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黒き魔王のゲーハーブロック

前書き

 アボカド由来のカリウム・ブーストと、完全3D加圧スーツによる静脈還流の強制サポート。

 さらに水嚢風呂による重力からの解放――。

 黒木(クロキ)万桜(マオ)たちが構築した「トリプル・プレス・システム(TPS)」は、単なる疲労回復の枠を超え、老化という名の「生体ノイズ」を物理的に絞り出す究極のアンチエイジング・デバイスへと進化していた。

 その効果は劇的だった。

 二十代の輝きを取り戻し、瑞々しい美貌を再定義した鞠亜(マリア)清子(セイコ)

 全盛期の身体能力を復元され、孫の彼女にデートを迫るほど活力を爆発させる善次郎。

 論理が導き出した「生体メンテナンス」の結末は、もはや美容の域を逸脱し、医療のあり方を「切除」から「調和」へとアップデートしようとしていた。

 しかし、その無自覚な救世主は、さらなる暴論を口にする。

 「引退した競走馬を、TPSで馬車馬に変えれば、アニマルホスピタリティじゃんか?」

 「産後の母親を最短で『最強』に戻せるぜ」

 

 全盛期の再起動がもたらすのは、少子高齢化社会の終焉か、それとも倫理の崩壊か。

 伝説の神医・華佗の医術を最新技術で再現する「華佗システム」の胎動と共に、膨れ上がる法人税という名の「国家のノイズ」を回避するため、魔王たちは競馬場という名の「祭典」へと足を踏み入れる。

 「巡りの最適化」が競馬界の血統理論をもハックする、奇妙で賑やかな日常のアップデートが、今、幕を開ける。


 2019年9月上旬、千葉県船橋市、中山競馬場。

 秋の気配が混じる風を受けながら、黒木(クロキ)万桜(マオ)たちは、貴賓室のテラスからターフを見下ろしていた。

 視線の先には、舞桜(マオ)の父親代わりである茅野(チノ)淳二(ジュンジ)社長と、土御門(ツチミカド)晴景(ハルカゲ)頭取が、双眼鏡を手に熱い議論を交わしている。

「赤い社長」の異名を持つ淳二は、トレードマークの赤いネクタイを揺らし、目の前で砂塵を上げる競走馬たちに喝采を送っていた。

「競馬か。山梨県民なのに、あんまり触れてねえんだよな」

 万桜(マオ)は、グラスの炭酸水を揺らしながら、独り言のように呟いた。

 彼の論理回路にとって、競馬は「不確定要素が多すぎる非効率な投資」にしか映っていなかった。

「黒木くん、それは大きな誤解やで。競馬は単なるギャンブルちゃうねん。これは、血統という名の『情報の連鎖』を応援する理由なんや」

 淳二は、馬券を握りしめたまま、熱っぽく語り始めた。

「ええか、勝馬投票券ちゅうのはな、自分が信じた『論理の進捗』に熱狂して応援するための、いわば『推しへの投資証明書』や。この一〇〇円が、馬を育て、競馬場を維持し、次世代の血脈を紡ぐためのエネルギーに変換される。これはもはや、国力の維持に欠かせない巨大な経済の祭典、お祭りなんやで」

「淳二の言う通りやな、黒木くん。競馬は、農業、畜産、そして雇用の創出……。地域経済という『システム』を循環させるための、極めて洗練された社会装置なんや」

 晴景頭取は、銀行家らしい冷静な口調で淳二の言葉を補完した。

「一頭のサラブレッドの背後には、何百人もの人間の生活と、何世紀にもわたる改良の歴史という『重厚なデータ』が積み重なっている。それが一瞬の直線で爆発する。これほど社会を活気づける『ポジティブなノイズ』は他にありませんよ」

「そう言うもんかー。なるほどなー。お祭りってわけだ」

 万桜(マオ)は、淳二たちの言葉を「社会経済システムの最適化」というフィルターを通して咀嚼し、感心したように頷いた。

「つか舞桜って超お嬢じゃん? 馬主って、次元が違いすぎて脳がバグるよぉ」

 莉那(リナ)は、豪華な調度品に囲まれた貴賓室を見回し、改めて隣の舞桜(マオ)を眺めた。

「ちょっと、サブリナ、茶化さないで。……それより、こっちの『バグ』をどうにかしてちょうだい」

 舞桜(マオ)は、タブレットに表示されたセイタンシステムズの決算書を凝視し、美しい眉を寄せて頭を抱えていた。

「なになに、この法人税の推定額……! 『バストレギュレーター』の予約販売と、トリプルプレスシステムのライセンス料だけで、資本が天文学的な数字で積み上がっているわ。このままだと、国庫に資本が吸い上げられるだけの『非合理な納税マシン』になってしまう!」

 舞桜(マオ)のCEOとしての論理は、国庫への過剰な資本流出を回避し、いかにして「資本の再投資(無駄遣い)」を行うかという難題に直面していた。

「ウチも馬を買う?」

 舞桜(マオ)が、半分自棄気味に、半分真剣な眼差しで万桜(マオ)を見上げた。

「馬か……良いね……」

 万桜(マオ)の瞳に、新たな「魔王の論理」が宿った。

「馬の生体データは、人間よりもノイズが少ねえ。トリプルプレスシステムで競走馬の脚力を最適化し、アボカド由来のカリウム・ブーストで心肺機能を再定義すれば……。一頭の馬を『最速の計算機』に書き換えられるぜ」

 万桜(マオ)は、広大なターフを睨みつけ、不敵に笑った。

「よし、舞桜。その『資本の逃げ道』、俺が全力で『黄金の巡り』に変えてやるよ」


 貴賓室のテラスでは、黒木(クロキ)万桜(マオ)が、眼下のパドックで周回する競走馬たちの「生体ノイズ」を冷徹に解析していた。

 隣では、舞桜(マオ)がタブレットを握りしめ、膨れ上がった法人税の試算データという名の「国家による略奪プログラム」に頭を抱えている。

「舞桜の兄ちゃんたちなら、信頼出来る牧場知ってんだろ?」

 万桜(マオ)は、双眼鏡を置くと、不敵な笑みを浮かべて舞桜(マオ)に問いかけた。

「引退した競走馬を、俺たちのトリプルプレスシステムで『馬車馬』に変えれば、それは最高の『アニマルホスピタリティ』じゃんか?」

「アニマルホスピタリティ……? 万桜(マオ)、あなたは馬を癒やしたいの、それとも働かせたいの?」

 勇希(ユウキ)は、万桜(マオ)の突飛な発想に、呆れたような溜息を漏らす。

「両方だよ。俺が考えてんのは、人工知能制御の『スマートジェルシャフト馬車』だ」

 万桜(マオ)は、空中に見えない図面を描くように手を動かした。

「車軸のベアリング部分に、高密度のグルコマンナンジェルポリマーを充填する。これで摩擦係数を極限まで下げて、シャフトへの負荷をゼロに近づけるんだ。さらに、馬の歩幅と心拍数をAIがリアルタイムで検知して、馬車の推進力を電動アシストで微調整する。馬にとっては、ただ『散歩』してるだけで、後ろの重い客車が勝手に付いてくる感覚になるのさ」

「なるほど、それは面白いわね。馬の余生を『労働』ではなく、人間との『共生という名のデバイス運用』にアップデートするわけね」

 舞桜(マオ)は、ようやく顔を上げ、ビジネスチャンスを嗅ぎ取った。

「それなら、いい場所があるで」

 話を聞いていた茅野(チノ)淳二(ジュンジ)社長が、赤いネクタイを直しながら割って入った。

「千葉の富里や八街の方に、引退馬を大事に預かっとる牧場がある。あそこのオーナーなら、黒木くんのその『優しい暴論』を面白がってくれるはずや。紹介したるわ」

「よっしゃ。じゃあ、まずは軍資金をこの『祭り』から引き出すとするか」

 万桜(マオ)は、隣で真剣に出馬表と睨めっこしていた莉那(リナ)に声をかけた。

「サブリナ、あの八番人気と一二番人気の馬、どう見える?」

「え? えーっと……。八番は、左後ろの筋肉がちょっと『ピリピリ』してて、逆にあっちの一二番は、目が『ギラギラ』してて……、なんだか『今すぐ走らせろ!』って怒ってるみたいだよぉ」

 莉那(リナ)は、天性の感覚で馬のコンディションという「非言語情報」を読み取った。

「正解だ。八番は乳酸の滞留ノイズで自滅するが、一二番はアドレナリンの出力がリミッターを越えてる。……よし、この組み合わせで『論理の最適解』を叩き出す」

 万桜(マオ)が端末で決済を済ませた数分後、中山競馬場の直線で、一二番人気の伏兵が爆発的な末脚を見せて先頭でゴールを駆け抜けた。

「当たっちゃった……! これ、万馬券どころじゃないよぉ!」

 莉那(リナ)は、払い戻し予定額を見て目を丸くした。だが、その喜びも束の間だった。

「はい、お疲れ様。その配当の半分近くは、一時所得として翌年の住民税と所得税、それから復興特別所得税として、社会のシステムに『強制還流』されるわよ」

 舞桜(マオ)が、冷徹な計算結果を突きつけた。

「あたし、この祭り嫌い」

 手元に残るはずの「純利益」の少なさに、莉那(リナ)は頬を膨らませて不機嫌そうに呟いた。

「まあ働けってことだろう?」

 万桜(マオ)は、国家という名の「巨大な集金システム」の強固さを前に、苦笑いでその場の空気を流した。


「つか、君たちの観察眼なら馬だけで一財産築けるなぁ」

 土御門(ツチミカド)晴景(ハルカゲ)は、手元の端末に表示された異常な的中率と、それを事も無げに成し遂げた若者たちを交互に見やり、呆れ返った声を漏らした。

 銀行家として数多の「数字の動き」を見てきた晴景(ハルカゲ)の目から見ても、彼らが叩き出した配当は、もはや投資の域を逸脱した「システムの収穫」に他ならなかった。

黒木(クロキ)先輩! 万馬券当てっちゃった! なにこれウケるぅ。超簡単じゃん!」

 経理の天才であり、セイタンシステムズの金庫番を務めるギャル、杉野(スギノ)香織(カオリ)が、スマホの画面を振りかざしながら貴賓室に飛び込んできた。

 彼女は、戦国最強の軍神・上杉謙信の再来とまで噂される、天性の「勝ち筋」を見抜く戦術眼の持ち主だ。

 香織(カオリ)にとって、競馬のオッズ表は「攻略すべき脆弱なプログラム」に過ぎず、彼女の脳内の演算装置は、パドックの馬たちの微細な挙動を瞬時に「金の成る論理」へと変換させていた。

「お疲れ様です」

 莉那(リナ)は、香織(カオリ)の嵐のような勢いに圧倒されながら、苦笑いを浮かべて会釈した。

 自分と万桜(マオ)が導き出した「生体データの収束」と、香織(カオリ)が直感的に掴み取った「勝負の機微」が完全に合致した結果に、莉那(リナ)は恐ろしささえ感じていた。

杉野(スギノ)、おまえなぁ……。それは簡単なんじゃねえ。俺たちが構築した『巡りの最適化理論』を、おまえのそのバグじみた直感が勝手に実行しただけだ」

 万桜(マオ)は、騒がしい経理担当を一瞥し、最後のアボカドフライを咀嚼しながら論理的な釘を刺した。

「だが、その『超簡単』な配当も、舞桜(マオ)の言った通り、半分近くは国家の徴税システムという名の『巨大なノイズ』に吸い取られる。……結局、効率が悪いのは変わらねえな」

「えぇー! せっかく当てたのに半分持ってかれるとか、マジ意味不なんですけどぉ!」

 香織(カオリ)は、高級な絨毯を踵で叩いて抗議のノイズを発した。

 その光景を眺めながら、淳二(ジュンジ)社長は「これこそが社会の循環や」と、愉快そうに熱燗を喉に流し込んだ。


「よし! さっき知り合ったじいちゃんに渡せば税率が変わる! ちょっと交渉してくる!」

 香織(カオリ)は、的中した配当金の「手残り」を最大化させるべく、脱税という名の『禁断のショートカット』を閃いた。

 彼女は、貴賓室の外で所在なげにしていた見ず知らずの老人に目をつけ、贈与や名義貸しという『非合理な裏口』をこじ開けようと走り出した。

「ズルするんじゃない! あとトラブルになるからダメだ。バカモノ!」

 弾丸のように飛び出そうとした香織(カオリ)の後ろ襟を、勇希(ユウキ)が鋼のような握力で掴み、その場に制止させた。

 代々政治家を輩出する白井家の娘として、公序良俗に反する『論理の汚染』を許すわけにはいかない。

「あだだだっ! 白井(シライ)先輩、首が、首が締まるぅ!」

「黙りなさい。国家の徴税システムをハックしようなんて、万桜(マオ)の影響を受けすぎよ」

 勇希(ユウキ)は、すかさず空いた左手で『アイアンクロー』を発動させ、香織(カオリ)の頭部に物理的な制裁を加えた。

 漆黒の瞳には、不正を断固として拒絶する『正義の論理』が宿っている。

「ふぁ、ふぁい……」

 経理の天才も、勇希(ユウキ)の放つ圧倒的な威圧感の前には、無条件降伏するしかなかった。

 脳を物理的に締め上げられた香織(カオリ)は、焦点の定まらない目で力なく返事をした。

「まったく……。杉野(スギノ)、おまえのその『勝ち』に対する執着心は認めるが、脱税は『システムの整合性』を壊す最低のバグだ」

 万桜(マオ)は、アボカドフライを完食し、冷静にその光景を査定していた。

「社会を最適化するなら、正面から『資本の再投資』という論理で戦え。舞桜が考えてる『馬車馬システム』なら、全額経費で落とせる可能性が高いぜ」

「……結局、また仕事(ビジネス)に丸投げするのね、万桜(マオ)

 舞桜(マオ)は、ようやくアイアンクローから解放された香織(カオリ)を横目に、再びタブレットの決算書へと意識を戻した。


「ところで黒木(クロキ)くん。君が開発したトリプルプレスシステムなんやけど、あれハルハゲにも効くやろうか?」

 赤い頭取、土御門(ツチミカド)晴景(ハルカゲ)の、悲痛な祈りにも似た問い掛けが貴賓室に響いた。

 彼は自らの頭頂部という『不毛な砂漠』を、万桜がもたらした『生体再起動』の論理で潤せるのではないかと、微かな希望を抱いていたのである。

「ハルハゲ頭取。無理ッス! 毛根の死滅と体内水分量の還流に、直接的な因果関係が見いだせないッス!」

 万桜(マオ)は、一切のデリカシーという弾幕を無視し、冷徹な解析結果でその希望をバッサリと切り捨てた。

「TPSはあくまで『巡りの最適化』であって、存在しないリソースをゼロから生成する『錬金術』じゃねえんだよ。毛母細胞が完全に死滅に変わってりゃ、俺の論理でも再起動は不可能だぜ」

「……そうか。論理の壁は、これほどまでに高く、険しいものだったか」

 晴景(ハルカゲ)は、秋の西日が反射する自身の頭頂部を寂しげに撫で、深く項垂れた。

「まあ、そう落ち込みなや。あれは凄いなー。ウチの鞠亜(マリア)が、本気で二十代みたいになってんねん」

 茅野(チノ)淳二(ジュンジ)社長が、慰めるように晴景(ハルカゲ)の肩を叩きつつ、自慢げにスマホの写真を見せた。

 画面に映し出されていたのは、舞桜(マオ)の義母である鞠亜(マリア)の、信じがたい変貌ぶりであった。

 TPSによる『細胞の洗濯』と、水嚢風呂での重力リセットを経た鞠亜(マリア)は、かつての美貌を『再定義』していた。

 完全に3D最適化された加圧マスクによって、伸び切っていた真皮層の形状記憶が完璧に書き換えられている。

 頬のラインは重力を無視して鋭く引き締まり、アボカド由来のカリウム・ブーストによって、眼窩周りの微細な浮腫みさえもが駆逐されていた。

 写真の中の鞠亜(マリア)は、瞳にクリスタルのような輝きを宿し、二十代の瑞々しい「全盛期の出力」を全身から発散させていた。

「俺ら子供世代は、脳がバグるけどな」

 万桜(マオ)は、写真の中の「若すぎる義母」と、横で複雑な表情を浮かべる舞桜(マオ)を交互に見て、苦笑いを浮かべた。

「拓矢の母ちゃんもそうだが、物理的な現実が記憶データと乖離しすぎてるんだよ。システム管理者としては、家族のビジュアルがアップデートされすぎるのは、処理落ちの原因にしかならねえぜ」

「……あたしも、お母さんに並ばれないように、もっと自分の『巡り』を最適化しなきゃいけないわね」

 舞桜(マオ)は、義母のあまりの美しさに、CEOとしての焦燥にも似た「乙女のノイズ」を微かに漏らしたのであった。


「毛根は戻らねえが、舞桜の兄ちゃんも、ハルハゲ頭取もやった方がいいぜ? こいつは美容じゃねえ。予防医学だからさ」

 万桜(マオ)は、最後のアボカドフライを飲み込むと、非情な真実を突きつけつつも『生体メンテナンス』の重要性を説いた。

 血管の柔軟性を維持し、脳や臓器への血流をブーストするTPSは、彼にとって生命維持システムの根幹を成す「必須のパッチ」であった。

「「やってるで?」」

 茅野(チノ)淳二(ジュンジ)社長と土御門(ツチミカド)晴景(ハルカゲ)頭取は、示し合わせたかのように声を揃えた。

 彼らは既に、身内や取引先を通じてTPSの圧倒的な「論理的効能」を体験済みであった。

 その顔面には、長年の激務で蓄積されたはずの『疲労ノイズ』が影を潜め、皮膚の奥底からは健康的な活力が溢れ出している。

「ああ、老け顔なんか」

 万桜(マオ)は、二人の生体反応を数値的に査定し、納得したように頷いた。

 だが、その言葉には、相手が親会社やメインバンクのトップであるという『社会的な敬意』という名のノイズが、一ミリも含まれていなかった。

「「やかましいッ! お父ちゃんが若すぎると不安になるやろ?」」

 淳二と晴景は、再び異口同音に吠えた。

 若返りすぎて、娘たちや孫たちから『知らない不審な美青年』として認識されることを恐れる、切実な親心の吐露であった。

 彼らの咆哮は、高級な中山競馬場の貴賓室に、奇妙な『情愛のノイズ』を響かせた。

「……あたしたちは、兄さんや晴景(ハルハゲ)おじさまがいつまでも元気でいてくれるなら、多少のビジュアルのアップデートは許容範囲よ。ねえ、勇希」

 舞桜(マオ)は、不機嫌そうな兄を見やり、苦笑を浮かべて勇希(ユウキ)に同意を求めた。

「ええ。白井家でも、父がTPSの虜になっていて、ちょっと困っているくらいよ」

 勇希(ユウキ)は、漆黒の瞳を和らげ、政治家である父親の『全盛期への回帰』を思い出して、そっと溜息をついた。


「おお我がアルテイシア舞桜(マオ)? 今、晴景(ハルハゲ)おじさまって聞こえたで? 晴景(ハルカゲ)おじさまやからな」

 土御門(ツチミカド)晴景(ハルカゲ)は、自らの頭頂部の尊厳を守るべく、舞桜(マオ)の発言に含まれた致命的な一文字のノイズを、チクリと指摘した。

 しかし、舞桜(マオ)は一切の動揺を見せず、優雅に小首を傾げてボケ倒す。

「え……なにセクハラ?」

 彼女は、大手ゼネコン社長令嬢としての気品を纏ったまま、晴景(ハレカゲ)の指摘を『不適切なノイズ』として一方的に定義し直した。

「「どこがやねん?」」

 茅野(チノ)淳二(ジュンジ)社長と晴景(ハルカゲ)は、椅子から転げ落ちそうになりながら、息の合ったツッコミを貴賓室に響かせた。

 赤いオッサンたちの咆哮は、中山競馬場の喧騒さえも一瞬、かき消すほどの熱量を帯びている。

舞桜(マオ)、おまえのその『論理のすり替え』、俺のデリカシー無視よりよっぽどタチが悪いぜ」

 万桜(マオ)は、騒がしい大人たちを余所に、タブレットで次レースの出走表という名の『情報の束』を繰り始めた。

「セクハラ云々を議論するより、今のハゲ……いや、晴景(ハルハゲ)頭取の脈拍の乱れをTPSで鎮静化させる方が先決じゃねえか?」

「そうね、万桜(マオ)。感情のノイズで血管が収縮するのは、巡りの最適化にとって最大の敵だわ」

 勇希(ユウキ)は、香織(カオリ)への制裁を解きつつ、医学的な視線で晴景(ハルカゲ)の頭部に浮かぶ青筋を査定した。


「待てよ。これ……テーピングで……」

 万桜(マオ)は、秋の西日を反射させて白光する晴景(ハルカゲ)の頭頂部を、獲物を狙う猛禽類のような鋭い眼差しで凝視した。

 彼の脳内では、皮膚の張力分布と重力ベクトルが複雑な数式となって、超高速で演算されていた。

「待ちなさい万桜(マオ)くん。もう社長のオナカいっぱいです!」

 舞桜(マオ)は、これ以上の「魔王の暴走」を阻止すべく、悲鳴に近い声を上げた。

 これ以上、身内の恥部を論理的に解体されるのは、CEOとしての尊厳が持たないと判断したのだ。

「「え……なにセクハラ?」」

 しかし、当の赤いオッサンたちは、先ほどの舞桜(マオ)のボケをなぞるように、異口同音に首を傾げてボケ倒した。

 晴景(ハルカゲ)の瞳には、僅かな期待という名の『絶望的な希望』が宿っている。

「加圧スーツの加圧はいわば包帯だ。できるぜ赤い頭取! 適切な圧力を加えれば、毛根は再生される! ハゲは皮膚が重力に引っ張るから起きてたんだよ!」

 万桜(マオ)は、競馬場のテラスでとんでもない超論理を展開した。

万桜(マオ)、それは医学的に見て……いえ、物理学的な視点なら一理あるかもしれないわね」

 勇希(ユウキ)は、こめかみを押さえながらも、万桜(マオ)の仮説に論理的な糸口を見出そうとした。

「いいか。頭皮が重力に負けて下垂することで、毛根のマイクロポケットが物理的に圧迫され、血流という名の『情報のデリバリー』が遮断されていたんだ。TPSの加圧マスクで頭皮を本来の位置へと押し戻し、重力から解放してやれば、眠っていた毛根は再び息を吹き返す!」

 万桜(マオ)は、身振り手振りを交えて、皮膚の張力が毛根を絞め殺していたという「物理的なバグ」を指摘した。

「つまり、わしの頭頂部は『不毛』だったのではなく、単に『圧迫面会』の状態にあったということですか、黒木(クロキ)くん!」

 晴景(ハルカゲ)は、椅子から身を乗り出し、震える声で確認した。

「ああ。毛根という名のデバイスを、重力という名の『物理的なノイズ』が押し潰していただけだ。TPSでデフラグすれば、また草原を取り戻せるぜ、ハルハゲ頭取」

 万桜(マオ)は、無慈悲な呼称を混ぜつつも、救済の論理を提示した。

「……万桜(マオ)くん、その『育毛プログラム』、もし成功したら世界中の富がセイタンシステムズに集まって、納税額が国家予算レベルになるわよ?」

 舞桜(マオ)は、頭を抱えながらも、その巨大すぎる市場価値を瞬時に計算し、眩暈を起こしていた。


『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をお読みの地球の皆様へ!

いつも拙作『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をお読みいただき、本当にありがとうございます!

物語の中で、「魔王」こと黒木万桜は、時には「水嚢の川」で災害に立ち向かい、時には中古スマホを活用したクローズドネットワークなんて突拍子もないアイデアまで生み出しています。

実は、この物語には、万桜のそんな「もしかしたら、これって本当に役立つかも?」と思えるような、たくさんのアイデアが散りばめられているんです。読者の皆さんも、「これ、面白い!」「こんな風に使えるんじゃないか?」なんて、閃いたことはありませんか?

地球のみんなぁ~! オラに「★」をわけてくれーっ!

もし、この物語を読んで、少しでも「面白い!」「次の展開が楽しみ!」「万桜のアイデア、イケるかも!」と感じていただけたなら、どうかページ下部の【★★★★★】ボタンをポチッ!と押して、星評価を分けていただけないでしょうか!

皆さんのその「★」一つ一つが、作者の大きな励みになり、万桜の次の「魔王案件」へと繋がるエネルギーになります!

引き続き、『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をどうぞよろしくお願いいたします!

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