第10話「時間の制約」
雪は止むことなく、港町を白く包んでいた。拓海の足音が雪を踏むたび、ぎゅっ、ぎゅっと音を立て、冷たい風が顔を刺す。胸の奥に、焦燥感が渦巻く。時計の針が無情に進むたび、時間が限られていることを痛感した。
病室で見た美咲の表情が、頭から離れない。笑顔の奥に潜む痛みと孤独、呼吸の微かな乱れ――すべてが胸に刺さる。手に握った手紙の温かさが、希望であると同時に、時間の短さを実感させた。
「間に合わなかったら…」
その恐怖が一瞬、心を凍らせる。幼少期の灯台の下の約束が、今度こそ現実のものとなるためには、時間は彼の味方ではなかった。雪の舞う道、風に舞う雪片、波の音、潮の匂い――すべてが迫り来る制約を告げている。
拓海は足を止め、深く息を吸う。手に握る手紙を胸に押し当てると、幼いころの記憶が蘇る。秘密基地で笑った日々、肩を寄せ合ったあの日の温かさ。あの温もりが、今の冷たい風と雪に打ち勝つ力になる。
「諦めるわけにはいかない…」
決意が胸を突き上げる。後悔も恐怖も、今は行動するための力に変わる。雪を蹴る足音が、港へ向かう確かな道を告げる。灯台の光は遠く小さく揺れているが、確かに進むべき方向を示していた。
呼吸の乱れ、手袋越しの冷たさ、雪のきしむ音。五感のすべてが、時間の制約を体感させる。しかし、幼少期の約束と愛情が、胸に熱を灯し、足を止めることを許さなかった。
雪に包まれた港町で、拓海の影は灯台の光に向かって、確かな決意を胸に進み続けていた――。




