『地図男』(真藤順丈)を読んで
私は、語らない話が好きだ。
作者にしかわからないような不親切な書き方が好きだ。
そんな書き方なのに読み取れてしまう──もしくは理解できないのに感じ取れてしまう──小説が好きだ。
この話は一見わけのわからない内容を挟みながらも、最終的には整合性が取れる解釈が披露されます。だから、その点では好みど真ん中というわけではないはずなのですが、最も肝心なところは一切わからないままなんですね。それがねぇ、もう、震えます。
そこがこの小説の最たる部分ではないのだと思います。けど、私はその部分があったおかげで(「ないということ」があった、というややこしいことになってますが)、好きだ!と思いました。
明らかにする部分と伏せる部分がはっきりしていて鮮やかでした。
なお、最終的に明かされる部分は、読んでいる途中でも「ん?」とちゃんと引っかかるように書かれています。だから余計に意味するところに行き着いた時に気持ちいいんですね。
とはいえ。
冒頭はいいとして、作中作はわけわからんです。
この物語は地図帖にその土地ごとの物語を書いていく地図男を見つめる〈俺〉の視点で進みます。大筋はそれだけなんです。そこに地図男が紡いだ物語が入れ子として機能してくるんですね。
もうね、私の説明能力じゃあこれ以上説明のしようがないです……。いくつかの話が紡がれるのですが、なんかもう、笑うというか、失笑というか。なのに妙に感動しちゃったりして。
後半、特に終盤はダーダー泣きながら読みました。なんだろうなー、悲しい切ないシーンもあるんだけど、そうじゃなくて、登場人物のどうしようもない感情がすごく刺さるんですよね。その刺さった勢いで涙が出てくる感じ。こういう言葉にならない感情をくれる小説はいいです。まあ、言葉にできる人はできるんでしょうけれども。
ところで、お気づきの方も多いかと思いますが、先日の第160回直木賞を受賞された作者さんです。受賞作の『宝島』は長編すぎて、まだ手を出せていません。この作者さんの小説を読んだことがなかったんですよ。っていうか、今回の直木賞ノミネートまでお名前というか存在も存じませんでした。10年ほど前に新人賞を4つも受賞してのデビューというすごい方なのに。で、とりあえず短いのを読んでみようかなと、デビュー作の『地図男』を読んでみた次第。
私にとって文体って大事なんです。ストーリーよりも文体。ストーリーが面白い方がもちろんいいんですけど、どんなにストーリーが気に入っても文体がしっくりこないと、私の中でその小説の評価はあまり高くありません。読みやすいって大事。作者と読者の相性の部分も大きいと思いますけどね。何冊読んでみても文体が私にはどうしてもダメ、って作家さんが世間では大人気だったりしますし。
私にとって大事なもの。小説ならストーリーよりも文体。漫画ならストーリーよりも絵。歌なら曲よりも声。
時にはそれを覆す作品に出会うこともありますが、まず文体や絵や声に抵抗があると内容が入ってこないんです。どんな重要なことが書かれている手書きメモでも、ミミズがのたくっていたら読みたくても読めないのと同じで。
ともあれ、この小説の文体は比較的好きな方です。もちろん作品が変われば文体もそれに合わせて変わると思いますが、読みやすさとか好みという点では影響ないはず。
そのうちまたこの作家さんの小説を読んでみたいと思います。
あ、ちなみにこの本は本文150ページ弱なのですぐ読めます。




