発見
始業式が終わり、家に帰ればお昼時。部屋でベッドに倒れてみれば、ランドセルが話しかけてきた。
言葉だけでは訳が分からないかもしれない。何せ、当事者さえよくわかっていないのだから。
喋るランドセル、ランディを机の上に置いたまま、凛はベッドに座り込む。ランディの探し物は持ち逃げしたエネルギーを発揮してくれなければ感知することが出来ないらしい。今はランディと雑談を交わすこと位しかできないのだろうか。
「そういえば、探している意思とかには名前はないの?」
探し物、目的の意思、これではランディとの会話の中でこんがらがってしまうかもしれない。それよりかは名前があった方がいい。なければ先ほどのように凛がつければいい。
「あるにはあるよ。名前というか、格、のような感じだが。その意思は我々の中でも先を行く存在だったからね。言葉にするなら、そう...<偉大なる者>といった感じかな。」
思ったよりも仰々しい呼び名だった。これは付け直す方がいい、と凛は思った。しかし、偉大なる者。どうしたものだろうか。例えば...
「偉大なる者は長いし、もじって、イーダっていうのは...どうかな?」
「ならばそうしよう。これからは我々の探し物はイーダと呼ぼう。」
即答だった。きっとこだわりはあまりないのだろう。
さて、次はどうしようか。そう凛がいつ来るかわからない失せ物探しまでの暇潰しに思案を巡らせ、口を開いた時、先にランディが言葉を発した。
「凛。早速反応があった。」
どうやら暇潰しの必要はないらしかった。
「私は自分では動けない。背負って連れていってくれないか。」
ランディの言葉を受け、赤いランドセルを背負う凛。朝、ランドセルを背負った時のワクワク感とは比較にならない昂りを凛は感じていた。
ランディは方角と距離を凛に伝える。
距離は近い。この街の中だ。凛はランディを背負い、自転車で目的地へと向かった。
目的地に向かう途中、凛はあることに気づいた。
イーダがどのような力の使い方をしているのかわからないのだ。その事をランディに伝えると、
「私にもわからない。イーダがこちら側へ来た理由も。それを確かめる為に目的地に向かっているようなものだね」
全てが後手。これで、凛はおろか、ランディまでも手の出しようがなく、地球滅亡などということになったらどうしようか。一抹の不安が、ワクワクを徐々に鎮めていく。そう思うとペダルを回す足も少し重くなった気がした。
そうして目的地が目に見えるようになった時、凛の目は明らかに異質なモノを捉えた。
黒く細長いシルエット。少し手が長い人型のようなモノが立っていた。そして、
「誰か襲われてる!」
人型の立つ先に尻餅をつくような形で後ずさる少女の姿があった。
その服は人型の体と同じ色の何かで汚されている。
「あれが我々がさがしていたものだ。しかも、どうやらあの中に人が入っているようだ。」
凛の焦りに合わせる事なく、分析を伝えるランディ。凛はその温度差が気にかかったが、構っている余裕はなかった。
人型はゆっくりと少女に歩み寄る。少女は体を震わせて、首を横に振っている。叫び声すらだせない心持ちらしかった。
「助けなきゃ!何かできないの!」
凛は叫ぶ。人型が何をしでかすかわからないが、せめて、間に割って入らなければならないと感じていた。
「今の私にできるのは君の身体能力を高める事くらいだ。」
「充分!」
答えるやいなや、ペダルを回す足が軽くなる。凛はすぐさま人型目掛けて加速する。ウオオォォオ!と声をあげ自らを鼓舞しながら。そうして、
ガシャンッと大きな音が響く。凛は自転車と共に人型へぶつかった。
凛は自転車から放り出され、宙を舞う。当てられた人型はと言うと、大きくよろめいただけであった。
しかし、人型が態勢を直そうとする刹那、なんと宙を舞う凛も空中で態勢を立て直す。体の内から沸き上がるような熱い力が、なんとしても少女を助けようという思いがそれを可能にした。
地面に着地した凛はそのまま地を蹴り、態勢を直し凛の方へ向かんとする人型目掛けて拳を振るった。
凛の拳が、人型の脇腹の辺りにめり込んだ次の瞬間、拳から赤いオーラのようなものが迸り、人型はトラックに跳ねられたように勢いよく後ろへ飛んでいった。
人型を追うように一陣の風が吹き荒れ、凛の背負ったランドセルと同じ色の赤い煌めきが、それを彩った。