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『アイネクライネナハトムジーク』(伊坂幸太郎)を読んで

呪文の言葉みたい。タイトルの「アイネクライネナハトムジーク」にそう思いました。どこで区切ればいいのかもわからない。で、ふと思ったんです。音楽に関する言葉なのでは?って。伊坂幸太郎の小説にはよく音楽のことが出てきますし。そして予感的中でした。

私はほとんど音楽を聞かないし、大半の人が知っているようなことも知らないのが当たり前で。だから、「アイネクライネナハトムジーク」というのがモーツァルトの小夜曲だということはもしかしたら常識のうちなのかもしれません。ただ作中でもこのタイトルに触れていたので、その親切さに嬉しくなりました。


この小説は、6編で構成される連作短編です。

恋愛ものに興味がないと言う作者が書いた恋愛ものなので、甘さ控えめでとても心地よく読めました。恋愛ものというよりは、いろいろな出会いの話でした。


そして、伊坂幸太郎らしく、これでもかというくらい繋がっていきます。

これがね、気持ちいいんですよね。時間が前後して描かれたりするので、人物の繋がりが多少混乱しかかる部分もありますが、脇役に至るまで丁寧に配置されていて、不意打ちの登場に突然泣かされたシーンもありました。もう、こんな油断しているときにずるい!って。


ここで、未読の方には通じない話で申し訳ないのですが、登場人物の織田一真が好きすぎる!

登場したては、なにこの男、いい加減すぎる、身近にいたらイライラしそう、とかなり悪い印象だったのですが、なんて愛すべきキャラクター! 高校生の娘にもげんなりされちゃうようなお父さん。娘曰く「勢いとノリと他人の手助けでどうにか生きてきた人の代表選手だからね」と。で、その言葉通りのエピソードばかり。読んでいくうちに織田一真が登場するとワクワクするようになっていました。

ストーリー展開に重要な役どころかといったら、う〜ん、なんですが、間違いなくいいスパイスになっています。いやあ、よかった、織田一真。うん。


話は戻って。

出会いの物語といいましたが、出会いって偶然なんですよね。

で、偶然は現実で起こるから偶然なのであって、小説とかのフィクション世界で起こる偶然はもちろん作者に作られた必然なんですよね。必然的に作られた偶然をいかに本物の偶然に見せられるかというのは、すべての小説における課題の一つではあると思うのですが、小説そのものが偶然を描いたお話となると、その課題の難度はぐんと高まることでしょう。ところがそれが本物の偶然に見えるからすごい。小説を読んでいる意識があるのに、その中で起こる偶然に運命的なものまで感じてしまいました。そして、これが作られたものだと思い出してハッとするのです。



ところでこの作者は例の虫に特別な思い入れでもあるのだろうか。ほかの作品は「せせらぎ」と呼ばれていた、あの黒とか茶色でカサカサ動くアイツ。この小説にも出てきました。そりゃあ何作品にも登場しているわけじゃないけど、同じ作者が複数の作品に登場させるような生き物でもないでしょうに。スズメやカラスじゃないんだから。と、まあ、そんなどうでもよさそうなことも気になりましたとさ。

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