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『 初 恋 に つ ま ず い て 』

作者: こり

少し古いものですが、広告とサッカーと恋愛を描いた少しユーモアタッチのラブストーリー。少し昭和です。

 2005.1.9.…春は来るのか?


 もはや、日本の、と言うより、イタリアセリエAのサッカ-選手として馴染んでいる※中田のパスが、ストライカ-の横を無駄に転がっていく。

 どうしたんだろう?…日韓共催のワールドカップは、

少なくとも日本と韓国にとっては奇跡的に素晴らしい大会だった。

ベスト16とベスト8。日本も韓国も盛り上がり、

特に韓国の攻撃的なサッカ-は胸に熱いものを残してくれた。

もちろんトルシエジャパンも頑張った。

そして、有力選手が成熟するドイツワールドカップに向け、

全日本サッカ-はジーコ監督のもと飛躍するはずだったのだが…。


 「なぁに、まだサッカ-なんて見てんのぅ。これからはバレ-よ、バレ-。※めぐかなの登場で、また東洋の魔女の時代が来るのよ!リベンジ・アテネよ!あっ、私、今日ママさんバレ-だから。ご自由にねっ」


 ※中田英寿…イタリアセリアAのサッカー選手(MF)。

その高い技術力と戦略、体力で全日本を引っ張る。

自分を通す限りやることはやる、と言う姿勢はカリスマ的でさえある。

 ※めぐかな…女子バレーの20歳コンビ。大山加奈(身長187cm)、栗原恵(身長186cm)のふたりを新戦力とした全日本女子バレーチームは、その熱いプレーで日本中を感動させた。

アテネではその経験不足がメダルへの道を閉ざしたが、

4年後の北京オリンピックでの活躍が期待される。


 「あぁ」

 俺はほんの2、3年前のあの熱いワ-ルドカップで人生を変えた。

長い独身生活にピリオドを打ち、コピ-ライタ-(虚業)という職業を捨て、ここ湘南で妻の雪と娘の鮎とで小さな喫茶店を営んでいる。生活は苦しいがそれなりに恵まれている、と言えるだろう。

 ドドドドドスン。身長が172cmにもなった娘の鮎が2階から降りてくる。

 「あっ、全日本?パパ、ジーコって運はいいよねっ。442のサイドバックやめて、352で国内組使ってよくなってきたもんね。でも、中田、使いこなせないと、次に進めないと思うよ。これじゃ、青木くんもクラバ-になっちゃうわよねぇ。もう、関係ないけど。で、おこづかいちょ」

 娘の鮎は元サッカ-部マネ-ジャ-。たまにサッカ-の話題に乗ってくれるが、今一番の興味は同じ高校の素人ビジュアル系バンド。化粧した男のどこがいいのやら。でも、この俺もまずいコ-ヒ-をいれながら、暇なオバサンの愚痴に付き合っているくたびれたおやぢだ。文句言える立場じゃない。


 若いストライカ-が中田になにか文句を言っている。笑いながす中田。

 「じゃ、パパ、鮎も今日はオ-ルだから。平気よっ、友達のアキも一緒だからね。いってきまぁ-す」

 「おう」

 そういえば中田はどこかの大企業の顧問(?)もしてるらしい。大人だよな。ふっ、まぁ、この俺もどこから見ても大人なんだろうけど。…そうなんだよなぁ。俺にとっては、あの時が最後の打ち上げ花火だったんだな。多分、最後の…。


 2001.11.4…広告はどこへ

 俺は、今日も暇である。

 やることは、無い。エステ新橋のちらしコピーなら昨日の帰りに魚屋の立て看板から頂いた。「新鮮一番」…そうだよな。お魚さんは新鮮さが一番。ってことは、それを女に置き換えるとだ。「キレイが、いちばん。」だよな。女はいつの時代もさ、キレイがいちばん。いいよな、これで。いい、いい。はいっ、おしまいっと。てな具合に考えた(盗んだ?)コピーはもうエステ新橋の広報部担当者様に「最高じゃん、それっ!」とお褒めの言葉を頂き、デザイナーの手に渡っている。


 「あーぁ、ってか」

 同僚のアートディレクター吉田が視線だけは、Macオペレーター美女軍団ユリマリエリ19歳犯罪的バディの魅惑的くびれに視線を絡ませたまま欠伸をする。

 吉田も暇だな。俺は煙草の箱を握りしめると、声をかけた。

 「吉田ぁ、一服いっぷく」

 「おぅ、一服、いきますかっと」

 基本的に事務所内は禁煙だ。特にあのMac様がいらしてからは、

神経質なほどの禁煙体制がひかれた。吸いたい人は、事務所を出た廊下の突き当たり、エレベーター前まで行かなければならない。

 途中、経理の松下女史が睨みを利かせる。

「けっ、この行き遅れがっ」吉田の毒づく声が、俺にだけ聞こえる。

3人のMacオペレーター美女軍団は画面に夢中だ。もちろん、デザインしているわけではない。吉田の懇切丁寧おまえらプロか馬鹿野郎的デザインラフを、Macという道具でデジタル化しているだけだ。

                       

「あぁあ、暇to暇。なんかいいことないの、健ちゃん?」

 ない。と言う代わりに、煙草に火を点ける。セブンスター。

昔はスカした奴が吸う煙草だったはずだが、今はこれでもキツイ煙草の部類に入る。

 「健ちゃん、最近、広告つまんなくない?なんか俺さぁ、

あのMacオペレーターのお姉ちゃんたちとお話しているだけで、

嫌になっちゃうんだよな。だってさ、広告の話、ゼロだぜ。広告わかんなーい、ってさ、ここ一応、広告プロダクションでしょ。

この商品はターゲットがこうだから、媒体はああして、表現はこんなのがいいと思います…なんて広告的お話なしだもん。アイデアラッシュなんて、またぁー、ってなもんで、意見あったためしなしだぜっ。

ああ、あの熱き広告論を戦わせた日々はどこ行ったのかねぇ」


 吉田の言う通りである。広告はバブル崩壊とともに急速に冷え込み、

Macの台頭であらゆる仕組みが変わった。

 例えば、俺のようなコピーライターは、

クライアントさんの頭の中にある一流大学目指してお勉強しました国語でないと「チミィ、日本語知らないネ」なんて言われて赤字だらけになる。

発想が新しいとか、切り口が斬新とかは関係なし。ようするに社内をなんの問題もなく通過するコピーが求められているのだ。

 それは目立たなければ意味のないキャッチフレーズも同じ。だいたい、広告費削減で、1本のコピーを1年間は使用するから、戦略的なものより、永劫不滅のものがよいのだ。

 だったら、その永劫不滅のスゴイのを作ればいいのだが…。

吉田じゃないが、広告が面白くないのだ。やる気がないのだ。


 「ちょっと、いつまで、煙草吸ってんの!あんたたち給料高いんだから、ちゃんと働いてよねっ!」

 経理の松下女史が吠える。年齢38歳、独身。生意気だけど元はやり手のデザイナーだった。コピーライターに噛みつくのが得意で俺とも何度、夜を共にしたことか。もちろん、色っぽいことでではない。激論でだ。

でも、それが俺のコピーに磨きをかけた事も事実だ。今は社長の片腕として経理を任され、この不況下にも給与をやり繰りしてくれる女神さま。

言葉はきついが、元デザイナー。俺たちの気持ちもわかってくれている。


 「ほらほら、健ちゃん、電話鳴ってるわよ。急いで、急いで。

みんなのボーナスになる電話かも知れないわよ。急いで、急いで」

 「はい、はい」

 受話器を取ると、借金取りのような柄の悪いダミ声が耳を攻撃する。社長の蒲郡だ。

 「あぁ、俺だ。グハハッハ、健、仕事だぞ、仕事。結構、美味しいぞ。ビッグだぜ。これから帰るから、吉田ちゃんも待たせといてよ。グハハッハ!」


 確か、社長の前身はデザイナーだったはずだが。もはや、インチキ不動産屋の悪徳営業マンに徹している。

「粗利でガッポガッポ、グハハッハ!」が口癖になっちまった。


 1987.12.20…フィリパブ

 この弱小広告プロダクション「アドクリス」も最初は尖った表現で、大手広告代理店指定によりでかい仕事をしたものだ。

 蒲郡、吉田の32歳怖い者なし、俺たち天才だもんね生意気デザイナーふたりが創業者。時代はバブル。仕事は腐る程あり、大きなコンペテーションも連戦連勝で奪っていた。

 俺はその頃、中堅の広告代理店で、コピーライターの新星としてさまざまな賞を総嘗めにしようとしていた。

と同時にデザイナー、イラストレーター、カメラマン、営業、受付、モデル…年齢を問わず女というオンナを漁る用意をしていた(コピーライターは女に縁が薄い職業なのだ。泪)。

 あれは、そんな躁状態の時代の中、クライアントとの打ち上げでフィリピンパブに流れ、フェイちゃんのミニスカートに右手を、ケイちゃんのワタシマダ18サイネスベスベヨ的二の腕に左手を隠微に置いて

『大阪で生まれた女』を歌っている時だった。


 「あぁぁ、なんかコピーライターかなんか知らんけど、一般コンペの賞を取っただけでフィリピンパブかい、えっ、10年早いんだよ、10年!」

 チンピクがこめかみピクッに変わった。まだ喧嘩早かった俺はフェイちゃんのパンティに触れかけた右手と、ケイちゃんの乳に向かっていた左手を止め、声の方にガンをたれた。中年太りの始まったふたりの男が、

見るからにいやらしい手つきで、フィリピーナのキュキュッとアップしたヒップに、隠微な蛇行線を描いている。薄汚れた背広野郎とサングラス野郎だ。

 (D通さん、H堂さんじゃないよな)

 素早く計算した俺は、

 「なんだよっ、裏行くか。裏。あぁっ!」と怒鳴った。

 「けっ、この若僧が。俺は元ブラッ@エンペラー(暴走族様のお名前)福生支部特攻隊だぞ。根性あんのかよ、根性」

 背広野郎が挑発する。

 ブラッ@エンペラ-はちょっと嫌だな、とひるんだ瞬間にサングラス野郎が追い討ちをかける。

 「俺は悪いけど、元ホワイ@ナックル(暴走族様のお名前)の浦和支部長だ。やめるんなら、今のうちだぞ」

 ホワイ@ナックルもちょっと嫌だな、ボクちゃん若僧だし、向こうの言っているのも当っているしな。謝まっちゃおうかな…。

 と、その時だった。

 「ガタガタぬかすんじゃねえよ。さっきから聞いてらぁいい気になりやがって。おめえらなにモンか知らんが、そんなおコちゃまの頃のお話でつっぱってんじゃねえよ。やるか、やらねぇかだろが。あぁっ!裏に来りゃ、いいんだよっ!」

 な、なんと、クライアント様広告部担当の柳様が吠えている。あんなにクリエイティブ思いで、優しい柳様がアルマーニの背広を脱ぎ、眼鏡を外している。

 ほへ、目が違う。フィリピーナの皆さんも「アーユー ジャパニーズ マフィア?」なんて言っている。これは窮鼠猫を噛むではない。なんか本物だ。例のふたりもその鈍く光るワニ眼の前には言葉もない。俺もない。

 「いいから早くしろよっ。気が短いんだよ、俺はっ!」

 柳様はそう言うとさっさと扉を開け、外に出た。一陣の風がフィリピンパブに溜まった日本人どスケベ根性をさらって行く。


 「ど、どうしましょう。えーと、コピーライターの村上さんですよね。さっきはすみませんでした。私、デザイナーの蒲郡五郎と申します」

 最初に口を開いたのは元ブラックエンペラ-福生支部特攻隊の背広野郎だった。

「あっ、私コピーライターの村上と申します。なにかありましたら、よろしくお願い致しします」

 つい営業的挨拶になってしまう。

 元ホワイ@ナックル浦和支部長のサングラス野郎も、丁寧に頭を下げて挨拶する。

 「僕もデザイナーで、吉田秀樹と言います。で、あの、どうしますかね。

あの方、なんか組とかの人ですよね。冗談通じなさそうですもの。

もし、あれでしたら、ここのお金払わせて頂きますので、村上さんの方から、どうにかして頂けませんか」

 「あ、いやぁ、あの人、クライアントさんなんですよ。俺がなんか言って機嫌損ねたら、ねぇ。それより、ふたりとも、元暴走族でしょ、どうにかなりませんか」

 「あっ、それ嘘、嘘。嘘の上塗り。私、ブラッ@エンペラ-福生支部特攻隊の特攻服のデザイン係で、服、縫ってたりしてただけなんですよ。まぁ、そのお陰でデザイナーなんてしてますがね。

それに、こいつホワイ@ナックル浦和支部長なんて嘘もいいとこ。生まれも育ちも千葉の単なる丘サーファーですから」

 あきれた。そんなら俺の方が上だ。これでも、空手6級だからな。


 「早くせんかいっ、このボケ!冗談こいてると、容赦せんぞ。あぁっ!」

 柳様は、まだお怒りのようだ。フィリピンパブは完全に固まっちまっている。しょうがない。このふたりにはかわいそうだが、柳様の餌食になってもらおうか。俺?俺はそうよ、柳様側だものな。やられないものな…。


 「バシッ、グギャッ、シュッ、ウッ、バタッ!ドバッ、ガガガッ、ウーン、ビタッ!」 突然、擬音が爆裂した。

 そっとドアを開け外を見ると、柳様が仰向けで気持ち良さそうに寝ている。


 「ミンナミンナ タノシイ イチバンネ ケンカダメヨ ハイ ウタウタウ オカネゲンキンバライ メイロウカイケイ フィリピンウチタツ ケンカダメネ ニホンジンスケベ オッケーネ ヘイ カモンカモン」

 フェイちゃんだった。H168・B89・W59・H90(推定)のセクシーバディ、小麦色のフェイちゃんがファニーフェイスで笑っている。

 まさかフェイちゃんが?いんちき元暴走族のふたりも呆然としている。


 「タイ式ボクシングだ」

 蒲郡が恋人に囁くように言った。

 「タイ式ボクシング?ここフィリピンパブだよな」

 吉田を無視して蒲郡が続ける。

 「去年、接待ゴルフでタイに行った時、見たけど、あれは強いぞ。特に足蹴りがハイに決まるとやばいぜ」

 「でもフェイちゃんがタイ式ボクシングを?」

 「村上さん、気分壊して悪いけど、フェイちゃん、否、フェイちゃんは正式にはフェイくん、つまりオカマだ」

 ゲロゲロのゲロゲーロ。しかし、さっきパンティごしに見た時、そんなモノは…。

 「お尻にまわしているのですよ。だいたいタイはオカマのメッカですからね。それにフェイくんみたいに身長のある女の子はいませんよ」

 そっと、フェイちゃんを見ると確かに他の女の子たちとの身長の差が気になる。セクシーバディも視点を変えるとマッスルバディに見えてくる。

でも、その可愛い微笑みは近頃のボディコン生意気日本姉ちゃんには見られないあどけなさに溢れていた。


 「男だって笑っているほうがいい。」


 なぜか、1本のコピーが浮かんだ。


 と、クライアント様の柳様が、フラフラと起き上がった。

 「んんっ、痛てえなぁ。もう、糞っ。誰だ、このっ」

 酔いはだいぶ抜けたみたいだ。

 「ダイジョウブ? ゴメンナサイ ユルシテネ」

 フェイちゃんがサッと近づき濡れタオルで柳様の顔を丁寧に拭く。

 「き、君は?」

 「ワタシ フェイネ ヨロシク」

 オカマとは思えない(ならではの)優しさが、柳様の酔いを完全に覚ました。

 「君が僕を?」

 「ワタシ ムエタイ スコシヤッテタアルノ ゴメンナサイネ イタイノ イタイノ トンデケデス フフッ」

 「なんだ、そっかぁ。いやぁ、こっちこそみんな楽しく呑んでいるのに悪かったな。よし村上くん、カラオケカラオケ、今日は朝まで騒ぐぞぉっ!」

 フェイちゃん、否、フェイくんの腰に手をまわし、柳様が『銀恋』をご機嫌でデュエットしている。


 俺と蒲郡と吉田は店の片隅でお互いの身の安全を祝して乾杯した。

 「いやぁ、とにかくクライアントさんも落ち着いたみたいですし、よかったですよ。いや、今日は本当に失礼。俺たちふたりでデザインプロダクションやっているんだけど、実は、結構お金になるコンペで落ちちゃいましてねぇ。それが、まぁ、裏があったみたいで…。ふたりともデザイナーですから、そういうのうとくてねぇ。というわけで、関係の無い村上さんにからんだりしちゃって。どうもすみませんでした」

 「まぁ、これもなにかの縁といいますかね。なにか村上さんの方で、

これは、というお仕事ありましたらいつでもご依頼ください。

喧嘩はね、駄目ですけども、デザインはちょっと自信ありますから」


 俺はフェイちゃんとチークダンスを踊っている柳様を見ながら考えていた。広告代理店にいるコピーライターの行く末は、プランナーを経て、結局は営業だ。コピー職人になるか、総合的なアカウントエクゼブティブになるか。上司には早くプランニング部に来るように突っつかれている。

しかし、まだ28歳。クリエイティブを捨てるには早い年齢だ。それに俺はコピーを書くことが好きなのだ。


 「村上くん、僕はフェイちゃんに惚れたぞ。うん。結婚しちゃおっと。

ウチは代々893の家系なんだ。家を継がずに会社に入ったのも女性らしい優しさと、いざ、という時は腹をくくれる芯のあるお嫁さんを探すためなんだ。でも、もう会社なんて関係ない。辞めた辞めた、会社いち辞めたっと」

 ゲッ、困ったぞ。柳様は大手飲料メーカー宣伝部の有望株、俺の担当クライアントとしてはトップだ。

次のキャンペーンで※TCC賞を狙っていたのに。

 ※TCC賞…東京コピーライタークラブ新人賞。これを取ったコピーライターと取れなかったコピーライターとの間には深くて暗い川がある。


 「む、村上さん、いいんでやんすか。フェイちゃんはオカマなんですぜ。クライアントさん、結婚なんて言っていますが…」


 んんんっ!うーん、ポンッ!

 やった。ひらめいたぞ。いいコピーが生まれた時と同じ快感が前立腺を貫く。

 今度、柳様の会社が売り出す商品は、かなりライトなビール『Right On』。もうオリエンテーションは済み、ビール瓶のラベルやアルミ缶のデザインは出来上がっている。今現在は広告のコピーとビジュアル案のブラシュアップに入っているところだ。


 「そだそだ。いいよな、この案。フェイちゃんがオカマだろうが関係ないよな。柳様へのお祝いにもなるし。へへっ、天才は突然やって来る、ってかぁ」


 1987.12.21…フェイちゃん

 次の日、俺は会社のクリエイティブディレクターに蒲郡と吉田を紹介し、是非、彼らと組ませて欲しいと頭を下げた。もはやデザイン事務所は決まっていて商品のデザインやパッケージは進行している。無理やり組ませてもらうのは、テレビ・新聞・雑誌の3媒体だ。競合という形になったが、俺は蒲郡たちと組む方を選んだ。


 「男だって笑っているほうがいい。」


 1行のキャッチフレ-ズを提示し、俺はふたりの反応を見た。

 「で、ライトビールとなんの関係があるんですか?」

 「女性はターゲット外なんですか?」

 フィリピンパブでのふたりと違い蒲郡も吉田も鋭い意見をぶつけてくる。さすがだ。

 「軽くていいんじゃないすか。」「毎日、飲んでもライトオン!」「昼ビール、賛成。」「軽い、明るい、ルイルイルイ!」…それまで溜めていた駄目コピー100本ほどを見せ、ふたりの顔が曇ってきた頃を見はからって、俺はもう一度「男だって笑っているほうがいい。」というコピーを持ち出した。


 蒲郡が苦笑いしながら言う。

 「村上さん、もう一度、考え直しましょうよ。僕らもプロだから、わかるんですよ、それらのコピーがいいか、どうかは…」


 そこで俺はカウンターパンチを出した。

「ビジュアルはフェイちゃんだぜっ!」

 蒲郡と吉田は素早く頭の中でイメージを浮かべ、ニッコリとうなずく。

 「うーむ、なるほどっ!ライトうんぬんよりインパクトか。かなり注目浴びるだろうな」                          「オカマくんの登場したビールの広告なんて無いもんね、今まで」

 やっと、ふたりの目がギラついてきた。

 「フェイちゃんなら、女性のユーザーもOKだし、その後のイベントにも使えるしな…」

 徹夜の日々が始まった。俺はキャッチ以外のコピーと企画書を書きまくり、蒲郡はフェイちゃんの衣装や撮影ロケ地を探し、吉田はひたすらデザインレイアウトのアイデアを作り続けた。


 そしてプレゼンテーションの日がやってきた。

 …空気が澱んでいる。会議室の雰囲気からすると競合プロダクションは、ズバ抜けたアイデアを持って来てはいないようだった。

 蒲郡が簡単に挨拶を済ますと、会議室の電気を落とす。

ビデオでいきなりフェイちゃんの水着姿がテレビに写し出される。しばらくフェイちゃんのセクシーポーズが続く。

 柳様はフェイちゃんから話を聞いていたのだろう。

驚いた表情は無い。他のお偉いさん方からは「ほぅ、なかなかいい子だねぇ」

「フィリピーナか?うん、面白いかもな。モデルって言うと西洋人だったもんな」という意見が聞かれる。

 蒲郡は黙ったまま、ビデオを見つめている。と、画面が一瞬、暗くなり、東南アジア系の民族音楽が鳴り出す。画面はボクシングジムでスパーリングをしているふたりのキックボクサーに。

 激しいスパーリングが終わり、汗を拭うフェイちゃん。精悍な顔がだんだんと和らいでカメラ目線で笑いかける。…お偉いさん方、呆然。


「オトコダッテ ワラッテイルホガ イイッ」


 フェイちゃんの低いがたどたどしくて可愛い声が会議室にこだまする。

『Right On』を飲む水着姿のフェイちゃん…。

 お偉いさん方は「ライト級チャンピョン『Right On』デビュー!」というナレーションが聞こえないかのように固まっている。


 (KOか?KOされたか?)


 蒲郡は、静寂を破るように太く説得力のある声で、激しくプレゼンテーションを始めた。 

 お偉いさん方は、蒲郡の押しの強い声に負けたように、資料に目をやる。みんなフェイちゃんの略歴を探しているのだろう。


 「…と言うわけで、クドクドと説明してもしょうがないでしょう。皆様の今の状態がこの広告の狙いです。本日はありがとうございました」

 さすが蒲郡、プレゼンのやり方を知っている。

 と、何かとうるさい重役が手を挙げて、質問をしてきた。

 「なぜ、そのぅオカマなのかね?」

 (来たっ、究極の質問!)

 と、会議室の電気が点けられ、突然、フェイちゃんが水着姿で現われた。


 「ハーイ ミナサン ドデシタデスカ? クライカオ イケマセンデスゥ ワラッテクダサイマセネェ ゲンキンバライデスゥヨゥ」

 フィリピーナ(タイ?)の陽気さに日本人は太刀打ちできない。重役もなぜか嬉しそうにおでこを叩いている。

 「いやぁ、まいった。まいった。えーと、蒲郡君だったね。コンセプトとか、細かい媒体戦略は後で読ませてもらうとして、こんな楽しいプレゼンは始めてだ。明日には返事するから、待っていてくれたまえ」

 他のお偉いさん方もニコニコしている。もちろん、柳様は満足気にフェイちゃんと見つめあっている。プレゼンはイベントなのだ。


 その年のTCC賞、あいうえお賞、さらにはカンヌ地方国際CM頑張ったで賞と、あらゆる賞を俺たちはGETし、一躍、広告界の寵児となった。

 もちろんキャンペーン自体も大成功。柳様は大喜びで会社を辞めると、

実家の稼業893を継ぐことになった。フェイちゃんはその後もタレントとして売れてしまい、フィリピン(タイ?)には豪邸が建ったらしい。

 そして、今日はふたりの結婚式。893系列のご家族ご親族の皆様に、

フィリピン(タイ?)からこれまたタトゥの入ったフェイちゃんのご家族ご親族が入り乱れ、警察が見守る中、ふたりは教会で厳かに永遠の誓いをした。

 「あぁあ、幸せそうだなぁ」とふたりを見つめる俺に蒲郡が、ヤニ臭い口を近付け囁いた。

 「村上さん、俺たちと一緒にやりませんか?広告プロダクション…」



 2001.11.4…セピアト-ン

 夕方7時過ぎ。Macオペレーターの美女軍団ユリマリエリは、6時ピッタリに帰宅している。

 蒲郡が帰社し大声で話し始める。

 「すんごいよぅ!あぁ、このご時世にキャンペーンだってよぅ、キャンペーン!あぁ、テレビに新聞に雑誌にポスターに、その他SPもんがガッポリ。粗利もガッポリ。あぁ、生きてて良かっただなぁ」

 俺と吉田は苦笑しながらも、話の続きを待った。

 「で、クライアントさんていうのがだっ、アルプスフィルムさんですよってば!」

 業界2位のフィルム会社だ。業界1位の緑フィルムはもはや確固とした地位を築いており、世界ブランドのコダクサンも日本ではかんばしく無い。

 「そこが、なんでもセピアトーン・フィルムを出すんだとさ。なんかセピアなんておいらに言わせると古い感じだけどさぁ、ほら女子高校生のプリクラ?、あれで流行っているんだとよ。代理店はD通さんだかんね。お金も心配ないし。頼むぜーっ、健ちゃん、吉田ちゃん、命かけてくれよなぁ」

 蒲郡の話は今時、確かに美味しい話だった。セピアトーン・フィルム。

常に業界2位に甘んじているアルプスフィルムの起爆剤的商品なのだろう。予算も十分にあった。


 「話題性のある広告をお願いします」

 D通さんのオリエンは簡単だった。求められているのは、単なる告知広告でなく、クリエイティビティの高いものだった。

 俺はまだ名前も決まっていないセピアトーン・フィルムを何10本もカバンに詰め、原宿から渋谷、巣鴨から浅草、新宿から六本木ととにかくこのフィルムの「つかみ」を探しに写真を撮りまくった。

 今という時代をセピアで撮るのはなぜなのか?…現像されたフィルムには、ピアスの兄ちゃんやとげ抜き地蔵に群がるジジババ、まだルーズソックスを穿いている足首太め女子高校生が、まるで過去の遺物のように写し出されている。

 ユリマリエリたちの意見は「えーっ、面白いからじゃないんすかぁ。カラーってえぐいしぃ、モノクロはうざいじゃん。その点、セピアなら飾ってもお洒落って感じだしぃ。まぁ、そんなもんすよぅ。って言うか、もはやデジタルの時代なんですけどぅ…」

 あまりにストレートで納得せずにはいられない意見に俺たちは肩を落とさずにはいられなかった。


  

 2001.12.2…雪との再会

 久し振りの休日。俺は実家のある鎌倉に戻って、湘南は腰越の東浜で色鮮やかなウィンドサーファーたちを撮影していた。

 昔のように若者だけでなく、定年後らしき人や小学生までが、自分のペースで波と戯れている。サーフィンやボディボード、シーバイクなどもキチンと自分たちの陣地を守ってそれぞれに楽しんでいる。


 「…すみません」

 「ん?」

 この寒い時期にナンパ目的で腰まで海に浸って震えているお馬鹿サーファーをカメラで狙っていた俺は、その丁寧な声に振り向いた。

 30台後半、品が良く、姿勢の良い女性が、伏し目がちに、微笑んでいる。

 …心臓がドキつく。足が震え、気が遠くなった。

 「すみません、もしかしたら、村上さん、村上健さんではありませんか?」

 俺は生唾を飲み込むと無言でうなずいた。

 忘れもしない。中学生の頃、好きだった初恋の人、否、片思いで終わった佐倉雪さんだった。

 「まぁ、お久し振りです。あの、覚えてらっしゃいますか?中学、あっ、津村中学で同じクラスだった佐倉雪です」


 いつも大きく黒い瞳をキラキラとさせながら、子鹿のような、という形容詞がぴったりの綺麗な脚を伸ばし跳ねまわっていた佐倉さんだ。運動神経が抜群なのに、勉強もトップクラス。いつも少し寂しげで大人びた表情をした、もの静かな少女だった。もちろん、学校中のアイドルだったが、その中学生にしては落ち着いた雰囲気に誰もが「佐倉さん」と、名字にさん付けで呼んでいた。

 あれから20年以上が経っているが、その上品な雰囲気は変わらない。

トレーニングウェアというラフな格好で犬の散歩らしいが、まさにマーヴァラスだ。


 「あら、こんな格好でごめんなさいね。もう、おばさんだから、ケン、あぁこの犬ころよ、とジョギングしているの。でも、本当に久し振り。村上さん、全然変わってないのね。すぐ、わかったもの」

 「あう」

 俺は何を喋っていいのか戸惑いながら、犬の名前が自分と同じケンということに戸惑うというお馬鹿状態に陥っていた。


 「あの、もし良かったらお食事でもいかがです?家すぐ近くだからケン置いて着替えてきます。それとも、お腹空いてないかしら?」

 俺はやっと声を発した。

 「い、いやっ、ずっと撮影していたから、もう腹ペコです。あっ別に変な撮影を、あの盗撮とかじゃなくて…」

 「ふふっ」

 佐倉さんは軽く片手を上げて俺のお喋りを止めると、綺麗なフォームで砂浜を駆けていった。

 (中学の頃と変わらないじゃないかっ!)

 俺はその後姿を無意識に撮影していた。


 俺たちは、腰越漁港の近くにあるしらす料理屋に入り、ワインで再会の乾杯をした。

 「何年ぶりなのかしら」

 「うーん、俺は同窓会も顔出していないから、16歳の頃から逢ってないんだよなぁ」

 「老けたでしょ、私」

 「いやいや、今24歳くらいって、感じかなっ」

 「ふふっ。変わらないのね」

 「えっ、俺って中学の時から、こんなお調子もんなの?」

 「嘘よ、立派な男って感じよ」


 のぼせ、めまい、動悸。よく初恋の人には逢わないほうがいい、なんて言うけど、彼女は今でも俺の永遠のマドンナだった。

 「カメラを覗いている時なんか、すごく真剣な顔で素敵だったわよ。ご結婚は?」

 あぁ、これはお決まりの質問だよなぁ。

 「へへっ、独身貴族。職業、広告マン」

 「ふーん、結婚しなかったんだ」

 「佐倉さんは?」

 一瞬、潮風が止まる。

 「…私は、人気のバツイチ。職業、スポーツクラブの事務員。娘ひとり。犬一匹。あらっ、お互い花の独身ね」


 昼ワインの酔いも手伝って、俺はもちろん彼女も饒舌になり、中学生の頃の思い出話に花が咲いた。

 「佐倉さんはバレーボールやってたんだよなぁ」

 「ねぇ、村上さん、その佐倉さん、ってのやめない。雪様とか雪さんとか雪ちゃんって色々あるでしょ。ねっ、村上君!」

 クスッと笑う彼女。確かに君付けで呼ばれると、こそばゆい。

 「じゃ、雪ちゃんってのは贅沢だから、雪さんね」

 静かに笑う、彼女。

 「そう言えば、俺、雪さんのこと好きでさぁ、ほら告白したの覚えてる?」

 なにかと晩生だった俺が初めて恋心を告白したのは中学を卒業した春休みだった。

 「ええ、ちゃんと覚えているわよ」

 「俺あがってて、雰囲気出そうとしたんだけど、なんだっけ月が出てて、月がふたつくっつくと、付き(月)合う、なんて言ったんだよなぁ。さすがコピーライターになっただけあるよなぁ。情けねぇー」

 「私も子供だったから、もっとロマンチックにくると思ってたのに、ねぇ」

 「今だったら?」

 しらすのてんぷらは少し塩辛かったが、ワインのつまみにはちょうどよかった。少し飲み過ぎたかもな。

 「…んんん、好きだったわよ、私。村上さんのこと。あれからふたりとも高校生になって、違う高校に通うことになって。でも私、遠まわりして村上さんと同じコースで学校通っていたもの」

 そうだった。でも俺は恥ずかしくて無視していたんだっけ。…「今だったら?」は余計だった。


 店を出るともう3時。

 「あら、もうこんな時間、今日はすごく楽しかったわ。そろそろ娘が帰ってきちゃうの。村上さんは、今、何処に?」

 「あぁ、東京の五反田にマンション借りてひとり暮らし。あぁ、これ名刺。また、こっち来たら連絡するよ」

 「…そうなんだ」

 「うん。あっ記念写真。いくよぅ、ガシャッ!っと。あれさぁ、写真送るから、もしよかったら住所教えてくれる?」

 「うん、もちろん」

 雪さんは手作りっぽい可愛い名刺をくれた。

 「可愛いでしょ。娘がパソコンで作ったのよ。今やパソコンのできない人は時代遅れらしいわよ。嫌ねっ。それじゃ、また…」

 「あぁ、また」


2001.12.16…思い出づくり

 束の間のくつろぎから、東京に戻った俺はいきなり現実に戻された。

 「健ちゃーん、感性無くなったのかよぅ。粗利ガッポガッポが、これじゃ仕事没没没のオジャーンじゃんっ!」

 蒲郡はもはや経営者だから突っつく役目だが、俺と吉田は確かに自分たちが一生懸命築き上げてきた広告の感性や時代の読み、コンセプトの発見といった広告マンの資質が古ぼけてきているのを感じていた。


 「あらっ、ねぇこの写真いいじゃん。ねぇ、ユリ!」

 吉田は上がってきた写真から「いいと思うもの」を若い彼女たちの感性でセレクトさせていた。

 「あんっ、いいじゃんっ、いいじゃんっ。こんなふうに歳とりたいわねぇ」

 「うーん。これっきゃないって感じよね。ねぇねぇ、吉田さん、これだぞ!って」

 吉田が眠そうに、その写真を見る。

 「どうどうどう?いいでしょ。このオバサンってば、こんなにいい笑顔してさぁ。それがまたセピアでいい感じになってるじゃん。わかるぅ、吉田くーんっ、なんちて」

 今回のキャンペーンでユリマリエリもだいぶ広告マンらしい会話をするようになったものだ。

 と、吉田はその写真を前に固まっている。

 「吉田さん、なにフリーズしてんの?」

 俺も身を乗り出して、その写真を見る。…げっ、佐倉雪さんの写真じゃないかっ、やばっ!

 「これって健の写真だよなぁ。どういう関係なの?」

 「中学の同窓生」

 「…なるほど。マジそういうことかもな。若い奴らやジジババ、カルチャー族、サラリーマン、犬、豚、馬、家、クルマと、俺たちとにかく撮影してたけど。違うよ、このフィルムは。このフィルムは“思い出”とか、

よくわかんないけど、そんな感情と結び付いた商品なんだよ。ただ撮影してちゃわかんない代物なんだよ」


 写真を撮影している時点では、撮影しているほうも写されているほうも何の意識もしていないが、プリントに上がって来た時、誰もが思う。

 …「楽しかったね」「懐しいよなぁ」「あぁ、また行きたいな」「また逢いたいね」

 その時点で写真はもう過去の思い出なのだ。

 「“思い出づくり”、そのイメージをより強く構築するためにセピアトーン・フィルムはあるのか」

 「そいつだよ、健。それがこの商品のコンセプトなんじゃないか」


 「えーっ、そんなの当たり前じゃーんっ、何よぅ、吉田さんたちそんなことのために、こんなに写真撮って、遅くまで会議してたのぅ。もうっ、コンセントって簡単なのねぇ」

 エリの発言に俺は何故だか背中を押された気がした。当たり前のこと。

そこから、俺は逃げていたのかもしれない。斬新なもの、ふやけ切った広告界を驚かすものを、と夢を追い求めて過ぎていたのかも知れない。


 吉田の無理を聞いて、俺は早速、雪さんに電話した。

「あっ、佐倉さんのお宅ですか?あっ、佐倉さ…」

「あ、あのぅ、少々お待ち下さい。今、お母さんに代わります」

 娘か。声は雪さんそっくりだ。

 「はい、佐倉です。あら、村上さん。先日はどうも失礼致しました。どうか致しました?」

 「えぇ、いきなり電話してすみません。実はですねぇ…」

 俺は簡単に事情を話すと、中学時代の雪さんの写真を借りることに成功した。

 「で、モデル代は?なーんて嘘ですよ、そんな写真でよければ、何時でも。えぇ早速、お送りしますね。それでは失礼します」


 吉田のアイデアでは、雪さんの中学時代の写真からいいカットを選び、

セピアトーンに変えるというものだった。デザイナーの目から見ても雪さんは十分に通用する魅力を持った素材だったのだろう。

 「で、健さんとその女性ってば、どういう関係なのかしらねぇ。いやーん、初恋かしらねぇー」

 マリの頭をはたこうとして簡単に避けられ、そしてその威張ったようなFカップとやらをはたいてしまう。

3人娘が声を揃える。「セクハラじゃん、これってば。お・ご・れぇー」


                 *


 D通さんへのプレゼンを控え、俺は不機嫌だった。コピーはできている。

 「思い出はいつもセピアトーン。」 一生残したい写真だから。アルプスフィルムのセピアトーン・フィルム『serenade』

 雪さんが元気良く走っている写真はMac様のお陰で数分でセピアトーンになった。

おさげ髪を揺らして笑顔で走っている雪さんはまさに美少女で、ユリマリエリにも、いいじゃん、とお褒めの言葉を頂いている。

 でも、コピーが駄目だ。このコピーはキャンペーンをくくるコンセプトコピーにはなる。でも、当たり前だ。当たり前だから、ユーザーにもわかりやすいだろう。でも…。

 「コピー弱いじゃんかぁ、健よぅ。ビジュアルだって誰も知らない素人なんだぜっ。コピーが頑張らないでどうすんだよ」

 蒲郡の容赦ない言葉が俺を攻撃する。当たっているだけに辛い。

 アルプスフィルムだって大きなことは求めていないはずだ。

No.2企業らしく、常にNo.1の緑フィルムのしていないことを仕掛け、一時的だろうが緑フィルムを脅かしたいのだ。それが社内外の活性化につながるのだ。すでに緑フィルムは使い捨てカメラのセピア版を発売する、との情報もある。ユーザーを絞りブームのものと切り捨てているところが、さすがだ。


 D通へのプレゼンは短時間で終わった。

 「お宅も、こんなにキチッとまとまった広告作れるようになったのね。駄目でしょ、これじゃ」

 嫌味は、嫌味では無かった。事実だった。


 2001.12.7…クライフ鮎ちゃん

 眠れない。胃が痛い。女に視線が行かない。…こりゃ、久し振りのストレスだな。俺は雪さんに借りた写真をカバンに入れ、東海道線下りに揺られていた。明日は金曜日、土・日ときて、月曜日。コピーアップを吉田たちと約束して、湘南に向かっているところだった。


 「…あらぁ、残念だわ。せっかく女優の道が開かれるかと思ったのにんっ」

 雪さんは本当に残念そうな顔をして、そのくせ、ケロッと言い放った。

 「確かにこの写真は私の宝物だしセピアトーンで見るととっても素敵だわ。でも、それは歳をとっておばさんになったから。セピアトーンでわざわざ撮影なんてしないわよ、普通。カラーのほうが安いしねぇ…」

 胃がキリリッと痛む。

 「あらっ、ごめんなさいね。村上さんお腹空いているのね。待って、今、カレーできるから…」

「いや、雪さ…」

 ピンポーン!

 「あらっ、鮎かしら…」

 「ただいまぁ、もうっお腹と背中がペッタンコ状態よぅー。あっ、お客さ・ん?」

 冬なのに日焼けしたショートカットの少女が居間に飛び込んできた。

重そうなスポーツバックを肩にジャージ姿で立ちすくむ少女は、まさに雪さんの娘である。大きな黒い瞳を俺に向け、堂々と見つめてくる。

 「あっ、こんばんわ。お邪魔しています。えーっ、私、村上健と言います」

 「あんっ、私、鮎です。いらっしゃい」

 身のこなしも軽く2階にかけあがる。超元気そうな女の子だが、超という流行語に染まっていないところが、さすが雪さんの娘である。

 「ごめんなさいねぇ。もう元気なだけが取り柄で。誰に似たのかしら…って私?」

 笑いながらキッチンに向かう雪さんが、大声で叫ぶ。

 「鮎ーっ、もうご飯だからねーっ。眠らないのよーっ」

 「うんっ、超ハラペコだから眠らないよーっ」

 やっぱ、超は使ったか。


 鮎ちゃんが帰って急に家の中が明るくなったようだ。独身の俺には見知らぬ世界。「広告マンは良き家庭人であれ」という先輩の言葉を思い出す。

 「鮎ねぇ、サッカー部のマネージャーやってるのよ。

小学生の時までは地区の女子サッカークラブで実際にやっていたんだけどねぇ。中学になると、さすがにね。ん。確か村上さん、サッカー部でしたっけ?」

 確かにそうだった。練習から帰ると鮎ちゃんのように寝るか食べるかのただひたすらにサッカー少年だった。

 雪さんのカレーが出来上がるのと同時に、柔らかいシャンプーの香りがした。シャワーを浴びた鮎ちゃんが、長い脚にGパン、上はピッタリとした長袖のトレーナーで、今度はそっ、と入って来た。カエルの子はカエルだ。雪さん譲りの抜群のスタイル。モデルのスカウトが見たら大喜びだろう。ただ雪さんと違うのは、やはり威張るような胸である。

 

(まったく最近の娘は…)と心の中で呟き、俺はもう一度挨拶をした。

 「こんばんわ。急に来てゴメンなさい。俺はお母さんの同窓生で、村上健と言います」

 「鮎です。あの、お母さんの写真使うとかいう人ですよねぇ?本当に広告に使うんですかぁ?」

  痛い質問だ。

 「没よ、没。没っ!」

 雪さんが笑いながら言う。

 「やっぱりなぁ!お母さんが広告になんか出れるわけないもんなぁ。

よかったぁ、友達に言わなくて。言ってたら、超恥ずかしかったじゃん!」

 俺の横にあっけらかんと座る鮎ちゃん。シャンプーとは違うなにか若さそのものといったオーラが香り漂う。中学2年生、14歳の香りなのだろうか。

 恥ずかしながら俺はいい歳をして鮎ちゃんに魅力を感じていた。

いや、ロリコンとかではなく、その健康さと奔放さにだ。こういうもんなのか、年頃の娘ってば。


 「鮎ちゃんはサッカー部のマネージャーなんだって?」

 雪さん手作りのカレーライスを食べながら、俺はかしこまって鮎ちゃんに聞いた。

 「うんっ!本当はやってるほうが好きなんだけどねぇ。こ、この胸が邪魔でっ!」

 「鮎っ!」

 雪さんの喝が飛ぶ。

 「村上さんも昔サッカー部だったのよ。つまり鮎の先輩よっ」

 「へぇ」

 鮎ちゃんは急に俺に興味を持ったのか、難しい質問をしてきた。


 「あのさぁ、※プレッシングサッカーとさぁ、※カウンターとどっちが強いの?鮎はさぁ、※クライフファンだから、全員サッカーのプレッシングの方がいいんだけど。日本人にできるのかしら?」

 ※プレッシングサッカー/FWからDFの間を約20メートルに保ち、

相手選手を2、3人で囲みボールを奪う、またはパスカットする。その後、主にパスによる展開で攻撃を仕掛ける戦術。

 ※カウンター/守備を固め、ボールを奪ったと同時に前線に張っているFWにパスしゴールを狙う戦術。

 ※ヨハン・クライフ(オランダ)/空飛ぶオランダ人と呼ばれた天才MF。現代サッカーの基礎となる「全員攻撃全員守備」を実践し、また監督としても数々の栄誉に輝く。トルシエ監督も尊敬している。


 サッカーの進歩は著しい。俺がやっていた頃は、守る人、パスする人、シュートする人がきちんと分かれていて「ボールを追いかけないこと」なんて今なら幼稚園児でも知っていることもできなかった。ペレや釜本、またはジョージ・ベストといった有名フォワードだけがスターの時代だった。


 「うーん、おじさんがやってた頃は個人技優先だったからなぁ。

でも、最近のJリーグとか見てると、前線からのプレスだ、ボランチだ、フラットスリーだ、と面白い戦術なんだけど、スカッとしない感じかなぁ。案外、リーグでも弱いチームはカウンター狙いじゃない?プレスのチームってカウンターに弱いよね。そういう意味では、カウンターを戦術から外しては欲しくないなぁ」

 「だよねぇ…」

 ん?一瞬、鮎ちゃんの顔が曇る。その寂しげな表情は昔の雪さんを思い起こさせる。

 雪さんのカレーを食べ終え、3人でボーッとテレビを見ていると、なんだか「家族」のようで、他人から見れば、絶対にそうは見えないものなのだろうな、と俺は鮎ちゃんのヒップを見ながらそう思った。


 「ねぇ、村上さん、ちょっと2階に来て、教えてくれないかなぁ。

あさってサッカーの試合なんだけど、色々ごたごたしててさぁ。ねぇ、お母さんいいでしょ?」

 俺はヒップを見ていた恥ずかしさから、食後のコーヒーをあわてて飲みほした。

 「あらっ、お母さんは抜きなの?つまんないわねぇ。まっ、いっか。村上さん、よろしいですか?」

 「えっ、ええ」


 鮎ちゃんみたいな可愛い女の子とひとつの部屋に…なんて危ない興奮を感じながら、俺はその引力に逆らって踊っているヒップにつられて2階へ。

 鮎ちゃんのほうは、そんな中年の嫌らしさなんてまるでアウトオブ眼中という感じでベットに座ると、さくらんぼのような唇を俺の耳に近付け囁いた。


 「お母さんには、内緒だよぅ」

 思わず、ゾクッとしてしまった俺は、あわてて2メートルの間隔を開けて、椅子に座った。

 「あのさぁ、自分で言うのもなんだけどさっ。私、その辺の男の子よりサッカー上手いのよっ。小学生の時はトップ下のキャプテンだったしぃ」

 雪さんもバレーボールでは男以上だった。

 「でさぁ、青木君っていうのが、ウチのキャプテンでフォワードなの。

彼ってさぁ、ちょっと変わっててさぁ、ポストプレイも守備もできるのに、なぜか試合となると、完璧なゴールゲッターになっちゃうのよ。まぁ、そこがいいんだけどさぁ…」

 「どこが?」

 「そういう、ところが」

 「好きなんだ?」

 「…うっ」

 俺の突っ込みに思わず答えてしまい、鮎ちゃんは頬を赤く染めた。

 なるほど。俺は今、お父さん役なのかもな。鮎ちゃんはその青木君が好きなのか…。なぜか、急に落ち着きを取り戻した俺は、鮎ちゃんに話の続きを促した。

 「で?」

 「うん。ところがウチのチームも全日本に習ったかのようにプレッシングサッカーなんだぁ。コーチっていうのがまた頑固でさぁ。ドリブル突破したり、守備をさぼるとうるさくてさぁ。まだ中学生なんだから、もう少し自由にさせたいんだよねぇ、クライフファンの鮎としては」

 「あれ、クライフは全員攻撃全員守備だろ」

 「うん。でも、そっこが違うのよ。確かに全員があらゆるポジションに対応できるけど、後は状況によって変わるのよっ!だから、強いんじゃないっ。相手の守りが薄ければ素早いカウンター、パス回しされたらプレス、無駄かも知れないスペースへの走り込みをしたら誰かがフォロー…。

クライフは自由を求めて規則を作ったのよっ!あんっ、ゴメンなさい。興奮しちゃって」

 何時の間にやら立ち上がって持論を喋る鮎ちゃんはまさに監督さん。日本のサッカーも進歩するわけだ。

 「いいよ、いいよ。すごい勉強になるよ。つまり、かなりの体力と技術、そして戦略があっての上で、個人個人が判断して試合をするから強いわけだ」

 「そ、そうなのよ。で、中学生レベルじゃそんなこと無理なわけ。頭じゃ、みんなわかってるけど、無理なのよ。そこで、青木君は前線に張ってカウンターを狙ってるのよ」

 なるほど。広告も個人技とチームワークの作業だ。サッカーと似ている部分がある。俺が張り切っていた頃は、コピーライターがクリエイティブを引っ張っていた。今はMac様だ。でも、同じ目標を持っていないと広告は完成しない。サッカーも同じこと。コーチはマーケティングにこだわり、現場の青木君は自分のクリエイティブにこだわっているわけか…。


 「でさぁ…。鮎もこんな男の子みたいな髪形しているけどさぁ。女の子だから、みんなに言っても無視されちゃうんだ。それに…」

 「青木君との仲を冷やかされるんだろう」

 「うん…」

 切なげな表情はもう立派な女性だ。父親は娘のこんな姿を見て一喜一憂するんだろうな。

 「あのさぁ…」

  俺は静かに話し始めた。

 「鮎ちゃんのお母さんって、もうとにかく学校中のアイドルでさぁ、

おじさんなんかなかなか声もかけられなかったんだけど。いつも優しいくせに、何かあると堂々と自分の意見を言ってたんだ。バレーとなるともういきなり鬼のアタッカーでさ、バシバシ、スパイクを打ってたしねぇ。なんか、そういう芯のある部分が魅力的だったんだろうね。鮎ちゃんもその血を継いでいるんだから、カーブのかかったパスばかりしてないで、ストレートでいったらどうかな?全日本の中田のパスなんてスペースに結構すごいスピードで来るから、最初は誰も追いつけなかったじゃん。でも、今じゃキチンとスペースに誰かが走り込んでいるでしょ。そういうもんだよ」

 「ストレート?」

「うん。気持ちはカーブをかけるより、ストレートのほうが伝わると思うよ」


 「村上さーん、鮎っ!、いつまで私をほっとくの!家出するわよっ!もうっ!」

 「さっ、下に行こうか。お母さん怒ると…」

 「怖いよぅ、かなり。ふふっ」

 無垢な微笑みが俺の父性本能をくすぐった。


                *


 雪さんの家で十分にくつろいだ俺は、口笛なんぞ吹きながら実家に戻った。

 「ただいま。ん?誰もいないのかな?」

 玄関を閉めた途端に電気が点く。

 「うわぁっ!」

 父親と母親が恨めしそうな顔で玄関に座っている。

 「ど、どしたの?とぅちゃんもかぁちゃんも」

 「どうしたのじゃ、ねぇだろっ!帰ってくるっていうから待ってたんじゃ、この親不孝馬鹿不良息子!」

 「なんだよぅ、いきなり。俺、悪いことしてねぇぞっ」

 「あんたねぇ、その歳で実家に戻って来るっていうのはねぇ、2世帯住宅のために戻ってくるのが普通なのよっ!違うのは親不孝の馬鹿息子くらいなのよっ」

 うっ、痛い。

 「それが、まだふらふら独身で、広告かなんか知らんが仕事ばっかして。あーっ、孫、孫、孫ーっ!。わしらは孫も見れないのかいっ!」

 「うーん、孫ねぇ。って、嫁さんもいないのに無理言うなよぅ」


 「ほいっ」

 なんだ?アルバムのようなものを開くと、ピカソいや違うこの世のものとは思えぬ写真。これってば、お見合い写真か?

 「明日3時、この女性が来るからね、あんたも床屋行ってキチッと背広でも着なさいよっ。いいかい、これが最後のチャンスだからね」

 「最後って。俺、そんなもてなくねぇぞ」

 …って、アラマ。とぅちゃんかぁちゃん、もう寝てる。


 2001.12.8…鮎ちゃんの初恋

 翌朝、妹26歳出戻りに聞くと、どうも俺の同窓生でお向かいの高橋様が東京のマンションからこっちに戻り2世帯住宅にするというのが、お怒りの原因らしい。

 「そんなこと言ってもなぁ」

 「ほらほら、兄貴しっかりしてよ。私にまでうるさいんだから…」

 とにかく。俺には月曜日までにコピーをアップする約束もあるし、そんなピカソ観賞会などしている暇は無い。逃げよう。


 「そんじゃ、俺、床屋さんでも行ってくんねぇ」

 今日もいい天気だぁ。

 「まっ、とぅちゃんかぁちゃんの言うことも最もだけどねぇ。俺には俺の人生があんのよねぇ。とりあえず、床屋は行っておこうかね。いいコピーが出るかも知れないしな」

 と、言いつつ、床屋の椅子に座った途端、居眠りを始める俺。子供の頃からの癖だ。

 「…はい、お客さん終わりましたよ」

 「あっ、すみません、あまりに気持ち良くて…あぁ、スッキリした!」

 と、鏡を見てびっくりした。7・3!おいらはいつも6・4なのだ。しかも無精髭もキレイに剃られ、まさにお見合いおぢさんだ。

 「お客さん、ハンサムねぇ。お見合いもこれでOKっすね」

 ん、この声はどこかで…。鏡に映るおやぢを見てびっくり。昔は長髪でギターなんか弾いて女の子にもてまくり、ナンパの石井と言われていた石井ちゃんがツルッと立派に禿げた頭を撫でながら笑っている。そう言えばこの床屋さんは石井ちゃんちだった。

 「健、もうあきらめろっ、さっきおまえのお袋さんから電話あって聞いたぜっ。なに、おまえこの歳でお見合いだって。ケケッ。いいよなぁ、いい女なのか?」

 喜んでやがる。

 「んっ、石井ちゃんの奥さんに似てるよ」

 「えっ、じゃ美人かっ?」

 「うん、整形前のな」

 「あっ、頭きた。もみ上げCut!」

 「あーっ、おめぇってば。最低」


 俺はダッシュで石井ちゃんの店を出ると、腰越の裏通りを歩いた。

真夏は海水浴客で賑わうこの辺も裏に入ると鎌倉って感じで落ち着く。

 「あらっ、健ちゃんじゃないのぅ?」

 ん?見知らぬオバサン、じゃなかった。やはり同窓生でレディースを張ってたマミだ。

 「あらぁ、7・3のいい男になってぇ。何してんのよ、今ごろ?あっリストラかなんか で、戻ってきたの?根性ないわねぇ、相変わらず」

 「へいへい、すみません。マミ、鼻毛出てる」

 ダッシュ。

 うーん、落ち着かないなぁ。

 「しかし、日頃仕事に追われて気付かないけど、みんないい旦那や奥さんで子供ももう思春期って頃なんだなぁ…。やばっ、マイナス思考に落ち込みそう。ん、おぅ我が母校、津村中学じゃん」


 俺は昔もそうだったように裏庭の金網の破れたところから侵入した。

 「懐しいなぁ。あれっ校舎がピッカピカッ。俺の頃は板張りで変なワックスが塗ってあったのになぁ。体育館は昔のままか。ここで雪さんが飛び跳ねてたんだよなぁ。アララ、3時かぁ。お見合いすっぽかしだな。とうちゃんかぁちゃん、ゴメン。でも、もし、お見合い相手が雪さんだったら…俺、全速力で行ってたのになぁ。可愛い娘もいきなりできちゃうしなっ。ん?」


 ふとグラウンドを見るとひとりの少年がひたすらにサッカーボールを蹴っている。自分でサイドからセンタリングを上げ、全速力でボールを追いかけると、0.1秒も惜しいという感じでボールを追いかけゴールに向けてシュートを放つ。

 「そう言えば、明日が試合だったな」

 俺は朝礼台にどっかと座ると、少年を観察した。

 中学生にしては立派な身体をしている。浅黒くいかにも漁師町腰越の若者って感じだが、なかなかハンサムだ。

 次はセンターサークルから、華麗なドリブルを交えシュート。ほとんどがサイドネットを揺らす。

 「しかし、ひとり練習じゃなぁ。よしっ、腰越の※ジョージ・ベストと言われた俺様が付き合ってやるか。ん、ん?」

 ※ジョージ・ベスト(北アイルランド)/イギリスはマンチェスターユナイテッドの有名なFW。ドリブルから鋭いシュートを放つ実力はもちろん、そのスター並のルックスで一世を風靡。トランクスを少し下げていたのを当時のサッカー少年はみんな真似していた。


 ゴールに嫌われたボールが体育館のほうにひとつ転がっていく。と、そのボールが微妙に変化しながらも、見事なコントロールで少年の胸もとに飛んできた。少年は驚きながらも落ち着いてトラップすると、浮いたままのボールをボレーでゴールに突き刺した。

 少年が鋭い目で体育館のほうを見る。しかし、やがて軽く笑って練習に戻った。


 「あっ、鮎ちゃんだっ!」

 俺は急いで植木の後に隠れると、女子校の着替え室に忍び込んだ変態のように息をひそめた(そこまでひどくねぇか)。

 体育館横から、昨日と違い真剣な顔をした鮎ちゃんが出て来た。軽くストレッチをするとゴールに立ち1回だけ屈伸をした。

 「あいつが青木だったのかぁ…」

 ふたりはなんの会話もせずに練習を続ける。GK役の鮎ちゃんのポジショニングひとつで、シュートの入る確率が下がる。サッカーはひとりでやるスポーツでは無いのだ。

 鮎ちゃんは、次に青木の後方、センターサークルにボールを集めると、

様々な種類のパスボールを蹴る。足もと、スペース、ゴール前…。青木は必死にボールを追いかけ、2タッチ以内でシュートを放つ。

 約1時間後。青木は初めて大声を出した。


 「マネージャー、今度はパスというより、俺に向けてシュートみたいなボールを蹴ってくれないっ。ちょっと試したいんだ」

 無表情にうなずく鮎ちゃん。2、3歩の助走をつけ、シュート性のボールを青木に向けて放った。元女子サッカー部のキャプテンだけはある豪快なインステップだ。

 1発目は青木の肩に鋭く当たって弾けた。青木は「よしよし」というような感じでうなずくと次のボールを待った。

 2発目。青木は巧みにボールの勢いを殺すトラップから、直接シュートを放つ。ボールはゴールマウスを外れ、天に消える。

 「マネージャー、どんどんいいよ」

 トラップ、シュート。トラップ、ドリブル、シュート。いきなりヘッド。だんだんとゴールの確率が高くなっていく。鮎ちゃんもさすがに呼吸が荒くなっていく。

 5時。グラウンドも暗くなってきた。しかし、ふたりの練習はエンドレスのようだ。夕日をバックにふたりのシルエットがBGM無しで力強くしかし愛し合うかのように踊る。


 「!」


 俺はセピアトーンにも似たその夕焼けの風景に何かを感じ身震いした。カメラは持って来なかった。心に焼き付けた。


                *


 「こらっ健っ!」

  あっ、そっかぁ。お見合いシカトしたんだっけ。面倒臭いなぁ。よしっ。

 「あのさぁ、とぅちゃんかぁちゃん、実は俺、好きな人がいてさぁ…」

 「なにっ!健、そうかぁ、そうだったのかっ!さすがは村上家の息子じゃっ。そうかそうか」

 「なーんだ、そんならねぇ、あんなピカソみたいな美人さんと仕組まななかったのにぃ。大変だったんだから、あの後…」

 やっぱピカソだったのか。


 2001.12.9…Vゴール

 日曜日。さすがに俺も焦ってきた。コピーはあらゆる情報をインプットしたら、常に考え続け、ある時、神様がご褒美にくれるもの。あわてても、しょうがないのだが…もう明日までだもんな。

 「健、電話っ。なんか女の人、佐倉さんだって。ねぇ、彼女、彼女?」

 うるさいなぁ、もうっ。

 「はい、村上です。あぁ一昨日はごちそうさま。ん?えぇ、あぁ、そっすねぇ、OK、いいですよ。じゃ1時45分に中学校で。はい、じゃ」

 サッカーの試合に誘われてしまった。家にいてもコピーが出る様子もないし、こういう時こそリラックスだよな。


 昨日とは違い津村中学校にはたくさんのギャラリーが集まっていた。市の大会とはいえさすが決勝戦だ。

 「あっ、床屋さんで7・3サッパリの村上さん、こっちこっち」

 雪さんが大声で呼ぶ。

 (雪さん、やばくないのかなぁ。俺みたいのと応援に来て。地もとだかんなぁ…)

 雪さんはバスケットにはサンドウイッチ、ポットにはレモンティー、とまるでピクニック気分のようだ。

 「まぁ、鮎が出るわけじゃないし。私サッカーいまいちわかんないし。これはぁ村上君っ、2回目のデートよねっ!」

 うーん、はしゃいでくれてかなり嬉しいぞっ。


               *


 午後2時。ホイッスルと共に試合が始まった。相手は私立の湘南中学校。頭のレベルも高いがスポーツにも力を入れている強敵だ。ベンチの方を見ると、鮎ちゃんが、飛び跳ねている。きっと大声で応援しているのだろう。

 前半、津村中学は相手のパスミスからボールを奪い幾度かのチャンスに恵まれる。前線にはなるほど、青木が張っている。しかし青木にボールが渡った時には向こうの守備も固まっていて、なかなかシュートまでたどり着かない。カットしてすぐにパスすればいいのに、パスまわしをしてしまうところが戦術に凝り固まっている証拠だ。しかし、相手も同じプレッシングサッカー。どっこいどっこいだ。

 前半ロスタイム。湘南中学のボランチがいきなりロングシュートを放つ。キーパーがボールをこぼしたところを詰められ、1点のビハインド。

 「あらん、もぅっ。何してるのかしらねーっ、鮎はっ。もっと根性入れないと!」

 雪さんはサッカーを知らないわりには興奮し、サンドウイッチを半分以上食べている。

 ハーフタイム。俺は雪さんを誘い、鮎ちゃんのいるベンチのほうに声をかけに行った。

 「おまえが前線で守備して汗かかないから、カットされたりするんだよ!ひとりさぼれば、それだけで負けなんだ。向こうを見ろよ、休んでいる奴なんかいないぞっ!」

 青木がコーチに怒られている。鮎ちゃんはその隣でコーチを睨んでいる。

 「でも、コーチ…」

 鮎ちゃんが青木の声を遮って大声でコーチに談判する。

 「コーチっ!前から言ってるんですけどっ。プレスじゃ後半まで持ちません。中盤をサイドに散らせてカウンターを狙いませんかっ」

 「馬鹿っ。おまえは2年間もマネージャーしてまだわかんないのかっ。カウンターは古いんだよっ。今はどこもプレスが当たり前っ!俺たちだって、その練習を繰り返してきたんだぞっ。いきなりカウンターができるか。それこそ、中盤を相手に握られて終わりだっ!」

 なるほど。だいぶ頭の固いコーチだ。俺はそっと鮎ちゃんを呼んだ。

 「あっ、村上さんも来てくれたんだぁ。嬉しいよぅ、えーん」

 「鮎、根性よ、根性っ、ド根性ガエル!」

 …雪さんは完全にスポ根育ちだったのだなぁ。

 「鮎ちゃん、もうあのコーチはいいからさぁ、背番号9の彼、あいつにさぁ。青木君にシュート性のパスをするように言えよっ。あいつなら、できるだろう?」

 (なんで村上さん知ってるの?)そんな顔でうなずく鮎ちゃん。

 「えぇと、巧君ね。一応ウチのトップ下だもんっ。よしっ、この鮎様の超爆乳でぇーっ、説得してくるっ!」

 

 「ん。村上さん、超爆乳って?」

 鮎ちゃんてば…。

 9番を付けたパサー巧は鮎ちゃんの話に真剣に耳を傾けている。お願いのポーズをしながら飛び跳ねる鮎ちゃんの自称超爆乳が弾む。OKサインを出す鮎ちゃん。

 「よし、雪さん戻ろうか」

 「…超爆乳?聞いたことがない言葉だわ?」

 無視。(Aカップ 今は死語でも 乳は出る)。


                *


 後半が始まった。どちらのチームもプレッシングの疲れが見える。

魔の時間、49分にパサー巧の強いパスが青木の頭上を通り越す。

 「なんだぁ、あのパスは馬鹿っ巧がっ!」

 コーチの怒鳴り声がこっちにまで聞こえる。

 その後、試合は硬直状態を迎えた。お互いプレスが効かなくなったにも関わらず、戦術を変えないからだ。つまらないミスと疲労から反則が増える。

 鮎ちゃんは時計とボールの行方を交互に睨みつけながら固まっている。


 82分。パサー巧が動いた。

 相手のプレスをドリブル突破。当然、倒されてFK。その後が早かった。巧は前線にいる青木と相手ディフェンスの間隔を読み切って、

※ロベカル並の弾道弾を青木に放った。隙を突かれた相手が、まだ一歩も動かない、いや動けないうちに勝負は決まった。

 ボールは青木の振り切った右足に強烈にぶつかり、方向を変え、相手キーパーの逆に流れた。

 ※ロベルト・カルロス(ブラジル)/左サイドバック。凄いスピードで左サイドを駆け上がり、恐ろしいスピードのボールをセンタリングする。あまりに凄いパスなので相手DFどころか味方FWもボールを捕らえられないほど。誰かの身体に当たってゴールすることが多い。


 1対1。大喚声が沸く。泥臭い得点かもしれないが、そのゴールはチームに活気を与えた。プレスは空中分解し、それぞれが身体を張った激しいサッカーに変わった。

 「なんか荒くなったわねぇ」

 雪さんも興奮しているのか、俺の手ではなくサンドウイッチを握りそしてつぶしている。

 「ピーッ!」

 甲高いホイッスルが鳴り、延長へ。

 疲れ切った選手たち。やはり中学生ではプレスは無理なのだろう。しかもこれから延長だ。後は雪さんではないが、技術や体力、戦術とは違う何かが勝負を決める。

 鮎ちゃんは青木と巧の顔や身体に水をぶっかけて一生懸命に励ましている。

 

「やったじゃん、ねぇ、やったよぅ。頑張ろうよねぇ、あと1点、先手必勝よっ!カウンターでGO!よっ」

 青木は穏やかに鮎ちゃんの応援にうなずいている。

 (青木の奴、妙に大人っぽいよなぁ、糞!)

 俺は鮎ちゃんの父親でもないのに青木に嫉妬心を抱いた。


 延長前半。

 巧はもはや相手を追っかけるのを止め、青木のポジショニングにだけ注意を注いでいる。疲労を溜めないようにしているのだろう。

 102分。相手のふやけたパスをボランチがカット、転がったボールは巧の足元へ。今だ!巧は青木に向かって思い切りボールを蹴った。青木がトラップしたボールはマンマークの相手ディフェンスをかわし、最高の位置に転がる。

 軸足で地面に楔を入れると、青木はこれ以上綺麗なフォームは無いというような豪快なインステップでボールを蹴った。ボールはうなるように地面を這ってサイドネットへ吸い込まれていく。


 …Vゴール!と思った瞬間、ホイッスルの音と線審のオフサイドの旗。

観客には何が起きたのかわからない。オフサイド。サッカーという簡単なスポーツの中で唯一わかりにくいルールだ。

つまり、パスを受けた瞬間、その選手と相手ゴールキーパーとの間に相手選手が1人以上いないと、それは紳士的ではない、

という理由から反則になるのだ。フラットスリーなどはこのルールを逆に利用した守備的戦術だ。

 と。ぶっとい怒鳴り声がした。あのコーチだ。今の判定に怒っている。確かに微妙な判定だった。ビデオでもあればわかるのだが、サッカーにおいて審判は神様。判定は覆らない。コーチは顔を真っ赤にさせると、グラウンドを横切り線審に詰め寄った。主審や学校関係者までもが集まる。


 「やばいな」

 「ピッ、ピーッ」

 予想通りコーチにレッドカードが出された。退場だ。もはやコーチは選手にアドバイスを与えることはできない。

 が、コーチは堂々と青木に近付くと大声で褒めた。

 「いいぞっ、それで。思った通りにやれ!それがサッカーだった」

 青木とコーチの確執を知る鮎ちゃんやチームの連中が驚き、そして小さく親指を立て喜びを表わす。これでチームはまとまった。そして勝利へのモチベーションも高まった、そう俺は信じた。


                *


 延長後半。

 試合は熾烈を極めた。若い力がひとつのボールを追いかけ、混戦模様になった。相手も青木には2人のマンマークを付け、フォワードは鋭いドリブルで津村中学のゴールを襲う。巧もパスすると見せかけロングシュートを放つが、ポストに嫌われる。

 118分。青木の強烈なシュートがキーパーに弾かれ、相手ディフェンダ-の足もとに転がる。疲労からかそのディフェンダ-は簡単にボールを外に蹴り出そうとし、そして、そのボールはキックミスから味方フォワードへの最高のロングパスになった。

 俺は目を閉じた。

 津村中学のディフェンダ-があわてて戻る。相手フォワードは足をもつらせながらもどうにかボールをコントロールし、キーパーと1対1に持ち込む。渾身の力を込めてシュート!と、芝生に足を取られダフる。

ボールは端の方を蹴られ、妙な回転で転がる。キーパーは鹿を襲うチータのようにボールを捕らえようとする。しかし。サッカーの神様は相手チームに微笑んだ。ボールは命を持った生き物のようにチータの指先を逃げた。


 「ピーーッ!ピッ!」

 長いホイッスルが鳴り、試合は終わった。1対2のVゴール負け。

 グラウンドに座り込み泣き出す鮎ちゃん。しかし、相手チームに試合のお礼をしてきた選手たちに涙はなかった。戻ってきた青木は晴ればれとした顔で、鮎ちゃんにウインクを送る。鮎ちゃんも大粒の涙を流しながら、だんだんと泣き笑いになる。


 「ふぅ、疲れる試合だったわぁ。村上さん、サンドウイッチでも食べて」

 サンドウイッチは、当然、無かった。レモンティーを貰い、労いの言葉をかけに津村中学イレブンの所に行く。


 「あぁ、えへんっ、あれだぁ。俺が退場になってちゃ、しょうがないんだけど。いい試合だった。やっぱ、サッカーは根性だなっ。あ、青木、プレスプレスうるさく言ってすまなかった。俺みたいなのが全日本からゴールゲッターを奪ってんだな、なぁんて、甘いこと、俺が言うかよっ!

さぁ、今年は市の大会で2位だった。と言うことは、来年は当然1位を狙う。明日からプレス&カウンターでGOだっ!津村ちゅーうっ、ファイッとっ」

 「オーッ!」

 ちょっとくさいが円陣を組み気合いを入れている津村中学イレブンを見ているうちに俺は「!」とすべてが丸く繋がるのを感じた。そう、セピアトーン・フィルムの広告についてだ。迷いも無い。無理も無い。嘘も無い。ストレートな広告案が浮かんだ。


 「悪いっ、雪さん、鮎ちゃん、俺、帰る。仕事ができたんだっ!」

 「まぁ、村上さんてば、いつ仕事なんかしてたのかしら…」


 2001.12.10…No2宣言

 日曜日。午後6時過ぎ。

 アドクリスに戻ると俺はMacをどうにか立ち上げ、分厚いマニュアルを片手に簡単そうなハガキ作成ソフトを使いラフを作り始めた。

 サッカーゲームに凝っていた時に見つけた写真を本棚から探しスキャニングする。テクノストレスとでも言うのだろうか、目の奥から首筋にかけて痛みが走り、吐き気がする。

 コピーを入れる。


 「1番じゃないから、挑戦し続ける。」 アルプスフィルム セピアトーン・フィルム『serenade』新登場!日韓共催ワールドカップを私たちの誇りに。


 「できた」

 俺はMacの画面を凝視し、高速で思考回路を働かせた。テレビ、新聞、雑誌、販促物…よしっ、すべてに使える。連動する。インパクトがある。話題性がある。そして、真実がある。


                    *


 月曜日。朝9時。30分早く会社に出勤した吉田は、Macの前で寝ている健を発見し、微笑んだ。

 「ついに見つかったかな…」

 Mac画面にあるラフを見て、吉田は暫く考えこむ。そしてMacを立ち上げるとすごいスピードでフォトショップとイラストレーターを駆使し、デザインを始めた。写真はセピアトーンに変わり、ロゴマークや商品カットなどが入り断然、広告らしくなる。

 その音で目覚めた俺は、そっと吉田の作業を見つめる。

 気付いた吉田がMacから目を離さず、静かに話す。


 「健、今、広告は1番じゃないけど。俺たちがやる気を無くすなんて思い上がりもいいとこだよな。1番じゃないから逆にチャンスがあるんだし、頑張らないといけないんだよ。えっ、Mac?あぁ、松下女史に教わったの。あいつさぁ、ホームページなんてやってんだぜっ。結構人気サイトでさぁ。イラストやアイコンを無料でダウンロードさせてんの。たいしたもんだよな。さっ、健、始めるぞっ。広告を…」


 高画質プリンターがA4サイズのプリントを1枚吐き出す。と同時にアドクリスは蒲群、松下女史、ユリマリエリを巻き込んで、戦場になった。

 ユリたちも夢中だ。そう、俺たちはMacのせいにして彼女たちにこうした熱い広告の現場を経験させていなかったのだ。

 3日3晩が経過し、徹夜の疲れがハイテンションになる頃、ようやくプレゼンの準備が整った。


 「ひやぁーっ、3日も帰ってないなんて、かぁちゃん怒ってんだろうなぁ。コワー」

 「えーっ、社長、奥さん怖いのぅ。ほれほれ、この仕事で粗利ガッポガッポでしょ。かぁちゃんもお喜びよーっ。で、松下さーん、私たちもボーナス出たりすんのかなっ?あらっ」

 ここがひと味違う。松下女史は熱いお茶をいれていた。

 3人は、しまった、という顔をしてコンビニにみんなの食事を買いに行く。


 「健、ご苦労様。TVのナレーションも紙媒体のボディコピーもいいよ。何回、読んでもいいんだから間違いない」

 吉田がマジに言う。蒲郡もうなずく。


 「ふぅーっ。この感じ、何年ぶりだろうな。なんか嬉しいよなっ。

よーしっ、明日のプレゼンはD通さんにまかせて、呑みに行きますかーっ!」

 ハイテンションのアドクリス軍団は、軽い昼飯の後、明日のプレゼンのシミュレーションを済ますと、銀座寄り新橋に繰り出した。今日は焼き肉だ。ユリマリエリの食欲は今回のキャンペーンの粗利を食いつくし、蒲郡、吉田のビール代は純利を水に流し、俺と松下女史は高い牛タンに集中し今年のボーナスをパーにした。


 でも、とことんハッピーだった。


 2001.12.14…プレゼンテ-ション

 翌日、D通への2度目のプレゼンテーションは、あっ、という間に終わった。

 「No.2宣言ね。うん、はまってるし、話題性もあるし、なにより熱いよね。OK!これで、いきましょう」

 問題は午後からのクライアントへのプレゼンだ。基本的にはD通のクリエイティブがプレゼンするのだが、今回のようにキャンペーン丸投げの場合は俺たちプロダクションも参加する。


                 *


 「これよりアルプスフィルム様セピアトーン・フィルム広告についてのプレゼンテーションを行わせて頂きます」

 いよいよ、勝負が始まった。D通のディレクターは澱みなく、そして自信を持ってプレゼンを進行させる。

 「ご覧の通り、統一ビジュアルとして、※ドーハの悲劇、ロスタイムのゴールシーンを採用しています。Jリーグの成熟、サッカーブーム、海外での日本選手の活躍、すべてがこのドーハの悲劇に始まったといえます」


 ※ドーハの悲劇/1993年10月28日。全日本はWカップ初出場を賭けて、カタールのドーハでイラクと対戦。2対1と1点リードで迎えた後半ロスタイム。何気ないセンタリングからのヘッドで引き分け、初出場を逃す。呆然としゃがみ込む選手の姿は、今でもサッカーファンの脳裏に刻み込まれている。


 この1枚の写真が勝負だった。フィルム会社は特にビジュアルにこだわる。緑フィルムなどは競合他社のコーポレートカラーが少しでも入っているだけで没になるらしい。このドーハの悲劇の写真も写真のクオリティとしては低い。ビデオから拝借したものだ。それが、どう取られるか?


 「来年、日本では韓国との共催により初めてのワールドカップが開催されます。しかし、日本はサッカーにおいてはまだまだ後進国です。ブラジルやイタリア、アルゼンチン、イングランド、ドイツ、そしてフランスなど優勝に輝いた国とは雲泥の差です。ですが、ボールはどっちに転がるかわかりません。決勝トーナメントに日本が勝ち残ることも十分ありえます」

 アルプスフィルムの重役たちは神妙に聞いている。ファーストインプレッションは合格だったようだ。

 「現在、フィルム業界のシェアは緑フィルムが1番です。言ってみれば、強かった頃のブラジルと言えましょう。では貴社は、となると残念ながら2番です。しかし、現在のサッカー大国はヨーロッパに移行しています。体力や戦略はもちろん、個人技においてもブラジルに遜色はありません。…貴社も同じではないでしょうか。緑フィルムのトップブランドとしてのイメージは確かに定着していますが、プロカメラマンのすべてが緑フィルムを使用しているわけではありません」


 蒲郡が緊張のためか、めずらしく咳払いをした。今日のプレゼンはプロジェクターやパソコンを使用したものでは無い。昔ながらに貼れパネにプリントを貼ったものだ。その貼れパネを持つ作業を蒲郡がしている。


 「では、コピー案をつけたものをご紹介いたします」

 緊張で肋骨のあたりが痛む。


 「1番じゃないから、挑戦し続ける。アルプスフィルム セピアトーン・フィルム『serenade』新登場!日韓共催ワールドカップを私たちの誇りに。…ドーハの悲劇によるビジュアルとこのコピーで制作意図はおわかりのことと思われます。セピアトーン・フィルムは、通常のカラーフィルムと存在する価値が違います。言ってみれば、思い出や懐しさとシンクロした商品です。緑フィルムはセピアトーンを一時の流行ととらえ、来年、使い捨てカメラを発売するのは皆様もご存じのことと思われます。しかし、同じ土壌に乗っては、貴社のセピアトーン・フィルムの存在価値が失われるばかりです。1番じゃないから、頑張れる。このNo.2だからこその貴社のフロンティア精神、挑戦し続ける開発力を訴求することがこの商品の価値なのではないでしょうか」


 シーンと静まり返った会議室を見まわし、D通のディレクターは自信ありげに席についた。代わりに営業さんが立ち、ゆっくりと喋る。

 「以上が私どものご提案の核となるものです。今回は実際に制作にあたっていただいたプロダクションの方も出席しております。なんなりとご意見をお願い致します」


 2001.12.14…ネーミング

 ざわつく会議室。手もとの資料を丁寧に読み隣のお偉いさんに耳打ちする者。懐しそうにドーハの悲劇の写真を見る者。トイレに駆け込む者…。

 ついに手があがった。技術職の人間だろう。スーツではなく、作業服を着ている。


 「私は広告については詳しくないのですが、ひとつ。このセピアトーン・フィルムは、技術的に難しいことはありません。現像されてみると綺麗なセピアトーンに仕上がるだけです。今のご説明を聞き、私はある意味で感動さえ覚えました。ここまで考え込んで作られた広告です。私に依存はありません。ただ、ただひとつ。その名前なんですが…」

 D通、アドクリス全員に緊張が走る。

 ネーミング『serenade』。今までのプレゼンをすべて壊すようなネーミングだ。大切な商品の名前だと言うのに。…広告では時としてこういう大きなミステイクが見逃されてしまうことがある。次回、ご提出という手段もあるが、それはD通が許さないだろう。

 「…サッカーとNo.2宣言ですか、そういう広告なのに『serenade』というのはおかしくないのですか?」

 肋骨がきしみ、動悸がする。これはコピーライターの責任だ。俺がどうにかしなければならない。D通のディレクターもこっちを見ている。

 挙手。

 「えぇ今回、コピーを担当致しました村上と申します。ただ今のご質問ですが…」

 まだ、いい考えが浮かばない。眩暈がする。雪さん、鮎ちゃん、津村中学、サッカー、試合、コーチ、青木、巧、…ここ数日間に関わった人間や物をひとつひとつ思い出す。コピーを作る時のひとつのテクニックだ。カレー、サンドウイッチ、ピカソ、プレス、カウンター、初恋、お見合い、ん?、初恋、初恋、何かがひっかかった。…そうだった。

 

 「えぇ、皆様は初恋を実らせた方ですか、つまずいた方ですか?」

 会議室がざわめく。蒲郡が下を向く。


 「このセピアトーン・フィルムは思い出づくりの商品です。初恋なんて実ってもつまずいても、もはやセピアトーンですよね。私はつまずいてますので、完全にセピアです」

 苦笑が漏れる。反応があることはいいことだ。

 「私たちはこの広告でサッカーを題材にしました。でも、これも恋なんです」

 D通営業が、ささっとディレクターの側に行く。言い訳を考えているのだろう。


 「小学生の時、私はサッカーに恋をしました。その恋は実力のなさと私のギタ-への浮気が原因で破れました。そしてドーハの悲劇で私はまたサッカーに恋をしたのですが、どうでしょう?初恋に破れた私にはその破れた瞬間の悲しい映像だけが残っています。ドーハの悲劇もあのロスタイムのまさに悲劇的な瞬間しか記憶にありません。前半の展開など微塵もありません。でも、しかし。こうした思い出もセピアトーンで思い出すとなぜかとても優しいのです。嫌な記憶ではないのです。まるで恋人に捧げる夜曲セレナーデのように感じました。そう、セピアトーンは音楽に置き換えると『セレナーデ』ではないのかと…」

 会議室内の視線が和らいできた。


 「…つまり、どんな辛い思い出さえも、幸せにしてしまう色、セピアトーン。そこから『セレナーデ』とネーミングいたしました。

もちろん、この商品がキャンペーンを終了しサッカーと関係なくなっても大丈夫なように、また今度のワールドカップで全日本がいい成績を残し、ドーハの悲劇が実際にセピアトーンになるように、そういう願いも込めています」


                    *


 「もうっ、すんごいわよねぇ。興奮しちゃったわよ、アタシ」

 「ねぇ、もう健、抱いてって感じよねぇ」

 「でしょ、でしょ。もうエリなんか、襲ってって感じよーっ」

 「うるさいっ!」

 「いやぁ、しかし健よくあそこまで…」

 「まったくですよ、俺じゃあそこまで、でまかせ…」

 「うるさいっ!」

 プレゼンの帰り道、俺はアドクリスのみんなにからかわれていた。

結局、ネーミングの件は、あの熱弁で逆に拍手喝采もん。D通のディレクターも「プレゼン要員でウチ来ない?」だもんな。

 「本当、健ちゃんよくやったわよ。まさかD通さんもアルプスさんも『serenade』がウチのビルにある喫茶店の名前とは気付かないわよねぇーっ」

 松下女史まで…。


                 *


 あぁ、疲れた。けど、とにかく済んだよなぁ。プレゼンってのは本当たまらんなっ。サッカーじゃないけど、どう転ぶかわかんないし、スリル満点だよっ。でも勝ってよかった。雪さんのカレーでも食べてゆっくりしたいぜ、まったく。

 しかし、アドクリスはこれからが正念場である。ひたすら実制作の日々が続く。でも、みんな、なんか嬉しそうだ。仕事って苦しいほうが多いけど、この瞬間がいいんだよなぁ。 


 「あぁ、健。おまえコピーだからもうほとんど仕事終わってんじゃん。

今日のご褒美に1日有給増やすから、実家でも帰れよ。ほら、あの同窓生の熟女にもお礼しといて欲しいし」

 確かに今回のプレゼンの成功には雪さんの存在は欠かせなかった。

いや、鮎ちゃんや青木君をはじめとした津村中学サッカー部員全員にお礼がしたい気分だった。


 2001.12.15…One More Chance

 次の日、俺は1日の有給(そんなもんあったのか?)を使い湘南に戻った。実家は素通りして雪さんの家へ。


 「あーっ、村上さんじゃん!ねぇー、お母さんっ、村上さん戻ったよーぅ!」

 元気のいい鮎ちゃんの声に、ここ数日の疲れが癒されるようだった。

 「まっ、村上さんたら、全然連絡なしでっ。もうっ、どうしたの。連絡ぐらいしてくれないと心配でしょ。はいっ、おかえりなさい」

 思わず俺は「ただいま」と言ってしまう。

 「…おかえりなさい」

 ん?男の声。あっ、青木の奴もう出入りしてやがんなっ。

 にやけた青木が鮎ちゃんの横に立っている。

 「じゃ、お母さんっ、鮎たちは…」

 「はいはい、ちゃんと6時には帰るのよっ。青木君、わかってるわねっ!」

 「は、はいっ」

 「あれ?どこ行くの?」

 「へへぇ、デートなんちってねぇ。横浜にサッカーシューズ見に行くんだぁ。ねぇ、青木君!」

 「うん」

 そうか、冬休みだもんな。初恋とはうまくいくと進展も早いもんだなぁ。鮎ちゃんと青木は雪さん公認のカップルとして堂々とデートに。中2でデートかよ。いいよなぁ。でも心配だよなぁ、青木、危ないよなぁ…。鮎ちゃんGET!なんてなぁ…。


 「村上さん、どうしたの。遠慮しないで上がってくださいな」

 「あっ、はい」

 俺はここ数日のできごとを雪さんに簡単に話した。

 「へぇ、広告って意外に大変なのね。でも面白いんでしょ」

 「そうだな。この仕事に巡り合えて幸せだと思うよ、俺は」

 「私は今、幸せなのかなぁ…」

 「鮎ちゃんがいるし、ちゃんと仕事もあるし、それに、雪さんのことを好きだった同窓生とも会えたし、ねっ」

 「そ、そうねぇ!最近、一番のいいことって、村上さんとの再会かも知れないなぁ」

 あれっ、このモードってば。久しくご無沙汰の恋愛モードか?も?


 「そうだっ、鮎もいないことだし、呑む?」

 冬の吹っ切れた青空を見ながら俺と雪さんは、丸干しを肴に焼酎のお湯割りを静かに呑んだ。

 「さっき、話してたセピアトーン・フィルムの名前の話さぁ…」

 「ん?あぁ、セレナーデのこと?」

 「うん。実はあれ、1回目のプレゼンの時にキチンと考えていたものなんだ」

 「えっ、どういうこと?」

 「1回目のコピーは、思い出はいつもセピアトーン、でしょ。これって実は完全に、って言うか、もろ雪さんとの初恋のイメージから思い浮かんだんだ。俺にとっては雪さんに振られた思い出って、とっても大切なものだったんだろうね。それはカラーとかモノクロじゃなくて、セピアトーンのイメージだったんだ。だから、セレナーデ。喫茶店の名前から取るほど落ちぶれていないよ、俺」


 雪さんの熱い視線を感じる。ラジオからはユーミンが聞こえてきた。音楽には一瞬にして時間を巻き戻す力がある。俺は雪さんが好きで好きでたまらなかった中学生に戻った。

 「俺、また雪さんに惚れてるかも知れない」

 「…そうね。まだ。うん、まだ、よくわからないけど、多分、私も。村上さんと一緒にいられたらな、なんて思ってる。でも」

 ユーミンからサザンに変わった。


※ユーミン/ユーミンはユーミン。ムーミンではない。歌手。作詞には広告の手法を駆使し、作曲アレンジでは夫の手腕によりその上手いとは言えない歌声をカバー。著者の青春時代の女の子はほとんどみんな好きだった。

※サザン/サザンオールスターズ。ボーカルの桑田佳祐氏は茅ヶ崎市に住み、鎌倉学園高等高校から私立青山大学へ進んだ湘南ボーイ。当時の彼の初恋の女性は著者のバイト先の社員だった(内緒)。ただいま、休息中。

※エリー/サザンオールスターズの最初のバラードヒット曲『いとしのエリー』。いまでもカラオケではおやじがエリーの部分にホステスさんの名前を入れたりして歌っている(そりゃ著者だけか?)。



 「…主人、亡くなった主人は罪な人なのよ。浮気の気配もなかったし、鮎の面倒もよくみてくれたし、優しかったわ」

 「…」

 「それが、リストラ?そのリストラを言い渡す役目になってから変わったの。毎日、お酒を呑んで帰ってきたわ。どんどん痩せていくのがわかった。専業主婦って駄目よね。私なんにも、できなかった…」

 多分、今、雪さんの目には涙が溜まっているのだろう。あまり見たくない。


 「それで、結果はどうだったと思う?その主人も結局リストラになったのよ。あんなに頑張ってリストラされていく人たちの事を考えていた人が…」

「リストラに…」

 顔を上げると雪さんの大きく黒い瞳が俺を見つめていた。

「そう。そして、3年前に心臓の病気で。過労死よね…」

 雪さんと見つめ合う。

 雪さんの言いたいことはわかった。

 サザンのエリーが聞こえて来た。


 幸せな思い出だけを残して死んだ奴にはかなわない。


 「最後のレディか…」

 俺の胸に顔を埋めるように崩れ落ちてくる雪さんを俺はぎこちなく、

そして切ない気持ちで抱きしめた。このまま奪いたい気持ちを焼酎で騙しながら…。


 真冬の湘南の、それも夜の海には誰もいない。俺はエリーを口ずさみながら、その暗い海を眺めていた。

 「初恋もつまずいたけど、また、つまずいたか。しょうがねぇ男だな、

俺も。とりあえず、東京に戻れば仕事が待っている。それだけでも幸せなのかもな…」


 と、突然、砂浜を走る、ザザッ、という音が聞こえた。

鮎ちゃんが砂に足を取られながらも、全速力で走ってくる。そして、俺の前で急ブレーキ!


 深呼吸、ひとつ。

 「…もうっ、村上さん、馬鹿だよっ。大馬鹿もんだよっ!お母さん、泣いてたじゃん!チャンスなんて待っててくるわけないじゃんっ!村上さん頑張ってないもんっ!ストレ-トじゃないよっ!鮎だって、死んじゃったお父さんのこと大好きだけど。それとこれとは違うもんっ!もう、あきらめちゃぅのかよぅ、お母さんのことっ。村上さんに会ってから、あんなに元気になったのにぃ。馬鹿だよ、村上さんなんて大嫌いだよーっ!」


 一瞬、ショパンのセレナーデが聞こえたような気がした。


 「…ふぅ、キツイ娘になりそうだな」

 俺は素早く立ち上がると、鮎ちゃんのことを追いかけた。そして、きつく肩を抱き締めると、そっと聞いた。


 「1番になれそうか、俺?」


 2005.1.9…冬なのに春がきた

 …ふぅ。家族を持つと時の過ぎるのは早いもんだ。もう丸2年か。ん?丸2年。


 「ジャカジャ-ン!」

 「ドカドーン!」

 いきなり喫茶店の扉が開き、鮎と青木が入ってきた。

 「あれ、鮎は今夜オ-ルじゃ…」

 サッカーボールが柔らかく飛んできた。

 “健パパ、お母さん、おめでとう!鮎より”とマジックインキで大きく書かれている。

 (…ん?やっぱりそうか。危ない危ない。今日は結婚記念日だぞっと)。

 紫の無精髭など生やしているクラバー青木の顔を見ながらほくそ笑む。

 「ったくぅ。健パパ、わかんないのかよっ!」

 「最近、惚けてるからなぁ。な-んちってね。今日は結婚記念日だろっ。へへっ、忘れたりしませんよ」


 そっと扉が開き、雪が静々と入ってきた。

「あっ、やっぱし。雪、おかえりぃ」


 雪が俺の前に立つ。

 「あなた、結婚記念日は来月よ」

 「ゲッ」

 「てな訳で…」

 「てな訳で?」

 「できちゃった」

 「…できちゃった」


 「できちゃった」その言葉を反芻しながら、俺はまったく場違いのことを考えていた。

 「ジーコジャパンでもやればできるさ。第二次予選、頑張れよ!」


 その夜。蒲郡からメ-ルが届いた。

 「健ちゃん、悪いけど、コピ-1本やってくんない?今、コピ-ライタ-消えちゃってさ。頼む人、いないんだ。お願いね。蒲郡」


 何時だって、春は必ずやって来る。(終)

                 


 追伸:ジーコジャパンは中田ヒデの自己責任についていけない選手たちの不和で分解。中田ヒデはセンターサークルに仰向けになり泣いた。そして引退。旅人に(笑)。全日本はオシム監督に引っ張られ、新しく息を吹き返したが、オシム監督の病気のため、岡田監督に。アフリカ大会に出れるか、瀬戸際。サッカー人気は最低に。と、同時にアメリカで起きたサブプライム問題から、世界的、100年に一度の未曾有の不況に。コピーライターはまた不要物となり、ウェブでのライティングに命を賭けている。


追伸2:岡田ジャパンは守備を固めアフリカ大会でベスト8へ。その後、ザッケローニ監督に率いられたチームはブラジル大会に向け、戦うサッカーを実践している。日本では2011.3.11に東関東大地震が起こり、その影響で原発問題が勃発。未来はいよいよ見えなくなってきている。



 





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