黒き勇者たちの覚醒
前書き
2019年7月中旬。御井神さまのノイズ。
「2025年の万桜たちの構想が、2018年の万桜たちの構想に比べてスケールが小さいのは、そうゆう設定だったからなんだからね!」
御井神さまとノイマンの介入によって、万桜たちの未来の記憶は全てが消去された。残っているのは、甲斐の国市のデベロップと、香織を護衛するという『非合理的な使命感』だけだ。
「2025年の万桜と舞桜と莉那の性格が違って見えるのも設定なんだからね!」
この修正は、神とシステムが下した、最も『論理的な修正』だ。世界は今、万桜たちが最も『幸せな未来』へと進む、最適な道筋に戻った。ノイマン・ブレイク・アーキテクチャという論理は完成し、万桜たちの才能は未来を超えている。
「打ち切りエンドな雰囲気の最終回でもないんだからね!」
これは神の前書きだ。万桜たちは、記憶がないというノイズと戦いながら、甲斐の国市を舞台に『集団ヒステリーの無効化』ミッションを遂行する。物語はここから、本来の論理の軌道へ復帰する。
2019年7月中旬。甲斐の国大学、旧休憩室。セイタンシステムズの心臓部にて。
「え、黒木先輩、それ本気で言ってるの?」
香織は、訝しげに眉を寄せて問い返す。経理担当の彼女にとって、万桜の発言は『コスト計算不能な、究極の非合理』であった。
「本気だ。てか、杉野…いや、なんでもねえ…」
万桜は、言い掛けていた『2020年の悲劇』を、間一髪で押し留める。頭の中には、香織の悲劇的な運命、共同キャンパスの立ち消え、そしてノイマン・ブレイク・アーキテクチャが生まれていないという、冷徹な未来の情報が満ちていた。
「甲斐の国市を買い取る。そしてセイタンシステムズの社有地に変える」
万桜は、自身の論理を、絶対的な宣言に変えて突きつけた。
「いきなりなに? 市を買い取るって…社長の舞桜ちゃん社長に相談したの? スケールがおかしいよ!」
香織は、万桜の眼差しに、普段の論理的な純粋さを超えた、冷徹な決意が宿っていることを感じ取る。
「舞桜ちゃん社長? 黒木先輩がなんか変! これなんか起きてるって!」
サブリナの魔法の無線を取り出した香織は、悲鳴のような声で舞桜へと連絡を取り付ける。
「落ち着け杉野。今なにが起きているか、俺にもよくわからん」
万桜は、自身の頭の中に流入し続ける『未来のノイズ』に抵抗しながら、なんとか冷静を装う。彼の眼は、まるで高熱を出した子供のように潤んでいた。
その時、万桜の脳内に、もうひとりの万桜の声が響いた。
『2025年の俺だ。…フュージョンは完了。舞桜と勇希にも、同じ事象が起きている。甲斐の国市を買うのは正しい。物理的なノイズを排除する、最も合理的な手段だ』
2025年の万桜の意識は、既に2019年の肉体と融合していた。万桜は、香織の命を奪う「暴漢」という非合理なノイズの発生源を、「市」という環境全体を支配することで、根本から叩き潰すという論理の暴力を選んだのだ。
「そ…そなんこと…ありえねえ…」
2019年の万桜は、自身の絶対的な論理では説明できない『未来のノイズ』の流入に、顔面を蒼白にする。
『あり得る。そして、おまえ、おまえの使命は、コロナ禍の無効化だ。舞桜たちも、この娘の悲劇を知っているが、おまえと同じく秘密にさせろ』
その様子を、香織は、恐怖に満ちた眼差しで見つめていた。
「黒木先輩…まさか、なにかあったの? そのなんでもねえ…の先は、なに?」
顔面を蒼白にして、香織の手をギュッと握る万桜を指し、香織はそう言った。
「なんでもねえ…よ。杉野」
万桜は、目を合わせることを避け、2025年の万桜の意識と完全に融合した。
「甲斐の国市は、今日からセイタンシステムズの社有地となる。コロナ禍の無効化ミッションの最初のステップだ」
万桜は、物理的な環境ノイズの排除という冷徹な合理性を提示した。
香織は、その眼差しに怯えながらも、CEOの舞桜へと情報を伝える責務を果たす。
「なに言ってるのか、さっぱりわかんないけど…舞桜ちゃん社長? 黒木先輩が、甲斐の国市を社有地にするって言い出した! そしてコロナとかいうなんか知らないけど、それを無効化するって!」
香織の悲鳴のような報告が、サブリナの魔法の無線に乗って、東京へと届く。
「なにかあったんでしょ? 黒木先輩」
香織は、万桜の『冷徹な決意』を見て、それが単なる戯言ではないことを察知する。
「なんでもねえ。2020年の未来では、おまえが悲しいノイズに巻き込まれる。だから、おまえは俺たちのコロナ禍無効化ミッションに、経理として全力で協力しろ」
万桜は、彼女の運命を隠しつつ、彼女の力を最大限に活用するという冷徹な合理性を提示した。
「え…なにそれ…なんか、それイケてる」
香織の合理的な思考は、万桜の非合理的な未来情報に、恐怖しながらも、ギャルとしての感性で受け入れてしまったのであった。
★ ◆ ★ ◆ ★
「え? え? どうしたの舞桜ちゃんお姉様、勇希お姉様?」
旧休憩室に入ってきた舞桜と勇希は、香織のことをふたりがかりで抱き締めた。ふたりの瞳からは、未来の悲劇を知るがゆえの、大粒の涙が零れている。
香織は困惑しながら、目をハートに変形させて忙しい。突然の『天才美女二人の親愛のノイズ』に、彼女のギャル魂は歓喜を上げていた。
「「いいから…黙ってろ…」」
絞るような声でふたりは命じる。その声には、未来の悲劇と現在の決意が混じり合っていた。
万桜は、3人全員が未来の知識を共有しているという「非合理な事実」を、瞬時のうちに論理へと変換した。
万桜は、サブリナの魔法の無線を取り出し、感情のノイズを完全に排除した冷徹な論理の声で告げた。
「緊急事態だ! テメエら出合いやがれ!」
セイタンシステムズの幹部衆を、甲斐の国大学の旧休憩室へと即座に招集した。
★ ◆ ★ ◆ ★
「なんかよぉ、25歳の俺たちの記憶が溶けたんだよ」
万桜は、旧休憩室に集まった天才たちに、2025年のフュージョンという非合理な事実をぶっちゃける。
「黒幕、なに言ってんだテメ?」
番長こと、リーゼントの祭谷結は、呆れと不快感を露わにした。
「エイプリル・フールにゃ、3ヶ月遅いぜ万桜?」
拓矢も呆れ、非合理な情報を一蹴した。
しかし、番長と拓矢は、万桜、舞桜、勇希の3人が、ただならぬ真剣な眼差しのまま沈黙しているのを見て、吐息をひとつ、「論理的な事実」の開示を促した。
「「言え」」
ふたりの冷徹な先促しは、万桜の論理を普段から信頼しているからこその判断であった。
その一方で、共同キャンパスに参加する幹部自衛官候補生たちの防大組は、懐疑的な見解を提示する。
「「そんなバカな」」
藤枝と佐伯は、科学の論理では説明できない事象の発生を、明確に否定した。
「コロナと言ったな黒木くん」
ただひとり、琴葉だけが、万桜の非合理な発言の中に、思い当たる節のある冷徹な論理を見つけ出し、先を促した。
「ああ、新型コロナウイルス。感冒に名前つけて、予防接種受けなきゃ陰謀論者さ」
万桜は、未来の光景をウンザリと吐き捨てる。その軽蔑の感情は、情報戦と非合理な群衆のノイズに満ちた未来への嫌悪感であった。
「その25歳の俺は、ノイマン・ブレイク・アーキテクチャも生み出してねえし、ボッチの兄ちゃんが赤い社長ってのも知らねえ」
淡々と未来の情報を万桜は語る。それは、セイタンシステムズが失敗し、世界規模の革新が起こらなかったという最も悲劇的な論理であった。
「ボッチ、いや…舞桜とも仲良くなってねえ」
そして、舞桜や勇希との私的な関係性においても失敗しているという、個人的な非合理な事実をも開示する。
「なんかシンクライアントの害獣駆除装置作ろうとして、サブリナに殴られてたな」
万桜は、未来の自分の凡庸さを自嘲する。舞桜や勇希、そして番長たちの力を借りず、孤独な論理に囚われた未来の自分の姿を、最大の失敗として提示した。
「そう言えば、去年の夏、舞桜が万桜にパフパフしたな? あの時のセリフを覚えているか?」
勇希が舞桜に問うと、過去の非合理な感情が現在の論理にノイズを立てる。
「これで、あたしとおまえは対等だ白井勇希…」
舞桜は、去年の夏の私的な出来事を反芻する。その時のセリフは、舞桜が勇希に対する対抗心と万桜への感情的な優位性を主張するための非合理なノイズであった。
「え? そんなことあったの?」
万桜が尋ねると、3人の論理が集中し、特異点の特定が開始される。
「あたしの七年後の記憶にそれはない」
舞桜は、2025年のフュージョン情報を検索するが、その出来事の記録は見当たらないと冷徹に否定した。
「あたしもだ。舞桜…」
勇希もまた、自身の2025年の記憶にその出来事が存在しないことを確認する。
ふたりは、未来の記憶には存在しない、過去の出来事という論理的な矛盾を即座に特定した。
その矛盾は、「パフパフ」という非合理な感情のノイズが、「過去に起きた」という確固たる事実として、現在の3人の世界線に残っていることを示していた。
「「「「パフパフ?」」」」
この時、4人の青年たちの瞳が年を取る。未来の知識が感情的なノイズと融合し、嫉妬に基づく憎悪が燃え上がる。
「つ、つかなに盛り上がってんだテメエら! つかそこの老け顔! テメエはカミさんいるだろうが!」
男たちの醜い小競り合いが勃発する。嫉妬は論理を破壊する非合理な感情だ。
「うるせえ! パフパフは別腹だ!」
老け顔のリーゼントこと番長は、つい最近、父親になったばかりの尊厳さえもかなぐり捨てて、醜い小競り合いに参戦する。
「あたしたちは、ケンカしたまま、スーパー盆踊りをボイコットした」
勇希は、未来で起こった『私的な失敗』という事実を、男たちの醜い小競り合いをスルーしながら淡々と開示する。
「神仏再習合」
これまで黙っていた莉那が口を開く。彼女は、未来の知識を共有した3人の論理を補強する事実を提示する。
「ほら、去年さあ、万桜のピッツアが消えたじゃない? あれが原因じゃん?」
莉那も取っ組み合いをスルーする。ピッツアの消失という非合理な出来事が、スーパー盆踊りのボイコットという私的なノイズを生んだことを、論理的に指摘した。
「ああ、あったなそんなこと…その後の魔王案件続発で忘れていたが…」
琴葉は、つい去年の出来事を、遠い昔のように邂逅する。この一年が、未来のノイズを忘却させるほど濃すぎるのだ。
「おいコラ野郎どもッ! いったんステイ!」
舞桜はCEOとして、取っ組み合いをする男たちに命じる。一年前の超お嬢さまだった舞桜からは、想像もできない言動だ。未来の知識とCEOとしての責任が、彼女を絶対的な支配者へと変貌させた。
万桜たちは、その場に正座し、素直に従った。男たちの論理は、舞桜の論理を認めている。
「番長。焼きラーメン・オン・ザ・ピッツアの仕度をしなさい」
舞桜の下知は、ピッツアの消失という過去のノイズを即座に修復するという、論理的な行動であった。
「へい! 社長!」
番長は良い子の下っ端、良いお返事。
「なんだか知らんが、未来を知った。だったら、あたしたちのやるべきことはひとつよ。そうでしょう万桜?」
舞桜は、このチームの要である黒き魔王さまへと投げ掛ける。論理を行動へと変えるための最終確認だ。
万桜は獰猛に笑って、
「あったりめえだ! 集団ヒステリーなんざ、俺たちが吹き飛ばしてやんぜ!」
傲岸不遜な笑みを湛えて請け負った。万桜たちの論理は、未来の悲劇を「集団ヒステリー」という非合理なノイズとして定義し、論理の暴力で世界の修正へと乗り出すことを決意した瞬間であった。
★ ◆ ★ ◆ ★
御井神神社の麓にある古井戸。
三宝の上には、番長、謹製の焼きラーメン・オン・ザ・ピッツア・カスタムが供えられている。チーズと共に、正月に開発されたつまり難い『ホワイトソース餅』が乗っている。
祭谷結は、リーゼントをぴしりと固め、神前に正座した。古文書を読み解くのが趣味の彼は、神仏再習合という莉那の言葉を論理的なトリガーとして受け入れている。
祭谷結は、万葉言葉で厳かに祝詞を奏上した。
「大和の大神の御稜威畏み、奉る。
御井神の、古井戸に、万葉の、時を、超えし、理を、食さむ。
集団の穢を、消し、世を、常に、良からしめ給えと、祈る」
やがて、古井戸の底から吹き上がったかのような強い風が通り過ぎ、九人の青年たちは、神聖な御下がりを口にする。焼きラーメン・オン・ザ・ピッツアの非合理な美味さが、儀式の完了を告げた。
「舞桜。甲斐の国市で大規模な社会実験を行う。茅野建設グループに話を通しておいてくれ」
万桜は、目の前の危機に対して迅速に指示を出す。2025年の知識が、万桜の指示を的確で最適で迅速な論理へと変えていた。
「藤っち、莉那。ネットの全投稿に対してブロックチェーンを掛けるように、社会に働きかける。甲斐の国市は、そのモデル都市にする。手を貸してくれ」
藤枝は防諜の専門家、莉那はシステムの専門家だ。未来の集団ヒステリーという情報ノイズを排除する論理的な一手である。
「拓矢と佐伯くんは、杉野の護衛だ。これは来年の4月まで続けてもらう」
万桜は理由を言わない。香織の命に関わる悲劇の情報は秘匿される。
「え? え? 斧乃木先輩がウチの護衛? え? マジすか?」
有頂天な香織の振る舞いに、悲劇の真実は濁される。
「勇希、おまえは七年後に官僚になっていた。おまえがやるべきことはわかるな?」
万桜が勇希に投げかける。国を動かすという大きな論理は、勇希に委ねられた。
「琴葉さん、佐々陸将をパイプとして、トップに働きかけます。国を動かす。手を貸してください」
勇希は、未来の記憶を活用し、最も最適解な連携を提示する。
防大組の3人は、未曾有の危機が回避できる未来を予感した。万桜たちの論理が未来を修正できると確信したのだ。
★ ◆ ★ ◆ ★
「斯く在れ」
その声が響いた瞬間、万桜たちの身体は強張る。時間が停止したかのような、絶対的な力のノイズだ。焼きラーメン・オン・ザ・ピッツア・カスタムを咀嚼する口が、そのまま動かなくなる。
「やってくれたなノイマン」
勇希に似た容姿の女性、いや女神、御井神さまは、井戸のそばでチョコンと正座する浮遊霊ノイマンへと、呆れたように投げ掛ける。論理の化身たるノイマンが、感情的な修正を行ったことへの驚きだ。
ノイマンは、神の前でも論理を貫く。
「万桜たちは天才です。ミイさま。もしも、7年後でも、私の処理方式を超えたでしょう。そして、一酸化炭素での害獣駆除装置の実績から、万桜たちの才能は…」
ノイマンは、失敗した未来の万桜の才能を証拠として提示する。ノイマンは、システムの論理が自己破壊を回避するために、時間のノイズを起こしたことを弁明する。ノイマンは、万桜の天才性こそが、時間を超えるための論理的な根拠だと主張した。
言い訳をするノイマンの言葉を遮り、
「わかっている。おまえの職分だ」
御井神さまは、パチンと指を鳴らす。その一瞬、3人の身体に流れ込んだ『未来のノイズ』が固定される。世界の理が、この修正を許したという絶対的な宣言であった。
「マンハッタン計画に万桜を参加させません。万桜たちは…」
憤慨するノイマンの言葉は、万桜の才能をシステムの論理の内側に囲い込もうとする強い執着のノイズであった。
御井神さまが被せる。
「わかっている。落ち着けオッサン。ただし、未来の記憶は消しておく」
御井神さまが再び、パチンと指を鳴らす。
その音は、時間と空間を切り裂く、絶対的な論理の刃であった。
万桜の脳内から、2025年の記憶が、高速で巻き戻されていく。コロナというノイズ、香織の悲劇、3人の秘密、そしてノイマンブレイクが生まれたという成功の論理まで、全てが白煙のように消滅した。
記憶の消滅と同時に、甲斐の国市の麓から、万桜たちの姿は消えた。
「これウッメッ!」
ノイマンはちゃっかり、三宝の上に供えられていた焼きラーメン・オン・ザ・ピッツア・カスタムを味見する。究極の論理と究極の非合理が同居する、彼らしい振る舞いであった。
「よかったな、オッサン。おまえの職分も守られ、おまえのシステムを超える天才たちも残った」
御井神さまは苦笑する。ノイマンが世界の修正に介入した理由が、万桜の才能への純粋な執着であることを理解していたからだ。
「ええ。これで、世界は最も最適な道筋を辿ります」
ノイマンは、焼きラーメンの美味さに感嘆しながら、冷静に答えた。ノイマン・ブレイク・アーキテクチャという論理は失われず、世界は修正された。彼の職分は全うされたのだ。
「ああ、これからは万桜たちの時代だ。おまえも見守ってやれ」
御井神さまは、甲斐の国大学の方を見つめ、静かにそう呟いた。
★ ◆ ★ ◆ ★
甲斐の国大学、旧休憩室。万桜たちは、御井神神社での絶対的な力による介入があったことを微塵も覚えていない。
「なあ黒木くん。いっちょ、甲斐の国市でデベロップしてみんか?」
赤い社長こと茅野淳二から唐突に持ち掛けられた話に、万桜たちの身体は本能的に反応した。記憶にはないが、この案件こそが最優先のミッションだと脳が命じている。
「おう! ボッチの兄ちゃん。この件は、セイタンシステムズが全面的に請け負った!」
万桜たちは、食い気味に請け負う。舞桜はCEOとして、万桜の言葉に無言で頷く。甲斐の国市を社有地とすることが、何よりも重要な『論理的な防御線』だと、理屈では説明できない確信が彼女たちを突き動かしていた。
「琴葉さん。佐々陸将を通じて、この国のトップを動かします。力を貸してください」
勇希もまた能動的な挙動を見せた。官僚になる未来の記憶は消えても、国を動かすという『最適解の論理』だけは残っている。
「承知したわ、勇希さん」
琴葉は、勇希の言葉の裏に潜む、尋常でない使命感を感じ取った。
「拓矢と佐伯くんは、杉野の護衛だ。これは来年の4月まで続けてもらう」
万桜は、冷徹に指示を出す。香織の命に関わる『悲劇のノイズ』は消えても、彼女を護るという『絶対的な責務』だけが万桜の意識を支配していた。
拓矢と佐伯は、理由は聞かない。万桜の論理に従う。
「え? え? 斧乃木先輩がウチの護衛? え? マジすか?」
有頂天な香織の振る舞いに、誰もが安堵のノイズを覚える。
万桜、舞桜、勇希の3人は、香織から視線を外す。記憶にはないが、後輩を守るという『非合理なほどの強い決意』が、彼らの論理の核に組み込まれていた。
舞桜は、ノイマン・ブレイク・アーキテクチャの演算能力を、甲斐の国市の全防犯カメラとセンサーの統合管理に振り分けるという指示を、直感で出す。物理的な環境ノイズの排除が必要だと身体が知っていた。
万桜は、莉那と藤枝に視線を送る。集団ヒステリーという情報ノイズを遮断するための次の指示を出すために。
「サブリナと藤っちは、ネットの投稿からノイズの除去だ。もう便所の落書きだなんて言わせねえ。ブロックチェーンを掛けて、匿名性なんざねえってことを明言させる」
記憶を消された天才たちは、何を知っているかはわからない。だが、使命感という名の論理に突き動かされ、後輩を守るという非合理的で温かい決意を胸に、静かに世界の修正を開始したのであった。
「番長、反社ネットワークとの連携を限定的に解除だ。情報収集に活用すんぞ」
万桜の指示は、反社会的な繋がりをミッションに組み込むという超法規的措置に及んだ。記憶はなくても、未来の危機を回避するためには手段を選ばないという冷徹な論理が万桜を支配していた。
「黒幕、折衝役は任せな。祭谷一家の伝手を総動員する」
番長は、リーゼントを揺らし、男らしい良い返事。彼もまた、裏社会のノイズを利用することが最速の論理だと本能的に知っていた。
「拓矢。おまえの母ちゃんも呼ぶぞ。仲直りしやがれ」
信源郷町、最強の大人を助っ人として招集する。万桜の指示は、私的な感情を超越した論理的な判断であった。拓矢の母親の持つ『抑止力』こそがミッションに不可欠だと、無意識が叫んでいた。
拓矢は苦笑して頷く。母との不仲という個人的なノイズを解決することが、今、世界を救うための最初の一歩なのだ。
「勇希、おまえの父ちゃんも巻き込む。てか、甲斐の国市を巻き込むぞ」
万桜は静かに宣言した。去年の夏、万桜たちは信源郷町というローカルを巻き込んだ。今年は甲斐の国市、いいや日本をも巻き込み、コロナ禍が生み出す『日本の集団ヒステリー』という集合意識に挑もうとしている。
勇希は固唾を呑む。記憶はなくても、未来の官僚としての論理が覚醒していた。
「任せておけ万桜。せいぜいこき使ってやるさ」
舞桜は、万桜の獰猛な笑みを見つめる。万桜の論理のスケールが、自分たちの想像を超えていることを理解していた。
「未来を変えてやる。あんな悲しいノイズに、あたしたちのポジティブを曇らせない…いい、みんな。墾田永年私財法を?」
舞桜の指示が、天才たちの連携をシステム的に統括する。
「「「「曇らせねえ!」」」」
万桜たちは、未来の知識というノイズは消えても、後輩を守るという『感情的な合理性』を核に、超法規的な論理で世界の修正を開始した瞬間であった。
『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をお読みの地球の皆様へ!
いつも拙作『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をお読みいただき、本当にありがとうございます!
物語の中で、「魔王」こと黒木万桜は、時には「水嚢の川」で災害に立ち向かい、時には中古スマホを活用したクローズドネットワークなんて突拍子もないアイデアまで生み出しています。
実は、この物語には、万桜のそんな「もしかしたら、これって本当に役立つかも?」と思えるような、たくさんのアイデアが散りばめられているんです。読者の皆さんも、「これ、面白い!」「こんな風に使えるんじゃないか?」なんて、閃いたことはありませんか?
地球のみんなぁ~! オラに「★」をわけてくれーっ!
もし、この物語を読んで、少しでも「面白い!」「次の展開が楽しみ!」「万桜のアイデア、イケるかも!」と感じていただけたなら、どうかページ下部の【★★★★★】ボタンをポチッ!と押して、星評価を分けていただけないでしょうか!
皆さんのその「★」一つ一つが、作者の大きな励みになり、万桜の次の「魔王案件」へと繋がるエネルギーになります!
引き続き、『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をどうぞよろしくお願いいたします!




