第3話「病室の笑顔」
病室のドアを押し開けると、冷たい空気の中に、ほのかな温もりが混じっていた。消毒液の匂いと潮の香りが微かに交じる空間に、美咲は窓際で静かに座っていた。白いシーツに包まれた体、でもその笑顔は、昔と変わらず穏やかで、光を帯びていた。
「拓海…来てくれたんだね」
その声に胸がぎゅっと締め付けられる。笑顔の奥に隠された疲れや孤独、病に侵された弱さが、拓海の胸に突き刺さる。自分が遠く離れていた間に、どれだけ彼女が孤独だったのか――思いがけず押し寄せる後悔と焦燥感。
窓の外で雪が舞い、灯台の光が揺れる。光と雪の間に、幼いころの記憶がふっと蘇る。雨の日に二人で隠れた秘密基地、灯台の下で交わした約束、風に吹かれながら笑ったあの瞬間。あの頃の温かさが、今の冷たさと静寂に深く対比され、胸に痛みをもたらす。
拓海は手を差し伸べることができずに、一歩を踏み出すのをためらった。だが、目の前の美咲の手は微かに震えていて、それが彼の心を動かす。手を握った瞬間、雪の冷たさや病室の冷気をかすかに忘れるほど、温かさが伝わった。
「ずっと…待っていたよ」
その言葉に涙が滲む。幼少期の思い出と今の時間が、重なり合い、胸の奥で静かに爆発するように響いた。拓海の心は、後悔と愛情、恐怖と希望が入り混じり、言葉にならない感情で満たされる。
灯台の光が雪に反射し、病室の窓越しに小さな道を作る。それは過去と現在をつなぐ光の道。拓海は深呼吸をし、静かに心に決めた。
「今度こそ、あの約束を果たす」
雪に包まれた港町で、二人の時間は静かに、しかし確実に、動き始めていた。




