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『満月の娘たち』(安東みきえ)を読んで

第56回(2018年)野間児童文芸賞 受賞作。

中学生の「あたし」志保は幼馴染みの美月と、美月がいいなと思っている男子 日比野と共に、幽霊屋敷と噂される空き家へ忍び込みます。まあ、こういうのは本性が見えるから危険ですよね。美月は日比野に失望してしまうわけですが。そんな導入部分で一気に中学生気分になりました。

志保と美月にはもう一人、祥吉というの幼馴染みがいて。ちょっと地味な男子で、中学生女子から見たらパッとしないヤツって感じ。でもこの子がなかなかのいい子で。そういう面に志保たちが気づいていく様子にも成長が感じられます。

母親との関係……というか、感情かな、そういうものに悩んでいる時期で。それが痛いほどに伝わってきます。まだ彼女たちの世界のほとんどは家庭が占めていて、そこに居ざるを得ないという苦しさ。それを意識すればするほどに、自ら孤独へと落ちていく感じは覚えがあったりもします。


幽霊屋敷は、現在空き家となっている昭和邸という和洋折衷の建物。ここは物語の導入として使われるだけでなく、最後まで関わってきます。

当たり前だけど、昭和邸にはちゃんと持ち主がいて、志保たちはその人物と関わりつつ家を綺麗にしていったり、成長していったりします。成長といっても、気づきのようなささやかなもので、でもそれが、彼女たちの目に見える世界の姿を変えて映すことになります。自己中心的で、それはともすれば被害者意識へとなってしまう子供らしい狭い視野が、ぱあっと開けるような感じ。


未読の方にとってはなんのこっちゃだと思いますが、終わりの方の、デパートで迷子のアナウンスが入るシーンがすごくよかったです。本当にもう些細な出来事なんだけど、涙がブワッてなりました。お母さんの反応はもちろんのこと、娘がその意味に気づいたということも。


中学生が他者(ここでは母親)を理解できるようになっていき、そのことで自分自身も生きやすくなる話でした。なんでわかってくれないの、と思っているがために、そこにあるべき相手の感情が見えない。被害者意識が強い。子供だからそれも特別なことではないんだと思います(大人になってもそのままじゃあ周りが大変な思いをするだろうけど)。まだ狭い社会で生きているからそういうものだと思います。いいとか悪いとかじゃなくて。でもそれは結局自分で自分を苦しめることにもなっていて。


同じ経験も似たような経験もなくても、この感情は知っている、と感じました。キリキリと胸の奥が痛い。そして、大人である私が読むと、全方向の感情の渦が見えて、これまたキリキリと……。痛い、けれども、悲劇的な苦しみではなくて。もどかしい。せつない。ううん、似ているけど、そんな寒色の感情ではなくて。255ページかけて漂ってくるこの感情を数行で語ることはできません。


文学、でした。どの年齢で読んでも、それぞれの感じ方ができる上質な「文学」だと思います。大人向けの文学として読んでも心に響く本でした。いい本に出会いました。

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