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黎明と邂逅

圭吾が悪夢で悶えてる中

 

【黎明】


 社務所に一つしかなかった布団の中で、圭吾は悪夢に襲われて悶えていた。じたばたと暴れる圭吾の足がメフィを蹴り付けて止まない。最初はメフィだけを布団の中に入れておいたのだが、急に寝ぼけて一緒に寝ようと言ってきたので二人で一つの布団を共用することになったのだ。圭吾は最初それを拒んだのだが、メフィがどうしてもと言ってくるので仕方なく一緒に寝る事になってしまった。やましい気持ちなど一切ない。

 うなされている圭吾の声に気付いたメフィは明るみが窓から零れ落ちてこちらまでに浸食する朝日を浴びつつ、圭吾が暴れるのを押さえつけるために馬乗りになり何度かビンタをした。寝ぼけまなこで淡々と同じリズムで機械的な音が鳥の声と同期する。

 昨夜、風呂の途中から何が起こっていたのか全く記憶にない。きっとこの圭吾が運んでくれたのだろう。一旦ビンタを止めて圭吾の両頬を優しく手で包み込む。そうすると、男らしい骨格の硬さと皮膚の硬さが身に染みて解る。今は苦しそうな顔をしている――馬乗りになっているのだから苦しいに決まっている――が、昨日の彼が子供たちと遊ぶ顔は優しい、人を惹きつける笑顔だった。頬を持ったまま顔を近づけてみる。目を開けていないのだから、どれだけ近くに顔を寄せようが逃げられない。昨日の昼間にやったように額と額を合わせた。こうすると、お互いの意識が同調するようで安心する。頬から手を離して、愛撫するように徐々に胸へ指をなぞって行く。半分はだけた恭介からかりた寝巻を介してメフィの指は圭吾の胸に円を描いた。

 大きな円を描き終えると次はそれより少し小さな円を描く。その縁が描き終えるとまたそれより小さな円、と何度も繰り返している内に丁度胸部の中心へと辿り着いた。右耳を圭吾の胸に当てて鼓動を聞いた。悪夢に苛まれているせいで速い。同じようにして呼吸も荒く、汗も多くかいてしまっている。

 ネグリジェから見えるメフィの右腕に描かれているのは黒い魔法陣。圭吾になぞられた時の、こそばゆい感覚を伴った快感が蘇ってきた。後頭部辺りが優しい心地よさに支配されて思わず蕩けてしまいそうになる、あの感覚。メフィは有朱にやられた時から分かる様に肌が人の数倍以上敏感だ。それを自覚してか、積極的に人の肌に触れようとする癖がある。

 感じる心地よさは快楽と言うよりは安心。一人でいると寂しさで心の奥底に大きな穴が出来たように思えるのだ。感じている圭吾の鼓動もまた、メフィを落ち着かせてくれる。

 短い間隔で脈を打っていた鼓動が次第に遅くなって、元の速さに戻っていく。圭吾の苦しそうな表情も取れていた。唸り声と共に眼をさます圭吾は首を上げて辺りを確認すると、溜息を吐いた。


「おいおい……メフィ、起きろ」


 一定間隔の鼓動が子守歌に聞こえたのかメフィは圭吾の胸の上でほんの少しの間寝てしまっていた。涎を垂らして間抜けな顔を掻き消して笑顔を作り出す。寝起き特有の腑の抜けた笑顔だった。それを見てか、圭吾はメフィを押しのけもせずに額に手を当てて天井を仰いだ。

 比較的新しい社務所の天井は木製で、木の目が本当に目のようにも見えた。夜の間、ずっと見守られていたのだろう。胸板の上にいるメフィは何時頃起きたのだろうか。傍らに置いてあったメフィの腕時計で確認する。朝の5時半だった。子供の頃、皆勤賞目当てに早起きして蒸し暑い朝ラジオ体操をやった記憶が想起された。

 この静かな時間は寝るために存在しているというのに、と煩わしさに髪を掻き毟って半身を起こす。メフィは力なく涎と共に下半身に雪崩れて行った。

 寝起きの気怠い感覚に暫く浸っていると、陽の光が差して圭吾の目に入った。陽の光というのは体にその一日の時間の開始を告げるという。圭吾は相反し、背伸びをした後また布団に倒れこんだ。微睡は消えた。二度寝は無いが、気怠さの余韻がまだ残って起きる気になれない。昨日恭介たちと約束したのは場所だけで時間は決めていない。


「メフィ、おい。メフィ。今日は9時くらいに行こう。後、この社務所から出ないと役人に怒られちまうかもよ」

「ん……え、ぁー」


 メフィが起きた。圭吾は飛び上がった。メフィが起きたのは丁度圭吾の股間辺り。胸の前で手を交わして地面を押したのだ。つまり、圭吾の股間を押しつぶした。

 急な激痛に悶え転げまわり右往左往する圭吾に何が起こっているのかもわからずメフィは声を上げた。


「あ、え?ど、どうしたんですか!圭吾さん!圭吾さん!」

「おぐぁあああ……!何故だ……!何故なんだ……!俺が、俺が何か……!気に入らなかったのなら……!謝る……!だから、理由だけ……!この理不尽な仕打ちの理由だけでも聞かせてくれ……!」

「ご、ごめんなさい!ど、どうしたらいいですか!」


 眼は覚めたが白目をむいている圭吾は焼くような痛みから鈍痛へと移行して口の端に泡をためて微妙に痙攣していた。メフィは圭吾の手を取って許しを請う。


「う、う、もう……俺、さ……二度目の人生とか、そういうのがあって、なんていうか、諦めがついてるっていうか……。うん、そうなんだよ。もう俺は神にも十分チャンスを与えられたんだ……。次はちゃんと、生き残れないように死なないと、な……」

「うぁあああ!圭吾さぁあん……!駄目ですおぉ!!諦めないでぇえ!」

「あ、あの?市役員なんですがー……お取込み中だったかなぁ」

「え?」


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