第7話「港までの旅」
雪の降りしきる港町の道を、拓海はひたすら歩いていた。白銀に包まれた景色は美しい。しかし、その静寂の中で、心臓の鼓動はやけに大きく、寒さ以上に胸を打った。
風が顔を刺すように吹き、潮の香りが鼻腔に流れ込む。手袋の隙間から指先に伝わる冷たさが、今この瞬間の現実を思い知らせる。足元の雪はぎゅっ、ぎゅっと音を立て、踏むたびに過去と現在の記憶が胸に押し寄せた。
幼いころ、雪の日に美咲と秘密基地にかけこんだ日々。灯台の下で肩を寄せ合い、笑いながら約束を交わしたあの瞬間の温もり。あの温かさを今、この冷たい港までの道で思い出す。
「間に合うか…」
拓海は心の中で自問する。病室で見た美咲の笑顔とその裏の儚さが、胸を締め付ける。時間は確実に迫っている。港までの距離は長く、雪は強く降り続ける。
灯台の光が遠くで揺れて見える。その光は小さくとも確かに道を示している。拓海は深く息を吸い込み、手に握った手紙を確かめる。紙の温かさが、胸に決意の熱を灯した。
雪が手袋の上からも冷たく、風は鋭く吹きつける。けれど、幼少期の思い出、約束、そして美咲への想いが、足を前に進めさせる。胸の奥で、希望と焦燥、後悔と愛情が交錯しながら、彼を押し上げる。
港が近づくにつれ、波の音が大きくなり、潮の香りが濃くなる。雪と光、風と香り、音と感触――五感すべてが、時間の緊迫を物語る。拓海は息を整え、心の中で約束を繰り返す。
「必ず、あの約束を果たす」
雪に包まれた港町を行く拓海の影は、灯台の光に導かれながら、確かな決意を胸に進んでいた。




