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『冥土めぐり』(鹿島田真希)を読んで

主人公奈津子は肢体不自由の夫、太一と一泊旅行に行きます。そこはかつて両親や弟と泊まったホテル。

母親は高級思考の自分の価値観が常識であり、当然娘である奈津子にもそれを望んできました。職業も伴侶も。しかし奈津子はもっと地に足の着いた生活にこそ喜びを見出だすタイプなのです。

公務員の太一との結婚にあからさまにがっかりする母親と弟。明らかに分かりやすいステータス求めています。それでも奈津子は太一と結婚します。そしてやがて太一は脳の病により身体が不自由になります。

一方、太一は人好きのする人物です。ただし積極的な善人というよりは消極的な善人の印象があります。奈津子も太一のことを「他人の悪意に鈍感」と評しています。だからと言って嫌いな訳でもありません。


奈津子は誰のことも恨んではいないし、変えようともしないのです。全てを淡々と受け入れています。けれどもその淡々とした様が読んでいる側の胸を締め付けます。

静かな語り口なのに、いえ、静かだからこそ抵抗なく読者の心にしっかりと根を張っていくのだと思います。


奈津子の周りで大きな変化があった訳ではないけれど、それでも奈津子は少し変わります。……いいえ、変わってはいないのでしょう。けれども気付くのです。元々あったはずのものに。


力強い文章ではないにも関わらず、深く深く食い込んでくる作品でした。



追記


この本には「99の接吻」という作品も収録されています。

これはいただけません。私の苦手とする性的表現が強すぎました。がっかりです。

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