黒き魔王のデトックス
前書き
アボカドフライによるカリウム・ブーストと、完全3D加圧スーツによる静脈還流の強制サポート。
さらに水嚢風呂による重力からの解放――。
黒木万桜たちが構築した「トリプル・プレス・システム(TPS)」は、単なる疲労回復の枠を超え、老化という名の「生体ノイズ」を物理的に絞り出す究極のアンチエイジング・デバイスへと進化していた。
その効果は劇的だった。
二十代の輝きを取り戻し、瑞々しい美貌を再定義した斧乃木清子。
全盛期の身体能力を復元され、孫の彼女にデートを迫るほど活力を爆発させる善次郎。
論理が導き出した「生体メンテナンス」の結末は、もはや美容の域を逸脱し、医療のあり方を「切除」から「調和」へとアップデートしようとしていた。
しかし、その無自覚な救世主は、さらなる暴論を口にする。
「MRIデータの撮り直しで、さらに若返るんじゃねえか?」
「産後の母親を最短で『最強』に戻せるぜ」
全盛期の再起動がもたらすのは、少子高齢化社会の終焉か、それとも倫理の崩壊か。
伝説の神医・華佗の医術を最新技術で再現する「華佗システム」の胎動と共に、信源郷町に「不老の魔王」たちが跋扈する、奇妙で賑やかな日常が幕を開ける。
2019年8月下旬、甲斐の国市信源郷町、黒木家本家にて。
「珍しいじゃねえか? 今朝は拓矢が朝飯作ってんのかい?」
善次郎は、キッチンで朝飯の仕度をする斧乃木拓矢に声をかける。
「おはようございます。善さん。万桜のヤツが男も飯の仕度できねえとダメだって言うからね」
身長185センチ。
鍛え抜かれた鋼のような肉体を持つ幹部自衛官候補生の拓矢は、不釣り合いなほど可愛らしいエプロンを身に纏い、繊細な手つきで冷や麦を茹でていた。
キッチンという戦場において、拓矢は寸分の狂いもなくタイマーを監視し、最適な硬さで麺をザルに上げる。
ボウルには、前日から仕込んでおいた特製トマトジュレが冷えていた。
トマトの種まわりにある濃厚な旨味「胎座」を核とし、旨味調味料とクレイジーソルトで味の解像度を極限まで高めたそのジュレは、寒天によって宝石のような輝きを放っている。
拓矢は茹でたての冷や麦をジュレに投入し、麺一本一本を隙間なくコーティングしていく。
「まあ、男飯だから、時短手間抜きの極致ですけどね」
拓矢は苦笑するが、
「その割に、テーブル凄いことになってるけどな?」
善次郎の視線の先には、朝食という概念を逸脱した「生体最適化」のフルコースが並んでいた。
メインの「トマトジュレ冷や麦」の横には、黄金色の衣で覆われた「アボカドフライ」が鎮座し、細胞内のカリウム・ブーストを虎視眈々と狙っている。
さらに、多層構造農業で収穫された新鮮な野菜が山盛りのサラダと、素材の旨味を凝縮した熱々のスープが、圧倒的な情報量で食卓を支配していた。
それはまさに、万桜の論理と拓矢の規律が融合した、最強のモーニング・レギュレーションであった。
「おはようございます、善さん」
そう言ってキッチンに入ってきたのは、身支度を完璧に整えている、大手ゼネコン社長令嬢の茅野舞桜だ。
「おはようさん。舞桜ちゃん」
善次郎は舞桜に投げ返す。
孫の万桜と舞桜が付き合っていることは知っている。
そして、
「おはよう、善さん」
おなじく身支度を完璧に整えた市議会議員令嬢の白井勇希が、万桜と付き合っていると言うことも知っている。
「おはようさん、勇希」
善次郎の心中は複雑だ。
ドロドロな三角関係じゃなくて、孫の万桜とふたりの天才美女令嬢たちは三位一体であるからだ。
「ま、いいか」
善次郎は考えることを放棄した。
幼い頃から知る勇希はもとより、舞桜のことも孫の嫁さん候補として気に入っているからだ。
「じいちゃん、桜が熱出したー」
そう言ってキッチンに入ってきたのは、孫の万桜だ。
「あいつは、この時期になると熱出すからな」
黒木家の風物詩に善次郎は苦笑する。
孫娘の桜は夏の終わりに風邪ひいて寝込むのが年中行事だ。
「わかったよ。じいちゃん看ておくから、おまえらは大学行って勉強してきな」
善次郎は請け負う。
夏季休暇中だが、万桜たちの研究に休みはない。
「桜のバイタル、あたしが後で詳細にチェックしておく。おそらく季節性の免疫出力低下ね」
勇希はそう言いながら、拓矢が差し出した「トマトジュレ冷や麦」を優雅に受け取った。
冷や麦の細い麺に、寒天で閉じ込められたトマトの胎座の旨味が完璧に絡みついている。
「ん……このジュレ、リコピンの凝縮度が計算通りだわ。味の素とクレイジーソルトによる旨味の底上げも完璧ね」
勇希は、医学的な分析を交えながらも、その箸は止まらない。
「サブリナ、あなたも早く座りなさい。アボカドフライのカリウム・ブーストを逃すと、今日のフィールドワークの出力が落ちるわよ」
勇希に促され、莉那も「ん~~!」と歓声を上げながら椅子に飛びついた。
「なにこれ! 朝からアボカドフライとか最高じゃん! 拓矢、エプロン姿も超似合ってるよぉ!」
莉那は、大きな瞳を輝かせて黄金色のフライを頬張る。
「外はカリカリで、中はトロトロ……。これ、本当に浮腫みが消えて体が軽くなる感じがする!」
拓矢は、巨体を揺らして「お、おう」と照れくさそうに頭を掻いた。
「万桜くん、このアボカド、第一区画の特注品でしょう? 通常の三倍の排出効率を叩き出す計算ね」
舞桜は冷徹なビジネスの視線を皿に向けつつも、その表情は満足げだ。
「この朝食の論理的価値は、既存の高級ホテルのモーニングを遥かに凌駕しているわ」
万桜は、全員が揃った賑やかな食卓を見渡し、不敵に笑った。
「当たり前だ。これは細胞内の浸透圧を書き換える『巡りの最適化プログラム』だからな。じいちゃん、桜には後で、カリウム濃度を調整したスープを飲ませてやってくれ。生体ノイズを強制排除して、明日の朝にはアップデート完了させてやるからよ」
賑やかな話し声と、食器の触れ合う音、そしてアボカドを齧る軽快な音が、黒木家の朝を彩っていく。
善次郎は、その光景を眺めながら、残りの冷や麦を豪快に啜った。
「よし、おまえたちの『論理』とやらは、このじいちゃんがしっかり引き受けた。安心して暴れてきな」
孫たちの若さと熱気、そして「黄金の巡り」を体現した朝食が、黒木家に新しい一日の始まりを告げていた。
「てか、善さん……若返ってないか?」
勇希は善次郎の見た目の変化を指摘する。
善次郎は七十代前半だ。
だが、今、目の前にいる善次郎は、勇希たちが子供の頃に見ていた善次郎と同じである。
アボカドフライによる化学的還流と、水嚢風呂による重力リセット。
さらに精密な加圧を組み合わせた「トリプル・プレス・システム(TPS)」が、善次郎の生体コンディションを全盛期の最適値へと引き戻していた。
伸び切っていた真皮層の形状記憶が再設定され、頬のたるみや眼窩の浮腫みが消失している。
眼球周辺の滞留水分が排除されたことで、善次郎の瞳には霧が晴れたような輝きが宿り、肌の艶は六十代を通り越して五十代のそれへと回帰しつつあった。
「そうか? 善さん若く見えるか、勇希? まいったなあ、デートするか、勇希?」
はしゃいで勇希をからかう善次郎に、
「おい祖父、曾孫抱かせねえぞ?」
万桜は牽制した。
「ひ、ひ、ひまごぉぉお!?」
「曾孫」という単語の破壊力に、善次郎は文字通り椅子から転げ落ちそうになった。
若返ったことで加速していた脳内の情報処理プログラムが、曾孫という未知の幸福データに上書きされ、オーバーヒートを起こしている。
善次郎は顔を真っ赤にし、手にした箸をガタガタと震わせながら、宙を掴むような動作を繰り返した。
「落ち着け、じいちゃん。先々の話だ」
万桜は、アボカドフライを口に放り込みながら冷静に宥める。
「び、びっくりさせんじゃねえ! このヤロー、バカヤロー!」
善次郎はそう言って、照れ隠しに勢いよくトマト冷や麦を啜った。
喉越しと共に、トマトジュレの凝縮された旨味が善次郎の体内に流れ込む。
寒天が冷や麦に密着し、ツルリとした喉越しと共にトマトの濃い味が口いっぱいに広がった。
TPSでアップデートされた善次郎の胃腸は、その栄養素を瞬時に吸収し、全身の細胞へとデリバリーしていく。
血管の柔軟性が戻り、血流がブーストされたその体にとって、この朝食はまさに極上の燃料であった。
★ ◆ ★ ◆ ★
甲斐の国大学旧休憩室にて。
「黒幕、なにやら近所のジジババが若返って見えるんだが、おまえなんかやった?」
番長は、訝しげな目を万桜に向けて尋ねた。
万桜は、アボカドフライの残りを口に運びながら、
「あれじゃねえか? ほら、この前、多層構造農業のマカロニ・テンダー・アンドロイドのパイロットに雇っただろ。社会に繋がれて生き甲斐を感じてんじゃん?」
万桜は、自分自身の仕掛けたケアがもたらす「物理的な逆行」に、まだ無頓着な様子であった。
しかし、その横でタブレット端末とバイタルデータを照合していた二人の天才美女は、鋭い視線を万桜に突きつける。
「万桜、あなたの無自覚は、もはや医学的な罪悪ね」
凛とした軍服を彷彿とさせる気品を纏った勇希が、オスカルのような鋭くも美しい瞳で万桜を射抜いた。
「社会復帰という精神的報酬だけで、毛細血管の抵抗値が三〇%も改善するわけがないわ。これは明らかに、作業後に行わせているTPSの効果だ」
勇希は、流麗な動作で画面をスワイプし、高齢者たちの血流データを提示した。
「アボカドフライで浸透圧を初期化し、加圧スーツで静脈還流を強制サポートした後に、水嚢風呂で重力をリセットする。この三段階のデフラグが、彼らの生体組織から老化という名の『滞留ノイズ』を物理的に絞り出しているの」
その言葉を引き継ぐように、お嬢様然とした優雅な佇まいの舞桜が、伊達眼鏡を指で押し上げた。
「勇希の言う通りです、万桜くん。これはもはや、単なる疲労回復の域を逸脱した『生体インフラの再定義』です」
舞桜は、大手ゼネコン社長令嬢らしい冷徹な資産価値の計算を口にする。
「個人の生体レシピに基づいた完全三D仕様の加圧マスクとスーツ。これによって血管配置に一〇〇%適合した加圧が行われ、還流効率が極大化されていますわ。八〇代の被験者がわずか一五回ほどのケアで、六〇代後半の引き締まった輪郭と視力を取り戻している……。この資産価値を、あなたは理解していらっしゃいますか?」
二人の美女令嬢に詰め寄られた万桜は、アボカドの脂を拭いながら、
「……理屈はどうあれ、ジジババたちが元気なら、アンドロイドの稼働率も上がるだろ。効率が良いのはいいことじゃんか」
と、あえて「魔王」としての合理性に逃げ込んだ。
だが、勇希と舞桜は互いに視線を交わし、この「無自覚な救世主」が作り上げたシステムの物凄さを、改めてその胸に刻んでいた。
「ようは、あれだ。トリプルプレスシステムには、エステみたいな効果があるってことだな?」
万桜が簡潔にTPSを説明した時、拓矢の母親であり、多層構造農業統括責任者である斧乃木清子が入ってくる。
その姿に、休憩室の空気は一瞬で凍りついた。
四十代中盤であったはずの清子は、今や二十代後半にしか見えない瑞々しい輝きを放っている。
TPSによる「細胞の洗濯」が完了し、顔面加圧マスクと水嚢の均等圧によって、伸び切っていた真皮層の形状記憶が完璧に再設定されたのだ。
農作業で刻まれたはずの目尻の小じわは消失し、眼圧の最適化によって瞳はクリスタルのように澄み渡っている。
その美しさは、まるで時間が逆行したかのような生体インフラのアップデートそのものであった。
「の、脳がバグる? え、オフクロ、なに若返ってんのよ?」
拓矢が、あまりの劇的な変化に腰を浮かせ、取り乱した声を上げる。
拓矢にとっての母親というデータが、目の前の「若く凛とした女性」という物理的現実に上書きされ、処理落ちを起こしている。
「斧乃木のオフクロさん? 姉ちゃんじゃねえの?」
初対面の番長は、信じられないものを見る目で清子を見つめた。
清子は、その当惑を華やかな笑顔で受け流し、懐から飴を取り出す。
「飴ちゃん舐めるかい?」
清子は、若返ったことによる高揚感からか、茶目っ気たっぷりに番長に飴を差し出した。
「ありがとうございます」
調理の魔王として恐れられる番長も、その圧倒的な「美の論理」に気圧され、恐縮して飴をいただく。
「うむ。異常事態のようだ」
万桜は、ようやく事態の異常性を理解した。
単なるリカバリーのつもりで提供したTPSが、完全3D仕様の装備と組み合わさったことで、理論値の限界点である「全盛期の再定義」を現実に引き起こしてしまったのだ。
「万桜、これがあなたの望んだ『ノイズレスな世界』の帰結よ」
勇希は、清子のバイタルデータを再確認しながら、感嘆の息を漏らした。
「万桜ちゃん、多層構造農業って、CO2濃度が高密度だったよね? ジジババが活動的になってるから、ちょっと安全対策が必要だと思います」
清子の指摘に、万桜は頷く。
「対策済みだよ、拓矢の母ちゃん。CO2濃度が高い階には施錠されていて入れない。ロックが解かれれば自動的に換気する仕組みだ。もちろん侵入もだ」
想定内の事象で対策済みだ。
「あとね、玲子と芳恵があたしの美貌に嫉妬しちゃってさあ」
清子はカフェへと通ずる廊下に目を向ける。
そこには勇希の母親である白井玲子の姿と、莉那の母親である福元芳恵の姿があった。
ふたりは二十代後半の輝きを取り戻した清子を凝視し、その「巡りの最適化」がもたらした瑞々しい肌と引き締まった輪郭に、隠しきれない羨望を募らせていた。
「舞桜さん」
乾いた笑顔で、万桜がCEOである舞桜へと決済を丸投げする。
「善きに計らえ」
舞桜は苦笑し、了承した。
その瞬間、廊下の空気は歓喜の熱狂へとアップデートされた。
「やったわ! これであたしもあの『滞留ノイズ』を絞り出せるのね!」
「待ってなさいよ、あたしの細胞! 今すぐ初期化して全盛期に回帰させてあげるから!」
玲子たちは手を取り合い、TPSによる「生体メンテナンス」という名の聖域へ向かって、少女のような足取りで走り去っていった。
「まあ寿命は遺伝子に刻まれているから不老不死ってわけじゃねえが、予防医学の極みだよな」
万桜がボンヤリと呟くと、
「そうだな。身体が全盛期に最適化されれば、健康に活動できる期間は延びる」
勇希が、予防医学としてのTPSの合理性を肯定する。
「俺、なんか気づいちゃったんだけどよ」
万桜が気づきを口にすると、その場の全員が諦観の滲む視線を万桜に向ける。
「これよ、最適化された状態でMRIを撮り直せば、更に若返るんじゃねえか? 加圧スーツも加圧マスクも、完全3Dレシピのベクターデータが更に精密に最適化されるもん」
諦観の滲む吐息が旧休憩室に蔓延する。
MRIスキャンで得られた精密な人体モデルを理想形へと物理的にガイドし続けることで、老化というエラーを修正し続けるという暴論だ。
「下手すりゃ、生殖機能が復活するんじゃねえかな?」
万桜がさらなる推論を重ねた瞬間、旧休憩室の時間は停止した。
全員が深呼吸し、肺胞の酸素を限界まで入れ替えてから、息を合わせて叫んだ。
「「「「少子高齢化社会問題をアッサリ解決させてんじゃない!」」」」
論理の魔王が、身体機能を全盛期のピーク状態まで引き戻すことで引き起こす、あまりに巨大すぎる「社会の再定義」。
その批難の嵐の中でも、万桜は最後のアボカドフライを咀嚼しながら、新たな論理の構築を止めることはなかった。
「医療の方向性が切除から調和にシフトするよなぁ」
万桜は、手元の端末に映る清子のバイタルデータを見つめながら、独り言のように呟いた。
「伝説の神医、華佗の医術ってのは、悪いところを切り取るんじゃなくて、内臓に直に触れて循環を促すもんだったんじゃねえかな」
万桜の論理では、VR空間で自分の内臓に触れる錯覚を与えることは、脳の可塑性を利用して自律神経や体液の循環を強制的に活性化させる「強力な気功」に他ならない。
「物理的なメスを使わずに、脳を騙して内側から整える。それがTPSと華佗システムの目指す『調和』の形だ」
「そうだな。欠損は循環だけじゃ解決できない」
勇希が頷き、万桜の考えを肯定する。
「もしもし、お母さん? ちょっと嬉しい魔王案件があるのだけれど」
舞桜は現実逃避するように、母のように慕う義姉の鞠亜へとアンチエイジングを持ち掛ける。
「産後のケアにも有効かもな」
番長がふと提示した可能性に、万桜と勇希の視線が重なった。
「産後か……確かに、出産でダメージを受けた組織の再設定には、水嚢風呂の重力リセットと加圧による血流ブーストは理想的ね」
勇希は、医学的なシミュレーションを脳内で高速回転させる。
「骨盤周りの歪みや、内臓の下垂という『物理的なノイズ』を、TPSなら非侵襲的に最短でフラットに戻せるわ。これは単なる美容を超えた、母体のインフラ復旧プログラムになる」
「へっ。全盛期の状態をMRIで記録しておけば、産後一ヶ月で元のコンディションまで『書き換え』ができるってわけだ」
万桜は不敵に笑い、新たな論理の扉を開いた。
「少子化対策だけじゃねえ。産後の母親を最短で『最強』に戻す。これもまた、巡りの最適化がもたらす必然の帰結だな」
その時、論理の魔王に劇的な閃きが駆け抜けた。
「おい、これって不妊治療に革命起こすんじゃねえか?」
万桜の言葉に、勇希は手元のタブレットを操作し、瞬時にTPSの「整体」としての側面をシミュレートした。
「確かに、医学的な論理に叶っているわ。TPSによる物理的なガイドは、内臓の位置を理想的な全盛期に再設定する。下垂していた内臓が本来の場所に戻れば、圧迫されていた子宮や卵巣の血流は劇的に改善されるはずよ」
勇希は、オスカルのような凛とした瞳を輝かせ、理論を加速させる。
「骨盤周りの歪みという『構造的ノイズ』をTPSで矯正し、血管の柔軟性をアップデートすれば、着床しやすい体内環境を非侵襲的に構築できる。これは不妊の大きな要因である『冷え』と『循環不全』を物理的に解決する、究極の人体整体プログラムになるわ」
その横で、舞桜は深い溜息をつき、静かに言葉を添えた。
「不妊治療というのは、女性にとって肉体的にも精神的にも、そして経済的にも耐え難い苦痛を伴うものよ。ホルモン剤の投与による副作用、終わりの見えない通院、そして繰り返される失望……。それが『巡りの最適化』という一見シンプルな論理で解消されるのなら、それは福音を通り越して救済よね」
舞桜の眼差しには、大手ゼネコンの令嬢として見てきた、多くの女性が抱える深刻な社会課題への憂いがあった。
「ねえ万桜、社会問題解決させるのが趣味なんてことはない?」
莉那のツッコミに、万桜は反射的に顔を顰めた。
「男の名前で呼ぶなッ! そんなわけあるか。つかむしろ、女の名前で呼んでくれ。なんで本名万桜なんだよ。仕事しろよ役所……」
万桜は、虚空を見つめてぼやく。
自分という存在の根幹に刻まれた「魔王」という名のバグ。
勇希が申し訳なさげに、
「あぁー、その、父さんがなにやら、すまない」
父親である市議会議員、白井泰造の代わりに謝罪する。
万桜の名前をシステムに通したのは、当時、戸籍課にいた泰造の仕業だ。
通常、魔王や悪魔を想起する名は、公序良俗の観点からシステムが弾く。
だが泰造は、一旦万桜で受理させ、その後、管理者権限で読みを万桜に修正するという、極めて悪質なセキュリティホールを突いたのだ。もちろん泰造の意思ではなくて、万桜の父親である大雅からのゴリ押しオーダーだ。
「ま、いいけどよ。ウチの父ちゃんが言い出したことだし」
万桜は乾いた笑みで勇希の謝罪を受け入れた。
『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をお読みの地球の皆様へ!
いつも拙作『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をお読みいただき、本当にありがとうございます!
物語の中で、「魔王」こと黒木万桜は、時には「水嚢の川」で災害に立ち向かい、時には中古スマホを活用したクローズドネットワークなんて突拍子もないアイデアまで生み出しています。
実は、この物語には、万桜のそんな「もしかしたら、これって本当に役立つかも?」と思えるような、たくさんのアイデアが散りばめられているんです。読者の皆さんも、「これ、面白い!」「こんな風に使えるんじゃないか?」なんて、閃いたことはありませんか?
地球のみんなぁ~! オラに「★」をわけてくれーっ!
もし、この物語を読んで、少しでも「面白い!」「次の展開が楽しみ!」「万桜のアイデア、イケるかも!」と感じていただけたなら、どうかページ下部の【★★★★★】ボタンをポチッ!と押して、星評価を分けていただけないでしょうか!
皆さんのその「★」一つ一つが、作者の大きな励みになり、万桜の次の「魔王案件」へと繋がるエネルギーになります!
引き続き、『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をどうぞよろしくお願いいたします!




