『星に願いを、そして手を。』(青羽悠)を読んで
第29回小説すばる新人賞(2016年)受賞作。
新人賞を特に気にかけていない方だとぴんとこないかもしれませんが、「小説すばる新人賞」と「すばる文学賞」は別ものです。どちらも集英社ですが、「小説すばる」はエンタメ、「すばる」は文学、ということになっています。『星に願いを、そして手を。』はエンタメです。タイトルからしてそんな雰囲気ですね。
タイトル、すごく雰囲気ありますよね。名は体を表すといいますが、このタイトルを見たときの印象は本文を読んだときの印象とほとんど変わりませんでした。それって当たり前のようでいて、結構すごいんじゃないかと思うのです。
本文に関しても、最初から最後まですごく《整っている》という印象。一読者の発言としてはおこがましいと承知の上で言いますが、とにかく上手い!
内容はもちろん読者の好みがあるとは思いますが、構成からシーン展開から文章から、何から何まで洗練されている印象を強く受けました。
内容は好みと言ったのは、私にとっては少々爽やかすぎた気がするからです。胸の底から抉られるような感情が好きですからね。でもそればっかり読みたいというわけでもなく。だから、好みど真ん中とはいきませんが、かなり満足のいく読書時間でした。
作者の背景が作品に及ぼす影響というものについて、私はそれほど重要視しない方なのですが、生身の人間が書いている以上はまったく無関係とも言えないだろう、くらいには思っています。で、この作者、受賞当時は高校生だったんですね。だから瑞々しい青春群像劇が書けたのかというと、そうではないんじゃないかと私は思うわけです。たぶん、年齢ではなく、人間性なんじゃないかと。
なにが言いたいかというと、受賞当時に高校生という点に触れる紹介が多かったことにモヤモヤしたんですよ。べつに、高校生でこれだけのものを書いたからすごいわけじゃなくて、純粋にとても綺麗に隙間なく敷き詰められた物語だと思うんです。
まあいいや。それよりもストーリーですよね。
タイトルに「星」とありますが、天文や宇宙に憧れた人たちの話です。中学生のころ、プラネタリウムのある科学館に入り浸っていた四人の少年少女は、やがて成人します。中学生時代にお世話になった科学館館長の死をきっかけにまた集まる機会ができて。館長の奥さんや孫、その孫の同級生など、様々な人たちの夢見たものと、その先にあったもの。現状の自分との向き合い方。これらが繊細に描かれています。
それぞれに悩んだり葛藤したり悔やんだりするわけですが、不思議と読んでいて胸を抉られるような苦痛は味わいません。でも、不意に、きゅうーとなって、ポロポロ泣いてしまうシーンもありました。瞬間的に自分と重ねていたみたいです。
群像劇なので、おそらくほとんどの人は、どこかしらで多少なりとも共感する部分に出会うのではないでしょうか。
登場人物の誰もがなにかを抱えているのに、その苦しみさえ爽やかに感じられるのが不思議な感覚でした。
作者は宇宙に興味があったとのこと。それでこの題材なのでしょう。
受賞当時にテレビ出演された際にはジャグリングを披露していたのも印象深いです。高校のジャグリング部に所属していると言っていたような気がします。(現在は大学生のようです)
今後はどのような題材で書かれるのか楽しみです。




