黒き魔王と経済陰陽師
前書き
2019年8月、甲斐の国市・御井神神社近くの溜め池拡張工事現場。大手ゼネコン社長の茅野淳二と、赤いメガバンク頭取の土御門晴景は、妹であり娘同然の茅野舞桜が主導する、黒木万桜の「論理の暴力」が生み出した、常識外れの建設技術を目の当たりにする。
溜め池の工事は、「蒟蒻繊維土ブロック」や「風洞ファンネル風力発電機」を駆使した、無駄な労力を極限まで排除した「陽の科学」そのものであった。
舞桜は、ベンチャーの暴走と高転びを防ぐため、「隠の経済」のプロである晴景に手綱を握ってもらおうとするが、その場は、万桜を巡る舞桜と白井勇希の情愛の暴走へと傾いていく。
晴景は、「情愛の連帯」という非合理なノイズこそが、論理の暴走の唯一の防波堤であると悟り、経理の天才である杉野香織に、「経済陰陽師」として隠と陽の調和を担うよう宣言するのであった。
2019年8月中旬。御井神神社の麓の溜め池のほとり。夏の強烈な日差しは、この地を訪れた大手ゼネコン茅野建設社長の茅野淳二と、赤いメガバンクの赤い頭取、土御門晴景のふたりに、額の汗を拭う暇さえ与えなかった。
しかし、彼らの身体的な不快よりも、目の前の光景がもたらす『常識の崩壊』の方が、はるかに大きなショックであった。
溜め池の拡張工事が行われているその現場は、一般的な土木工事とはかけ離れていた。
地中から、キューブ状の桝を持った掘削ユニットが、蒟蒻繊維土ブロック生成器の原理によって、土を高圧水で練り込み、瞬時に圧縮・固化させた土ブロックを、まるでプリンターが排出するかのように次々と吐き出している。
この土ブロックは、驚くべき強度と防水性を持ち、地中から現れた直後にはすでに、周囲の仮設道路の舗装材へと組み込まれていた。
その現場の隅には、電話ボックスほどの本体と、その底面の三倍はある巨大な円錐型の風洞ファンネル風力発電機が設置され、低く唸るような作動音を響かせている。ファンネルは周囲の空気を猛烈な勢いで吸い込み、風速を圧縮・加速させることで、工事全体に必要な電力を自律的に賄っていた。
そして、最も目を疑うのは、そのブロックの運搬システムだ。
何十個と積み上げられた重さ数百キロの土ブロックは、車輪を地面から僅かに浮かせた摩擦抵抗削減台車に乗せられ、超軽量な空気の層の上を滑るようにして、現場を縦横無尽に疾走していた。
「うん。おかしい。おかしいでこれ? なんで地下構造物が音速で、掘り進むねん?」
淳二は、悲鳴のような声をあげた。
彼の目には、掘削ユニットが土を吐き出すペースが、人間の常識的な工事速度をはるかに凌駕しているように映っていた。まるで、地底のモグラが、途方もないスピードでトンネルを掘り進めているようだ。
その隣で、融資の査定に呼ばれていた土御門晴景も、顔面蒼白であった。
「な、なんやこの光景? おい、どないなってんねん淳二?」
晴景の非効率と無駄を嫌う隠の経営哲学は、この極限まで最適化され、無駄な「労力のノイズ」が徹底的に排除された現場を目の当たりにし、一種の恐怖さえ感じていた。
信源郷町の男衆は、すでにこの常識外れの技術体系を日常のものとしていた。彼らは重機を操縦するというより、むしろ摩擦抵抗削減台車に積まれた土ブロックを、涼しい顔で次々と設置し、建設の論理そのものを高速化していた。
そんな男衆の中心で、涼しげな顔をしている妹の茅野舞桜は、ここ一年の甲斐の国市での生活で、この論理の暴力にすっかり耐性を得ていた。
「なにを言っているの兄さん。井戸も溜め池も、地下に我が儘ボディに設計して建てるものじゃない?」
舞桜の言葉は、まるで「空気がなければ息をすればいい」と言わんばかりの、非情な合理性を帯びていた。
「おお、我がアルテイシア舞桜。晴景おじさまに、この状況を説明しておくれ!」
晴景は、頭を抱えながらも、親子ほども歳の離れた従姉妹である舞桜へと説明を求めた。
舞桜を溺愛する総帥たちは、状況の非合理性を、娘に説明してもらうという情愛の合理性へとすり替えたのだ。
「なにが我がアルテイシアやねん晴景、舞桜は俺のアルテイシアや! 昔から言うてるやろ? わからんやっちゃなあ」
淳二は、妹を巡る情愛の縄張り争いだけは、どんな論理の暴走があっても譲らないのであった。
「兄さんたちは、論理の魔王の生み出した非合理な日常を、そろそろ受け入れるべきよ」
舞桜は、父親と呼んでも差し支えないふたりの男たちを、静かに見据えるのであった。
「だいたい、溜め池が擂り鉢型の昭和初期の遺物でなければいけないって、誰が決めたのよ? 水質は外からの影響で汚染されるし、そもそも枯れるじゃない。でも、これなら水質は自由自在に設計できるし、枯れない。なにより安全だわ。紫外線で消毒もできるし」
舞桜は、よどみない論理で、従来の土木技術が抱える「非合理のノイズ」を一刀両断にした。
この完璧に黒木万桜の論理が滲んだ畳み掛けに、淳二も晴景も、反論の余地を見つけられなかった。
「晴景おじさま。我がセイタンシステムズ・ホールディングスは、開業2カ月で純利益30億円を叩き出すアホの子企業よ。だから、おじさまのようなプロの銀行家が必要なの! 本来であれば融資も要らない。でもそれは…」
舞桜の言葉が途切れた、その瞬間。
経理の天才、杉野香織が、論理のバトンを受け継いだ。
「いわゆる高転び、ベンチャー企業が盛大に転んで経済圏を破壊する現象が起こり得ます。舞桜ちゃん社長、ウチが説明するね?」
ギャル然とした振る舞いが常の香織が、一転、極めて冷静な口調で話し始めた。
「東京本郷大学1回生。杉野香織と申します。土御門さん。私たちは若輩者ですので、転び方を知りません」
その落ち着きと、論理的な語り口は、「金の流れのノイズ」を完璧に制御する経理のプロの顔であった。
彼女は、ベンチャー企業の急成長がもたらす未曾有の危険性を、正確に指摘する。
「資金が潤沢であればあるほど、経営判断のブレーキが効かなくなります。そして、システムが暴走した結果、ひとつの企業のスキャンダルや失敗が、関連する経済圏全体に破壊的なノイズを広げる可能性があるのです」
香織が、普段のギャル口調を封印し、冷徹に語る姿に、淳二は目を丸くした。
「舞桜、ギャル普通に話せるやん? チョリース言ってへんやん?」
淳二の驚きは、才媛の多面性という予期せぬノイズに触れた、純粋な反応であった。
「兄さん。杉野さんは、最高学府を準備無しで入る才媛よ。万桜くんが認めるほどのね」
舞桜が、黒木万桜の名前を、何の衒いもなく呼んだ。
「万桜くん、ね…」
淳二は、妹の口から出た情愛の予兆を捉え、意味深に笑った。
彼は、論理の暴走よりも、妹の恋路の行く末の方が、よほど気になっていた。
「ああ、杉野さん。つまり私の役割は」
晴景は、自身の銀行家としての役割の核心を問うた。
「手綱を握っていただきたい」
香織の言葉は、簡潔にして、最も重要であった。
その瞬間に、彼女は堪えきれなくなった重圧を情愛の暴走の如く解放した。
「赤いお面も、北野学長も、白井先輩のパパさんも、ガンガンいこうぜで突き進み過ぎ! もうウチのキャパはオーバーです! カオリンのオナカいっぱいです。お願い赤い頭取!」
ギャルへと戻った香織は、ベンチャー企業の経理という重圧からくる疲労のノイズを、一気にぶちまけた。
その言葉は、無謀な成長速度を続ける天才集団の内部事情を、赤裸々に物語っていた。
淳二と晴景は、そのあまりにも巨大なプレッシャーに、深い吐息をひとつ。
「「誰がシャアやねんッ!」」
ふたりは、情愛とノリツッコミという、最も非合理な感情の絆で結ばれ、渾身のノリツッコミを炸裂させた。
論理の暴走が支配する世界で、彼らは、人間的なノイズこそが最良の防波堤であることを、無意識に証明していた。
「舞桜、いい人できたようやんか?」
晴景は、茅野舞桜に向くや投げ掛ける。舞桜と茅野淳二の父親である茅野二郎は、この春に亡くなった。二郎の甥である晴景も当然、通夜・葬儀に参列していたが、その時、黒木万桜の胸で大泣きしている舞桜を見掛けていた。
「まだ暫定よ…暫定彼氏…」
舞桜が目を逸らして、そう宣うと、
「暫定なんに、万桜くん呼びなんやな」
淳二がからかうように投げ掛ける。
「も、もうッ!! それ以上は怒るわよ?」
舞桜は顔を赤らめ目を逸らし続けるが、
「赤いお面、赤い頭取~舞桜ちゃん社長、温泉行ったよー。黒木先輩と一緒にー」
杉野香織が情報提供、オッサンふたりの目つきが変わる。
「「誰がシャアやねんッ! てか、ホンマかギャル?」」
ふたりの情愛の探求は、論理の暴走よりも、遥かに優先順位が高かった。
「な、なにを言うの!!」
舞桜は、完全に顔面を朱に染めた。
「おまえが怒るのは、論理の破綻に対してだけやろ?」
晴景は、情愛のノイズに対する従姉妹の耐性の低さに、思わず笑みを漏らした。
「温泉で、物理的な接触はあったんか?」
淳二は、妹の情愛の進捗を、直球の質問で追及した。
「あ、兄さん!! それは、プライベートな情報で、公開の論理に反します!」
舞桜は、公的な論理を持ち出して、必死に情愛の質問から逃れようとした。
「論理の魔王と、論理の女王が、非合理的な情愛のノイズに溺れているんか~」
晴景は、その光景を楽しんでいるようであった。
「おまえたち、本当に論理の天才なんやな?」
淳二は、妹の非合理な赤面を、いつまでも見つめていた。
★ ◆ ★ ◆ ★
「ちょ、ちょっと杉野さん?」
茅野舞桜が杉野香織を責めると、香織は諸手を挙げて降参し、発言の理由を指差した。舞桜が振り返ると、そこには福元莉那がカンペを掲げている。
【爆弾発言で、場をかき乱して!】
目にしたカンペに、
「き、貴様ッ! 貴様ッ! 貴様ーッ!」
舞桜は絶叫。莉那のそばにいた番長がカンペを掲げる。
【落ち着け茅野・ビダン。てか髪切った?】
舞桜の理性がプツリと切れた。
「切ってねえわ! それ今じゃねえわ! おまえら楽しんでんだろ絶対!」
舞桜の叫びに、
「「うん!」」
ふたりは良い子のお返事で返答した。
「非合理の極みやな、おまえらは」
土御門晴景は、呆れ果てた様子で、莉那たちを見た。
「おまえらの論理の暴走の制御に、わしは呼ばれたんやで?」
「論理の暴走を止めようとする大人たちの非合理な親心を、あたしたちは情愛のノイズとして処理しているだけだよ」
莉那は、カンペを下げ、悪戯っぽい笑みを浮かべて返した。
「論理の破綻を、楽しむ論理やな…」
茅野淳二は、妹の舞桜ではなく、情愛のノイズを撒き散らす莉那たちを擁護した。
「兄さんまで、そっちに付くの!」
舞桜は、情愛とノイズに満ちたその場から、逃げ出したくなった。
「合理的やろ? 舞桜の情愛が、論理の暴走を食い止めるなら、その情愛を盛り上げるのが、親族の役割や」
晴景は、情愛を最優先する非合理な結論を、親族という情愛の論理で正当化した。
「論理の天才が、情愛のノイズに溺れている姿は、見ものやで!」
淳二は、そう言い放ち、心底楽しそうな笑みを浮かべた。
舞桜は、論理のシェルターから、情愛の戦場へと引きずり出されたことを悟り、天を仰いだ。
★ ◆ ★ ◆ ★
黒木万桜と白井勇希は、勇希の父親である市議会議員の白井泰造とともに、災害発生時に使用する超仮設住宅の試験をしていた。
「これ、リアル・カプセル・ハウスだな…」
勇希は、カマクラのようなフォルムの超仮設住宅テントを眺めて、某国民的西遊記ベースアクションアドベンチャーアニメに登場する、簡易ハウスを連想して、目を輝かせた。オスカル系女子である勇希は、勧善懲悪のあのアニメが大好きだ。
「勇希、女の子なのに悟空好きだよねー」
泰造は朗らかな声で笑いながら、カマクラのようなテントの中を覗き込む。
「勇希の父ちゃん、これは断熱性能に特化した超仮設住宅なんだぜ」
万桜は、論理的な優位性を説明し始めた。
「壁は二重構造で、外側に二酸化炭素ブロック、内側に空気ブロックを使っています」
「二酸化炭素? なんか、危ないんじゃないか?」
泰造は、少し不安そうな顔をした。
「二酸化炭素は、空気(主に窒素と酸素)よりも熱伝導率が低いという特性があるんだよ。だから、外壁にこれを使うと、外気温が内側に伝わりにくくなるんだ。てか、みんなCO2を悪者にし過ぎだぜ。農薬にも、建材にも化けるし、冷やせて温められるじゃねえか?」
万桜は、熱力学の原理を簡潔に説明した。
「内側の空気ブロックは、一般的なペアガラスと同じ原理で、動かない空気の層を設けて断熱効果を得てんだ」
「つまり、三層構造に近い形で、熱の移動を防いでいるんだな?」
勇希は、論理の構造を素早く理解した。
「その通り。これと、エアバッグ式の寝具を組み合わせることで、床からの冷気遮断効果も高めてんだ」
万桜は、テント内部の空気充填式マットを指差した。
「避難所での冬の寒さや夏の暑さというノイズを、この断熱性能で完全に排除できるんだ」
「なるほど。これなら、被災者の方々も、プライバシーと精神的な安定が得られるね」
泰造は、論理的な解決策がもたらす人道的なメリットに、深く感銘を受けたのであった。
白井泰造は、吐息をひとつ。
「万桜ちゃん、勇希…ゴールデンウィークに草津行ったじゃない? それで、そのぉ…」
コホンと咳払いをひとつ。
「昇ったの? 大人の階段…」
手に痺れが残るような直球を投げつける。幼馴染の父親からの直球な問い掛けに、黒木万桜は怯むことなく、
「一緒に風呂入ったら、俺がのぼせて、ぶっ倒れて有耶無耶んなった」
万桜が把握する事実のみを報告する。
「そっかぁ~、倒れちゃったかぁ~」
泰造は思わず吹き出し苦笑する。すかさずに勇希に視線を向けると、勇希は逃げるように視線を逸らす。
「そっかぁ~、万桜ちゃんは、勇希を選んでくれたかぁ~。そっかぁ~」
泰造は、心底安堵したように嘆息するが、
「「うん? 舞桜も一緒に行ったぞ?」」
万桜と勇希は、顔を見合わせ異口同音。爆弾発言をぶちまける。
「へ! 舞桜さん?」
泰造の安堵の表情は一瞬で崩れ、驚愕のノイズに支配された。
「そうだぞ、父さん。舞桜と万桜の3人で行った。桜に追っ払われたんだ。イチャイチャしてるからって…」
勇希は、爆弾の破片を撒き散らすように、淡々と事実を付け加えた。
「てっきり、勇希たちふたりで…」
泰造は、論理的な推測が情愛のノイズによって完全に裏切られたことを悟った。
「しかたねえじゃねえか? どっちも好きなんだから」
万桜の口調を真似た勇希の言葉に、泰造は、親としての不安を覚えた。
「万桜ちゃん、それは…優柔不断という非合理なノイズじゃないかな?」
泰造は、息子同然の青年に、情愛の論理を説こうとした。
「俺の論理は、すべての可能性を排除しないことだ」
万桜は、二人の天才美女を選ぶという情愛の究極の合理性を、論理で正当化した。
「ははは…論理の魔王の情愛は、世界を滅ぼすかもしれませんね」
泰造は、目の前の超仮設住宅の断熱性能よりも、万桜の情愛の断熱性能の低さに、頭を抱えるのであった。
★ ◆ ★ ◆ ★
「おいおい、3人ってなにやねん?」
赤い社長と、
「人が3人おるっちゅうことやね。あと奇数やね」
赤い頭取は、耳へ届いた言葉にボケ倒す。
「「奇数ってなんやねん? 舞桜?」」
淳二と晴景は、狼狽えて舞桜に質す。
「奇数とは、2で割り切れない整数を指す論理的な概念です。数理的なノイズと言い換えられます」
ボケに付き合う舞桜に、
「知っとるわ! 男女の仲で奇数ってなんやねん?」
「偶数になるもんやろ? マンツーマンやろ?」
赤い社長と赤い頭取は、取り乱す。可愛い娘の一大事だ。
「え、なに…セクハラ?」
舞桜もボケ倒す。
「「どこがやねん!」」
ダブルシャアは、異口同音にツッコミを炸裂させる。
「いや、舞桜…おまえ、お嬢やで? お嬢が奇数ってどうなん?」
茅野淳二社長は、ツッコミを入れるが、
「奇数が悪いって誰が決めたよ?」
茅野舞桜は、黒木万桜の口調を真似て言い返す。ここに白井勇希が参戦する。
「あたしたちは、3人でひとつです。赤いお面…誰かが欠けても、ノイマン・アーキテクチャは超えられなかったし、この超仮設住宅テントも生まれていない」
そう言って、勇希はCO2ブロックを淳二に投げた。
天才美女ふたりは、声を揃えて、
「「あたしたちは、三位一体だ。つまらねえ理屈で、未来への動線を塞いでんじゃねえ」」
論理の魔王の口真似と言葉で、大人たちを黙らせた。
「論理の暴力が、情愛の形をとると、こんなに非情なんやな…」
土御門晴景頭取は、三位一体の情愛の構造に、一種の畏怖を覚えた。
「おまえたちが、論理の暴走を食い止める唯一のノイズやからな」
淳二は、投げられたCO2ブロックを抱えながら、勇希たちに苦笑した。
「情愛という名の非合理が、世界をアップデートさせる動線なのか…」
万桜の口調を真似た論理が、情愛のノイズとして大人たちの常識を破壊した。
「3人でいるのが論理的に正しい、という結論か?」
晴景は、銀行家としての合理的な結論を、情愛のノイズから導き出そうとした。
「論理の天才が、情愛でタッグを組むと、大人は太刀打ちできまへんな!」
淳二は、情愛の連帯によって、論理の暴走が加速している事実に、頭を抱えるのであった。
★ ◆ ★ ◆ ★
超仮設住宅テント、エアクラにて、土御門晴景が、セイタンシステムズの幹部たちへと自己紹介をする。
「茅野舞桜の従兄弟の土御門晴景です。そこの赤い社長の同年代で、オッサンです」
ぞんざいな自己紹介に、
「「「「見りゃあわかる」」」」
若者たちも大概だ。
「こらこら、土御門先輩は、先輩よりオッサンなんだぞ? ついでに銀行家だ。うん、めんどくせ」
窘める白井泰造も大概だ。
「わしが銀行家であることを、わざわざ面倒なノイズとして強調せんでええ」
土御門晴景は、苦笑しながら、万桜たち若者たちを見据えた。
「おまえらが進めている論理の暴走、すなわちイノベーションは、わしら銀行家にとっては、最大のノイズなんや」
彼は、金融業の視点から、経済の構造を語り始めた。
「経済には、陰と陽がある。わしら銀行家は、陰の経営手法、すなわち『母ちゃんの経済』を担う存在や」
「母ちゃんの経済?」
茅野舞桜が、その非合理な表現に、興味を示した。
「そうや。非効率と無駄の排除がわしらの思想や。リスク管理、安定性、保全が目的。堅実で合理的なのが隠の価値観や」
「それは、経済の土台を堅固にする機能がありますよね?」
舞桜は、論理的な整理を加える。
「せや。けど、わしらの隠の論理が強すぎると、弊害が出る。非効率を排除することは、おまえらみたいな挑戦やイノベーションという『未来の成長』を否定することにつながるんや」
晴景が目を細める。
「銀行家は、無駄が多い初期段階のビジネスを許さないからな」
白井勇希は、隠の論理が実業にもたらす抑制を理解していた。
「その逆が、おまえら実業家が担う陽の経営手法、『父ちゃんの経済』や」
晴景は、陽の論理についても説明を続けた。
「無駄と挑戦の徹底が思想で、成長、イノベーション、市場創造が目的や。衝動的で革新的なのが陽の価値観。エンジンの役割や」
「ふむ…論理の魔王が生み出す技術は、陽の極みですね」
舞桜は、黒木万桜を陽の論理の権化として定義した。
「今の経済は、わしら母ちゃんが強すぎる。だから停滞している。短期的な利益や保全が優先され、聖域なき無駄が避けられている」
晴景は、現代経済の停滞というノイズの構造的な原因を指摘した。
「わしの役目は、隠の論理で、おまえら陽の暴走に手綱を握ることや。安定性と創造性の調和が、経済の活性化には不可欠なんやで」
晴景は、経済哲学的なバランスの重要性を語り、銀行家としての役割を改めて定義した。
「黒木くん…君のことは、淳二から色々と聞いてるよ…ノイマン・アーキテクチャをブレイクさせたり、雷消したり、アンドロイド作ったり。君は、転がる夢そのものや…」
土御門晴景は、陽の論理の権化である黒木万桜に、静かに語り掛けた。
「君の技術は、まさしく陽の科学や。ルールの前提を破壊し、持続性の創造を目指す、父ちゃんの経済の極みや」
土御門晴景は、黒木万桜の論理の先を見通すように頷いた。
「そして、この世の経済には、わしら銀行家の隠の経営手法、すなわち母ちゃんの経済も不可欠や」
晴景は、赤いネクタイを緩め、金融システムの重みを表現した。
「非効率と無駄を排除し、安定性という土台を堅固にする役割や」
晴景は、経済の太陰太極図を、論理で描き出した。
「今、世の中は母ちゃんが強すぎる。だから、君のような陽の暴走で、一気に経済を成長させなアカン」
一息入れ、
「せやけど、陽の勢いが強すぎると、過剰投資や高転びのリスクもある」
晴景は、隠と陽の調和の必要性を説いた。
「そこでや。隠の権威を持つわしらと、陽の論理を理解する人間で、そのバランスを調整せなアカン」
晴景は、すうっと、経理の天才である杉野香織を指差した。
「君は、金の流れのノイズを完璧に制御できる。その能力は、隠の論理を極めている…わしは、君を経済陰陽師に育て上げる」
晴景の決意に満ちた言葉が、杉野香織の心臓を打ち抜いた。
「隠であるわしの銀行と、陽であるセイタンシステムズの論理を調和させ、経済の羅針盤を示すんや」
突然の宣言に、香織は目を丸くした。
「経済陰陽師? なにそれ、ウケる!」
杉野香織は、新しい役職の非合理な響きに、ギャル然とした笑みを浮かべた。
「経済のノイズを、陰陽の論理で鎮めるってことね!」
「その通りや」
土御門晴景は、未来の経済陰陽師の論理的な理解力に、満足そうに頷いた。
「わしらが隠として、陽のおまえらを裏側から支える。それが、持続的な成長という合理的結論への最短動線や」
「論理の魔王が生み出す陽の科学を、金の論理で陰陽バランスを保つ!」
茅野舞桜は、新しい経済システムの構造を、瞬時に把握した。
「これで、論理の暴走の暴発は、理論上は防げますね」
白井勇希は、システムの安定性に、論理的な安堵を示した。
「理論上、ね!」
杉野香織は、経理のプロとして、情愛のノイズが混じるこの論理に、一抹の不安を覚えるのであった。
『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をお読みの地球の皆様へ!
いつも拙作『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をお読みいただき、本当にありがとうございます!
物語の中で、「魔王」こと黒木万桜は、時には「水嚢の川」で災害に立ち向かい、時には中古スマホを活用したクローズドネットワークなんて突拍子もないアイデアまで生み出しています。
実は、この物語には、万桜のそんな「もしかしたら、これって本当に役立つかも?」と思えるような、たくさんのアイデアが散りばめられているんです。読者の皆さんも、「これ、面白い!」「こんな風に使えるんじゃないか?」なんて、閃いたことはありませんか?
地球のみんなぁ~! オラに「★」をわけてくれーっ!
もし、この物語を読んで、少しでも「面白い!」「次の展開が楽しみ!」「万桜のアイデア、イケるかも!」と感じていただけたなら、どうかページ下部の【★★★★★】ボタンをポチッ!と押して、星評価を分けていただけないでしょうか!
皆さんのその「★」一つ一つが、作者の大きな励みになり、万桜の次の「魔王案件」へと繋がるエネルギーになります!
引き続き、『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をどうぞよろしくお願いいたします!




