叡智の魔王のシェルター
前書き
二〇一九年七月上旬。舞台は、甲斐の国大学セイタンシステムズ。天才的な技術者である黒木万桜は、突如として茅野舞桜たち女性陣によって研究室でガムテープの簀巻きにされ、拘束された。
彼、「論理の魔王」が向き合わされたのは、長年の知性をもってしても解決できなかった、「生理痛」という、人類の『生命の非合理性のノイズ』だった。
万桜は、この根源的な非合理性に対し、「霊長類が二足歩行を始めて以来、腹部に恒常的にかかっている『重力ノイズ』」こそが原因だと看破。その解決策として、床からわずか五センチの高さで身体を吊り上げ、子宮のある腹部を『何も触れないフリー・スペース』にするという、究極的に合理的かつシンプルな装置、緊急シェルター・フローラ・フロートを着想する。
この発明は、単なるリラックス器具に留まらない。
白井勇希や福元莉那、そして万桜の論理を理解した女性陣の働きかけにより、『フローラ・テック・スーツ』(前方排出特化型サニタリーウェア)と『オフィス・シェルター』として製品化が加速。ヒートブースト機能やノイズキャンセリング技術を搭載し、「一五分で業務へ復帰できる即時回復装置」へと昇華された。
その結果、このシステムは、女性の苦痛の緩和という大義を超え、「企業の生産性を最大化するための合理的投資」として、建設業界大手である茅野建設グループへの導入を皮切りに、陸上自衛隊、海上自衛隊、防衛大学校といった国家的なリソース管理を担う組織へと、その採用範囲を拡大させていく。
『文明の義務』として、非合理的なノイズを徹底的に排除し、世界を再設計する万桜の哲学が、今、社会実装のフェーズへと移行し始めた。これは、「究極の合理性による、文明シフトの具現化」の物語である。
2019年7月上旬、甲斐の国大学、女子部屋兼研究室。
「あのぉ、なんで僕、ガムテで簀巻きにされてるんスかね?」
黒木万桜は、セイタンシステムズの女性陣に囲まれていた。CEOである茅野舞桜は、ジト目を貼り付けてくる万桜の目をまっすぐに見据え、
「黒木。いいえ、万桜。あたしたち、もう我慢出来ないの!」
熱い視線で働きかけた。これは、色っぽい話などでは断じてない。万桜は、そう直感する。思えば去年も、こうしてサブリナこと福元莉那に拉致られて、強制的に女性特有の悩みへの対策に知恵を絞らされた。その結果として生まれたのが、タイヤを棒で挟んで押し引きする簡易ロボット機構のロッドロボだ。ロッドロボによるオーダーメイド下着や、オーダーメイド生理用品の開発のおかげで、それなりに快適な生活が遅れているが、舞桜たちはそれより先を求めた。
「まあまあ、万桜。もう慣れたでしょ? それにこの先、桜にもおなじことが起こるわけだし」
莉那は、万桜の妹の黒木桜を持ち出して、この論理の魔王の説得に取り掛かる。
「そうだぞ万桜。またあたしに八つ当たりされて、財布の中身を溶かしたくはあるまい?」
勇希は、以前、重い生理痛で万桜に当たりつけ、全面降伏した万桜に大量のジャンクフードをおごらせたことを持ち出し、威嚇する。
「生理痛のメカニズムについて語れ、勇希」
万桜は吐息をひとつ、問いかけた。
「わかった。あたしが知っている範囲で、最も合理的な説明をしてやる」
白井勇希は、万桜を簀巻きにするために使用したガムテープの残骸を指で弄びながら、冷徹な声で解説を始めた。
「生理痛ってのは、子宮内膜が剥がれ落ちる際に大量に分泌される、プロスタグランジンって脂肪酸類似物質が引き起こす『過剰なシステムアラート』だ。そいつが子宮を過剰に収縮させる。それだけじゃない。同時に血管を収縮させ、血流を悪化させ、炎症と痛みの負のサイクルを生み出すノイズ源なんだ」
忌々しげに吐き捨てる勇希に吐息をひとつ。
「簡単じゃねえか。霊長類以前の構造を継承してるからつれえんだよ。じゃあ、霊長類以前の姿勢になればいい。子宮を収縮させる物理的なストレスを極力排除するんだ」
万桜は、簀巻きにされているため身動きが取れないものの、眼光だけで周囲を支配しようとする。
「霊長類が二足歩行を始めて以来、腹部全体に常に重力と内臓の圧力がかかってる。これこそが、霊長類以前の四つ足の構造にはなかった『余計な重力ノイズ』だ」
万桜は、自身が物理的に拘束されているにもかかわらず、自身のロジックに酔いしれるように続けた。
「だから、仰向けになって内臓の重力ストレスを解除し、腹部を緩めるヨガのポーズ、例えばガス抜きのポーズなどが有効なのは、極めて合理的なんだ。あのポーズは腹部の臓器をストレッチし、重力から子宮を解放する」
「黒木先輩って、なんで乙女なことまで知ってんの?」
万桜たちの後輩である杉野香織が感心したように口を開く。
「いや、高校の時に勇希が怖い時あってよ、対策として調べたんだよ…まぁ…『ノイズ源の排除』という、究極の防衛策だ」
万桜が答える。
「要らん! 柔道で体幹は鍛えてある」
勇希は、自身の合理性を主張する。
「いや、ヨガと柔道は違うだろう勇希さん」
琴葉が呆れたようにツッコミを入れる。最近になってセイタンシステムズに参加した柏葉弥生の姿は、さすがにここにはない。デリケート案件を男子込みで論じることが出来るほど打ち解けてはいないのだ。
「しかし、ヨガのポーズも所詮は『一時的な非合理性の緩和』に過ぎない」
万桜は、本題へと入るため、身体に巻かれたガムテープを僅かに揺らした。
「痛みの原因が『腹部への恒常的な圧迫ノイズ』ならば、それを根治的に排除するシステムを構築すればいい。ヨガのポーズを八時間維持するのは非効率極まりない。だから、『究極の非圧迫空間』を提供する緊急シェルター、フローラ・フロートとでも名付けるか、が必要だ」
万桜は、その理屈の塊のような思考を口に出す。
「設計思想は、『子宮への圧迫ノイズを、重力と寝具の両面から完全にゼロにする』こと」
「床に仰向けになるのではなく、四足歩行の状態(四つん這い)で体を支える。膝と肘、あるいは胸と膝の四点で全体重を支え、腹部を『何もサポートしない空間』、つまり『フリー・スペース』にする」
万桜は一息ついて続ける。
「これにより、子宮のある腹部を完全に地面と垂直にし、重力による内臓の圧迫という一重のノイズを最もシンプルに除去できる。さらに、寝具による外部からの圧迫も皆無だ」
その提案は、舞桜たち女性陣がこれまで経験してきた、痛みへの対処療法という『非合理的な試行錯誤』を、一気に飛び越えるものだった。それは、万桜らしい、単純で、そして究極的に合理的で、かつ慈悲に満ちた着想だった。
「子宮への圧迫を、磁気を使わず完全にゼロに…!?」
CEOの舞桜が、その合理性の極致に息を飲んだ。彼女のジト目の奥に、希望の光が点る。
「これなら、痛みに未熟者のあたしでも、痛みのノイズから解放される…! 万桜…あんたは、本当に『文明シフトの具現化』だね!」
普段は冷静な莉那が、思わず感極まった声を上げた。彼女にとって、このシェルターは、資本運用戦略に組み込む以前に、自分自身の『身体のノイズ』を排除する、切実な救済だった。
「な、なにこれヤバい! まじ神! 子宮ってさぁ、常に重力で潰されてるのまじ卍だと思ってたんだよねー! フリースペースとか超ウケる!」
ギャルである香織の言葉遣いこそ非合理的だが、その瞳には、この発明がもたらすであろう快適さへの期待が満ちていた。
「『霊長類以前への回帰』という、最もシンプルなロジックで、数千年の女性の苦痛を終わらせるなんて…」
勇希は、自身の専門知識を超えた、万桜の純粋な合理性の力に震えた。
「琴葉さんが見たら、『黒木くんのアイデアは、命を救うロジックです!』って、きっと泣くわ…!」
「いや、泣かんけどな…! 黒木くんのアイデアは、い、命を救う論理です…! あ、泣いてる。あたし…」
簀巻きにされた『論理の魔王』の周りで、五人の乙女たちの顔には、重力とプロスタグランジンという『生命のノイズ』から解放される未来への、まばゆい希望が浮かび上がった。彼女らがガムテープで拘束したのは、単なる天才ではなく、自分たちの未来を物理的に再設計する『合理性の救世主』だったのだ。
★ ◆ ★ ◆ ★
2019年7月中旬。甲斐の国大学セイタンシステムズ心臓部である旧休憩室にて。
工場長が納品した緊急シェルター・フローラ・フロートの試作品は、一見すると、高級なインテリアのような佇まいだった。
それは、ムーンストーン・ホワイトのマットな質感を持つ、高さ約七〇センチの流線型のフレーム。そのフレームの頂点から、乳白色の特殊なメッシュ素材が、しなやかに地上五センチの高さまで降りてきていた。
「なんかハンモックみたいだね」
莉那が納品されてきたシェルター・フローラ・フロートの試作品に感想を述べる。
しかし、その構造はハンモックとは似て非なるものだった。
パッと見は、膝と肘(または胸)を乗せる四つの支持台を備えた特殊なベッドだが、核となるメッシュ素材は、「頭部(額または頬)」「膝」「肘」の三点(または四点)を包み込むだけの、最小限のサポート構造に留まっていた。膝と肘の支持台の張力は、利用者が身体を預ける際、フレーム内部のマイクロセンサーで精密に調整され、四つん這いの姿勢を最も安定した形で維持できるよう制御される。
この設計の肝は、腹部を地面と完全に垂直にすることにある。これにより、子宮のある腹部は、重力による内臓圧迫ノイズから解放された、完全に『フリー・スペース』として空中に吊り下げられるのだ。
「あ、あの黒木くん…そ、そのですね…」
弥生がモジモジとなにを言いかけると、万桜は察して、
「善きに計らえ」
試乗を許可する。使い方については、女性陣を通じて不参加だった弥生にも伝わっているはずだ。
柏葉弥生は、セイタンシステムズに参加してまだ間もないため、少し緊張した面持ちだった。弥生は、四つの支持台の横の台から慎重に身体をシェルター・フローラ・フロートへと預けて行く。
弥生は今、生理中だった。
子宮が激しく収縮する重い痛みと、それに伴う腰部の鈍い重さが、朝から弥生の思考の『ノイズ源』となっていた。
膝と肘で体重を分散させ、腹部を垂直にした身体は、まず各支持点で完全に固定された。体重が支持点に分散されると、弥生の子宮のある腹部がふわりと下がり、「何も触れない空間」に浮かび上がる。重力が腹部を圧迫するノイズが、一瞬で消え去った。
その瞬間、弥生は『重力の解放』を体験した。
子宮を押し潰していた、内臓の重み。
下腹部にのしかかっていた、寝具や衣服の圧力。
その全てが一瞬で取り払われたのだ。
まるで、数千年の進化の過程で背負い込んできた『二足歩行の非合理性』が、根こそぎ消え去ったかのように。
「あ……」
弥生の口から、思わず小さな声が漏れた。
子宮を絞り上げていた激しい痛みが、波紋のように緩やかに広がり、そして消滅していく。プロスタグランジンによる炎症の熱は残っているものの、子宮を収縮させるための物理的なストレスがゼロになったことで、痛みの『過剰なアラート』が沈静化したのだ。
弥生の意識は、痛みのノイズから解放され、子宮と脳の間に、静寂な『情報経路』が確立された。彼女は、まるで羊水に浮かぶ胎児のように、無重力に近い静けさの中で、深い呼吸を取り戻した。
「こ…これ、は…」
顔を横に向けた弥生の瞳からは、安堵と驚愕の入り混じった涙が一筋流れ落ちた。
「痛みが、止まっています…」
舞桜たち女性陣は、その言葉を聞いて、互いに顔を見合わせた。
万桜の「究極の合理性の論理」は、今回もまた、女性の持つ『生命の非合理性』に対する、完璧な回答を導き出したのだった。
弥生をシェルター・フローラ・フロートから降ろし終えると、白井勇希は、藤枝の真っ赤な顔には目もくれず、専用のサニタリーウェア、フローラ・テック・スーツの試作品を手に取った。
「これを見ろ、男子ども」
勇希は、万桜と藤枝に向け、その高機能な使い捨て一体型下着を広げた。
「これが、万桜のシェルター・フローラ・フロートとセットで導入される『フローラ・テック・スーツ』だ。設計思想は、うつ伏せ姿勢での『前方排出特化』。従来のナプキンやショーツの概念を、『重力と姿勢の合理性』で一歩先に進めたものだ」
勇希は、特に吸収体の部分を指差しながら、詳細を説明する。
「一番重要なのは、このフロント・キャッチ・コア(FCC)。通常のナプキン五枚分の吸収能力を、恥骨から会陰部にかけて立体的に集中配置している。うつ伏せで経血が重力で前へ流れる動きを完全に予測し、瞬時に捉えてゲル化する」
拓矢と佐伯が諸手で顔を覆っても勇希は続ける。
「そしてこのウルトラ・ワイド・バリアだ。股周りから側面まで大幅に拡張された防水フィルム。これは、シェルター・フローラ・フロートのメッシュ素材に身体が吊られる際、皮膚とメッシュの間に微細なズレが生じても、漏れを絶対に許さないための『最後の防波堤』だ」
藤枝は顔を逸らしたが、万桜は動じず、その『合理性の塊』のような構造を、真剣な眼差しで見つめていた。
「お、おい。魔王さま。おまえメンタルが鋼鉄か?」
藤枝が、勇希の説明を聞いても動じない万桜へと投げ掛ける。彼の顔は耳まで真っ赤だ。
「なんか、もう慣れた。てか、これに慣れろ男子ども」
万桜は、涼しい顔で答える。
「これはサインだ。女子たちからの『配慮を求めるサイン』だ」
万桜は、人工知能魔王へと働きかけ、弥生がシェルター・フローラ・フロートを利用する前の、顔色から推測した健康状態のデータを、壁面のディスプレイに表示させた。
「これは高性能カメラによる女子の健康状態をモニタリングして可視化させたものだ。特殊なセンサーなんざ使ってねえ。顔色から魔王が推測している」
ディスプレイに表示された弥生の状態は、痛みのピークを示すレッドだった。
「生理痛のとき、女子がソファーやベッドでのびているのは、怠けているわけじゃねえ」
万桜は、冷徹な口調に、切実な事実を乗せて語った。
「それは、本能的に『子宮への圧迫ノイズ』を解除しようとする、動物的な防御反応だ。仰向けになることで、内臓の重力ストレスを一時的にでも避けようとする、身体からの必死のサインなんだ」
顔を諸手で覆った拓矢と佐伯の顔から、万桜はその手を引っ剥がす。
「だが、一般的なソファーやマットレスは、結局のところ腹部に圧力をかけてくる『ノイズ源』にしかならねえ。だから、少し楽になっても、痛みがすぐに戻る」
拓矢、藤枝、佐伯をキッと一瞥し万桜は続ける。
「このシェルター・フローラ・フロートは、その『ノイズ』を物理的にゼロにし、身体の防御反応を『究極の休息』へと昇華させるための道具だ。『怠けている』と誤解されることなく、短時間で最高のリカバリー効果を得る。このシステムは、女子が自分の身体の非合理性と戦うための『時間とエネルギーの解放』に繋がる。そして、それはそのまま、『企業のリソースを最大限に活用する合理性』へと直結する」
万桜の言葉は、単なる技術論ではなく、人間の身体が抱える根源的な非合理性に対する、冷徹な哲学だった。その合理的な解決策の前には、藤枝の羞恥心すら、些細なノイズへと変じてしまうのだった。
その言葉に間髪入れず、勇希が『オフィス・シェルター』として再設計された最新の機能を、一気に畳みかけるように説明した。
「万桜の論理を、あたしが『即時回復戦略』として再構築した。会社への導入を前提とした、これが『オフィス・シェルター』だ!」
簡素な試作品を指差し勇希は、吠えた。
「最大の特徴は、腹部のヒートブースト機能だ。薄型ヒーターで子宮周辺を短時間で集中的に温め、プロスタグランジンによる血管収縮ノイズを一気に緩和させる。『痛みの閾値を強制的に引き上げる』のが狙いだ」
勇希は吠え続ける。
「頭部には、ノイズキャンセリング・ヘッドフォンが一体化されている。オフィスノイズを完全に遮断し、わずか一五分で深い睡眠、すなわちパワーナップに近い休息状態に誘導する」
勇希は、特に機能面を強調する。
「そして、利用時間を厳密に管理する一五分オートオフ・タイマー。タイマー終了時には、微弱なバイブレーションが伝達され、利用者はすぐに業務復帰を促される。これこそが、『企業の生産性を最大化する合理的な休息』だ!」
一呼吸をつき。続ける。
「さらに、藤枝のような『デリケートなノイズ』を排除するため、使用時には、器具全体を完全に囲う半透明の遮蔽性パーテーションが展開する。外見からはカプセル型に見えるデザインにし、利用中の姿勢が分からないように配慮した。羞恥心という『非合理的な壁』も、このデザインで排除できる」
藤枝は、顔を覆っていた手を離し、ディスプレイに映し出されたプロダクトイメージと、弥生の改善された状態を示すグリーンのサインを交互に見比べた。
「な、なんだよこれ…」
彼の言葉は、もはや羞恥ではなく、その『究極的な合理性』が生み出す、圧倒的な『文明の力』に対する、純粋な驚きへと変わっていた。
「『生理痛は病気じゃない』という、企業側の曖昧で非合理的な常識を、この『オフィス・シェルター』と『フローラ・テック・スーツ』のセットが、『短時間で生産性を回復させる合理的投資』へと書き換えるんだ」
勇希は、最後にそう締めくくった。その目は、技術者としての誇りと、女性としての切実な希望に満ちていた。
「既に茅野建設グループに導入予定です」
CEOである舞桜は、その言葉に確かな手応えを感じていた。彼女にとって、この『オフィス・シェルター』は、女性社員のウェルビーイング向上という大義名分のもと、万桜の技術の合理性を、世間に知らしめるための『社会実験の第一歩』だった。
「あとは実績を武器に各分野への導入を進めていきます。琴葉さん」
「了解しました、舞桜さん。実は、陸上自衛隊、海上自衛隊、そして防衛大学校も、このリカバリー・システムの導入を真剣に検討する方針です」
琴葉が口を開く。彼女の言葉は、シェルターが、単なるオフィスの福利厚生品ではなく、『国家的なリソース管理』の一環として認識され始めていることを示していた。
「防衛組織において、女性隊員の生理痛によるパフォーマンス低下は、『任務のノイズ』に直結します。短時間で回復できるこのシステムは、戦闘能力の維持という観点からも、極めて合理的なんです」
「舞桜さん。お願いがあります」
琴葉は、その真剣な眼差しを舞桜に向ける。
「防衛大学校にも、ロッドロボによるオーダーメイド下着や、オーダーメイド生理用品の導入を許可して欲しい」
生理痛そのものを根本的に緩和するシェルター・フローラ・フロートと、その非合理な構造に起因する二次的な不快感を排除するロッドロボの製品群。この二つが揃うことで、女性隊員の『身体のノイズ』は、限りなくゼロに近づく。
舞桜はコクリと頷き、即座に決定を下した。
「カオリン。善きに計らえ」
経理担当の杉野香織に、軍事組織との複雑な契約と納入スケジュールを丸投げした。
「御意御意! 舞桜ちゃんお姉様!」
香織は目をハートにして快諾した。その表情は、難易度の高い契約を成功させることへの喜びと、舞桜の合理的な決断への絶対的な信頼を示している。
その場にいた藤枝は、目の前の女性陣が、デリケートな問題を国家規模の合理性へと昇華させていく光景を目の当たりにし、もはや羞恥心よりも、この環境の持つ『異常なまでの合理性の引力』に引き込まれ始めていた。
「すぐに慣れろとは、言わねえ…ただ、意識を変えていこうぜ? な?」
羞恥心を隠せぬ藤枝たち男子に、万桜は苦笑しながら投げ掛けた。
「女子の身体の『非合理性のノイズ』を排除するのは、もはや『文明の義務』だ。これは、誰かが怠けている、なんて感情的な話じゃねえ。『リソースを最大化する合理的な投資』なんだ」
万桜の言葉は、この研究室から、『世界の非合理性』を一つずつ駆逐していく決意表明のように響いたのだった。
『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をお読みの地球の皆様へ!
いつも拙作『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をお読みいただき、本当にありがとうございます!
物語の中で、「魔王」こと黒木万桜は、時には「水嚢の川」で災害に立ち向かい、時には中古スマホを活用したクローズドネットワークなんて突拍子もないアイデアまで生み出しています。
実は、この物語には、万桜のそんな「もしかしたら、これって本当に役立つかも?」と思えるような、たくさんのアイデアが散りばめられているんです。読者の皆さんも、「これ、面白い!」「こんな風に使えるんじゃないか?」なんて、閃いたことはありませんか?
地球のみんなぁ~! オラに「★」をわけてくれーっ!
もし、この物語を読んで、少しでも「面白い!」「次の展開が楽しみ!」「万桜のアイデア、イケるかも!」と感じていただけたなら、どうかページ下部の【★★★★★】ボタンをポチッ!と押して、星評価を分けていただけないでしょうか!
皆さんのその「★」一つ一つが、作者の大きな励みになり、万桜の次の「魔王案件」へと繋がるエネルギーになります!
引き続き、『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をどうぞよろしくお願いいたします!




