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男湯と女湯㊛その1

女湯ではメフィと有朱が話をしていた

 男湯と女湯の違いを述べるとすればタイルの色の違いだ。男湯は水色で女湯はピンク。その色の分け方だけで男と女で区別されるのは案外人間と言うのは簡単なのだな、とメフィは湯船につかり壁を見てそう思った。

 心地の良い暖かさと共に今日あった苦労を一気に発散する。家事全般を容易にこなす彼女にとっての至福の時間。生活の中で一番リラックスできる時間と言うのは風呂の時間しかない。

 メフィは仕事である死神として圭吾と共に彼の人生を見て行かなければならない。彼が普通ではないという事が分かったことで楽が出来ないのは目に見えている。あの人間の適応能力は人の物ではない。

 普通の人間があのかくれんぼにて初めからあれだけの対応ができるのか。――死んだ直後であるというのに冷静を保つことができるのか、だ。


「ふぅ……髪が長いと手入れが面倒で仕方ないんだよな……。おいメフィどうしたんだよ。顔つきがかなり険しいけど大丈夫か」

「ふぇっ!?あ、ああぁ!大丈夫ですよ!ちょっと考え事をしてただけです!」


 唯一の休憩時間に仕事の事を思っていては元も子もない、と有朱に自覚させられたメフィは改めて体を伸ばしてリラックスする。周囲は高齢者が多く若者は有朱と自分だけであった。壁の向こう側ではやましい思いをしている男がいると思うと思わず笑みがこぼれた。


「有朱さん、今日私たちが帰ってきてから大丈夫だったんですか?」

「あ?あぁ、大丈夫だったよ。恭介の面倒見てたら何時の間にか時間たっててな。あいつは本当に面白い奴だよ」

「自分の過去の話をされて気分が悪くなるなんて不思議ですよねぇ」

「お前の連れも面白いじゃないか。初対面に軽々しく発言しすぎなんじゃなかろうかね」

「そうですね!あの方はもう少し考えて発言すべきなんですよ。だからあんな人と触れ合うのが苦手そうな雰囲気醸し出してるんですよ」

「はは、自分の彼氏なのになかなか言うじゃないか」


 堂々と胸を張って言う有朱に、メフィは思わずその胸を見てしまう。女性からしても羨む大きさだった。自分が段々圭吾に似てきたのではないかと思考を打ち消して、話に戻る。今日はそれが目的で来たのだ。

 何の質問をするかはあらかた圭吾から言われている。その内容を頭の中で整理して自然な会話の中で有朱から引き出さなければいけない。取り敢えず、話の切り口として定番の恋の話をしてみた。


「彼氏と言えば、恭介さんと付き合わないんですか?」

「……?なんで私があいつと付き合わなければいけないんだ……?」


 本気で疑問に思っている顔つきでこちらを見てくる。恭介もそれなりにアタックしている筈だった。子供たちの態度もそのことを示していた筈なのだ。


「いや、何ていうかその、お似合いかなーって」

「ははは、冗談。私とあいつじゃ不釣り合いだよ。あいつの方がもっと価値がある。私みたいなのとあんないい男じゃ、付き合うなんておこがましいにも程があるよ」


 有朱は遠い所に焦点を合わして気まずそうに語った。蒸気で顔がいつもより赤くなっているのを見据えた。それが恥じらいを示す赤みを含んでいるのかは理解しかねない。だが、少なくとも彼に好意を持っているのだ。


「お似合いだと思いますがね。恭介さんの事、そんな目で見ているんですか?」

「あいつは本当の意味で強いよ。確かに見た目は弱そうだけど、中身は私なんかよりずっと強いし、人と話すのが得意で友達も一杯いる。……私にはそんなこと出来ないさ。なんてたって人と付き合うのを面倒だって思っちゃうからさ」

「人と付き合うのが面倒、ですか?」

「あぁ、今日みたいに子供たちやお前たちと話すのは大好きだよ?だけど、あいつらや女子の世界に溶け込むのが嫌なんだ」


 あいつら、と言うのは恐らく嫌がらせをしてくる輩の事だろう。死神のメフィは実際に感じたことはないのだが、女子の世界は本当に面倒らしい。陰口をたたくのが当たり前。隣にいる人間が陰で自分の悪口を言っている可能性は少ない方が多い。

 お湯を顔にかけて暗くなった表情を崩す有朱は自分が作り出した空気を打開しようと大きく背伸びをした。何か行動を起こさなければ二人はこれ以上喋らなくなってしまうだろうと思ったのだ。


「まぁさ、だから私は口調も荒いし一人で駄菓子屋なんかやってんだよ。それにしても、メフィとあいつが付き合ってる、ねぇ」

「な、なんですかその眼は……!ちょっと徳島さんみたいでやらしいですよ!」


 手をいやらしくこねくり回すように動かす有朱を避けて後ずさりした。それに合わせて有朱は徐々に距離を詰めていく。


「くくく……メフィちゃんはちっこくて可愛いでちゅねー」

「あぁ!馬鹿にしてますね……ってふぁ!」


 続く……


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