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『ユートピア』(湊かなえ)を読んで

地方の港町、鼻崎町は、大手水産会社があるおかげでどうにか持っているようなちょっと寂しげな町。代々そこに住む人たちだけでなく、水産会社ハッスイの社員で鼻崎へ転勤になった家族も多いし、海と花の美しさに惹かれて集まった芸術家たちもいます。それぞれの立場や環境から、互いに相容れないものがありながらも表立った衝突はない静かな町です。

地元の小学生、久美香は幼稚園の頃に交通事故に遭って以来の車椅子生活。陶芸家のすみれが久美香との出会いを機に車椅子利用者を支援するボランティア団体を立ち上げるが……といった話。


いろんな立場の人がいますから、まあ、互いに気を使うわけですよ。嫌だと言えなかったりね。読んでいてもやもやする場面もあったりして。けど、それぞれの視点から見ると、本人たちは良心的とまではいかなくても、けして悪意はなくて。ただただ分かり合えないというか。とはいえ、利己的な部分もあったりするわけですが、そんなのはまるでない人なんて滅多にいないでしょう。いたら、それはそれで人間味を感じられないというか。つまり、みんな、どこにでもいそうな普通の人たちなんですよ。それなのに段々と歯車が狂い始めるから怖い。

段々とって言いましたが、ボランティア団体を立ち上げるという順調な展開の時ですら、この先絶対なにかあるよね、と思わせる不安定さを感じました。正体のない悪みたいなものを感じます。


最後は、ああやっぱりね、となりましたが、おそらく意外性を狙った結末ではないのでしょう。そんなすっきりさせてもらえるようなものではなく、あっちは放置したままで終わっちゃうの!? と不安を残しています。尻切れとんぼってことではなくね。本を閉じてからもいろんな可能性を考えてしまいます。

町や人がまるで私が元々知っていたかのように身近に感じられたから余計です。

出る杭は打たれるじゃないけど、その気がなくても目立つと理不尽な仕打ちを受けることがあるもんですねぇ。登場人物もそんな人が多かった気がします。


それぞれの旅立ちで締めくくられるけど、爽やかさよりもやもやした気分が残ります。おかげで余韻からなかなか抜け出せません。おもしろかったです。


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