コンキチのしっぽ
さむい北の国のはしに小さな村がありました。
村のうしろには大きな山があり、そこにはいろいろな動物たちがすんでいました。
動物たちと村びとはたいへんなかよくくらしていました。
山には、コンキチというたいへんあたまのいいきつねがすんでいました。
コンキチはまだわかいきつねでしたが、動物たちのにんきものでした。
みんながこまったとき、コンキチのちえはいつもみんなをたすけました。
※ ※ ※
ある日、コンキチが村のふもとであそんでいると、
村びとたちの話しごえがきこえてきました。
「なんでもあの山の中にたいそうあたまのええきつねがおるそうな。
こないだの山火事のときも、そのきつねのちえで火がきえたそうじゃよ」
「なあに、きつねといってもちょっと悪知恵がはたらくだけじゃ。
わしらにくらべりゃ、たいしたこたあねえよ。
それがしょうこにしっぽがついてるでねえか。
ほんとうにあたまのええ生きもんは、しっぽなんてものはないんじゃよ」
「それもそうじゃ。
わしら人間よりもかしこいきつねなぞ、おるわけがないのう。
いちど、どちらがかしこいかしょうぶしてみたいもんじゃわい。
はっはっは・・・」
コンキチはだまって話をきいていましたが、
やがてニヤリとわらって山のおくへとかえっていきました。
※ ※ ※
あくる日から、村にふしぎなじけんがおこりました。
村の名主さんのあかちゃんに、なんとしっぽがはえてきたのです。
名主さんはあんまりおどろいてこしをぬかすわ、
およめさんはねこんでしまうわの大さわぎの中、
あかちゃんだけはたのしそうにしっぽとキャッキャとあそんでいるのでした。
つぎの日には、村のあちこちでしっぽのはえた子どもを見かけるようになりました。
おとなたちはひっぱってとろうとしましたが、
しっぽはびくともしません。
でも、子どもたちはとてもたのしそうでした。
しっぽがあたらしい友だちのように思えたのです。
子どもたちがわらうと、しっぽもうれしそうに大きくふれました。
そのうちに村の子どものはんぶんがしっぽをもつようになり、
もっていない子のなかではうらやましがる子も出てくるようになりました。
ある日、村いちばんのりょうしのせん太はおかしなことに気がつきました。
せん太の子どももしっぽがついていましたが、
そのころから庭の木の実がなくなったり、
あんなにさわがしかったねずみもすっかり出なくなっていたのです。
「これはへんだな。
すこししらべてみるとするか」
せん太は家のまわりをしらべてみることにしました。
そして、うらにわで土がほりかえされたあとをいくつか見つけました。
ふとい木のぼうでまわりをほってみると、
なんとそこから木の実やねずみがでてきました。
「ははーん、これはきつねのしわざだな」
せん太は、
きつねが取ってきた食べものをあなをほってかくすというくせをしっていたので
すぐにピンときました。
「そういえば子どもたちについているしっぽも、どこかきつねににているな。
よーし、見てろよ。きつねめ」
せん太は夜中にそっと子どものようすを見にいきました。
せん太の子どもはすやすやとよくねむっていましたが、
そのうちに何かがふとんの中でもぞもぞ動くと、
すうっとこちらにちかづいてきました。
せん太は、そっと柱のかげにかくれて、
じっと目をこらして見ていました。
暗くてもひかる2つの目をもった4つの足は、
ふといしっぽをすっと上げてあるいていきました。
「たしかにあれはきつねのようだが、ただのきつねではないな。
あれはコンキチだ」
せん太はコンキチのことはよく知っていました。
むかし、小さい子どもをつれたたぬきをせん太がてっぽうで打とうとしたとき、
コンキチにじゃまをされたことがありました。
てっぽうのたまはコンキチのしっぽにかすり、
しっぽの中ほどに黒くこげたあとがのこりました。
せん太はそれを見てコンキチだとわかったのでした。
「コンキチ。 おまえはあたまがいいとは思ったが、
こんないたずらはゆるせん。
村じゅうの大人はしんぱいでつらいきもちでいるんだ。
二度とこんなことをしないように、今日こそこらしめてやる」
せん太はてっぽうをとると、コンキチのあとをつけていきました。
コンキチがせん太に気がついてふりむいたとき、
せん太はてっぽうの引き金をひきました。
大きな音が静かな村にこだまし、山の向こうまでとどくような気がしました。
気がついて見ると、コンキチはぐったりとたおれていました。
せん太はしばらくようすを見ていましたが、ぴくりともうごかないので、
だんだんあとあじが悪い思いがしてきました。
「少しはずしておどかそうとしただけだったんだ。
あんないたずらをしたのはいけないことだったが、
でも、ころすことはなかった。
かわいそうなことをしてしまった・・・」
せん太は動かなくなったコンキチをだきあげようとして、
てっぽうを下におきました。
そのときムクっとコンキチはおき上がり、
おどろいているせん太の顔に土を一けりすると、
ケケっとわらいながら山のほうへと走りさってしまいました。
せん太は土がかかってまっ黒な顔をしたまま
しばらくあっけにとられていましたが、
まんまとだまされてしまったことに気がつくと、
だんだんといかりがこみ上げてきました。
その朝、せん太の子どもにはもうしっぽがありませんでした。
村びとたちはせん太からコンキチの話をきくと、
コンキチをつかまえてほしいとたのみました。
名主さんからも、コンキチをつかまえたら
たくさんのほうびをあげましょうと言われました。
つぎの日から、せん太はコンキチをさがして
まいにちのように山に入りました。
山のおくは木がたくさんしげっていて
前へすすむのもたいへんでしたが、
コンキチを見つけることで一生けんめいのせん太には
たいして気になりませんでした。
※ ※ ※
ある日、せん太はとうとうコンキチのいる穴を見つけました。
その穴はしげみの中ほどにあって、たくさんの草におおわれていました。
すぐ上はきりたったがけになっていて、
大きな岩がゴツゴツと出ていましたので、
いまにもくずれそうに見えました。
せん太はここでコンキチをまつことにしました。
日がだんだんかたむきはじめたころ、
せん太のうしろからカサカサと草をふむ音がきこえて、
コンキチがゆっくりとあらわれました。
コンキチはじっとせん太を見ていました。
せん太はゆっくりとてっぽうをかまえました。
あたりは、かすかな風でゆれたはっぱの音のほかには何も聞こえず、
まるで山ぜんたいがいきをひそめて見まもっているようでした。
やがて・・・
せん太のてっぽうは火をふきました。
しかし、コンキチはそれをよけると
こんどはせん太にむかってとっしんし、
前足でせん太のからだをはげしくけりたおしました。
せん太のからだは、ゴロゴロとかいてんしておちると、
ちかくの木に思いきりあたまをぶつけて気がとおくなりました。
ふらふらしながらしゃめんをのぼっていくと、
そこにはコンキチのすがたも、コンキチのいた穴もなく、
ただ大きな岩がゴロゴロとおち、たかくかさなっていました。
「山くずれでもおきたのかな」
せん太はかんがえ、はっとしました。
「さっきのてっぽうのせいだろうか?」
ちかくにコンキチはいないかと、あたりをさがしてみることにしました。
こんなに大きい山くずれなら、
にげようと思ってもとてもにげられるものではありません。
せん太はひっしにさがしました。
すると、くずれた岩と岩とのあいだから、
しっぽのようなものが見えているのに気がつきました。
せん太はそっと近づいて、すなにまみれてしまったそれを、
はたいてきれいにしました。
すると・・・
しっぽのまん中がこげている―――
まぎれもなくコンキチのものでした。
せん太はいそいでコンキチのからだから岩をどけてやろうとしましたが、
いくら力をこめても大きな岩はびくともしませんでした。
コンキチはてっぽうの大きな音で岩がくずれてしまうことがわかっていたので、
せん太をつきとばしてたすけたあと、
じぶんはにげおくれて岩の下じきになったのです。
せん太はそのことに気づくと、岩のあいだにあるコンキチのしっぽが
とてもあわれに思えて、それをなでてやりながら
ボロボロと涙がこぼれてくるのでした。
せん太はてっぽうをうめ、
二度とてっぽうをにぎらないことをちかって山をおりました。
山をおりたせん太は、村のようすがかわっていることに気がつきました。
村びとたちがニコニコと外に出て話をしています。
せん太がどうしたのかときくと、
村じゅうの子どもたちのしっぽがなくなったということでした。
やっぱりあのきつねのせいだという村びとたちに
せん太はいままでのことをすべて話しました。
村ではコンキチの話はすぐにひろまり、
人をたすけたかしこいきつねとしてみんなにかたりつがれていきました。
村びとたちはコンキチをまつるために大きな神社をたて、
おコンさまとよびました。
すると、ここにおまいりすると
あたまのよい子が生まれるとひょうばんになり、
おとずれる人があとをたたなかったということです。
せん太は名主さんからごほうびに広い土地をもらい、
そこにはたけや田んぼをつくって、しあわせにくらしました。
ところで、コンキチはどうなったのでしょうか?―――
せん太が山をおりたあと、コンキチの上にあった大きな岩たちは、
グラグラ動いてなんびきものたぬきやきつねになりました。
岩にはさまっていたはずのコンキチのしっぽは、
木の葉っぱになってポトっと下におちました。
コンキチは、いちばん高い木のかげから出てきて、
岩にばけてくれたみんなに“ありがとう”と大きく首をふりました。
コンキチはここですべてを見ていたのでした。
そのごコンキチは山をおり、
村びとたちがコンキチのことをかしこいきつねだと話しているのをきくと、
とてもまんぞくし、それからは二度と山をおりることもなく、
山の中で動物たちといっしょにいつまでもなかよくくらしたということです。
コンキチのしっぽ ―おわり―
この作品は出版社の絵本の公募用に書きました。
当時、絵を担当していただくはずだった方の予定がつかず、
この作品はお蔵入りになってしまいましたが、
このサイトで少しでも誰かに読んでいただくことがあれば嬉しい限りです。
現在ここで連載中の「水の惑星」と同時期に書いたものなので、舞台の風景など若干被ってしまっています(笑)
こちらの小説はティーンから大人向けですが、
もし興味がございましたらこちらの方も読んで頂けたら嬉しいです!