトラクターと呼ばれる新怪人のユニコォンと
中二宮Xレアを装備したこの俺、アリエスと、
そして岩のフォーサー、グラビティロード、
また、ガトリング迷彩ことモガナオメガによる
激しい戦いが繰り広げられていたのであった。
アリエスとグラビティロードは都合上格闘技しか扱えないが、
近接戦闘になるとやはりユニコォンとはテクニック及び身体能力面で差が出て
どうにも押され気味だ。
「食らえっ!」
モガナオメガが両腕の回転式カッター、
処刑要塞AOリブーターを用いて
ユニコォンを切り裂こうと迫るが、彼の攻撃は一度も命中しない。
見るからに重そうなモーターを両腕に備えた武器を装備しているため、
彼の移動速度はこの前にトレディシオン・ルイナー戦で見た時よりも
格段に落ちている。
俺たち3人を相手にしても引けを取らないユニコォンは、
やっぱり相当な腕の持ち主だと言わざるを得ないと思う。
それこそ、あのトレディシオン・ルイナー相手でも全然戦えそうだ。
「お前らは3人掛かりで俺を倒せないとなると、
この世界で生き抜く事は難しいだろうな。」
ユニコォンがファイティングポーズのまま、俺たちを挑発する。
「この世界ねぇ・・・それは”社会”と同義って理解で良いのかなぁ?
確かに、この日本の社会では今やフォーサーだのアトラクターだの
色々な頭のおかしいヤツらが溢れている。
俺みたいな立場上、戦いを回避して生きる事はできないだろう。」
モガナオメガがユニコォンへと返答する。
「その通りだ。が、その状況も、もうじき変容する。
我々ブラックマイスターによってな。
我々はこの万人による万人の闘争状態にある世界を、噛み砕けば社会を、
変革するためにこうしてテロ行為に及んでいる。」
「それは、主にフォーサーによる闘争という事か?」
モガナオメガは興味津々、と言った様子で
対峙しているユニコォンと会話を始める。
「いや、フォーサーでも、アトラクターでも、
ましてや、そこの変なアーマーを付けたヤツらでもない。
・・・闘争の当事者は”民間人”だ。
それを形容するが如く、お前らもまさに闘争状態ではあるが、
我々の行動理念は民間の争いに端を発している。」
「フン、安心しろ。人間なんて大したもんじゃない。
精神面の闘争なんて日常茶飯事。
そんな事に気を配っていちいち社会を変革していたら身体が持たない。」
「いや、我々の考えでは、人間はそこまで愚かな生物でもない。
現にこうして欲望が世界を構築し、あらゆる技術は進化を遂げ続けてきた。
人間には素質が期待できる。が、この世界でそれを主張するには遅すぎた。」
「・・・遅すぎた、とは?」
「フォーサーたちの暴動で社会からは隠されているが、
今の世界では民間人の中での様々な悪事、いや社会に蔓延した矛盾が横行している。
こうなればもはや、世界を再構築するしかない。」
「なるほど、構築の前段階である破壊。
お前らブラックマイスターの最初の目的はそれか。
となるとこのテロ行為後には政府を乗っ取りでもするのか?」
「・・・少し喋り過ぎたか。
まぁ、お前らはどうせここで始末される身だ。
あの世で我々の変革を観察しろ。」
「お前らの手段には何故か伊集院さんのような面影を感じていたが、
実際は伊集院さんとは似ても似つかないねぇ。
そうなれば俺は心置きなくお前を消す事ができる。」
モガナオメガはそう言いながら
両腕の回転カッターを勢いよく稼動させて見せる。
「消すという台詞は俺のものだ!」
ユニコォンは会話していた地点から跳躍し、
モガナオメガの頭部に向けて回し蹴りを放つ。
モガナオメガはそれに反応し、その命中が予測される場所にカッターを移動させる。
が、ユニコォンの足は宙を蹴り、モガナの上部を通過した。
あまりのトリッキーさに
それを目の前で確認したはずのモガナでも反応できない。
ユニコォンは彼の背後へと素早く着地すると、
背中へと右足を突き付けた。
着地後という事もあり、さっきの跳躍の勢いは残っていないけど、
ユニコォンの素の脚力はモガナを前方に転ばせるだけの力はあった。
「パワーだけ意識しても戦闘には勝てない!」
ユニコォンは前方へと転がったモガナに対して繰り返し右足を突き付ける。
・・・観戦モードに入っていた俺と岩のフォーサーは我に返り、
モガナを執拗に蹴り続けるユニコォンへと背後から迫る。
俺は加速を付けたその勢いを拳に乗せ、ユニコォンの背中に向けて突き出した。
が、彼はまるで背中に目が付いているかの如く瞬時に背後を振り返ると、
俺の拳に対して、右足を高く上げてそれを弾き飛ばす。
このアーマーを付けていても、手にキックを食らえば
やっぱりそれなりの痛みは感じる。
それにそのキックというのも
一角獣のたくましい脚力を模したかのような凄まじい威力だ。
あまりの痛みに怯んだ俺は、そのまま動きを封じられ、
その隙に腹部へとユニコォンの足をめり込まれた。
「ぐおっ!?」
泥沼化した校庭に背中を擦り付けるように3mほど滑走する。
「うおおおお!!」
倒れた俺に追い打ちを仕掛けようと右足を上げたユニコォンに対して
俺の背後から迫っていたグラビティロードが突っ込んだ。
全身の各部位が岩になっているというだけあり、
そのタックルは恐ろしい威力を発揮しそうに思える。
案の定、ユニコォンは打たれたボールのように宙を飛ばされ、
うつ伏せになるように土砂に突っ込んだ。
その隙に先ほど倒れていたモガナは起き上がり、
俺たちの方に合流する。
「・・・そろそろ、私の必殺技を繰り出そう。
私を含め、私の付近の物体にかかる重力が一定時間増量され、
動きを制限する事ができる。
その隙にお前の回転カッターでとどめを刺せるか?」
この岩怪人はそんな凄い技を持っていたのか・・・?
ったく、大事な事は最初に言えよ!
「あぁ、やれるだけやってみようかねぇ。」
「時間がない、行くぞ!
物理空間、展開ッ!!」
岩怪人はそう言い、両手を開き、
まっすぐに手の平を倒れているユニコォンへと向けると、
突然、謎の唸り声を上げ始める。
すると、だんだんと俺も自分の身体が重くなっていくような感覚に囚われた。
「何だコレ!?」
俺は焦ってふと隣を見ると、
同様にモガナも異変を感じているらしく、
両足を曲げながら必死に立っているような格好になっている。
「今だ!ユニコォンを殺してくれ!」
岩怪人が後方を振り向き、モガナへと指示をする。
が、モガナの様子は明らかにおかしかった。
「ちょっとお前さぁ・・・これじゃあ俺も動けないんだよねぇ。」
彼は立っているのもやっとだと言う様子で苦しそうにそう言う。
「クッ・・・やはりその回転カッターを付けているデメリットは大きいか。」
岩怪人はそう言うと単独でユニコォンへと向かって走り出した。
俺は立っていられないほどではないけど、
動きにくいという点ではさっきよりも不利になったような気分だ。
でも、そう感じているのはユニコォンも同じはずだから、
不利って訳じゃないんだろうか?
岩怪人は、地面から立ち上がり違和感を覚えるユニコォンとの距離を詰めると、
巨大な岩の拳で右アッパーを繰り出した。
しかし、ユニコォンはステップで身体を後方へと移動させたため、
拳は宙をすり抜ける。
「何!?」
「どうやら・・・墓穴を掘ったようだなッ!」
ユニコォンは前方へのステップで岩怪人に接近しながら
得意な回し蹴りを繰り出す。
重力領域内でのスピードとは思えないほど素早い移動を繰り返している。
だとしたら、アイツの身体能力が重力の増量も影響しないほどという事だろうか?
岩怪人は合計で3発の蹴りを食らった後に地面を転がり、
それに伴って俺たちにも影響していた物理空間は解除された。
「くそっ・・・重力の比重を大きくすれば
逆にヤツにとっては有利になるとでも言うのか?」
岩怪人はやおら起き上がると、
ユニコォンから距離を取るように後退する。
「・・・そろそろ反抗は無駄だという事が理解できたか?
いい加減、潮時だろうな。」
そう言い、ユニコォンは腰にぶら下げていた小さなケースを手に取ると、
その中から緑色の溶液が入った試験管を取り出した。
「使うまでもないと思ったが、より大幅な差を見せ付けるべきだな。
この”トリメンダス”を使用し、いよいよ貴様らを処分しよう。」
ユニコォンはそう言うが早く試験管のフタを取り外し、
その液体を自身の口へと勢いよく流し込んだのであった。
「・・・俺の・・・グラスプ・ユニコォンの真の姿を見せよう!
お前らなんて一網打尽なんだあああッ!!」
飲んで間もなく彼の右脚がムクムクと成長して大きくなり、
その右足先端が金属質に見える銀色のパーツでコーティングされた。
変化が無いそのままの左脚とは2倍ほど大きさが違う、
アシンメトリーな怪人が誕生した。
「これが俺のフルフィルモード・・・エクストラオーディナリィレッグ!」
ユニコォンは数秒間、自分の大きくなった右脚を見つめていたが、
不意に地面を蹴り放ち、跳躍しながら回し蹴りを繰り出す。
その到達目標地点は当然ながら俺らの場所だ。
でも、俺は瞬時にとんでもない危機感を抱く事になった。
その太くなった右脚の鋭い先端は俺の腹部へとまっすぐに迫っていたからだ。
もちろん、避ける暇はない!
パニックに陥る俺が考えるよりも以前に、
俺の両腕は自然とその足を受け止めようと動き始めていた。
次の瞬間、不吉な破壊音が響き渡る。
同時に、俺の両腕の感覚は瞬時に消え去った。
そして自分の腕を確認するより前に、尋常ではない痛覚が俺を襲う。
「ぐわああああッ!!」
俺は背中から土砂に向かって崩れ落ち、
そのままもんどりうつように地面を右に、左に転がる。
そうしないと溜まらないほどに痛烈に俺の痛覚を刺激する。
「大丈夫か!?」
岩怪人ことグラビティロードが
俺のすぐ前にいるユニコォンに向かって岩の拳を突き出す。
しかし、ユニコォンは左右でアンバランスな身体を軽快に移動させ、
再び俺たちとの距離を取った。
「・・・痛ッ・・・。」
俺は泥だらけになりながら自分の両腕を確認する。
するとアリエスの前腕部分の装甲が粉々に砕けており、
既に俺の意思通りには動かなくなった俺の手が露出していたのだった。
―――――その頃、東京のレボリューショナイズ社本社ビルでは―――――
「リヴァイノミクス・・・だと?」
この私、上戸鎖ことトレディシオン・ルイナーの目の前に現れたのは
身長が2.5mほどの巨大な海獣、リヴァイアサンであった。
身長180cmほどの私とは1mも差が開いていないはずであるが、
その異様な存在感に身を包んだ姿は、
視界に映ることで余計なほどの脅威を主張するようである。
「・・・ブラックマイスターにより世界は変革されるのだ。
そのためには”法”を人々に今一度再認識させる必要がある。」
「法、というのはLawという意味でしょうか?」
私の隣にいたサソリ型フォーサー、スコーピオンが問う。
「その通りだ。
“法”は人間が社会的生物であるが故に、
また社会的生物であり続けるために、必要不可欠な要素だと俺は考えている。
だが、法で裁けない人間の行いに対してはどう対処する?」
リヴァイアサンは私にとってはぎりぎり聞き取れるぐらいの
相当にくぐもった声で自身の思想を述べ続ける。
まるで海獣が意識を持って日本語を話しているようだ。
「・・・それは対処できません。
そのための法であり、それを超える制裁は加えられない。」
今度は私が口を挟むと、リヴァイアサンは大きく頷いた。
「まったく、この世界はそうだろうな。
しかし、現代の法で裁けない者の中にも
裁かねばならない人間もいる。
貴様らは伊集院 雷人という人間を知っているか?」
「はい・・・確か10年ほど前にアブソリュート・アーツ社で
シンギング・ウォーズの開発と運営を行っていた方です。
既に自殺して、この世にはいないはずですが?」
その昔、私が大学を卒業する頃に
そのゲームのせいでカラオケは大流行していた。
私がそのゲームで遊ぶ事はなかったが、
友人から話を聞いた事ぐらいはある。
「そう、あの人は既にこの世にはいないだろう。
・・・しかし、あの方の思想は素晴らしいものだった。
単なる噂に過ぎないし、誰かの作り話かもしれないが、
伊集院氏はどうやらゲームの運営と並行して
不必要な人間の処分をしていたらしい。
この社会に迷惑を掛ける、愚か者の処分を、な。
そこで俺は考えた。
そもそもの根底として、愚か者を”殺処分”する機能を持つ世界を構築すれば、
いちいち誰かが手動で手を汚す必要がなくなる。
美しいだろう・・・俺たちが目指す世界は。」
リヴァイアサンは巨大な目をギラリと光らせ、
大きな口を僅かに開いてみせる。
「・・・それは死刑制度の強化という事でしょうか?
そんな事をすればあなたたちは間違いなく首を撥ねられますよ?
あなたたちは現に、その法を犯している。
あなたが不十分と主張する現在の法でもあなたは十分なまでに裁かれる。」
「フンッ・・・かつてイギリスでマグナ=カルタが発表された。
それは国民の激しい抗議によって彼らが掴み取った、言わば勝利の証だ。
ところで、それはどうして成し得たと思うか?
周囲を蔓延している法のような身勝手な決まり事、
それに対抗したからに決まっている。
目の前の決まり事に従っていては現状は変革できない。」
つまり、ブラックマイスターとやらは
日本の社会の仕組みを変えるために動いている組織だという事か?
何とも大きな夢を抱いているようだが、
夢というものは大きければ大きいほど夢でしかなくなってしまう。
「貴様らは、現代の法の守護の一環として俺と対峙するのか?
まぁ、貴様らが現状にある程度の満足を得ているようならばそれも問題ない。」
「フッ・・・とんだ勘違いを。
私は平和な世界にも法にも特に興味はありません。
自分の欲望さえあれば、人はそれに従って生きる事ができる。」
私が主張すると同時に、
リヴァイアサンは乾いた笑いを軽く漏らした。
「それで実現するのは・・・万人による万人の闘争。
それは美しくない・・・非常に美しくない。
その発端となる存在を合法的に”殺処分”できる世界を俺は創る!!」
リヴァイアサンはそう言い終わるが早く、
太い両腕に力を込め、両手の拳を高く天井へ掲げる。
「・・・ヴォオオオオオオオオ!!」
彼はそのまま物凄い声量で唸り声を上げ始めた。
思わず耳を塞ぎたくなる衝動に駆られるほどの
やかましく、醜い声だ。
声、というよりも”鳴き声”というべきだろうか。
私がすぐに戦闘体勢に入り、武器を生成しようとしたその瞬間、
正面ロビーを飾るガラスというガラス全てが次々とひび割れ、
すぐさま砕け散った。
定常波に対して、物体は非常に脆い。
それは伝達物質が「音」でも変わりない。
同じ波長の音を繰り返し与え続ける事により、
ガラスのような硬質素材は砕けてしまうのだ。
「くっ・・・これではこのビル自体がもたないか?」
「上戸鎖様、屋外へ避難しましょう。
ここでは下手をすればビルの下敷きになります。」
スコーピオンの指示で私は入り口のドアを見据える。
ガラスが割れて無残に映るが、
問題なく通路にできるだろう。
私はそのまま走り出し、背後に続いてきたスコーピオンと共に、
ビルの外へと出た。
ふと外からの本社ビルを見上げると、
上の階まで連なるように次々と窓ガラスが損傷していき、
ガラスの雨が降ってきていた。
「リヴァイアサンは非常に危険な相手である事に間違いありません。
アトラクターの詳細が不明なまま戦闘を続けるのも得策とは言えませんから
この隙に逃げ出すのも良いかも思いますが・・・。」
スコーピオンの提案に対して私の思考の30%程度は賛成票を投じていた。
が、残りの70%は反対票で、最終結果は決定していた。
「この私が逃亡というような惨めな結果を残してはならない。
あなたが危険だと判断したら単独で逃げてもらって結構です。」
『でも、この間あなたは逃亡したでしょう?
例のフォーサーレベルXから。』
・・・何だと?
私はスコーピオンの返答について不審に思い、
ふと彼女の方を見据えた。
「・・・私は上戸鎖様の監視役です。
そんな無責任な事はしませんよ。」
「・・・あなたは今、私に何と言いましたか?」
私が問うと、彼女は3秒ほど固まり、その後不思議な様子で続けた。
「いえ、監視役である故に私単独での逃亡はしないと・・・。
幻聴でも聞きましたか?」
『あなたはフォーサーレベルXに殺されそうになり、
必死に逃げた。必死に走って逃亡したのですよ。』
私は思わず、怪人態のまま不意に吐き気を催し、
咄嗟に両手で口に当たる部分を覆った。
・・・幻聴が聞こえているのだろうか?
確かに、不審な返答は野佐根の声ではなかった。
彼女の声は高くて、声優のような優しそうな声だ。
今聞こえた幻聴は・・・男のものだった。
それも、聞き慣れた、親しみのある声質。
「あなたは・・・一体誰だ?」
『私は上戸鎖 祐樹ですよ。
あなたが誰よりも一番知っているであろう。』
私は両手で頭を押さえ、
必死にその幻聴を振り払おうとする。
「上戸鎖様、誰と話しているのですか?
やはり調子が悪いならばこの場は引いた方が・・・。」
1人で頭を抱えて苦しむ私が彼女の目には不審に映ったのだろう。
それもそのはずだ。
私とスコーピオン以外には他に誰もいないところで
私は突然誰かと会話を始めたのだ。
『あなた程度の支配力では
あなたが望むほどの影響を及ぼす事は永遠にできません。
あなたはこれからも失敗し続ける。
これ以上続けても城ヶ崎の言う、”無駄な努力”ですよ?』
「私は・・・無駄な努力などしない!
私はこの目に映る者全員をいずれ支配してみせる!!
上戸鎖 祐樹はこの私だッ!」
私は必死に幻聴を振り払い、ビルの入り口を見据えると、
ちょうど叫び終えたリヴァイアサンがそこから出てきたところであった。
「どうやら、貴様は幻聴が聞こえているらしいな?
俺の”ストロングイェンモード”は、
周囲の対象を巻き込み、その者に過去の後悔などを思い出させ、
戦闘への集中力を削ぎ、動きを鈍らせる事ができる。
その症状は様々らしいがな。
よりプライドが高いヤツほど後悔に対する執念などから、
影響力も大きいだろう。」
ストロングイェンモード・・・?
「円高」で輸出が停滞して経済が滞る事を意識したネーミングだろうか。
「まさか精神干渉攻撃を持つとは・・・。
では、先ほどの雄叫びはその発動条件でしたか。
やはりあなたは侮れないようですね。」
スコーピオンが私の隣で口を開く。
ヤツの攻撃がそれだけ効いているという事は、
私のプライドがそれほどのものだというのか?
そして、隣のスコーピオンこと野佐根には
まったく効果が見られない事から、その逆であると?
「俺はこの巨体を動かすのに力を必要とする。
故に、移動速度面ではどうしても欠陥が残る。
・・・そのためにはどうすれば良いか?
簡単な話だ。相手の動きを鈍らせれば良い!」
そう言うと、リヴァイアサンは地を蹴り放ち、
物凄い巨体を揺らしながらこちらに向かってくる。
彼の威圧感も相当なものだが、
私はヤツの周囲では幻聴に襲われ、
戦闘に集中できない。
すぐに隣のスコーピオンが背中の8本の尻尾を一斉に伸ばし、
接近中のリヴァイアサンの身体に突き刺そうとするが、
その先端は先ほどのアトラクト使用者同様に刺さらない。
「・・・ならば!」
次の瞬間、バチッと電撃が飛び交う音が繰り返し響いた。
その電撃はすべてリヴァイアサンの身体に流し込まれたはずであるが、
リヴァイアサンは何事もないように迫ってくる。
「フンッ、その程度の電撃で俺を止められると思うか?」
リヴァイアサンの動きは非常に遅い。
フォーサーの場合、怪人態であれば全体の身体能力が上昇するため、
私でも50mは4秒ほどで走行が可能となる。
だが、彼の場合はおそらく10秒以上かかるであろう。
「こんな幻聴なんて・・・何ともないんですよ!」
私はゆっくり接近してくる怪物に向かって走り出した。
『またあなたは負ける。
ここで負けて再び自信を打ち砕かれる。』
「うるさい!それは結果を見てから決める事だ!」
私とリヴァイアサンの間の距離は残り10mほどまで詰められた。
「死ねえええい!!」
リヴァイアサンは迫力のある巨大な拳をまっすぐに繰り出す。
私は直感的にその拳を食らってはならないような気がして、
慌ててその場でほぼ真上へと向かって跳躍した。
次の瞬間、跳躍した私の足元で物凄い地響きが響き渡る。
「な、何だこの威力は!?」
拳が地面へと到達すると同時にアスファルトには亀裂が走り、
その亀裂は四方八方へと広がり、本社ビルの方へと一瞬で伝達された。
私は思わず後方へステップを切り、ヤツとの距離を取る。
が、リヴァイアサンは構わずに連続で拳を握り、
私へと向かって突き付けてくる。
咄嗟の判断で私は左方向へと転がり、その拳を避ける。
と、同時に再び地響きが起こる。
「・・・この腕力・・・あのフォーサーレベルX以上だとでも言うのか!?」
以前、私が戦ったフォーサーレベルX、カオティックフロッグは、
巨体にも関わらずカエルの脚力を利用した比較的に素早い立ち回りが可能であったが、
目の前のリヴァイアサンは起動性能を犠牲にして得たかのような
圧倒的な腕力で敵をねじ伏せる戦法であろう。
結果的にどちらが強いとは言い切れないが、
地響きを片腕で起こすほどの化け物はいわずもがな、恐ろしい。
これまでにそれほどの腕力を持つローズ・ブレイカーには遭遇した事がない。
「俺はこの力で世界を創造する。
罪人を無残に殺したとしても誰も文句を言わぬ、
美しい世界をッ!!」
リヴァイアサンはそう言い切ると、
私を狙うのではなく、自分の足元に向かって
その巨大な両腕の拳を力いっぱい叩き付けた。
・・・おそらく、ヤツが罪人を恨むのには理由があるはずだ。
それに、ヤツの願いは具体的で、迷いが無い。
それが原因となり、これほどまでの激しい威圧を発揮できるというのか?
リヴァイアサンによる激しい地響きが起こり、
私は思わず更に後退を進めた。
相変わらず私の幻聴は私に逃げる事を推奨し続けている。
その瞬間だった。
私はとある違和感に気付いた。
私の視界には15mほど先にリヴァイアサン、
その更に後方にはレボリューショナイズ社の本社ビルが映っているのだが、
本来動くはずのないものが私の視界中で動作を始めたのだった。
「あれは・・・!?」
思わず斜め上方を見据え、その不自然な光景を目の当たりにする。
「チッ、少しやりすぎたか。」
リヴァイアサンは自分の背後を振り返り、
本社ビルがこちら側に向かって倒壊を始めた事を確認する。
ビルは当初ゆっくりと傾き始めたが、
途中からその崩壊スピードを上げ、私たちに覆い被さるように倒れてくる。
「上戸鎖様、ここは逃げましょう。
リヴァイアサンの起動性能はもはや一般人以下です。
この隙に逃げれば間違いなく逃げ切れます。」
スコーピオンこと野佐根は
背中の8本の尻尾のうち2本を私の腕へと纏わりつかせ、
そのまま後方へと向かって走り出した。
尻尾の引く力につられるように、私は彼女の背中を追うのであった。
・・・結果的に私は”逃走”という道を選ばざるを得なかった。
背後からは自分の会社のビルが物凄い音で崩れ去った音が聞こえてくるが、
もはや後ろを振り向く余裕すらもない。
当然ながら、リヴァイアサンにより
一時的なネガティブ思考を強要された事もその理由の一つであるが、
私は確かに背後のあの化け物に恐怖していた。
認めたくはないが、この私が他者に恐怖し、
同時に”支配”されていたのだった。
屈辱ではあるが、やはり人間というものには防衛本能が備わっているようで、
私は本能的に逃げるという道を選択した。
先ほどの自分は迷う事なく、それを選んだ。
私の”支配”という欲望はその程度だったのだろう。
先ほどのリヴァイアサンの
世界を構築するための欲望の方が
欲望の大きさとしてはよほど大きいだろう。
私を突き動かしているのは紛れもない私自身であるが、
おそらくリヴァイアサンは過去の自分によって動かされている。
ならば勝てないのは当然、と言い切れるのだろうか?
欲望の強さがローズ・ブレイカーの戦闘能力にも比例する事を
誰が証明できるのだろうか?
そんな事は単なるイメージから来る憶測でしかない。
ならば・・・私には何が足りないのだろうか・・・。
どうすればあのリヴァイアサンを倒せるのか・・・。
どうすれば私の支配欲を満たす事ができるのだろうか・・・。
逃走を続けている私の中の思考は空回りをするだけで、
確かな答えを叩き出したりはしない。
しかし、私はその答えを確かに求め続けている。
“支配”という欲望を達成するための過程でしかない、
その一つの答えを。
@第19話 「万人による万人の闘争!?」 完結




