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夢見た世界で  作者: 暁夕
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第2話 まずは自己紹介から


『オトメゲーム』における『コウリャクタイショウ』、それは、ゲームの主人公であるヒロインと結ばれる役割を持つ人物のことだ。ちなみにゲームにおいてエルは、良く言えばモブ、包み隠さずに言えば画面には居るが何の描写もされることのない背景の一部のような存在であった。



 

 一言も発せないまま、エルは彼と見詰め合う。お互い、突然の事に頭が追いついていないのだ。そんな中、先に我に返ったのはローラントの方だった。


「…子供、か?一体どうやって、ここまで入ってきたんだ?」


 ひょい、とローラントはエルを抱えあげ、何処かへと歩き出した。え?と、エルはますます混乱する。


「取り敢えず門まで送ってやるから、もう勝手に入って来るんじゃないぞ。」


 抱えあげたエルと目をあわせ、ローラントは至極真面目な顔で言う。ぽかんと、エルは彼を見た。

 メノース魔法学校には月に2度、商人が食料や日常生活での必需品を乗せた荷馬車を伴ってやってくる。ローラントは、その商人の子供がここまで迷い込んできたと考えたのだ。


「え!?あの、違います!私はここの生徒です!貴方と同い年です!」


 ローラントの勘違いに気づいたエルは、慌てて叫ぶ。必死の訴えに、ようやくローラントも自分の間違いに気づいた。同い年という言葉に急いでエルをおろし、頭を下げる。


「すまない!弟よりも小さかったものだから、つい…。」

「いえ!お気になさらないで下さい。…ところで、あの、その弟君のお年は?」

「…すまない。」


 下げていた頭を上げ、エルから目を逸らし謝罪を口にするローラント。二人の間に、また奇妙な沈黙が流れた。


「えーと、あの…。」


 口を開いたはいいが、上手い言葉が思いつかない。それはローラントも同じようで、こちらをちらっと見たまま難しい顔をしている。しかし、しばらくして漸うと話しかけてきた。


「…本当に、すまなかった。それで、今更なんだが名前を伺っても?」

「!そうでした。」


 ローラントの言葉に、エルはぱんと自身の手を叩く。いきなりの遭遇に驚いて大切な事を忘れていた。着ていたドレスの裾を軽く摘んで微笑み、エルは彼に向かって頭を垂れる。


「私はエル。エルラール・ボリューと申します。所属は植物です。」

「俺はローラント。ローラント・クラジス。所属は、先程見たと思うが、火だ。」


 この世界の住民は、その魔法の力にて世界を構成する要素を1人1つ、操り、また創造することが出来る。メノース魔法学校では、魔法が影響を及ぼす要素の同じ者達を集めチームを作る。故に、所属するチームを紹介することは、そのまま自分が操ることの出来る要素の紹介にもつながるのだ。


「植物、か。」


 そう呟くと、またローラントは黙ってしまった。


「あの、どうかされましたか?」

「いや、あー、…さっきの見ただろう?」


 控えめに、気まずそうに確認してくるローラントに、エルは目を輝かせて答えた。


「はい!とっても素晴らしかったです!私、火の魔法を見るのはこれが初めてで、しっかりと目に焼き付けました!」

「は?」

「?」


 エルの賛辞にローラントは、普段の彼からは想像も付かない間の抜けた声を出した。顔も信じられない者を見たような、困惑の色を浮かべている。そんなローラントの反応に、エルは不思議そうな顔をした。そして、そのエルの表情に、またもローラントは困惑する。


「嫌じゃないのか?俺は、…お前の友を焼いてしまった。」


 自分達にとって、世界を構成する要素たちは全て等しく大切であり、とりわけ自分の操ることの出来る要素は特別だ。それこそ、友と呼んでもいいほどに。

 ローラントは、先の炎の魔法で地面に生える植物の幾許かを燃やしてしまった。植物の友である目の前の少女にとって、それは激怒するに値することのはずだ。それなのに、彼女は成る程そういうことか、と得心の行ったような顔を浮かべ、にこりと微笑んだ。


「ご存知ですか、ローラント様。遠い異国の地では、森林や草原を焼き払い、そうして得た灰を肥料として利用し農業を行うのです。植物の灰には、他の植物の成長を助ける力があるんですよ。」


 見てて下さい、そう言ってエルはしゃがみこみ、焼け焦げた地面に手をつける。


「チュチュ、手伝って。」

「チュ!」


 ポケットで寝ていたはずのチュチュがローブから顔を出し、応えるように一声鳴いた。それと同時にエルの手から眩い光が溢れ出す。溢れ出した光は波紋のように地面に広がっていき、辺りを満たす。そして、光の波紋が通った場所から次々と、まるで我先にと競い合うかのように植物が芽を出した。芽はどんどん成長していき、以前のように大地を緑に染める。それらは、燃える前よりもさらに青々と生い茂っていた。

 そんな中、周りの背丈を追い越し一際伸びる芽があった。体を支える幹は太く逞しくなり、途中でその身を分け枝を伸ばす。枝はぐんぐん伸び、その伸長が終わると葉をつけ、仕舞いには太陽の光を受け宝石のように光る赤い小粒の実をつけた。

 その一連の光景をローラントは呆然と眺め、恐る恐る自分の肩ぐらいまで伸びた、赤い実をつける木に手をのばした。


「これは、チコの木か?」

「…みたいですね。多分、小鳥が運んで来たんだと思います。芽吹いたのは、ローラント様のおかげですね。」

「俺の?」


 どういうことだと、ローラントはエルに目を向ける。エルは、あっという間に自分の背を追い越したチコの木に触れ言う。


「はい。植物は種類によって、芽吹くのに必要な太陽の光の量が違います。ローラント様がチコの種の周りの草を焼いた事で、この種は発芽に必要な、十分な光を浴びる事が出来ました。だから、ローラント様のおかげです。」

「だが、それはお前の魔法の…。」

「私は、今の環境で成長できる植物に呼びかけただけです。」


 ローラントの言葉を遮って答え、そして、と続けた。


「環境を変えたのはローラント様です。」

「…そうか。」


 呟き、火も植物の役に立つことがあるんだな、とローラントは噛み締めるように言う。対して、当たり前ですよ、とエルは返した。


「風は種を遠くまで飛ばし、水や太陽は芽吹くのを助け、火は地の環境を変える。他にも色んな要素が、植物や植物以外の要素を助けています。世界を構成する要素で、助け合わないものはありません。」


 植物も火が燃えるのをお助けしますよ!、そう笑顔でエルは言う。彼女のその自信たっぷりな姿にローラントは、思わず吹き出してしまった。大きな笑い声が、この狭い、二人だけの空間に響く。


「え?あれ?私、何か変な事を言いましたか?」


 大声で笑うローラントに、少女は慌てて聞いてくる。それに、いや、と首を振る。


「俺は長いこと、火は植物に嫌われているものと考えていたんだが、随分と、狭いものに囚われていたもんだ。」


 ありがとう、とローラントは微笑んだ。




 …その笑顔は、エルにとって忘れられないものとなった。

 

  

目指せ、1話につき1回魔法の描写

…達成できるかな?

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