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第4話「五感の不安」

病室の空気は冷たく、静寂が支配していた。窓の外では雪が舞い、灯台の光が波間に揺らめいている。拓海はそっと椅子に腰を下ろす。足元で床がキュッと軋む音、呼吸の乱れ、手のひらに感じる温もり…すべてが、彼の心を微かに揺さぶった。


美咲は笑っている。けれど、その微笑みはどこか儚く、影を帯びている。手を伸ばすと、微かに震えている指先に触れることができる。温もりはあるのに、時間の不確かさが胸に重くのしかかる。


「大丈夫…だよね」


口に出す言葉は、彼女の心を安心させるためのものでもあり、自分自身を落ち着かせるための呪文でもあった。目の前の美咲は小さく呼吸を整え、微笑む。しかし、わずかな表情の揺らぎや肩の震えが、胸にざくりと刺さる。


窓の外を見れば、雪はやむことなく舞い続ける。潮の香りが混じる冷たい空気、波の音が静かに響く。そのすべてが、胸の奥の不安をより鮮明にする。拓海は幼いころ、雪の中で美咲と隠れた秘密基地を思い出す。雨の匂い、木の温もり、二人で笑った声…あの温もりと、今の冷たさの差に、胸が締め付けられた。


手紙が目の前にある。祖父の文字、美咲の小さな文字。触れた瞬間、紙の感触が指先に伝わり、温かさが胸にじんわりと広がる。しかし、その温かさと同時に、未来への不安がぐっと押し寄せる。


「もう、時間は…戻せないんだ」


拓海の胸に、焦燥と後悔、希望と愛情が入り混じる。五感がすべて、この部屋の緊迫を物語る。雪の音、灯台の光、潮の匂い、手紙の紙の温もり、呼吸の震え。どれもが、胸を締め付ける証拠だった。


それでも拓海は、そっと手を握り直す。幼い頃の約束を思い出し、今度こそ果たすと心に誓うために。雪に包まれた港町で、二人の時間は静かに、しかし確実に動き始めていた。


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