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夢見た世界で  作者: 暁夕
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第4話 授業と準備

 

時刻は2時、皆がお昼を食べ終え、頂点より少し西に傾いた太陽が人々を心地好いまどろみに誘う頃、闘技場では植物や水を操る生徒達の実践訓練が行われていた。

 少しずつ梅雨入りし始めた今日この頃、植物や水を友とする者達は上機嫌で日々を過ごし、それに圧されるように他の要素を扱う者は大人しく、火に至っては完全に沈黙してしまっている。世界と人々が互いに影響し合う、それはここの常であり、季節によって一部の人々が元気になったり、はたまた落ち込んだりするのは、よくあることだ。

 何も整備されていない土地をそのまま堀で正方形に切り取り、それをさらに何百もの観客席で囲った闘技場では、ちょうど今、担当教師であるタリル・マラスが中央に生徒達を集め授業の課題について説明をしている。


「今日は、触れずに対象を操る魔法の訓練を行います。しかし、その前にまず、何故私達が要素を操る際、対象に触れる事が多いのかについて考えてみましょう。誰か、自分なりの意見がある方はいますか?」


 ぐるりと、タリルは自分の前に座る生徒達を見渡した。一人一人の顔を見ていき、目が合った生徒をあてる。エルだ。


「…えと、私達は魔法を使う時、最初に自分の内の魔力に呼びかけて、それから対象物に触れ頭の中のイメージを伝えます。だから、多分、触れる事によって、対象と自分の間に目に見える繋がりを作り、その繋がりを使って対象にイメージと魔力を伝えているのではないか、と。」


「成る程。では、それを踏まえた上で、対象に触れる事なくイメージを伝えるにはどうすればいいと思いますか?カルネ。」


 視線をエルから隣に座るカルネに移し、タリルは尋ねた。


「…イメージを伝える際、自分と対象が1本の糸で繋がっているというような意識を持ってやってみれば、と思います。」


 少し俯いて口を手で覆い、軽く考え込みながらカルメネは答える。

 2人の答えに満足気に頷いて、タリルは口を開いた。


「よろしい、ほぼ正解と言えるでしょう。では次に、2人の回答の足りない部分の補足と説明へと移りましょう。」


 こほんと咳払いを1つし、タリルは続ける。


「先程エルが言った、触れる事によって自分と対象の間に目に見える繋がりを作る、これは正解でもあり間違いでもあります。私達は対象に触れる事によって繋がりよりも大きな、一体感を対象との間に産み出します。要素を操る魔法は、元は対象と自分を1つの物とし、自身の中の魔力を体内だけでなく対象にも巡らせ、イメージを伝えるのではなく共有する魔法なのです。そして、これによって皆さんの想像する世界が生まれます。さて皆さん、ずっと地べたに座って聞いているのも辛いでしょうから、椅子を用意しましょうか。」


 そう言ってパチンとタリルは指を鳴らした、と同時に生徒達が座っていた地面の土が盛り上がる。皆、驚きの声をあげ慌てふためくが、それはすぐに収まり、気が付けば彼らは全員、乾いた土で出来た簡素な椅子に座っていた。すごい、と感嘆と賞賛の言葉が口々に生徒達から漏れる。


「このように、対象と己の境界を失くせば魔力もイメージも自ずと対象に流れ込みます。皆さんも知っての通り、魔力は使い手の体内を巡るもう一つの自分のようなもの。自分と同一となった対象に流れ込むのも、当然のことではありますね。それでは皆さん、お待たせしました。訓練に取り掛かって下さい。毎回のことではありますが、魔力の使いすぎには十分に注意するように。特に今回は、触れずに自分の意識だけで操る対象を限定します。対象を上手く限定できず、余分なものにまで魔力を注いでしまい倒れてしまった生徒も過去にはいますので、いつも以上に真剣に取り組んでくださいね。」


 はい、とタリルの言葉に生徒達が顔を引き締め、それぞれが何かの植物の種や桶に入った水などの要素を持って、闘技場のあちこちに散っていく。カルネも、未だうっとりとタリルの魔法の余韻に浸っているエルに声を掛け引っ張り、急ぎ足で四隅の内の1つを陣取った。


「さて、と。」


 抱えていた桶を下ろし、カルネはふうと一息を吐く。エルも桶の隣に種を置き、カルネの横に並んだ。ちなみにこの種、いつもローラントと会うあの場所で芽吹いたチコの木のものである。


「ここなら誰にも見られそうにないわね。エル、試験で創るもののヴィジョンはもう固めた?」


 うん、とエルが頷く。それにカルネは、私もよ、と返し、腕捲りをして桶を覗き込んだ。


「ちょうどいいわ。今回の課題を果たしがてら、イメージしたものを見せ合おう。合作だから、お互いが思い描く作品の形を統一しなきゃ。まずは土台ね。」


 大きく息を吸い、カルネは片手を水面に付くぎりぎりまで近づけた。反対の手はきつく握り締められていて、瞳には、まるで他の一切のものが消え失せたように、目前の水しか映っていない。

 ゆっくりと、カルネの手の下で水が渦巻き始める。それは少しづつ速さを増していき、遂には幾つもの筋となって桶から飛び出、カルメとエルの上空に大きな水球を作った。

ふう、とカルネは詰めていた息を吐き、顔を上げ、それを払うように手で横に凪ぐ仕草をした。途端、球はぐにゃりと歪み、その上半分が、まるでナイフで切られたパンのように割れ、空から落ちてくる。そっと、それを受け止めカルネはエルを見た。


「次、エルの番。」


「うん。」


少しの間、じっと種を見詰める。そして、目を閉じた。真っ暗になった視界の中、まぶたの裏にはまだ、種の影がぼんやりと残っている。だが、それも束の間のことで、徐々に薄れ見えなくなっていく。影が曖昧になるにつれ、エルは種と自分を隔てる壁も曖昧になっていくような気がした。


(対象と己の境界を無くす。)


目を開け、種を見た。まぶたの裏の虚像と実物の種、そして自身が重なり合う。影が消えた。境界が無くなる。

不意に、種が浮き上がった。それは、どんどんと上昇していき、ふわりと半球の断面に舞い降りる。

ふと、何かにつられるように、しかし明確な意図を持って、エルは右手を上げた。にょきっと、種が芽を出す。左手も上げる。にょきにょきっと、成長の勢いが増した。水中に深く根を張り、チコの木は天へ天へと伸び上がっていく。そして、その実をつけぬまま、通常よりもひと回りふた回りも大きな大木となった。


「こんな感じかな?」


確かめるように、エルはカルネを見る。カルネは視線を木に固定したまま頷き、眉間に皺を寄せ唸った。


「土台はこれでいいとして、問題は飾り付けよね。私、植物なんて食べられるものしか知らないわよ。」


「農家さんだもんね。」


2人で一緒に植物図鑑を見て勉強しよう、とカルネの肩を軽くたたいて励ます。




まだまだ、試行錯誤の最中である。







引っ越しのドタバタが落ち着いたと思ったら、今度はパソコンが使い物にならなくなりました。

ということで、暫くはスマホで書いていこうと思います。…書きにくい。

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