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黒き魔王のジェルシャフト

前書き

 二〇一九年四月下旬。

 甲斐(かい)の国大学の旧休憩室は、常に「論理の純粋性」と、「日常の非合理」が激しく衝突する、カオスな戦場であった。

 黒木(くろき)万桜(まお)が振りかざす「究極の合理性」は、「畑を持たない農家」という自己矛盾を平然と成立させ、地域貢献すらも電子食券という「等価交換の論理」に置き換える。彼の論理は、情や恩義といった曖昧なノイズを許さない。

 その冷徹な論理は、やがて、「コンニャクイモの成分」から作られた特殊ポリマーで、車軸の摩擦を六八パーセント低減させ、世界の軍事物流すら塗り替えかねない「破壊的な技術の暴力」へと変貌する。

 舞桜(マオ)勇希(ユウキ)莉那(リナ)、そして防衛大学校(ぼうえいだいがっこう)から来た拓矢(タクヤ)琴葉(コトハ)は、その非合理なほどに安価な技術の可能性に驚愕し、議論を交わす。彼らの知性を持ってしても、万桜(マオ)番長(バンチョー)が繰り出す「技術の解答」は、常に一歩先をゆく。

 しかし、「論理の純粋性」が勝利を収めたかに見えたその時、戦いの場は「技術」から「人間関係」へと移る。

 「理論の完全敗北」を喫した琴葉(コトハ)が、切り札として口にしたのは、「黒き魔王」すら頭の上がらない「権威のノイズ」、山縣(やまがた)政義(まさよし)の名であった。

 この物語は、「最高の論理」が、「最低の権威」によって封殺されるという皮肉を描きながら、非合理な日常の中で、純粋な情熱が技術と友誼を育む、カオスな青春群像劇である。

 2019年4月下旬。甲斐(かい)の国大学の旧休憩室。

「ねえ黒木。どうして桃畑なの? 桃園って言うんじゃない?」

 舞桜(マオ)は、「論理の純粋性」を尊ぶ万桜(マオ)が、あえて「不正確な呼称」を使っていることに、素朴な疑問を投げ掛けた。彼女の持つ「正確性のノイズ」が、万桜(マオ)の持つ「個人的なノイズ」にぶつかる。

 万桜(マオ)は、テーブルに広げられた試作品の電気マキビシを指先で弄びながら、投げ遣りに答えた。

「俺んちだけ畑がねえんだよ。果樹園一筋。そんで、小さいころに、ギャン泣きしたら、桃畑って呼称が定着したんだよ」

 それは、論理とは最もかけ離れた「幼少期の非合理な感情」が、今もなお「土地の呼称」という形で残っているという、万桜(マオ)の「論理的弱点」を示す事実であった。

「そう言えば、黒木果樹園には、家庭菜園すらないわね」

 舞桜(マオ)は、「墾田永年私財法の信奉者」であるはずの万桜(マオ)の実家に「畑」という名の土地がないという、論理的な矛盾に驚愕の声を上げた。彼女の知る「農家」の論理は、「自給自足のノイズ」に大きく支配されている。

「だって、果物と交換すればいいじゃねえか? 合理的だろ?」

 万桜(マオ)は、こともなげに、言い捨てた。

「手間とコストを考えりゃ、畑で野菜作るより、桃を売って、それで野菜を買うか、近所の農家と『等価交換の論理』でトレードするのが、一番効率いいだろ」

 彼の論理は、「食」という最も原始的な分野においてすら、「貨幣経済の論理」を適用することで、「自給自足という非効率なノイズ」を完全に排除していた。

「まあ、万桜(マオ)は昔からそうだもんな」

 勇希(ユウキ)は、万桜(マオ)の「究極の合理性」を、苦笑しながら擁護した。

「欲しいものは、自力で手に入れるか、対価を支払うか、だろ? それが、『社会の論理』ってやつだ」

 彼にとって、「交換」とは、「愛」や「正義」といった「非合理な情動」ではなく、「公平な取引」という「論理的な手続き」であった。

 莉那(リナ)は、その会話を聞きながら、「等価交換の論理」がもたらす、「地域コミュニティのノイズ」について思いを巡らせる。

「でもさ、ご近所付き合いってあるじゃん。畑を持たないことで、地域の『手伝いと助け合い』から、逃げてるんじゃないの?」

 彼女の目には、「論理」では割り切れない、「人間関係のノイズ」が映っていた。

「人聞きの悪いデマを撒くんじゃねえ。俺ほど地域貢献してる好青年はいねえわ」

 万桜(マオ)は、「人間関係のノイズ」を指摘した莉那(リナ)に対し、「倫理的な非難」を浴びせられたと受け取り、苛立ちの声を上げる。

 彼にとっての「貢献」とは、「情」という非合理な要素ではなく、「最適なリソース配分」という「冷徹な論理」によってのみ成立する。

 その時、万桜(マオ)がテーブルに置いていた通信端末が、短く「電子のノイズ」を鳴らした。画面には、祖父の善次郎(ゼンジロウ)からの、互助の依頼を求めるメールのプレビューが表示されている。

 万桜(マオ)は、その予期せぬタイミングの「事実のノイズ」に、僅かに口角を上げた。

「おう、テメエら小遣い稼ぎの時間だぜ?」

 万桜(マオ)は、そう言って、通信端末の画面へと鋭い視線を向けた。彼の指が、中高生向けの小遣い稼ぎを布告する、秘密のコミュニティアプリを立ち上げる。

 今回の報酬は、現金という「論理の鈍器」ではなく、地域の飲食店でのみ使える「電子食券」である。これは、「地域経済の循環」という「論理的な好循環」をも同時に成立させる、彼の「経済のノイズ」を最適化する仕組みであった。

 万桜(マオ)が募集ボタンを押した途端、依頼内容は、音速で埋まっていく。参加するのは、万桜(マオ)の技術に触れる機会と、手っ取り早い報酬を求める、食べ盛りの中高生たちだ。

 万桜(マオ)は、即座に通信端末で祖父に連絡を入れた。

「おう! じいちゃん、今からタツオたちを派遣するぜ! こき使ってやってくれ!」

 通信端末越しに、善次郎(ゼンジロウ)が、孫の「論理的な丸投げ」に、苦笑を漏らすのが聞こえてくるようであった。

「ほら、貢献してんだろ?」

 万桜(マオ)は、莉那(リナ)へと言い放った。彼の「論理の証明」は、「自らの手」ではなく、「構築したシステム」と「電子通貨」によって、瞬時に完遂されたのであった。


「あたしの知ってるご近所付き合いと、なんか違う」

 莉那(リナ)が、「人間的な触れ合い」を排除し、「合理的な契約」として成立した万桜(マオ)の「地域貢献の論理」に、冷ややかなジト目を貼り付けた。

 勇希(ユウキ)もまた、それに同調し、「地域の声」という非合理を代弁する。

「善さんからってことは、近所の婆ちゃんたちからの頼みごとに託つけた、万桜(マオ)たちの顔が見たいってオーダーだろうが」

 勇希(ユウキ)は、万桜(マオ)の「論理の暴力」の裏に潜む、「人間の情」という「非合理な要求」を見抜いていた。

 勇希(ユウキ)が地域の婦人会に気を遣う理由は、単なる義理ではない。それは、幼少時代に、自分たちが地域の人々の「温かい非合理な世話」によって救われたという「恩義の論理」が根底にあった。そして、市議会議員を父に持つ者として、「地域住民の笑顔の毀損」を、「政治的な非効率性」につながる絶対回避の使命として認識していた。

 勇希(ユウキ)は、万桜(マオ)の首根っこを掴み、「論理的な反論」を許さぬまま、引き摺るように旧休憩室を後にした。

 「老いのノイズ」に立ち向かう高齢者たちへの「愛ある互助」は、「技術の純粋性」よりも優先されるべき論理であると、勇希(ユウキ)の「正義の論理」が断定したからだ。

 万桜(マオ)もまた、この時の「勇希の論理」には逆らわなかった。彼もまた、「ひとりで大人になったような顔」はできないという、「過去の負債」を、わずかに自覚していたからだ。

 莉那(リナ)は、「論理の暴走」コンビの「非合理な連行劇」を可笑しそうな顔をして眺め、ふたりの背中を追う。

 舞桜(マオ)は、「経営者としての論理」と「友人としての情動」の間で、一瞬ついて行こうか迷いのノイズを発生させたが、今回は「合理的な見送り」を選択した。

 そんな舞桜(マオ)の研ぎ澄まされた視線が、万桜(マオ)が置いていった通信端末の横に、殴り書きされたメモに止まる。それは、殴り書きされた文字の中に、「究極の論理」が隠されている、彼の思考の残滓であった。

 舞桜(マオ)は、その記述を読み解いた瞬間、思わず息を呑んだ。

「これは……!」

 彼女が知る限り、「車軸の負荷低減」の論理は、既存の技術では「高度な空圧エアシャフト」か、「高価な磁気浮上」に頼るしかない。しかし、万桜(マオ)は、「車軸の二重化」というシンプルな構造に、「グルコマンナンで出来たポリマー樹脂層」という、「非合理なほどに安価な素材」を組み合わせることで、「コストのノイズ」を極限まで圧縮した、「革命的な機構」を考案していた。

 グルコマンナンとは、「コンニャクイモ」の主成分であり、吸水性に優れ、「安価な粘性ポリマー」として知られる素材だ。

「コンニャクの成分で、車軸の負荷を低減……!?」

 その発想の論理的な飛躍は、「極度の低コスト化」と「既存技術の無力化」を両立させており、舞桜(マオ)の「経営者の論理」を根底から揺さぶるものであった。

 万桜(マオ)は、「極度の安価な素材」と「シンプルな構造」を組み合わせることで、「世界のインフラを根底から塗り替える論理」を、汚い殴り書きのノイズの中に隠していたのだ。

「相変わらず、論理の純粋性が、非合理な日常をねじ曲げていくわね」

 舞桜(マオ)は、メモを丁寧に折りたたみ、自身の懐に収めた。この「コンニャクの論理」は、やがて彼女の「馬車による循環型物流システム」の心臓部を担うことになるだろうと、合理的に確信したからだ。


★★★★★★


「あれ、茅野(チノ)さんだけか?」

 拓矢(タクヤ)の硬質な声が旧休憩室に響く。琴葉(コトハ)とともに防衛大学校(ぼうえいだいがっこう)から出張してきた二人が合流した。

「番長もいるわよ。斧乃木(オノノギ)くん」

 舞桜(マオ)は、拓矢(タクヤ)の視線に答えながら、彼の隣に立つ、琴葉(コトハ)へと軽く目配せを送った。

 厨房からは、信州名物おやきの素朴で香ばしい匂いが、抗いがたい「食欲のノイズ」として漂ってくる。

魔王(セイタン)。善きに計らえ」

 舞桜(マオ)は、通信端末に表示させた「摩擦低減ジェル車軸」のメモを、人工知能である魔王(セイタン)へと送り、その場で三次元の図解を生成させた。


摩擦低減ジェル車軸 構造図

概念: 車軸の摩擦抵抗を、高価な空気圧や磁力ではなく、安価なグルコマンナン由来のポリマー樹脂層(ゲル層)の粘性と潤滑性を利用して抑制する機構。

構造のポイント

◆二重車軸構造(外軸と内軸):

 ・車軸を二重の筒状にし、内部に空洞を設けることで、ゲル層を収める空間を確保。

 ・これにより、従来の単一車軸よりも構造的な強度を維持しつつ、内側の可動部がゲル層に浮く形となる。

◆グルコマンナン・ポリマー樹脂層:

 ・二重車軸の空洞部に、コンニャクイモ由来のグルコマンナンを主成分とする特殊ポリマーゲルを充填。

 ・このゲル層が、回転時の摩擦熱を吸収しつつ、高い粘弾性により「水枕」のように車軸の微振動と負荷を分散・吸収する。

◆封止機構:

 ・ゲル層の長期安定性を確保するため、両端は特殊な密閉シールで完全に封止。

 ・空気圧ポンプや冷却装置など、複雑な付帯設備が一切不要。

技術的優位性:

・圧倒的な低コスト(原材料は農産物由来)。

・メンテナンス頻度の劇的な低減。

・砂漠や雪上など、極端な環境下でも安定した性能を維持。


「おいおい、車軸の中にまで川を張るって……」

 拓矢(タクヤ)は、三次元で展開された図解を前に、学徒としての驚愕のノイズを抑えきれなかった。その構造のシンプルさと、素材の「非合理な安価さ」の組み合わせは、まさに「論理の暴力」そのものである。

「これ、エアシャフトが不要になるだけじゃねえぞ。振動吸収性から言って、装甲車両のサスペンションシステムまで変える可能性を秘めている。グルコマンナン……コンニャクの成分で、この粘性ポリマー層を安定させる万桜(マオ)の論理が、コストを破壊してる」

 拓矢(タクヤ)は、技術的な可能性に頭を抱え、唸り声をあげた。

 その間にも、琴葉(コトハ)は、おやきの匂いを追って厨房へ逃れようと、虎視眈々と機会を窺っていた。彼女の「食欲の論理」は、「技術理論のノイズ」よりも常に優先される。

 だが、拓矢(タクヤ)舞桜(マオ)は、その逃亡を許さなかった。ふたりは訓練された動きで、左右から琴葉(コトハ)の両肩を鉄の檻のように掴み、図解の前から一歩も動かせない。

「先輩?」「琴葉(コトハ)さん?」

 拓矢(タクヤ)舞桜(マオ)が発する、「説明責任を果たせ」という無言の圧は強い。

「チックッショー! おやきが呼んでるのよ!」

 琴葉(コトハ)は、「合理的な諦念」をもって天を仰ぎ泣き叫んだ。そして、渋々ながらも、防衛技術者としての論理を吐き出す。

「いいわよ、言ってやるわよ!」

 琴葉(コトハ)は、怒りのノイズを乗せながら、そのジェル車軸がもたらす「軍事物流」への影響を、冷徹な数値で語り始めた。

「このポリマー層のおかげで、既存のベアリングに比べ、摩擦抵抗が最大で68パーセント低減する。その結果、ディーゼルエンジンの燃料効率は、最低でも15パーセント向上する。さらに、整備間隔の理論値は、従来の3倍以上に延長できる。特に、砂漠地帯や極低温環境下での運用安定性は、既存技術の4倍だ。グルコマンナンという農産物由来の安価な素材を使うことで、1基あたりの製造コストは、現在の12分の1まで圧縮可能。これは、世界の軍事ロジスティクスを根底から塗り替える、破壊的な論理よ!」

 彼女が示したのは、「低コスト」という「非合理的な素材」から導き出された、「世界のインフラを変える論理」であった。


 琴葉(コトハ)の「破壊的な論理」の吐露に、拓矢(タクヤ)舞桜(マオ)が興奮の声を上げる中、厨房の入り口から、「番長」こと祭谷(マツリヤ)(ユイ)が、香ばしい湯気を立てた皿を手に現れた。

 彼が作ったのは、地域の食文化を無視した、「番長の論理」が産み出したフェイクフカヒレおやきである。具材は、安価な春雨、コラーゲン豊富な鮫の煮凝り、香りの強い葱と椎茸。高級食材の「フカヒレ饅頭」に限りなく近いが、フカヒレは使わず、蒸すという「非合理的な手間」を排し、代わりに香ばしく焼き上げてある。それは、「低コストで最高の満足感」という、彼の「合理的な食の論理」の結晶であった。

「ん? どうして泣いてんだ琴葉(コトハ)さん?」

 番長(バンチョー)は、技術理論の暴力にさらされ、涙と鼻水を流す琴葉(コトハ)に、熱々のおやきを差し出し、素朴な疑問を投げ掛けた。琴葉(コトハ)は、番長(バンチョー)の妻である早苗(サナエ)の従兄弟である山縣(ヤマガタ)政義(マサヨシ)婚約者(フィアンセ)だ。名前呼びにするのも当然だ。

 その「食の温かさ」に触れた途端、琴葉(コトハ)は、極限の論理的緊張から解放され、幼児退行のノイズを発生させる。

「おいじいぃ……ひっく……おやきでぇ、琴葉(コトハ)をいじめるの、だめぇ……」

 彼女は、「技術の冷徹さ」と「空腹のノイズ」に泣き崩れ、番長(バンチョー)の足元に小さく蹲った。

 その非合理な光景を尻目に、カオスは継続する。

 拓矢(タクヤ)舞桜(マオ)は、「幼児退行のノイズ」を「無関係な環境音」としてスルーし、番長(バンチョウ)のおやきに舌鼓を打ちながら、「グルコマンナン車軸」の「馬車運用」について、高度な論理的議論を交わし始めた。

茅野(チノ)さん。このジェル車軸を馬車で運用する場合、熱暴走は考慮しなくていいのか?」

 拓矢(タクヤ)は、煮凝りの深い味わいを噛み締めながら、「熱のノイズ」について問う。

「熱は問題ない。低速運用が基本だし、グルコマンナンの吸熱性は、水冷システムに匹敵する。それよりも、問題は、馬の『非合理的な気分』が、『安定した物流の論理』をどれだけ妨害するか、だ」

 舞桜(マオ)は、「論理的な馬車」に立ちはだかる「動物の感情」という「最大のノイズ」について、考察を深めた。

(ユイ)くん! 舞桜(マオ)斧乃木(オノノギ)が、琴葉(コトハ)をいじめるの、やっつけて!」

 幼児退行する琴葉(コトハ)の、感情的な要請に、番長(バンチョー)は、調理器具の論理しか持たない冷静な人工知能のように棒読みな注意を贈る。

「こら。ダメだろ?」

 その「注意のノイズ」も、技術議論の純粋性を追求する二人には届かない。

「「さーせん」」

 拓矢(タクヤ)舞桜(マオ)は、棒読みな謝罪を放ち、即座に「車軸の論理」へと意識を戻した。

「ああ、もう! 論理の純粋性に、情動を食い散らされるのは、これで終わりだ!」

 琴葉(コトハ)は、「理性」と「食欲」と「技術」の三つ巴の「論理の暴力」に晒され続けた結果、突如として戦闘体勢に戻った。幼児退行は、彼女の精神的な防御反応に過ぎなかった。

 琴葉(コトハ)は、フェイクフカヒレおやきを一口で頬張り、その香ばしいエネルギーを動力源として、戦線に復帰する。

「いい? 舞桜(マオ)さん、斧乃木(オノノギ)!」

 琴葉(コトハ)の目つきが、再び「防衛技術者」の鋭い光を取り戻した。

「このグルコマンナンポリマーは、低コストという究極の論理を持つが、湿度と温度変化に対する弾性の安定性、そして耐久性の論理が未だに証明されていない! 特に、舞桜(マオ)が目指す『循環型物流システム』での長期運用を考えると、3年後の弾性維持率は、最低でも90パーセント以上が要求されるはずよ! その実証データを、黒木くんが持つ『論理的な土台』から引きずり出さない限り、この技術は『夢のノイズ』に過ぎない!」

 彼女は、「論理の実現」に必要な「データのノイズ」と「耐久性の論理」という、最も現実的な課題を突きつけた。


 琴葉(コトハ)が突きつけた「耐久性の論理」という最も重い課題に、一同が息を呑んだ、その瞬間。

「あれ、これあれか? 新型冷凍収穫ワゴンのシャフトじゃねえか……」

 フェイクフカヒレおやきの皿を持つ番長(バンチョー)の目つきが、一瞬にして豹変した。彼の「食」と「流通」に関する「論理の純粋性」が、技術理論の領域へと覚醒したのだ。

 彼が万桜(マオ)のメモから見抜いたのは、単なる「馬車の車軸」ではなく、黒木果樹園(くろきかじゅえん)が極秘で開発を進めている「新型冷凍収穫ワゴン」の核心部品であった。極低温と超高負荷に耐え、メンテナンスコストを極限まで抑えるための「究極の車軸」。

「これ、黒幕(フィクサー)のプロトタイプじゃねえか? 魔王(セイタン)、善きに計らえ」

 番長(バンチョー)は、「食品物流の鬼」として覚醒し、魔王(セイタン)に「真の論理」を図解させるよう指示を出す。

 3D画像が瞬時に切り替わり、二重の層の内側を、さらに1本の車軸が通る、三重構造が追加された。

 番長(バンチョー)は、おやきを一口で咀嚼しながら、琴葉(コトハ)の論理的な指摘を一つ残らず無効化していく。

「ポリマー層は多重だ。うちの水嚢ロープウェイと一緒の多層構造だ。これにより、弾性維持率のノイズは、完全に分散吸収される」

 番長(バンチョー)は、過去に彼自身が携わった「地域貢献の論理」で、この問題に「冷徹な回答」を突きつける。

「もちろん、外周のポリマー層は、回収した冷却水を利用した水冷で冷やす。車軸からの摩擦熱は、テフロンを用いた断熱材で完全に遮断する。これなら耐久性の問題は、論理的に解決済みだ」

 琴葉(コトハ)が論理の全てを絞り出して指摘した「耐久性」と「熱暴走」の課題は、番長(バンチョー)の「流通の論理」によって、一瞬で覆された。彼の「食」を支えるための「食品物流技術への執念」が、防衛大学校の技術者を凌駕する「論理の暴力」として、旧休憩室を満たした。

 琴葉(コトハ)は、再び絶句した。それは悔しさではなく、「論理の完全な敗北」を悟ったが故の無力感であった。

(ユイ)くんがイジメたって政義(マサヨシ)くんに密告(チク)ってやるぅ……」

 「論理の完全敗北」を喫した琴葉(コトハ)は、最後の手段として、「権威のノイズ」に頼るという「非合理な行動」に出た。その呟きは、怨念のノイズを帯びて、旧休憩室に響き渡る。

 その言葉を聞いた途端、「物流の鬼」として覚醒していた番長(バンチョー)の顔色が、一瞬にして青ざめた。彼の「合理性の論理」が、初めて「絶対的な恐怖のノイズ」に支配された瞬間である。

「いや、やめてください。お願いします」

 番長(バンチョー)は、技術理論の全てを賭けても絶対に曲げないはずの「論理の証明」を棚上げにし、真顔で懇願した。その姿は、先ほどまでの「論理の支配者」とは似ても似つかない、ただの怯えた少年であった。

 山縣(やまがた)政義(まさよし)

 万桜(マオ)たち世代にとって、絶対的な上位者として君臨するその名は、「論理」や「情」といった全ての「非合理なノイズ」を無効化する、「究極の権威」であった。「黒き魔王さま」と称される万桜(マオ)でさえ、彼の前では「論理の旗」を降ろし、頭があがらない。

 「権威のノイズ」をちらつかせた琴葉(コトハ)の「論理的な勝利」は、技術的な敗北と引き換えに、「人間関係のノイズ」の領域において、決定的な優位性を確保した。

 拓矢(タクヤ)舞桜(マオ)は、そのカオスな状況を眺めながら、無言の恐怖で、おやきを食べる手を止めた。彼らの「論理」は、「人間社会のノイズ」の前では、いかに無力であるかを、改めて痛感させられたのであった。


『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をお読みの地球の皆様へ!

いつも拙作『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をお読みいただき、本当にありがとうございます!

物語の中で、「魔王」こと黒木万桜は、時には「水嚢の川」で災害に立ち向かい、時には中古スマホを活用したクローズドネットワークなんて突拍子もないアイデアまで生み出しています。

実は、この物語には、万桜のそんな「もしかしたら、これって本当に役立つかも?」と思えるような、たくさんのアイデアが散りばめられているんです。読者の皆さんも、「これ、面白い!」「こんな風に使えるんじゃないか?」なんて、閃いたことはありませんか?

地球のみんなぁ~! オラに「★」をわけてくれーっ!

もし、この物語を読んで、少しでも「面白い!」「次の展開が楽しみ!」「万桜のアイデア、イケるかも!」と感じていただけたなら、どうかページ下部の【★★★★★】ボタンをポチッ!と押して、星評価を分けていただけないでしょうか!

皆さんのその「★」一つ一つが、作者の大きな励みになり、万桜の次の「魔王案件」へと繋がるエネルギーになります!

引き続き、『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をどうぞよろしくお願いいたします!

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