@第17話 謎の怪人アトラクター
@第17話 「謎の怪人アトラクター」
「さぁ、荘乃、何か死ぬ前に言い残す事はあるか?」
コブラ型フォーサー、ネヴァーフーエヴァーは右手の蛇を
より強く坂本 荘乃の上半身へと巻き付け、
自分の頭部近くへとその腕を持っていく。
荘乃は必死にそれを取り払おうとするが、
人体を強化する「アトラクト」という溶液を飲んでも
そのコブラの腕は外せない。
それぐらいの強力な力で拘束されていた。
「何で俺の名前を知っているか分からないけど、
ここでは見逃してくれ!」
荘乃は必死に命乞いを続けるが、
フーエヴァーはそれを見ながら
巻き付けた尻尾の拘束を更に強める。
「今のうちにそうやって苦しめ!
お前が気絶する直前に俺の神経毒を注入して、
さっきのあいつらと同じ目に遭わせてやる。」
俺とコブラ型フォーサーが立っているのはA組の廊下だが、
F組の廊下には既に身体が動かなくなった生徒が2人転がっている。
さっき、コブラが両腕を伸ばして生徒に突き付けた際、
何をしたのかと気になってたんだけど、
どうやらコブラに準じた「神経毒」を注入したらしいな。
日本には極端にヤバいコブラがいないからそこまで有名じゃないけど、
ヤツらは人間の神経に作用する毒を体内に持っていて、
噛み付くのと同時にそれを対象に注入する。
その1回の噛み付きで注入される毒の量は
なんと人間20人もの致死量になるというのを聞いた事がある。
そんなコブラがモデルになったフォーサー、
ともなると、怖さはコブラ以上だ。
謎の組織ブラックマイスターのアトラクトっていう液体に
どんな効用があるのかは詳しくは分からないけど、
神経毒を入れられればさすがに死ぬだろ・・・。
「う、うるせぇ!こんなところで殺されてたまるか!!」
絡み付かれたコブラの腕を必死に抉じ開けようとしていた荘乃だが、
その彼の腕には、突然、
これまでとは比べ物にならないほどの力が入り始めた。
見る見るうちにコブラの腕が開かれていく。
「馬鹿な・・・この俺の腕力に対抗する事ができるのか?」
あっという間に蛇の巻き付いていた腕は抉じ開けられて、
そこに拘束されていた荘乃は慌てて後退し、俺たちから距離を取った。
さすがは陸上で優秀な成績を修めているだけあって
俺が見ても華麗なステップだ。
「俺は・・・ブラックマイスターはこの世界を変えるんだ!
お前ら犯行者は始末されるだけなんだよ!!」
世界っていきなり何を言い出すんだお前は・・・。
俺は呆れてアリエスの外部モニターに映る荘乃を見つめていたが、
彼に異変が起きている事に気付くまでにそう長くはかからなかった。
荘乃の身体は黄緑色の表皮が身体を浸食していくように広がり、
顔も人間の形から変形してきている。
こんな唐突にフォーサー化するものなのか?
と、疑問に思ったけど、バトル漫画とかの展開的には
彼はフォーサーというよりも「新種の怪人」的な方が燃える。
現に、フォーサーだったら
さっき拘束された瞬間に変身している事だろう。
そうなると、ヤツはフォーサーではない可能性が高い。
「この姿は・・・?
まさか俺も・・・俺もアトラクトAランク適合者になれたのか!?」
「アトラクトAランク、とは何の事だ?」
荘乃へとそう問うたのは俺じゃなくて隣にいるコブラだ。
「アトラクトは人間により、適合レベルが異なる。
Fランクが最低クラスで、アトラクトを服用した際の効用も
気休め程度にしかならない。
逆にAランクは最高クラスの適合率で、
その使用者が怪人、「アトラクター」にも変身する能力を持つ。」
説明しながらでも荘乃の身体は変化を続け、
いつの間にかそこには全身が黄色の奇妙な化け物が
出現していたのだった。
どうやらフォーサーに続く新たな怪人、という解釈で問題ないらしいな。
「・・・まさかこんな力を手に入れられる事になろうとはな。
俺の名前は・・・翼獣スターダスト・グリフォンで良いだろう!」
荘乃の身体は黄色の毛皮に覆われ、
背中からは1mほどの黒い翼が2枚生えている。
顔は明らかに鳥を模した姿になっており、
全体的に2本立ちしたライオンに鷲の頭が生えた容姿をしている。
身体の各部位は筋肉で不自然に盛り上がっているから
完全なライオンではないけど、尻尾とかもそれっぽい・・・。
元々、グリフォンっていうのは
上半身が鷲、下半身が獅子の姿をした伝説上の生物だから、
荘乃のネーミングセンスはなかなか高いと思う。
「何だか知らないが、怪人化したところで俺には勝てない!」
コブラ型フォーサー、ネヴァーフーエヴァーは
いち早くそのグリフォンを倒したい、といった様子で
素早く両腕を敵に向けて伸ばした。
が、グリフォンは右足で回し蹴りをするような体勢に素早く移行し、
伸ばされたコブラの腕部を両方とも薙ぎ払う。
それを見たコブラは床を蹴り、
素早くグリフォンとの距離を縮め接近戦に持ち込もうと迫る。
が、グリフォンは蛇の動きに合わせてどんどん後退していくため、
結果的にはなかなか距離が詰まらない。
が、ふとその後退するグリフォンの進路を見ると、そこには
さっきまで男子生徒3人に囲まれていた岩のフォーサーが待ち構えている。
「チッ、さすがに3対1はキツそうだな・・・。」
グリフォンは自分にとって不利な状況を把握したらしく、
突然後退を中断し、その場に立ち止まった。
ちょうどコブラと岩のフォーサーの中間地点付近だろうか?
「仕方がない!」
グリフォンは独り言のようにそう言うと、
突然、自分の左側に設置してある廊下の窓を拳で叩き割った。
グリフォンが何を企んでいるのかは明白だ。
「逃がすかッ!」
翼を広げ羽ばたいたグリフォンに向けて
コブラの両腕が迫るが、その抵抗は虚しく、
グリフォンは素早く飛行して
土砂降りの中、外へと飛び出していった。
「・・・くそっ!」
コブラの両腕は元の位置まで縮み、
そのまま苛立った様子で床を叩き付けた。
俺はそんな落ち込んでいるコブラをぼーっと見つめていたが、
次の瞬間、何やら嫌な気配を背中に感じ取り、
ふと自分の背後にあたる階段の方へと目を移した。
「がはっ!!」
俺が背後を振り返った瞬間、
唐突に腹部へと何者かから打撃を食らい、背中から床へと倒れる。
「大丈夫か?」
コブラは倒れた俺に寄ってきて、俺の上半身を無理やり起こすが、
俺は異常なまでの痛覚に襲われ、一時的に声が出せない。
アーマーを装着していてもこれだけの痛みを伴わせる攻撃
というのはさすがに恐ろしい!
痛みで揺らぐ視界の中、俺のすぐ目の前に立っていたのは
灰色のボディに群青色のラインが身体のサイドやら
腕やらに血管の如く張り巡らされた一角獣の姿をした怪人だった。
胸部には大きな青い球のようなパーツが埋め込まれており、
その激しい輝きが目を引く。
「・・・俺はアトラクター、聖獣グラスプ・ユニコォン。
お前たちの存在は我々ブラックマイスターの作戦には本来想定されていない。
それにより生じる計画の摩擦を軽減するため、
俺が貴様ら惨めなフォーサーを全員まとめて始末してやろう。」
そう言うと、ユニコォンはまっすぐに
俺たちの方へと向かって歩を進め始めた。
「計画だか何だか知らないが、
俺の邪魔をするのであれば許さない。」
俺の隣にいたコブラは立ち上がると、
右腕から生えている蛇の顔を勢いよく伸ばし、
そのままユニコォンの腹部へと蛇の顔が噛み付く形になった。
「ん?何だこれは?」
「黙って死ね!」
そう言うと、コブラは右腕に力を込めているのか
彼の右腕は細かく振動し始める。
たぶん、さっき生徒にも注入した神経毒を放っているのだろう。
ユニコォンも身体の動きが止まり、
その場で棒立ちの姿勢のまま立ち尽くしている。
「・・・グッ!」
ユニコォンは突然腹部の蛇の顔を両手で押さえると、
そのまま力いっぱいに引き離した。
蛇の引き抜かれた顔はそのまま縮みながら
コブラの本体へと戻る。
が、その蛇を引き抜いた直後のユニコォンは
身体の痺れが回って来たのか、ぎこちない動作を始めた。
両腕がプルプルと痙攣し始め、身体も震えている。
「・・・こんなつまらないもので俺を殺せると思うか?」
彼が苦しそうにそう言うと、
明らかに劣勢に見えたユニコォンの身体の群青色のラインが一斉に発光し始める。
それから数秒後、
彼の身体は何事もなかったかのように正常な動作へと戻り、
本人は身体の制御を確かめるように両手を閉じたり、開いたりしている。
「俺の神経毒が効かない・・・のか?」
「神話のユニコーンの角には浄化作用がある。
俺にもその程度の毒では効果がないようだな。」
ユニコォンはそう言いながら拳をクラッキングし始める。
明らかな戦闘体勢だろう。
「お前は・・・お前は、あのグリフォンを追えよ。」
俺は立ち上がり、すぐ隣にいるフーエヴァーへと近付くと
彼の肩へと手を置いた。
するとフーエヴァーは驚いたように頭を上げて、
俺の方へと視線を向けてくる。
「・・・お前は、誰だ?
お前もその武装は・・・フォーサーなのか?」
フーエヴァーは俺の全身に視線を巡らせるように
頭を揺らしながら俺に向けて問う。
「俺はフォーサーじゃない。
悪いけど、お前は俺の正体が分からなくても
俺はお前の正体に勘付いている。
でも、だからこそ行けよ。
お前は・・・ブラックマイスターを・・・荘乃を潰せ!」
俺が決め台詞を言うように大きな声で叫ぶと、
コブラは一瞬だけ驚いた様子で肩を震わせたが、
すぐに頷き、俺の背後へと小走りで移動し始める。
「逃がすか!」
ユニコォンはそう言いながら俺に向かって右フックを繰り出してくる。
俺を軽く倒し、その直後に逃走するコブラも止める気か。
甘いぞ!
「あんまりナメるなよ!」
俺は差し出されたユニコォンの拳に身体ごと絡む様に纏わり付く。
すると、動きを封じられたユニコォンは必死に俺の拘束を解こうと
左の拳を俺の背中に連続で叩き付けるが、
俺はどうにか痛みに耐える。
俺が時間を稼いでいる間にコブラは
さっきグリフォンが割ったガラスから身を乗り出し、
そのまま外に飛び出していった。
それを見届けた俺は絡み付けた身を素早く外し、
不意打ちのようにユニコォンの顔面へと右フックを繰り出す。
ユニコォンは瞬時に頭部を左へと移動し、それを避けると、
そのままの姿勢で俺と同じように右フックを俺の顔面に放ってくる。
俺は慌てて平手でそれを受け止めようと右手を伸ばすと、
見事にユニコォンの拳はそこへと収まった。
そのままユニコォンの右手を握っていれば
彼の動きはある程度制限できたんだけど、
俺はフックのあまりの威力に反射的に押さえた手を放してしまった。
ユニコォンは容赦なく今度は左フックを繰り出してくる。
もちろん、受け止めないと俺は顔面にそれを食らう事になるが、
自分の身体がさっきのフックの威力に悲鳴を上げているのか、
上手く手が動かない。
焦りを感じた次の瞬間、アリエスの頭部アーマーの顔面へと
ユニコォンの拳がめり込んだ。
「ぐあっ!!」
俺は痛みを感じ、一歩後退する。
が、その隙をユニコォンは見逃してくれる様子が無い。
彼はすぐに自身の右足を持ち上げると、
俺の腹部へと向けて素早く突き出した。
俺はその時に察したが、
この一角獣は近接戦闘に長けている。
つまり、わざわざ距離を縮めて戦おうとした俺は
最初から作戦負けしていたという事だ。
ユニコォンの激しい蹴りにより、俺の身体は容易く宙を舞った。
そのまま背中から廊下へと叩き付けられ、
俺は危うく意識を失いかける。
さっきユニコォンの左フックが頭部へと直撃した事で
脳が揺らいで正常に身体の制御が機能していないようだ。
すぐにはそこから起き上がれなさそう。
が、俺にはちゃんと危機感を感じる余裕というものは残っていた。
すぐ前方にはユニコォンがいて、倒れた俺へと追い打ちを仕掛けてくる。
その考えが頭をよぎる。
どうにか次の攻撃を回避するために移動しようとした俺の目には、
廊下に仰向けになっている俺を飛び越える巨大な影が映った。
「待てえッ!」
さっきの岩のフォーサーだった。
そう言えば同じ廊下にずっといたんだっけか。
岩のフォーサーはユニコォンへと
加速の勢いを乗せた重そうな拳を突き出す。
全身がゴツゴツした岩に覆われているという事もあり、
その拳だけでも普通の人間の5倍くらいのサイズがある。
それを見据え、最初は拳をぶつけ合おうとしていたユニコォンだが、
岩怪人のパワーを危惧したのか、途中で地を蹴り放ち、
天井すれすれの高さまで跳躍した。
そのゴツい拳は宙をかすめ、岩のフォーサーは慌てて天井を見上げるが、
既にそこにはユニコォンの右の踵が迫っていた。
「何?」
岩のフォーサーは両腕をクロスさせてそれを受け止める姿勢に入るが、
その体勢が整う前にユニコォンの踵は岩怪人の頭部へとまっすぐに叩き落された。
ユニコォンはその命中点を支えにして元の場所に向かって跳躍するが、
岩のフォーサーは両手で頭部を押さえて後退する。
「くそっ・・・ちょこちょこしやがって!」
ユニコォンの全身から溢れ出す力は凄まじいが、
さすがにあのゴツゴツの岩怪人には劣るだろう。
でも、戦闘のテクニックで見事にそのパワー差を埋め、
戦況を自分のペースに持ち込んでいる。
おそらく、遠距離戦に持ち込む方が勝機があると思うけど、
距離を開いたところであのジャンプ力があればすぐに距離を詰められる。
後ろに下がって~距離を取っても何とかっていうヤツだ。
これはなかなか攻略法が掴めないパターンだな・・・。
ユニコォンが倒せない!
俺は何とかその場から起き上がり、
一度冷静になるためにも敵をまっすぐに見据えながら
少しずつ後ずさりをする。
すると、後方の岩のフォーサーへとアリエスのボディが接触した。
「あ、ごめんなさい。」
「・・・私の必殺技を使えば
あのユニコォンの動きを止められるかもしれない。
だが、校舎内では生徒に甚大な被害が出そうで、使用不可だ。
どうにかしてヤツを校舎から追い出せないか?」
岩のフォーサーはやけに落ち着いた様子で
俺と作戦の打ち合わせを始めた。
冷静さを装っているのか、
それとも本当に策があるのか・・・。
「何をごちゃごちゃと話している?
生徒たちを助けるためにも、俺を一早く倒さないといけないんじゃないのか?」
ユニコォンはそう苦笑しながらクラッキングをする。
悔しいが、彼にとっては
俺ら2人を相手にする事にも何ら抵抗はないっぽいな。
でも、こっちの作戦はちゃんと聞こえていないらしい。
「さっきの割れた窓ガラスを使えば良いんじゃないですか?
あのガラスの付近で俺がユニコォンを引き寄せて、
あんたがタックルで俺とユニコォン諸共外へ弾き出すっていうのは?」
「なるほど・・・だがあの俊敏性だと、
私のタックルが命中する保証はなさそうだな・・・。
どうにかしてアイツを押さえ付けて、
一時的でも良いからユニコォンの移動を妨害できれば
もしかすると不可能ではないかもしれない。」
順調に作戦を煮詰める岩怪人だけど、
そもそもあのサイズの怪人が窓、というか廊下の窓側の壁に突っ込んだら
ガラスはおろかその場所の壁が丸ごと崩れ落ちると思う。
それでも良いなら俺は参加できるけど・・・。
「おい、お前!待て!!」
ユニコォンの突然の叫びに俺たちは相談を中断し、
彼の方へと視線を移す。
すると、ユニコォンは素早く3年A組の教室へと入った。
ユニコォンは位置的にはA組後方のドアのそばに立っていたから
たぶん教室内の様子がふと見えたんだろう。
俺は急いで走り、そのままA組の前の方のドアから教室内に飛び込むと、
内部の光景が自然と目に入り、ドア付近の入り口で立ち止まってしまった。
ユニコォンが教卓横にあたる校庭側の窓際で
血を吐きながら苦しむ男子生徒を1人右手で掴み、
左手の拳を繰り返し突き付けている。
もはや俺が助けようにもそれは手遅れだった・・・。
「まさかこの高さからベランダを伝って校庭に出ようとはな。
俺も驚かされたよ。
だがお前は大事な人質だ。いや・・・人質「だった」かな?」
ユニコォンはそう言うと男子生徒を掴んでいた右手をパッと開き、
凄まじい威力の回し蹴りをその男子生徒の腹部へと繰り出した。
男子は最後に大量の血を吐くと、その亡骸は窓ガラスを勢いよく破り、
放物線を描く様に校庭へと落下していった・・・。
「きゃあああああ!!」
すぐに教室内は悲鳴や呻き声、泣き声で溢れ返る。
ユニコォンはそれを見渡すように観察しているが、
俺が目に入るとゆっくりとファイティングポーズを取った。
「さぁ続きを始めよう、この「観客たち」の目の前で!
廊下は狭すぎるんだよ。」
俺は悠々と喋るユニコォンを見て、
思わず怒りが湧いてくる。
今殺された生徒は俺が知らない生徒だった。
だけど、そういう問題じゃない。
人を殺して平然としているヤツが許せない、
たぶん、ゲームとか漫画の主人公もこんな気持ちで戦っているんだろうと、
今の俺にはしっかりと理解できる。
逆にそういう狂ったヤツをこの手で始末してやりたい。
たぶん、シンクロ率100%オーバー。
「うおおおおおおッ!!」
俺は叫びながら黒板の向こうに立っているユニコォンへと向かって走り出す。
そのまま、俺はタックルの姿勢に入り、
目の前でファイティングポーズを決めているユニコォンを
ベランダから校庭に突き落とそうという作戦に変更する。
でも、そのアリエスのタックルがそのまま命中するとは俺は思っていない。
「どうした?さっきよりもだいぶ清々しい攻撃だな。」
ユニコォンは俺との接触の瞬間、
身体を微かに左へとずらし、直撃を避けてみせた。
「自分だけ落ちろ。」
ユニコォンはそう言い、タックルの姿勢で壁に突っ込む俺の背中へ向けて
右足を突き出してくる。
・・・ここまでは作戦通り!
俺はそこでダッシュする自分の右足を軸にしてクルッと身体を180度回転させ、
ユニコォンが付き出してきた足を両手でガッチリとホールドした。
もちろん、俺の加速の勢いは殺していない。
「何?」
俺は背中から壁に突っ込むと、教室のベランダ側の壁にはヒビが入り、
俺の身体はユニコォンと共にベランダへと投げ出された。
・・・よし!このままベランダも壊せば校庭に落下できる!
と張り切っていた俺は一瞬のうちに絶望する事となった。
「あれ?勢いが足りない!?」
先ほど俺が走ってきた勢いで教室の壁は破る事ができた。
でも、校庭に落下するためにはベランダも壊して、
そこから落ちる必要がある。
俺は今、ユニコォンの足に両手で抱き着いたまま、
ベランダに背中を付けて座っている姿勢だ。
よく休み時間とかには友達と話しながらこうしてるんだけど・・・。
俺の計算ではこれでベランダの柵も壊せるはずだったんだけど
そこまでヒーローチックにはいかないか・・・。
「良いぞ!そのままだッ!!」
諦めていた俺は謎の掛け声に驚き、
自分が走ってきたA組の黒板前を通過する道を見据えた。
なんとそこには、身体が大きくて教室のドアをくぐれないはずの
岩のフォーサーが全速力で走ってきていたのだった。
「・・・くっ!俺の足を放せ!」
ユニコォンは自分の背後から岩のフォーサーが迫ってきている状況を把握すると、
掴まれていない左足で俺の頭部を連続で蹴り始めた。
だけど、こんなところで放す馬鹿はいない!
「食らえええッ!!」
次の瞬間、ユニコォンの背中へと岩怪人の全身の重さを乗せたタックルが直撃。
それにより、ユニコォンの身体が勢い良くベランダの壁へと命中し、
すぐに俺が座っていたベランダは凄まじい音を立てて崩れ始める。
このまま校庭に落ちていけば生徒を巻き込まずに戦闘ができる!
現時点では俺と岩怪人の作戦勝ちだな!
俺は安堵の気持ちを抱きながら、ふと自分の足元を確認すると、
そこには遊園地のどんなジェットコースターよりも恐怖すべき
恐ろしい光景が広がっている!
こういう身体が落ちていく感覚はそれこそ遊園地とかで味わえるけど、
あれは見せかけの感覚であり、実際には落ちない。
でも、俺は今、実際に落下している。
地面が目の前にどんどんと迫ってきていて、
このままだと地面と接触する!
・・・まぁそれはあらかじめ承知の計画だったから文句は言えない。
このアリエスのアーマーがあれば致命傷は免れるはずだ。
俺は急いでユニコォンの右足を放し、
受け身の体勢に移った。
―――――その頃、都内の上戸鎖は―――――
「・・・上戸鎖様、何やら事件のようです。」
会議室のソファでスマホをいじっていた野佐根が
突然席を立ち、私へとスマホの画面を向けてきたのだった。
ソファから私の座るデスクまでは5mほど離れているために、
当然ながらその画面の内容は分からない。
「事件とは、一体何の事でしょうか?」
私は以後の作戦についてまとめていたデスクの上の紙から目を逸らし、
野佐根の方を見る。
「詳細は不明ですが、何やら全国でほぼ同時刻に
施設を占拠するテロ行為が行われているようですね。
占拠された施設内部にいた者は全員人質にされているようです。」
「・・・テロ活動?全国で複数という事は
何らかの組織が関わっていると見て良いでしょう。
どのような施設が狙われているのか分かりますか?」
「全国で今のところは7つの施設が占拠されているようです。
学校が3件、大手企業が4件。
その中の一つが・・・レボリューショナイズ社本社ビル。」
レボリューショナイズ社がテロの標的にされているというのか?
私はレボリューショナイズ社に務める研究員であるが、
本社ビルには立ち寄る機会が少ない。
故にその内部の様子にはあまり明るくないが、
10日前に死んだ社長の城ヶ崎は
彼自身の技術で意図的にフォーサーを生み出そうとしていたから、
内部の人員に社長を補佐する隠れフォーサーのような存在が
数人いても何らおかしくはない。
しかし、そういった状況の中で占拠されてしまった、となると、
敵もフォーサー同等の戦力を持っている事になるだろうか。
「その敵組織の情報は何か掴んでいますか?」
「いえ、まだ分かりません。
そもそも占拠した、というのは占拠した本人たちからの声明であり、
その実情がどうなっているのかはよく分からないところではあります。
しかし、施設内部との通信が遮断されているという事もあり、
人質にあたる人々とは一切連絡が取れていないようです。」
そうなると、やはり占拠したという主張も馬鹿にはできない、か。
「上戸鎖様の意思にもよりますが、
ここからレボリューショナイズ社の本社ビルまで徒歩1時間程度。
今からその占拠されたビルとやらまで出向いてみるというのは如何でしょうか?」
「珍しく気が合いますね。
私としても、よそ者が勝手にテロ行為と共に俯瞰とは、
と苛立ちを覚えていたところです。」
私は自分が他人を超える「支配欲」を持つという自負がある。
その中で、他者がこうして支配に準ずる行為に手を染めていると、
居心地が悪くてたまらなく、計画を覆してやりたい、という衝動に駆られる。
自称の支配者を引きずり下ろし、自分が逆に支配する・・・。
そしてその様を当事者に見せ付け、愉悦を感じる。
これほどに満たされる行為がどこにあるというのだろう。
「それでは、準備を始めましょう。」
野佐根は相変わらず鋭い目付きで私を見据えるが、
その口元は僅かながら歪んでいた。
―――――その頃、同じく都内のアブソリュート・アーツ社では―――――
『繰り返します。
現在、岩手県の山村高校を「ブラックマイスター」という組織が占拠しています。
生徒達の中で脱出することが出来た人は少ないようですが、
その人たちによると主にその組織の構成員の中には
山村高校の生徒も数人いて、同級生を人質にしているとの事です。
彼らは銃などの武器を所持していて・・・』
この俺、岡本 龍星は
先ほどからフォーサー対策関連研究室の会議室内で
自分のスマホを横画面にしてワンセグの放映を見ていた。
ニュースではヘリコプターによる
上空からの現場映像がしきりに流れている。
まさか、全国で7か所もの施設が一斉に襲撃される、
このような事態になるとは予想もできなかった。
おそらく中二宮Xレア、フィースネス・アリエスを預けた
陽遊 基も学校でまだ待機している事だろう。
彼ならばその謎の組織にも抵抗できると思うが、
生徒を人質にされていては思う様に動けない。
下手をすれば何の抵抗もできずに殺されてしまうかもしれない・・・。
・・・俺は「ブラックマイスター」という組織の名前は聞いたことがない。
まさか、フォーサーが結束して作った犯罪組織だろうか?
だとすれば、目的は何だろうか?
ニュースによれば身代金は要求されていないとの事だから、
金銭目的の犯行ではなさそうだ。
しかし、それは凶悪極まる内容である事に変わりないだろう。
よりにもよって学校や企業を襲撃するとなると、
騒ぎを大きくしたい、といった意図も見受けられる。
俺は誰もいない会議室で色々と思案したのだが、
突然、手に持っていたスマートフォンへと電話が入ってきたのだった。
「・・・何だと!?分かった。すぐに向かおう!」
その電話は研究員の中田からだった。
念のため、一部上場企業であるアブソリュート・アーツ社が狙われる事を危惧し、
警察に入り口の警備を依頼していたのだが、
運悪く、その悪い予感は現実となってしまったとの事だ。
俺はすぐに駆け足でエレベーターへと急ぎ、
地下へと降りると、
研究員たちが騒然となっている研究室へと足を踏み入れた。
「お、岡本さん!」
俺にそう声を掛けてきたのは中田だった。
「し、正面玄関の前で武装した警察と
例のブラックマイスターだと思われる人間たちが戦っています!
急いでヤツらを倒してください!」
「言われなくても、アバランチ・ピスケスに任せろ。」
俺は走りながら中田へ向かって答え、
専用バイクPPSの手前まで行くと、
そこで立ち止まり、スーツの右ポケットから変身用端末を取り出す。
「・・・ジ・エクストリーム!」
俺はそう言い、手際よく腰の専用ベルトのバックルへと
タブレットを挿入すると、俺の背後のバイクのシート部分が開き、
その内部からアルミ缶のふた型のユニット、
ゾディアックコンダクターが何枚も飛び出してくる。
それらは俺の前にうお座の形に配列すると、
そのままコンダクター間で耐衝撃バリアを形成する。
その内部で俺の身体には次々とピスケスのアーマーが装着されていく。
装着にはそれほどの時間を要せず、
5秒ほどでバリアは撤去され、
コンダクターは元のようにバイクのシート部分へと戻っていった。
これで究極海神アバランチ・ピスケスの完成だ。
「もしも例の組織の団員が地下への入り口から侵入してきたら
研究員は外には逃げずに、ビル内部に避難していろ。
その後、エレベーターを停止させ、侵入経路を塞ぐ。」
「で、でも中に追い詰められたら僕たちは人質になってしまいます。
そ、外に逃げ出した方が良いのでは?」
「おそらく、現在は外出を控えるべきだ。
組織の規模がどの程度なのかは現時点では不明だから、
そこに団員が潜んでいるかが分からない。」
俺はそう言い残すと、
地下の研究施設から直接外へと出るために、
出入り口のハッチを展開するためのボタンを押した。
ハッチはすぐに開き、バイクが出入りできるほどの空間ができる。
「お前たちは決して戦おうと思うな。」
俺は専用バイクにまたがり、エンジンを蒸かして
すぐさま外へと向かって発進した。
地上へと続く坂をまっすぐにバイクで走り抜けると、
30秒ほどで本社ビルの正面玄関横にあたる地点に辿り着いた。
「・・・何だ、これは?」
俺は思わず、その目の前に広がっていた光景に息を呑む事になる。
警戒態勢のために重装備を用意していた警察側の人間は
自動小銃などを連射して団員らしき人間たちを撃ち抜いているのだが、
彼らは生身の人間であるのにも関わらず、
その銃弾を身体に受けて平気な顔で自分たちの拳銃を撃ち返している。
パッと見たところ警察が総勢30名ほど、
黒いスーツに身を包んだブラックマイスターの団員は10名ほどだ。
人数的に警察は3倍ほど優位に見えるが、
彼らの撃ち合いは現状ではほぼ互角だった。
互角、とは言っても、正面玄関には流れ弾が何発か命中し、
警察のバリケードを越えればすぐにでも中に侵入されてしまう様子だ。
「お前らッ!!」
俺はそのままバイクを加速させ、
ブラックマイスターと思われる集団へと迫る。
彼らはピスケスの出現に多少は驚いたように見えるが、
何の抵抗もせずに俺が乗るバイクに跳ねられた。
俺は進路の先でUターンをし、
今引き逃した団員を弾き飛ばそうとエンジンを蒸かし、加速する。
彼らはようやく俺に向かって銃を放つが、
この中二宮Xレアのアーマーにはそんなものは効果が無い。
無駄な抵抗も虚しく、残りのメンバーもその場から動かずに跳ねられる。
俺はその最後の1人を跳ねた先で車体の向きを180度転換し、
バイクを停車させると、
そのまま銃弾の跡が残るアスファルトに降り立った。
「・・・今のは少々手荒だが、銃でも死なないお前らは
この程度ではくたばらないだろ?」
俺は少し声に力を入れて倒れた団員たちへと問う。
すると、先ほど俺のバイクによって弾き飛ばされた団員たちは
やおら起き上がり、ボロボロのスーツを両手で払いながら
元の配置へと戻る。
・・・まるでゾンビだな。
動きに本人の感情らしきものは見られず、
ただ決められた動作を続け、任務を遂行する・・・。
そのような目的のために配備されたであろうヤツらだという事が
直感で理解できる。
俺は思わず、10年ほど前のとある組織との戦いの記憶が脳裏をよぎった。
組織のリーダー的人間が圧倒的なカリスマで団員の意思をコントロールし、
自分の目的達成のために動く手駒にしてしまう。
そう言う事で結束力の非常に高い組織が完成していた。
もしや、またそのパターンなのか?
「はあああッ!」
俺は背後のバイクのハンドル付近からウオ・ザ・ソードを引き抜き、
集団へと接近する。
そして加速の勢いを刃の四角い剣へと乗せ、
集団の中の1人へと思い切り斬り付ける。
「くっ!」
剣の軌跡が見えるように団員のスーツは破れ、
彼は地面へと勢いよく転がった。
俺は立て続けに剣を振りながら前進し、次々と団員を斬り付けていく。
呻き声は確かに発するが、
彼らには致命的なダメージを与えられていない気がする。
振るう剣の感触が普段のフォーサー相手の時とは違うのだ。
俺は倒れた団員の中の一人を胸ぐらを掴む形で持ち上げ、
そのまま自分の顔面へと近付ける。
「お前らブラックマイスターの目的は一体何だ?
いや・・・お前らのボスの目的は?」
「・・・俺たちは世界を変革する。」
世界を変革だと?
それだけでは具体性に欠けていて目的が何も掴めないのとさして変わりない。
「どのような変革を望むというのだ?」
「それをお前に言う必要は何もない!」
団員はそう叫ぶと、胸ぐらを握る俺の右手に両手で掴みかかり、
引き離そうと力を込め始めた。
・・・その力は明らかに人間のそれとは違う。
瞬時にそれを察した俺は胸ぐらを放すと同時に
左フックを男の腹部へと見舞う。
するとその団員は後方に吹っ飛び、アスファルトを滑走した。
「邪魔をするヤツは始末する!」
俺はふと気付くと団員に囲まれていた。
彼らは一斉に距離を詰め、ピスケスに向かって蹴りや拳を繰り出してくる。
そのダメージが俺自身に及ぶ事はなさそうだが、
これだけ囲まれると身動きが取りづらいというのは事実だ。
「くそっ・・・邪魔なのはお前らだ!」
俺は殴る蹴るの格闘技を連続で繰り出し、囲む輪に亀裂を入れていくが、
飛ばした団員はすぐに起き上がりまた俺を囲みに来る。
「チッ、これではキリがない・・・ん?」
舌打ちをしたその瞬間だった。
俺は脚部に激しい痛みを感じ、俺の意思とは関係なくその場に膝から崩れ落ちた。
・・・これは何だ?
俺の身体が言う事を聞かないのか?
自分の身体への違和感というものはよくある事だが、
次の瞬間、俺の全身に凄まじい痛みが走り始めた。
「ぐ、ぐあああッ!!」
俺はあまりの痛みに嘆き声を上げ、地面を転げ回る。
これは一体何事だ!?
明らかにその痛みは団員のパンチやキックから来るものではなかった。
ならば・・・何が原因でこれほどの痛みが俺を襲うと言うのか?
どうやら容易く俺をノックアウトさせたと思った団員たちは
囲んでいた輪を崩し、元の警官たちの方へ向かって一斉に進み始めた。
俺の戦闘の様子を見ていた警官たちは発砲を再開し、
そこには再び激しい銃撃戦が展開された。
が、団員たちは今度は少しずつ前進し始めており、
彼らが正面玄関に辿り着くまでそう長くは持たなさそうである。
「くそっ・・・お前らの自由にさせてたまるか・・・」
俺は激痛に耐えながら立ち上がり、
集団に再び駆け寄ろうとしたところ、
その一歩目を踏み出した時点で足が耐えられなくなり、
再び前方から地面へと倒れる。
団員は誰もこちらを気にしない様子で戦闘を続けている。
「ぐおっ!」
距離を詰め切った団員は警官が構えていたシールドを蹴り飛ばし、
警官の顔面へと蹴りを入れる。
陣形が崩れた警察側は次々と倒され、団員はそれに伴ってどんどんと進行していく。
アブソリュート・アーツ社の本社ビル正面玄関は
警察の背後30mほどの位置にあるために、
そこを越えられてしまっては内部への侵入を許してしまうのだ。
警官は距離を詰められると、もはや抵抗する手段はなく、
次々と戦闘不能に追いやられていく。
顔を両手で押さえて動かなくなる警官もいれば、
頭部を銃で撃ち抜かれて絶命している警官もいる。
もはやその戦況は一方的だった。
俺は国から使用を許可された
自分で開発したアーマーを装着しているというにも関わらず
何もできないでいる自分が醜くてたまらなかった。
・・・何のために俺はこんなアーマーを開発し、
ここまでやってきたのだろう?
その答えは至って明白で、悲しむ人を可能な限り減らすため、だ。
俺はそんな理想を抱きながら、目の前で死んでいく人間を救えないで、
ただ見ている事しかできない。
もはやこのまま自分の首を欠き切ってしまいたい気分だ・・・。
警官たちの代わりに自分が死ぬ事ができれば
どれだけ効率の良い、道理に叶う事なのか。
しかし、そこまで強く意識したところで
自分の身体は制御を受け付けず、いつまでも膝立ちの状態で地面から動かない。
そうしているだけでも俺の全身には激痛が走り続ける。
まるで俺の身体の中に針だらけの虫が這いつくばっているような感覚だ。
自分の無力さに絶望するあまり、
俺は数十秒の間、目の前の状況の確認を怠っていた。
ふと我に返り正面を見据えると、
既にブラックマイスター団員は
10人中最後の1人が正面玄関からビル内へと入り込んだところであり、
もはや手遅れ状態だった。
・・・中の社員や研究員は全員残らず人質にされてしまうだろう。
特に研究員は地下の通路から外へ逃げ出す事もできるが、
俺の指示で内部へととどまっているはずだ。
俺はフォーサー対策関連研究室長という名誉な肩書きを与えられただけで、
実際は本当に無力で、自分を犠牲にする事さえできない愚か者だ。
もはや今から救援を呼んだところで間に合うはずもない。
もう俺には手が残されていないのだろうな・・・。
俺は膝立ちの状態のまま俯き、
めくれ上がったデコボコのアスファルトに両手を付いた。
この世界に生きる岡本 龍星は
社会的にはもう死んだのだろう・・・。
ならばこの身体の痛みに任せてずっとこうしていれば
物理的な死にも至る事ができるのだろうか?
俺は目をつぶり、自らの呼吸を確認し始めた。
この身体はあとどのくらい持つのだろう?
せめて1時間程度ならば、すぐ楽になれてそれはそれはめでたしだろうにな。
そのまま独りで闇に落ちていこうと決心していたその時だった。
視界を遮っていた俺は、今度は聴覚で周囲の状況を確認し始めた。
思わず俯いていた顔を上げ、正面玄関を視界に移す。
と、なんと玄関からは鮮血で染まった人の片腕のような部位が
勢いよく飛び出してきたのだった。
そのあまりの非常識な光景に、俺は痛みを忘れて目を見張る事となる。
玄関の奥からは次々と脚、手、頭などの人間の部位が飛び出し、
玄関前の段差を見る見るうちに赤く染めていく。
それらは明らかに複数の人間の亡骸だった。
そして、血まみれのパーツの排出が止まったかと思うと、
玄関からはゆっくりと人影が歩み出てきたのだった。
右手には血まみれの太い刀を持ち、
全身を漆黒の布のようなもので包んでいる。
そして顔には表情が無く、ドリルのような突起が飛び出しているだけ。
・・・そこにいたのは、以前、千葉県の倉庫に現れ、
フォーサーであるタキシック・ステイカーを瞬時に始末した
あの謎の処刑人だった。
その黒い人影はゆっくりと俺の方に近付いてくる。
処刑人が目の前で人を殺した後に今度は自分に迫ってくるといった、
これほどまで恐ろしい状況はそうあるものではないだろう。
通常、逃げるか抵抗するかの何らかのアクションは取るはずだ。
しかし、俺は謎の安堵を感じている。
恐怖ではない、と表現すれば嘘になるだろうが、
逃げ出すほどのものでもない、というのは事実だ。
俺の3mほど前方で立ち止まったその黒い処刑人は
彼の腰に付いていた電子機器にゆっくりと自分の手を伸ばし、
それをバックルから引き抜いた。
すると、処刑人を包んでいた黒い布はどこかに消え去り、
内部からは黒いスーツに身を包んだ人間が
微かな笑みを浮かべながらそこに立っていた。
「・・・10年ぶりとなるか、岡本 龍星よ。」
謎の男は淡々とそう言い放つ。
とても人を10人も殺した後の様子には見えないが、
俺は目を疑う事はしなかった。
「・・・あんたは・・・伊集院 雷人。」
俺がそう言うと、伊集院は右手の人差し指を立て、
俺の腹部辺りをまっすぐに指さした。
「とりあえず、その変身を解くが良い。
そのアーマーはお前が開発したらしいが、
私から言わせてもらえば欠陥だらけの代物だ。」
伊集院に指摘され、
俺はそこでようやく気付いたのだった。
俺の身体を走る激痛・・・これはアーマーのせいだったという事に。
俺は言われた通りにバックルの端末を引き抜き、
ピスケスの変身を解除する。
「本当に・・・痛みが消えた・・・。」
先ほどまで俺を苦しめていた激痛は、
変身解除と共に先ほどまでの痛みが自分の幻覚だったが如く、
綺麗さっぱり消え去った。
「それは脳を刺激し、本来は身体保全機能として掛かっているリミッターを
無理やりに外して使用者の力を引き出すのだろう?
今までは特に使用者の身体への被害は出ていなかったようだが、
身体には相当な負担が掛かるというのは言わずもがな。
使用歴の最も長いお前にまず影響が出るのも納得だ。」
「あんたは・・・なぜ俺の開発について知っている?
それに・・・あんたはあの時自殺して死んだはずであるし、
その姿は10年前のあんたそのままだ。
どういう事なのか、説明が欲しいところだ。」
俺が少し感情的になりながらそう言うと、
伊集院は軽く笑いを漏らしながら
口を開くのだった。
「あの自殺報道はな、見せ掛けだったのだよ。
社会的に私を殺し、世界から伊集院 雷人を廃絶する。
それを提案したのは当人である私ではなかった。」
「あんたを社会的に殺す事でどんな利点があるというのだ?
それにその怪しい計画を考えたのは誰なのだ?」
「まずは後者の質問に答えよう。
それは、園原 紫苑。
知っての通り、アブソリュート・アーツ社の社長だ。」
何だと・・・?
社長が伊集院を社会から一時的に消し去ったというのか?
「その目的は、世界の異常を見据えた結果、というのが分かりやすいか。
10年前のあの事件を覚えているか?
エクソルチスムスによる全国規模の計画的殺人だ。
その際、エクソルチスムスには属せずに、
裏で動いていた謎の人物、上条 慎也。
あの人間が属する組織の存在は公にはならぬが
ある一定の具体性を保った上でその影響が世界に蔓延していた。
つまり、世界的には、ああいった共通性のある事件の裏では
特定の組織の存在が確かに確認されていたのだ。
この結論に至ったのは私ではなく、園原だがな。
そして彼はその不気味な組織の実情を把握すべく、
私の持つ強力な能力を見込んだ上で私を一度社会から消し、
組織の動きの変化を見る事にしたのだ。
その過程で私のツヴァイブレインは更なる進化を続け、
その効果が全身に及ぶまでに至った。
結果、私の身体はほぼ老化という必然的機能を停止している。」
一体・・・伊集院はどんな規模の話をしているというのだ?
俺が知らないところでこれだけの作戦が動いていたのか?
「・・・しかし、組織は未だに目立つ行動を見せず、
その実態は10年経過した現在でも掴めていない。
存在は確定事項。だが名前すらも出てこない。
組織を解明する事は骨の折れる作業だという事は分かるだろう?」
そう言うと、伊集院はまっすぐに俺の顔を見据える。
「私はこの10年間、作戦のために園原によって隠されて生きてきた。
しかし、ただ隠れているだけでは時間が惜しい。
そこで私はアブソリュート・アーツ社の予算を幾らか与えられ、
私自身でアーマーの開発を行ってきた。
かつて消滅したシンギング・ウォーズサーバーのバックアップを元に、
そのアバターを現実世界で再現する事を目標に
私はDEADというアーマーを作り上げた。」
伊集院はそう言いながら歩き出し、
俺のバイク付近にいつの間にか停めてあった
黒いサイドカーの付いたバイクへと辿り着くと、
そのサイドカーの中から銀色のアタッシュケースを取り出し、
それを持って再び俺の前へと戻ってくる。
「これは、お前専用のDEADだ。」
そう言うと、彼はアタッシュケースを俺に突き付けてくる。
俺は迷う事無くそのケースを受け取り、
すぐさま2か所のロックを外し、中身を確認する。
「これは、電子辞書と・・・ベルトか?」
中には、龍のウロコのような模様が入った金色の電子辞書らしき機器と、
バックル部分が金色で、他部分は真っ白な配色のベルトが入っていた。
「その電子辞書型機器がDEADチェンジャー。
説明書もケース内へと同封してある。
熟読してから使用するが良い。」
「これを・・・俺が使うのか?」
俺はそのままケースの中身をジッと見つめる。
思う事は多々ある。
俺は悲しむ人を一人でも減らすという目標のために
ほぼ単独でチューニドパワーシステムを開発し、
それを利用したアーマー、中二宮Xレアを創り出した。
が、今となってはそれを使うだけの身体が俺には残っていない。
しかし、自分の無念さを強調するあまり、
人を悲しませないための手段を捨てるのは倒錯だろう。
ならば・・・俺はこの男が作り出した新たな装備を使うしかない。
「私はお前の性格を知っている。
何せ、10年前に思想対立により戦ったのだからな。
それに、お前にも私の仕事を手伝ってもらいたいと思う。」
「あんたの・・・仕事とは?」
「そんなものはわざわざ口にする必要はないと思うが。
お前も思想対立によりぶつかり合い
私の性格を知ったはずだ。」
俺はそれを聞いた瞬間、
懐かしいような、しかし悲しいような、
そして恐ろしくて鳥肌の立つような、
異常な感覚に身体が襲われた。
「しかし・・・あんたは10年前・・・。」
「私は、あの時は故人でもある恋人のために
ゴミを始末できるシステムを構築していたのだ。
しかし、お前との対戦の結果、その恋人の思考をもう一度見直し、
私は自分の推測が誤りであったと確信したのだった。
故に、一時は自分の行動について反省をしていた。
が、ある時私は気付いたのだ。
・・・推測はしょせん、推測でしかない、と。
実に愚かだとは思わぬか?
推測であれこれと考え、答えのない事象に答えを求める挙句、
なんと自分でその答えを創造してしまうのだ。
正解か、はたまた誤りかが分からない答えをな。」
「つまりは・・・あんたは亡くなった恋人のためではなく、
自分のために人殺しを続けようと?」
「察しが早い。その通りだ。
私は社会から隠れる生活を続けながら思い出した。
人を殺す、あの何とも言えぬ快感を・・・。」
伊集院は口元を歪め、若干ではあるが
淡々とした口調の中で激しさを増した。
「あんたは・・・この社会を浄化したいのか?
それとも人殺しがしたいのか?」
「フッ・・・それは愚問だ。
私が殺すのは社会を汚す「ゴミ」のみ。
よって、私が殺人を犯せば社会は浄化されてしまう。
その答えを誰でもない私が自分自身に問うとなれば、
どちらか片方の欲望のみが満たされる時に限られるだろうな。」
なるほどな・・・。
伊集院は自分でもどちらのために、
いや、どちらがより強く自分の欲として機能しているのかが分からないのか。
「岡本 龍星、殺人そのものを批判するならば
自分の行為を見直してみるが良い。
お前のアーマーは列記とした殺人道具だろう?」
「違う!俺の開発したアーマーは人を守るために使う救済道具だ。」
「ならば結果は同じという事だ。
救済のための殺人。それならば許されるのだろう?
私も何らそれとは変わりないが、
そこにどんな道徳性を見出すかは、使用者次第というところだろうな。」
伊集院はそう言うと、
再び自分のサイドカー付きバイクへ向かって歩き出した。
「俺は・・・やっぱりあんたとは違う。」
伊集院が俺のすぐ横を通り過ぎる直前、
俺は自分に向けて呼びかけるようにそう漏らしていた。
「それで構わん。だが、私は殺人を楽しませてもらおう。
お前には否定できない、言わば合法的殺人を、な。」
彼は立ち止まらずにそう言いながら俺の横を通り過ぎた。
・・・結果的に悲しむ人を減らす事ができればそれで良い。
そう思って進んできた俺は、伊集院という男の再来によって
自分或いは他者の行為を道徳的視点から見る必要性があるという事に
あらためて気付かされたのだった。
@第17話 「謎の怪人アトラクター」 完結




