昔々あるところに_018
昔々あるところにモグさんという貧しい青年がおりました。
モグさんは黒猫堂という骨董品屋で不思議なものを見つけました。
「おさいせんばこセット(鬼のお面をつけ、このおさいせんばこを持って立っているとどんどんお金が貯まります_本物)」
とあります。
もぐさんはそれを見ると欲しくてたまらなくなりました。
さっそくそれをカウンターに持っていきました。
「このおさいせんばこセット(鬼のお面をつけ、このおさいせんばこを持って立っているとどんどんお金が貯まります_本物)というのは本当ですか?」
「本当だにゃ」
カウンターに座っていたのは猫でした」
「買います。売ってください」
「にじゅうまんえんだにゃ」モグさんは全財産20万円はたいてそのおさいせんばこセットを買いました。
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家に帰って解説書を読むと『①まず最初に、おさいせんばこを開ける。 ②中に入っている鬼のお面をよく洗う。 ③顔をきれいに拭いた上でお面を点ける ④人通りの多いところに立つ ④お金を持っているが来たら鬼が反応するので「鬼はおなかがすいています。お賽銭を入れてください。さもないとあなたを食べちゃいます」という ⑤お金がおさいせんばこに入る。 ⑥「ありがとうございます」と言って一礼する』
と書いてありました。
モグさんは早速おさいせんばこのふたをあけました。
中に、大きな赤鬼のお面が入っていました。
お面は木でもなく紙でもなく、なにか動物の皮のような手触りでした。ずっしりと重く、厚みがあり、かすかに人肌のぬくもりがしました。けもののにおいがしました。
モグさんはお面をよく洗って、自分の顔も洗顔し、震える手でお面をかぶりました。
お面はモグさんの顔にぺったりくっつくととれなくなりました。
「うわ!どうしたことだ。お面が取れない!」モグさんは驚きました。そして少し怖くなりました。
このまま一生、鬼の顔で過ごさなくてはならないかもしれないと思ったからです。
しばらくしてようやく落ち着いてきました。
「そうだ、今日は1月1日、正月だ。きっと神社仏閣には参拝客がたくさんいるはずだ」
お金に対する欲が、恐怖心を打ち消したのでした。
モグさんはさっそく鬼の面をつけたまま外出すると、明知神宮の入り口近くに立ってみました。
恰幅のいい紳士が通り過ぎるとき、
お面が
ぎゅうううっ
とモグさんの顔を絞りました。
『く、く、苦しい……でもこれはきっとお金持ちに違いない。お面が教えてくれているんだ……そうに違いない』
モグさんはその紳士を追いかけていきました。そして前に回り込み
「鬼はおなかがすいています。お賽銭を入れてください。さもないとあなたを食べちゃいます」と言いました。
紳士は一瞬、あっけにとられたような顔をしていましたが、次の瞬間、長財布を出して1万円札を指で数え始めました。
「ここに12万円ある。これで鬼の空腹をしずめてください」
そういうとおさいせんばこに差し入れました。
モグさんはびっくりしました。
その次に、妙齢の婦人が通りかかりました。
お面は、また
ぎゅうううっ
とモグさんの顔を絞りました。
モグさんはその婦人に向かって
「鬼はおなかがすいています。お賽銭を入れてください。さもないとあなたを食べちゃいます」と言いました。
婦人は、5万5千円入れてくれました。そのようにしてモグさんの前をお金持ちが通過するたびに10万円、20万円とおさいせんばこに入れてくれました。
夕方まで立っていました。モグさんはふらふらで、足が棒になりました。でもおさいせんばこはお金で一杯になったのです。モグさんは嬉しくてたまりません。
すでに差し込み口から1万円札や5000円札があふれていました。
「もうこのくらいでいいだろう……」モグさんがそう思った瞬間
「もうこのくらいでいいだろう」お面が突然喋りました。そして
ぽろっ
モグさんの顔から落ちました。
鬼のお面は
ぱくぱくむしゃむしゃ、ぱくぱくむしゃむしゃ、
おさいせんばこを食べちゃいました。そして一匹の子鬼の姿に変身すると、
神社の灌木の中へと姿をくらましました。
あああああああああああああああああああああああああああああああああああ