黒き魔王のデジタル書斎
前書き
◆VR書斎の聖域
現代社会において、『プライバシー』という概念は絶滅の危機に瀕している。あらゆる行動がデータ化され、SNSの監視という『視線の暴力』に晒される中で、人類は『真に孤独になれる場所』を喪失した。これは、精神の安寧を司る『領域の論理』が崩壊したことによる、『内面的な危機』である。
甲斐の国大学の天才的システム設計者、黒木万桜は、この閉塞感に対し、『究極の没入空間』を構築することで宣戦布告する。彼が提唱したのは、水嚢風呂の浮力による『重力の排除』と、エアコンプレッサーによる『触覚の完全同期』を融合させた、『感覚の革命』だった。
それは単なるVRではない。ドーム型モニターによる『視覚の密閉』、生体成分から生成される『嗅覚の再現』、そしてブロックチェーンによる『所有権の絶対化』。すべては、外界のノイズを遮断し、自らの『純粋な情熱』のみと対峙するための設計だった。
しかし、この『論理的な聖域』は、身内の天才たちによって脆くも崩れ去る。管理権限という『絶対的な理屈』を振るう舞桜、冷徹な観察眼を持つ勇希、そして『古典の叡智』を隠し持つアホの子莉那。
『独占欲のバグ』を抱えた魔王の秘められたフォルダが、管理者権限という『権威の論理』によって白日の下に晒される時、VR空間は『至福の書斎』から『審判の法廷』へと変貌する。
これは、『技術がもたらす究極の没入』と、それを容易く踏みにじる『女たちのリアルな論理』を巡る、滑稽でいて切実な、天才たちの記録である。
2019年9月中旬。甲斐の国大学併設カフェ、ジャカジャカにて。
「魔王さま、これっておウチデートできねえかな?」
必死に食い下がる藤枝を、万桜は不快指数の高い視線で一蹴する。
「田中さーん。このモップ借りていい?」
万桜が不穏な単語を口にすると、カフェオーナーの田中が苦笑いで割って入った。
「店で暴れられちゃ困るよ魔王さま」
田中は万桜を宥めるが、万桜の苛立ちは収まらない。
「ちぇー、わかったよぉ。つかおウチデートってなんだよ藤っち? おまえが言ってんのなんちゃってVRじゃなくて、リアルVRにしてーとか、そう言うんだろ?」
技術の不純異性交遊利用に、万桜は吐き捨てるように言った。
「舞桜に勇希にサブリナ。おまえらどう思う? どうなんVRでエロ満たすって?」
万桜は女性陣へと問いを投げかけた。
「「「ゴミだな藤枝」」」
一方でVRで不純異性交遊利用を男子に秘密裏に達成している舞桜たちは、冷徹に吐き捨てた。
彼女たちは迂闊な口を滑らせないよう、速やかにその場から物理的な距離をとる。
「つか、おまえ彼女いねえじゃん」
万桜が決定的な『正論の暴力』を振り翳した、その時だった。
「どうですか誠くん。黒木くんは知恵を貸してくれそうですか?」
カフェに入ってきたのは、奥州大学3回生の柏葉弥生だった。
万桜は弥生と藤枝の顔を見比べ、深いため息をつく。
「おウチデートねえ……。ようは、VR空間にプライベートスペースを持って、そこに友人を招待したいってことだろ?」
万桜は、アイスコーヒーの結露を指で拭った。
「あるぜ。ただし、スキンシップはハグまでだ。カフェなんだからあたりまえだ」
『レギュレーションの論理』を淡々と提示する万桜に、藤枝は救世主を見たような顔をする。
「マジかよ魔王さまッ! ハグまでおkなら、実質おウチデートじゃん! 弥生ちゃん、聞いた!?」
藤枝の『煩悩のノイズ』は、もはや制御不能なレベルに達していた。
「黒木くん。その『プライベートスペース』の構築、私たち奥州大学の学生も利用させてもらえますか? 遠距離の交流には、物理的な距離を埋める『空間の合理性』が必要なんです」
弥生の言葉は、藤枝の『低俗な動機』を、『学術的な必要性』へと瞬時に変換した。
「いいぜ。ただし、ブロックチェーンで『入室権』を管理する。匿名性は排除だ」
万桜は、弥生たちに『技術的な制約』を突きつける。
「誰が誰の部屋に、いつ入ったかという履歴は、すべて改ざん不可能な『真実のデータ』として残る。密室の非合理性は、この『監視の論理』で解消する」
「そんな怖いこと言わないでくださいよぉ。な、弥生ちゃん」
藤枝は、弥生の肩を抱こうとして、彼女の『完全3Dスキャンデータ』を反映したリアルなアバターの残像を空振りした。
「なんちゃってVRでのスキンシップは、触覚フィードバックの限界がある。ハグ以上の接触を試みても、座標の『論理的な衝突』が発生して、強制ログアウトだ」
万桜は、冷徹に『プログラムの暴力』を宣告した。
「魔王さま、ログアウトだけは勘弁してくれよ! 俺の『情熱のノイズ』が、システムを壊しちまう前にさあ!」
必死に食い下がる藤枝を無視し、万桜は弥生に向き直った。
「柏葉さん。この『プライベート空間の論理』は、いずれ教育や医療にも転用できる。他愛もないデートのノリで、システムの『脆弱性のノイズ』を洗い出してくれ。それが、あんたたちへの『技術的な任務』だ」
「承知いたしました。黒木くん。精一杯、この空間の『真価』を確かめてみますね」
弥生は、優雅に一礼した。
「個室がねえと、公の場で不適切な声が漏れるよな、でも家にこんなデカいドームモニターとマッサージチェアってなあ?」
万桜は、顎をさすりながら『空間の非合理性』を指摘した。
万桜は知らないことだが、女子部屋のそれぞれの個室には、既に『女子専用VR装置』が完備されている。
「そうか? 折り畳み方式なら邪魔にならないんじゃないか?」
そのノウハウを身をもって知る白井勇希が、平然とした顔で提案する。
「ドームだぜ? 無理じゃねえか?」
万桜は、構造的な限界を疑い、懐疑的な視線を向けた。
「最近の液晶パネルの柔軟性は凄いのよ、万桜くん。8分割にすれば場所も取らないわ」
同じく『秘匿された装置』の運用経験を持つ茅野舞桜が、流麗な動作で補足する。
「ねえねえ、蒟蒻フロートをドームで包むってのはどう?」
サブリナこと福元莉那が、屈託のない笑顔でとんでもない『合理性の融合』を提案した。
水嚢風呂の浮力によって『重力ノイズ』を完全に遮断し、視界をドームモニターで密閉する。
それは、脳に「ここが現実だ」と誤認させる、究極の没入感をもたらす『精神の監獄』の誕生を意味していた。
「そうか?」
黒木万桜は、どこまでも乗り気ではなかった。
万桜の脳内では、『技術の進歩』よりも『独占欲の論理』が優先されていた。
もし、こんな究極の快楽装置が普及してしまえば、舞桜や勇希たちの『純粋な反応』が、偽物のデータに汚染されてしまう。
自分だけが知っていればいい彼女たちの『秘められたノイズ』が、得体の知れない誰かに悪用される可能性を、万桜は『魔王』として断固拒絶していた。
「藤枝みたいなヤツに、こんな『脳のハッキング装置』を渡してみろ。社会の倫理が秒で崩壊するぜ」
万桜は、自分の中にあるドロドロとした独占欲を、『社会防衛の理屈』にすり替えて吐き捨てた。
「あら、万桜くん。それは随分と、過保護な『論理』ね」
舞桜は、万桜の瞳の奥にある『不純な懸念』を見透かし、妖艶に微笑んだ。
「万桜が心配してんのって、勇希や舞桜が知らない誰かとハグしちゃう可能性があるからでしょ? おウチデートって言ってんじゃん。つまり合意がなけりゃ致せない。それ以上もね」
莉那が、システムの『物理的な制約』に基づいた合理性を淡々と説明した。
「わかってっけどよぉ、あれだよ。彼女の完全3Dデータがネット上にあるとかってよぉ」
万桜は、不機嫌そうに視線を逸らして吐き捨てた。
一年前の今時分に、舞桜の完全3Dスキャンデータにブロックチェーンを掛けて、電脳空間に完璧な再現体を構築したのは、他ならぬ万桜自身である。
『技術の正当性』を誰よりも信奉しているはずの男が、今さら『データ流出』を懸念するのは、自己矛盾もいいところだった。
「「「おい、こいつ重てぇぞ?」」」
三人娘は異口同音に、万桜へと冷ややかなジト目を貼り付けた。
万桜の口から出た理屈は、システムの脆弱性への懸念ではなく、単なる『独占欲のノイズ』が漏れ出たものに過ぎない。
「自分の技術なら『完璧な所有権』を担保できる。だけど、他人が介在する余地があるなら、その『論理の隙間』さえ許せないっていうわけね」
舞桜は、万桜の『重すぎる愛情』を冷徹に分析し、わずかに口角を上げた。
「……フン。勝手に言ってろ。俺は、不確実な『感情のバイアス』がシステムに混入するのを嫌ってるだけだ」
万桜は、顔を赤くしながらも、最後まで『魔王』としての屁理屈を貫き通そうとした。
「まあ、万桜がそこまで言うなら、このドーム型VR装置の『家庭用プロトタイプ』は、まずはあたしたちの部屋で、厳重に『封印』しながらテストするしかないわね」
勇希は、確信犯的な笑みを浮かべ、万桜をさらに追い詰める。
女子専用VR装置の存在を隠したまま、彼女たちは新たな『遊び場』の主導権を握ろうとしていた。
「それにね、万桜くん。これが実現すれば、おウチでイチャイチャしてても、桜ちゃんに塩っぱい顔をされないわよ?」
舞桜が放った殺し文句は、万桜の『独占欲の壁』を瞬時に粉砕するほどの威力を持っていた。
妹の桜は、万桜と勇希、そして舞桜が戯れる光景を極端に嫌う。
桜曰く、兄たちのイチャつきを目撃すると、何とも言えない「塩っぱい気分」になるのだという。
それは思春期の妹にとって、両親の秘事を見せつけられるような、回避不能な『精神的ノイズ』であった。
「振動とか良いな。匂いは汗から作れる。温度はリアルタイムで反映すればいい」
万桜の『魔王の論理』が、邪な方向へと覚醒した。
これまでは妹の視線という『物理的な検閲』によって制限されていた『情愛の出力』が、VR空間という『隔離された聖域』によって解き放たれる。
ドームモニターによる視覚の完全支配、そして水嚢風呂との組み合わせによる、重力から解放された究極の没入感。
これに『万桜謹製』の生体成分解析による芳香再現と、リアルタイムの熱量同期が加われば、それはもはや現実以上の『官能の特異点』となる。
「家庭用プロトタイプは、柔軟性のある8分割パネルで構築する。没入感を最大化するために、水嚢風呂の圧力センサーと連動した触覚フィードバックも実装だ」
万桜は、凄まじい速度で端末を叩き、デバイスの『最適化プログラム』を書き換えていく。
「あら、さっきまでの『重すぎる懸念』はどこへ行ったのかしら?」
勇希は、現金な豹変を見せる万桜を、可笑しそうに眺める。
「うるせえ。これは妹の『精神衛生の保護』という、極めて道徳的で合理的な判断だ」
万桜は、顔の火照りを隠すように、モニターの輝きの中に没入した。
「水嚢層と空気層。空圧で触感を完全再現……。聴覚と嗅覚は抑えた。視覚もいい……」
万桜は、端末に映し出される『多層構造の論理』を凝視し、独り言のように呟いた。
水嚢風呂の流体圧力を利用し、全身への均等な加圧とVR空間の座標を完全同期させることで、実在しないはずの「質量」を脳に叩き込む設計だ。
もはや、当初掲げていた『ハグまで』という『理屈の制約』など、万桜の脳内からは完全にデリートされていた。
「「「おい、どこ行ったハグまで?」」」
三人娘は、一寸の狂いもないタイミングで、万桜へと氷点下のジト目を貼り付けた。
異口同音に放たれた言葉には、際限なく膨れ上がる『魔王の煩悩』に対する、容赦のない断罪が込められている。
「ちげえって。ほら、VRでなにか食うかもしれねえじゃん? 蕎麦とか?」
万桜は、必死に『食の合理性』を盾にして弁明を試みる。
「おい、こいつ味覚の言及し始めたぞ?」
勇希の声音は、絶対零度の地獄、コキュートスを彷彿とさせる冷たさであった。
「いるよねえ、女子を美味しいって言うやつ。食いもんじゃねえっつの」
莉那もまた、軽蔑の滲むコキュートスのトーンで、万桜の『不純な推論』を先回りして叩き潰す。
万桜の汗の成分から匂いを抽出する技術が、いつの間にか『味覚の再現』という禁忌の領域へ踏み込もうとしていることを、莉那たちは敏感に察知していた。
「万桜くん……ステイ!」
舞桜は、セイタンシステムズのCEO権限をフル稼働させ、毅然とした態度で『論理の暴走』に停止を命じた。
これ以上の『真実の再現』は、もはやビジネスの域を逸脱し、取り返しのつかない『倫理の崩壊』を招くと判断したのだ。
「はい……」
万桜は、肩を落として全面降伏の意を示した。
どれほど天才的な設計図を描こうとも、三人娘の『理屈の包囲網』の前では、魔王といえども沈黙するしかなかった。
「おまえたちはわかってねえ! 俺がどれほどオッパイを渇望しているかってことを! オッパイは吸ってなんぼだろ? ちげえか?」
開き直った万桜は、カフェの静寂を切り裂くような『本能の咆哮』を上げた。
「「「ちげえよバカ魔王ッ!」」」
舞桜たちは、一寸の猶予もなく、冷徹な『正論の暴力』を叩きつけた。
万桜が提示した『吸育の論理』は、彼女たちの『理屈の防壁』によって瞬時に塵へと帰した。
「え、吸われて気持ちよさそうな素振りは?」
万桜は、崩れ落ちるように膝をつき、涙目で彼女たちを見上げた。
自らが構築した『MRIデータに基づく完全再現』のなかで、確かに感じたはずの『甘美な反応』の正体を確認せずにはいられなかった。
「「演技ッ!」」
舞桜と勇希は、一切の揺らぎなく断言した。
万桜は、自身の設計した『官能のシミュレーション』が、実は彼女たちの『高度な情報操作』によってコントロールされていた事実に、絶望の深淵へと叩き落とされた。
勇希は、床に突っ伏す万桜を冷ややかに見下ろしながらも、その瞳の奥には微かな困惑を滲ませていた。
莉那は、呆れ果てて吐息をつき、手にしたトレイを指先で回した。
「なにを今さらショック受けてんの。男を手のひらで転がすなんて、女子にとっては『基本的なプログラム』でしょ?」
その言葉には、万桜の『純粋すぎる独占欲』に対する、呆れと、ほんの少しの愛おしさが混ざり合っていた。
舞桜は、CEOとしての威厳を取り戻すと、冷たく言い放った。
「万桜くん。あなたが作るべきは『妄想の補完装置』ではなく、『社会を最適化するインフラ』よ。わかったらその『湿ったノイズ』を今すぐデリートしなさい」
彼女たちは、万桜の『重すぎる愛情』を重々承知しながらも、それを安易に全肯定することはしない。
魔王を魔王たらしめている『研ぎ澄まされた合理性』が、下劣な『煩悩の沼』に沈むことを良しとしなかった。
「……はい」
万桜は、絞り出すような声で返事をした。
水嚢風呂の浮力でも、この『心の空洞』を埋めることはできない。
「え、演技バイアスを魔王に監視させてやるうう」
万桜は、床を叩きながら負け惜しみの『絶叫のノイズ』を響かせた。
自律神経の微細な揺らぎや、生体電流の変化をリアルタイムで解析すれば、女子たちの『演技の論理』を暴き出せると、涙目で『反撃の理屈』を構築しようとした。
「「それやってもいいけど、おまえ手数減るぞ?」」
勇希と舞桜は、双子のような完璧なタイミングで、その『愚かな野望』を一蹴した。
彼女たちは、万桜が開発しようとしている『バイオセンサーによる監視』が、自分たちの『サービス精神』という名の供給を、物理的に停止させることに繋がると示唆したのだ。
「え、あれもこれも演技ですか?」
万桜は、縋るような瞳で、信じがたい『情報の真実』を問い直した。
水嚢風呂の没入感のなかで、重力から解放された肉体が確かに記憶している『あの熱量』さえも、単なる『数値の偽装』だったのかという絶望が、万桜の脳内を埋め尽くしていく。
「「うん。残念ながら」」
舞桜と勇希は、万桜の淡い期待を、冷徹な一刀両断で切り捨てた。
女子という『複雑なシステム』にとって、演技とは『円滑なコミュニケーションの最適化』であり、それを暴こうとする行為そのものが、万桜の『男としての権利』を剥奪する結果を招くのだと、暗黙の了解で伝えていた。
万桜は、何とも言えない虚無感に襲われ、マッサージチェアの上で小さくなった。
ドームモニターに映し出されるVRの青空が、今の万桜には、どこまでも空虚な『デジタルの壁』に見えて仕方がなかった。
「お金持ちに生まれ変わろう……。いや、お金持ちでも演技されてしまう……。そうだ、万桜は貝になりたい……。貝なら雌雄同体だから……」
ブツブツと独り言を漏らし、再起不能なまでのショックを受ける万桜は、現実逃避の海へと深く潜っていた。
「「「うるせえカマヤロー、続き詰めんぞ」」」
三人娘の言葉の刃が、容赦なく万桜を現実へと引き戻した。
『情愛のノイズ』をバッサリと切り捨てられ、思考の脆弱性を露呈した魔王に、彼女たちは一片の慈悲も与えない。
「はい……」
万桜は、力なく項垂れて従った。
「水嚢スーツとエアコンプレッサーの合わせワザは外せない。たぶんVR空間での錯覚を加速させる……」
万桜は、折れかけた心を『技術の論理』で無理やり接ぎ木し、思考を切り替えた。
水嚢を仕込んだスーツによる流体圧と、空気圧による触覚フィードバックを同期させ、脳が受ける『情報の解像度』を極限まで引き上げる。
「目的は、おウチデート、つかVR空間に自分の書斎を作ることだ」
本来の『設計の合理性』を取り戻すべく、万桜は新たなベクターを提示した。
「いいね、マイ書斎!」
莉那は、大きな瞳を輝かせてはしゃいだ。
「おまえは、マイリビング持ってんだろうが?」
万桜が鋭いツッコミを入れる。
莉那は、既に自分専用の広大なリビングルームをDIYで作成して所有している。
「あるけど、友達呼んでデジタル古書は読めないじゃんか?」
莉那は、不満げに頬を膨らませた。
今回の構想の真の価値は、ブロックチェーンで管理された『デジタル情報資産』を、物理的な制約を超えて共有する場所の創造にある。
ついでに人目を忍んでイチャイチャするという『邪な情熱』も、強力な推進力となっていた。
「そういや拓矢って歴史書とか好きだよな……。サブリナ、無理して付き合うことねえぞ。おまえはアホの子なんだから」
万桜は、柄にもなく莉那を気遣うような言葉を口にした。
その瞬間、莉那の鋭い蹴りが、万桜の臀部にクリーンヒットした。
「おまえに言われたくねえわ……」
莉那は、蔑むような視線を投げかけると、凛とした声で言葉を紡ぎ出した。
「『今は昔、中納言紀長谷雄と云ふ人ありけり。若かりける時、双六を好みて、昼夜にこれを打つ』……。どう? 今昔物語の第24巻、第44話。アホの子でも、好きな人のためなら『全盛期の再起動』くらい、脳内でやってるっつーの!」
古典の一節を淀みなく暗唱する莉那の姿に、万桜は呆然と口を開けた。
知識の『滞留ノイズ』を一切感じさせないその鮮やかなアウトプットは、まさに『巡りの最適化』がもたらした、もう一つの奇跡のようだった。
「くっ、これだから進学校のアホの子は……」
万桜は、鈍い痛みの残る尻をさすりながら、莉那に恨めしげなジト目を貼り付けた。
だが、莉那は少しも怯むことなく、即座にジト目を貼り付け返した。
「いや、おまえその筆頭だぞ。つか、あたしと違って国立大学進学してるから、おまえ」
莉那の指摘は、ぐうの音も出ないほど的を射ていた。
偏差値という名の『知能の解像度』を極限まで高めてきたはずの万桜が、欲望に忠実なあまり『アホの極致』をひた走っているのは、もはや隠しようのない事実だ。
「まあ、方向性は決まったんだ。じゃあ、形にしてしまおう」
勇希が冷静に議論を纏め上げると、CEOとしての『決断の論理』が発動した。
「もしもし工場長? また注文があるのだけれど……。そう、8分割のフレキシブル液晶パネルよ」
舞桜は既に、家庭用VRドームの量産化に向けた『生産の合理性』を動かし始めていた。
★ ◆ ★ ◆ ★
数日後、水嚢スーツの流体圧と、新開発のエアコンプレッサーによる触覚フィードバックを融合させた『究極の没入空間』が完成した。
「へっへー。俺の書斎にようこそ!」
万桜は意気揚々と、電脳空間に構築された私的な聖域へと三人娘を招待した。
そこは、現実の喧騒という『環境ノイズ』を完全にシャットアウトした、万桜の『思考の純粋性』を体現した空間だった。
「貴様の拳は見切っている。ここだ! ホワッター!」
莉那が奇声とともに、電脳空間の机の下へと突撃を仕掛けた。
莉那の狙いは、万桜が隠しているであろう『不純な隠しデータ』だ。
「おまえの拳も見切ってんだよサブリナ?」
万桜は不敵に笑うと、瞬時に電脳空間の特定座標に『所有権の壁』を構築した。
「くっ、ブロックチェーンだとぉ?」
莉那は、改ざん不能な『技術の拒絶』にぶち当たり、悔しそうに地団駄を踏んだ。
だが、この空間における『絶対的な論理』を握っているのは、万桜だけではない。
「魔王、善きに計らえ」
舞桜が、CEOの特権である『管理者権限』を静かに発動させた。
ブロックチェーンの堅牢な守りさえも、開発元であるセイタンシステムズの最高責任者による『上位命令』には抗えない。
隠しフォルダが強制的に解凍され、そこに保存されていた『万桜の理想』が白日の下に晒された。
「ほう。あたしに似てるな、このセクシーアイドル?」
勇希の声音は、絶対零度の氷穴、コキュートスを彷彿とさせた。
画面には、勇希の3Dデータをベースに、より扇情的なカスタマイズを施された『不適切な美の論理』が映し出されていた。
「こっちはあたしに似てるわね……。万桜くん、あたしたちに、なにか不満なのかしら?」
舞桜の声音もまた、聴く者の魂を凍てつかせるコキュートスの旋律を奏でた。
本物より少しだけ従順に、そして大胆に設定された『偽物の舞桜』を前に、万桜の心拍数は臨界点に達した。
「えっと、プライバシーってなんスかね?」
万桜は、顔面を蒼白にして、懇願にも似た完全降伏を宣言した。
自ら作り上げた『情報の透明性』という刃が、今、自分自身の喉元に突きつけられていた。
「エロクッコロじゃないだけいいんじゃん?」
莉那だけはどこまでも他人事だった。
既に万桜の本棚から『デジタル古書』として再現された少年マンガを取り出し、床に寝転がって読み耽っている。
『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をお読みの地球の皆様へ!
いつも拙作『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をお読みいただき、本当にありがとうございます!
物語の中で、「魔王」こと黒木万桜は、時には「水嚢の川」で災害に立ち向かい、時には中古スマホを活用したクローズドネットワークなんて突拍子もないアイデアまで生み出しています。
実は、この物語には、万桜のそんな「もしかしたら、これって本当に役立つかも?」と思えるような、たくさんのアイデアが散りばめられているんです。読者の皆さんも、「これ、面白い!」「こんな風に使えるんじゃないか?」なんて、閃いたことはありませんか?
地球のみんなぁ~! オラに「★」をわけてくれーっ!
もし、この物語を読んで、少しでも「面白い!」「次の展開が楽しみ!」「万桜のアイデア、イケるかも!」と感じていただけたなら、どうかページ下部の【★★★★★】ボタンをポチッ!と押して、星評価を分けていただけないでしょうか!
皆さんのその「★」一つ一つが、作者の大きな励みになり、万桜の次の「魔王案件」へと繋がるエネルギーになります!
引き続き、『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をどうぞよろしくお願いいたします!




