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挨拶

めまいがした。軽い吐き気も。訳がわからない。

しかし、確かに、目の前のランドセルが喋っている。

「私が解るようだね。初めまして。」

ランドセルは流暢に言葉を紡ぐ。「あの...あなたは...」と、凛がなんとか言葉を発すると、ランドセルは「ふむ」と余裕のある雰囲気を見せる。

「あなたは...一体なんなんですか。」

「君から見た場合、恐らくは...ランドセル、じゃないかな。」

間を置かずランドセルが答える。ランドセル。それはわかる。しかしわからない。何故ランドセルが喋るのか。

「あの、ランドセルが...ランドセルがどうして喋るんですか。」

凛は思うところを素直に口にした。その問いに、ランドセルはゆっくりと、答える。

「それなんだが、結果から言えば...こんな筈ではなかったんだ。」

ランドセルは少し決まりが悪そうに言った。

「本当は君に接触するつもりだったんだが、失敗してしまった。」

凛は背筋が冷えるのを感じた。わたしに接触?どういうことなのか。なんの目的で?わからないことだらけだった。

「一体なんのつもりでわたしに...その、接触しようと。」

凛が戸惑いながらも問うと、ランドセルは静かに答える。

「突拍子のない話だと思われるかもしれないが...まずは、最後まで聞いてほしい」

ランドセルが喋る以上に突拍子のない事があるのか、と凛は思う。

「私は、こことは別の次元から来ている。」


それからランドセルは淀みなく事情を説明し始めた。

ランドセルは凛の存在する空間とは違う場所の概念なのだという。意思であり、エネルギーであり、全にして個、個にして全の存在。そこでは思考することが存在を拡大させることと同義であったが、人のような感情は乏しい世界だった。別次元を観測し、合理的に思考する。それだけの世界だった。しかし、その世界で突然劇的な変化が起こる。ある一つの意思が膨大な力を以て空間に大穴を開け、別の次元へと旅立ったのだ。その際に大穴を開けた意志はエネルギーの多くを持ち去っていった。穴を塞ぐのにもエネルギーを消費したランドセル達は大損害を受け、穴を開けた意思とエネルギーを回収し、エネルギーを補う為に、一か八か穴を開けた意志の後を追って凛の元へやってきた。

という事情らしかった。


「そして、君の町付近に目的の意思を感じた私は協力の仰げそうな君に接触しようとして...失敗したんだ。」

わからないところはあるかな。とランドセルは最後に付け加えたが、強いて言えば何もかもがわからなかった。とはいえ、仕方ない。

「今は...その話を信じるとして、これからあなたはどうしたいんですか?わたしのランドセルはどうなるんでしょう。」

それからまた、ランドセルの独壇場だった。

ランドセルとは同化して離れられないこと。人探し、ならぬ意思探しは後手に回らなければならず、意思がエネルギーを使うまで待たなければならないこと。要約すればそんな話だった。

最初、凛は頭の中がこんがらがっていたが、その内に吹っ切れたように頭が澄んでいくのを感じていた。

ランドセルが喋り、自分に助けを求めている。まるでアニメや漫画の世界だ。得体の知れないワクワク感が凛の体を駆け巡っていた。

「理解してくれたかな。」

ランドセルの問いに、はい。と凛は答えたが、もう一つ疑問はあった。

「どうして、わたしだったんですか?」

「意思に比較的近い位置にいて、かつ、私の波長と相性が良かったからだよ。」

なるほど、偶然か運命か、とにかくこうなってしまった以上、このランドセルとうまくやっていく方がいい。凛がそう考えていると、あることに思い当たる。

「その、名前とか...ないんですか。」

このランドセル、先程から固有名詞が出てこない。そういうものなのだろうか。

「あぁ、私達は感覚で他者と繋がっていたから、そういう区別を持っているものは僅かなんだ。かくいう私もない。」

そういうものだった。しかし、それでは味気無い。凛が満足のいかない雰囲気を感じ取ったのか、ランドセルが言葉を続ける。

「もし良ければ、君がつけてくれないか。」

凛は考える。考えてみると、案外浮かばない。名付け親だ、慎重にならなければ。最近は妙な名前をつけられて迷惑をしている子供もいるらしい。ならば、そう...

「ランドセルだから...ランディ...ってどうかな...」

凡だった。余りの捻りのなさに口にした凛自身、動揺するほどだった。

「ランディか。よし、私はランディだ。では、次は君の名前を教えてくれ。」

ランディは特に気にする様子もなかった。促され、今度は凛が答える。

「わたしは、凛。阿岐森凛。」

「では凛。これからよろしくお願いする。」

ランディとの会話は実にスピーディーだ。落ち着く暇がない。このテンポ、ついていけるだろうか。と、凛はこれからが少し不安になった。

そんな凛の心配は勘づく事無く、ランディは言葉を続けた。

「それと、私に敬語は必要ないよ。フレンドリーに行こう。」


「今から我々は、パートナーだ。」


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