@プロローグ
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・・・あっ、決まった!
今度はダメか。
・・・やっぱり偶然だったか。
・・・今?
英単語帳を見ながら自宅の自室でペン回しの練習してるのが分からないか?
・・・えっ?そうじゃない?
時は西暦2025年5月、ここ岩手県では桜が見頃。
ただ桜が見頃なだけ。
本当にただ桜が見頃なだけ・・・。
もはや、今年度に大学受験という地獄を控えている高校3年生の俺、
陽遊 基には桜などどうでも良い。
桜よ、俺の苦しみを知れ!
・・・ただし来年の今頃にはお前らを呑気に見物してやる。
ちょっと一年待ってろよ。
お前らが咲いて良いのは俺が合格の桜を咲かせた後だ。
それにしても俺が今見ているこの英単語帳、
「厨二単語」が満載でヤバい。
deで始まるスペルの英単語は基本ヤバい。
何がヤバいのか・・・それは俺が言葉にする必要なし!
とにかくこの単語帳は
俺の"厨二の力"を解放させる引き金の役割を務めている。
そもそも勉強とは、効率良く脳を刺激できる者が有利なんだよ。
そのような解放の引き金を引ける数少ない選ばれし者・・・。
俺は自分を含めたそういう特別な人間達を
ロイヤル・ハイパワード・チューニクス(RHC)と呼び、
常に警戒の姿勢を保っている。
何故かというと、他のRHC達が
いつ、その秘められた力を発揮し、
この世界に思いもよらぬ影響を及ぼすのかは
さすがの俺にも一切の予想が出来ないからだ・・・。
・・・よく、俺は知り合った相手に対して
最初にこのような紹介を始めると、
キチガイか、もしくは気楽な人間だと捉えられる事が多い。
そこに誰かいるのなら、やはりそう思ったか?
が、俺は一定の自覚はある。
平和な毎日が過ぎるだけの日々・・・。
ならば、「何か刺激が欲しい」。
そう思っていた当時中学生だった俺は
いつの間にかRHCとして覚醒していた。
そして、俺がこれまで見てきた中で、
RHCは極めて稀な人種だという事に気付いた。
俺から見れば、
周囲の人間はほぼ全員平凡なヤツらだ。
"平凡"っていう言葉・・・俺は超嫌いなんだ!
それはそうとして、
現状、今の説明には若干の修正が必要となっている。
「これまでの平凡で平和な毎日に、影が迫っている」。
・・・そう言えば分かりやすい。
最近、物騒な怪事件があったんだ。
2020年8月の事だ。
有名な商品だと、「HGドロップ」っていう物凄い人気なのど飴とか、
その他、薬品や医療器具の開発を担当していた
レボリューショナイズ社という名の巨大株式会社が、
『ヒューマン・リィンフォース・システム(HRS)』という
全くの新医療技術を初めて人間に適用した。
HRSっていうのは、
HR細胞と呼ばれる細胞を人の身体に注入する事によって、
人工的に脳細胞を活性化させたり、筋肉を増強させる事が出来るという、
まさに何かのアニメ設定だと疑われるくらいスゴい治療法の事だ。
人間の能力には生まれつきの差があるから、
このHRSでどうにかその差を埋めようっていう期待が社会的に広がってきて、
この俺自身もHRSにはものすごく関心が強かった。
実際に、都内を中心に
多額な治療費の請求に応じる事が出来たお金持ち
約100人がそのHR細胞を注入される手術を施された。
・・・しかし、去年の12月だった。
つまり、すぐ最近、とは言っても半年前。
まさかの「怪人」が人を襲った・・・。
残念ながら、その姿を直接見た人間30名は
全員ソイツに殺されたという。
俺もニュースで映された防犯カメラの映像でその容姿は確認した。
それは鮮明な映像ではなかったが、
街灯に照らされた赤くおぞましい身体は、
完全に人間のそれではなかった。
全身真っ赤な野性動物のようなフォルムに「狼」のような顔、
両腕には手首部分から伸びる3本の鋭い鉤爪。
映像を見る限りでは、人が着ぐるみを着ていたとは思えない。
人間ではない、何か違う生物が確実にそこにはいた・・・。
現場の遺体は全てに鉤爪で引き裂かれた痛々しい跡が残っていたという。
そして後日、現場に残されていたその怪人の表皮の一部が
警察の調査によってDNA鑑定され、
その怪人はHRSにて人体に注入されたHR細胞が
何らかの原因で変化を生じ、人間の容姿を変化させたもの・・・という結果が出た。
レボリューショナイズ社は、全くの予想外の事態と公表し、
HRSによる治療を一時凍結すると共に、
主に例の怪人事件の被害者の親族から
多額の賠償金を課せられた。
・・・まさに人類が生み出した
夢のような治療法であるHRSによって注入されたHR細胞が、
人間を簡単に殺せるまでの力を持つ怪人を生み出してしまった、
という事になる。
ちなみに、その真っ赤な恐ろしい怪人に変身した人間は
HR細胞の変化によってDNAによる鑑定も困難を極め、
指名手配どころか未だに特定すらもされていない・・・。
何しろ、あれからもう半年の間確認されていない事から、
防犯カメラに捕らえられた映像の『怪人態』
と
通常の『人間態』の両方を
使い分ける事が出来るとも言われている・・・。
しかも、人間に元の自我が残っているのかどうかも不明。
・・・本当に恐ろしい話だなあ。
あの半年前の事件のせいで俺は、いや、人々は
それまでの日常を奪われてしまった。
平凡でつまらない日常、たかが同じ事の繰り返しであろうが
平和で価値のある日常。
振り返れば、そう思える気がする。
人間は失うまでそのものの本当の価値には気付かない。
「基~!」
1階にいるお母さんが俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
俺は自室の回転式椅子から立ち上がり、
自室から出て階段を小走りで降りていく。
「基に電話入ってるからここに置いとくよ。」
電話だって?
こんな日曜日の朝に一体誰からだ?
俺の友達ならスマホにかけてくるのが普通だろ・・・?
@プロローグ 完結