黒き魔王の電気マキビシ
前書き
二〇一九年四月下旬。その文明シフトは、大都市のラボでも、国家の軍事基地でもなく、甲斐の国大学の片隅から始まった。
超低価格で世界を覆す「パーソナルスーパーコンピューター(PSC)」の実現を目指す学生ベンチャー、「セイタンシステムズ」。彼らが開発したのは、人工知能魔王が制御する空中通信中継基地、すなわち立体パラグライダーであった。
実験の目的は、落雷や転落といった『自然の非合理性』を、『論理の暴力』で完全に無力化すること。その背後には、「獣害によって食い荒らされた実家の桃畑を守る」という、極めて個人的かつ非合理な怒りが存在していた。
究極の技術は、「電気マキビシ」や「投網キャノン」といった、ローカルな復讐のための兵器へと転用されていく。
黒木万桜の「論理の純粋性」は、リーゼントの番長が持ち込む『山の神の論理』や、白井勇希が持つ『愛の制裁』によって、絶えず揺さぶられる。そして、彼らが創り上げた技術は、『航空法』や『都市計画』といった、社会の硬い『常識のノイズ』をもねじ曲げ始める。
これは、「究極の合理性」が、「人間の非合理な日常」と出会い、世界を変革していく、異形の物語である。技術の論理か、それとも人間のノイズか。どちらが、世界の論理を最適化するのか。
2019年4月下旬。
甲斐の国大学のキャンパスの一隅、旧休憩室の建物の前に広がる空き地は、普段は学生たちの憩いの場にもならぬ、寂れた空間であった。しかしこの日、その空は異様な緊張を帯びていた。
中央には、三枚翼の透明な立体パラグライダーが、試験飛行用の安定ワイヤーで繋がれている。これこそが、安価な通信インフラ革命の要、人工知能が制御する空中通信中継基地だ。
そして、この中継基地の更に数百メートル上空には、もうひとつの黒い影が静止している。
それは、中継機本体を落雷の脅威から守るために特別に設計された、「雷光吸収ドローン」であった。
「中継基地の安定性は既に論理の内で証明されている」
黒木万桜が、視線の先を見据えながら、淡々とした口調で語る。
「問題は自然の非合理性。即ち、雷と、転落による地上の被害だ」
通信中継基地の安全対策は、三重構造になっていた。
まず、飛行制御を担う小型ドローン群の冗長構成。次に、姿勢制御が完全に破綻した際のパラシュートの冗長構成。そして、万桜が「駄目押し」と呼んだ、機器を包む複数のエアバッグの展開システムだ。
「まあ、上手くいくと思うぜ? 通信中継機自体がドローンを冗長構成で装備してあって、尚且つパラシュートも冗長構成で装備。駄目押しに複数のエアバッグを展開してやりゃ、万が一の機器落下時にも、一切の被害は出ねえ」
万桜は、落雷対策について付け加える。
「そして、その更に上空に配置した雷光吸収ドローンが、雷の脅威を物理的に無力化する」
雷光吸収ドローンは、通信中継機を守るために、雷雲の電位差を感知すると、超高強度の炭素ナノファイバー製の極細フィラメントを水平方向に多層で展開する。これにより、一点集中するはずの雷撃のエネルギーを、広範囲に分散させて受け流すのだ。雷を安全な場所へ誘導する従来の避雷針とは異なり、その巨大な力を「いなす」ことによって、雷の「怒り」を消滅させる、万桜の論理の結晶であった。
「この簡易通信網構築のネックは安全性だ。落雷による機器の破損は回避した。あとは機器の転落による危険性の除去だ」
万桜は、自分の考案した多重安全装置を改めて確認する。ドローンによる飛行と、パラシュートによる転落防止だけでは、満足出来ず、機器自体を複数のエアバッグで包み込む方式を採用したのだった。そのエアバッグは、魔王AIが計算した落下速度と衝撃角に基づき、着地寸前で最適な配置、最適な速度で爆発的に膨張する。
「まあ、やってみましょう」
実験に立ち会っている北野学長が、眼鏡の奥で目を細めた。彼にとっては、未来の技術を見ているというより、非合理なほどに完璧を期す若者の偏執的なまでの合理性を見ている気分だった。
万桜は、人工知能魔王に、短く命じた。
「魔王、善きに計らえ」
その直後、指令を受けた魔王は、立体パラグライダーを制御する冗長ドローン群のうち、あえて中核となる2つのドローンのプロペラ回転数を瞬時に停止させた。
機体は、設計限界を超えた激しいトルクと風圧の非合理性に晒され、バランスを崩す。通信中継基地は、約100メートルの高度から、甲斐の国大学の空き地へと、急速な落下を開始した。
秒速数十メートルの落下の中で、魔王AIの論理回路は、一秒間に10億回を超える演算を完遂する。冗長構成のパラシュート展開、機体の回転速度、風速、そして着地点の土壌の硬度。
地表から約3メートル。
パラシュートが開くと同時に、「転落防止のエアバッグ」が閃光のように、四方八方へと正確に展開された。その爆発的な膨張によって、機体は空中で一瞬静止したかのような錯覚を生じさせ、柔らかく、静かに、地面に落ちた。まるで、巨大な綿菓子が落ちてきたかのように。
「ふむ」
北野学長は、ただひとこと、感嘆の声を漏らした。それは、万桜の「論理の暴力」に対する、素直な敗北宣言であった。
「一切の被害は出ませんでした。論理的に見て、最適な結果です」
万桜は、成功にも関わらず、表情ひとつ変えずに言い放った。彼の隣で、この一部始終を見ていた勇希は、ただ微笑んでいた。
「万桜の論理は、いつも完璧だからな」
「ところで黒木くん。陸上自衛隊の協力もあって、高高度気球は利用させてもらっています。この立体パラグライダーでの空中通信中継基地を設置する理由はなんですか?」
北野学長の素朴な疑問に、黒木万桜は間髪入れずに答えた。
「獣害の予防です」
そう言って、万桜は通信端末で撮影した実家の果樹園の写真を提示した。その目は怒りに戦慄いている。
画面に映し出されていたのは、最盛期を迎えようとする4月下旬の桃畑であった。たわわに実るはずの若い桃の果実は、ほとんどが無残にも地面に散乱していた。新緑に萌える枝葉は、力任せに引き裂かれ、折られており、畑の土には、巨大な熊の足跡と、泥に塗れた猪の鼻掘り跡が、いくつも残されていた。特に、桃の木は幹に鋭い爪痕が深く刻まれ、樹液が滲み、まるで生きたまま皮を剥がされたかのような痛々しい姿を晒している。
「熊だろうが熊だろうが猪だろうが、黒木家の墾田永年私財法を脅かすヤツは許さねえ!」
万桜の口調は、技術者の冷静さを完全に失い、故郷の土地を守る農民の純粋な怒りに満ちていた。その怒りに戦慄く万桜に、北野学長と白井勇希は苦笑する。
北野学長は、苦々しい面持ちで言った。
「う~む。過疎化が進み、高齢化で手入れされなくなった農地が、獣たちの『自然の狩り場』に変わってしまうのは、現代の日本の農家が抱える、最も深刻な問題のひとつですね」
勇希もまた、眉をひそめて付け加える。
「農家は、収穫を前にして、この被害を見るのが一番辛いんだ。農作物を作ることよりも、獣害を防ぐことに、多くの時間と労力を費やすんだから。それがまた、『老い』というノイズで身体が動かないとなると……」
万桜は、「老い」という言葉に、再び論理のスイッチが入ったかのように、表情を引き締める。
「だから、この通信中継基地で、広域かつリアルタイムでの獣の行動追跡を行う。そして、奴らの非合理な侵入を、この論理の暴力で完全に排除する」
万桜は、テーブルの上に広げられた開発中の試作品を、次々に提示し始めた。
「これは電気マキビシです」
万桜が取り出したのは、見た目は極めて安価な、市販のジョークグッズのような黒いプラスチック製マキビシであった。しかし、その内部には莉那が開発した高性能の静電気発生装置が組み込まれている。
「獣害予防でよく使われる電気柵は、設置と維持にコストがかかりすぎるというノイズがある。この電気マキビシは、動物の足が触れた瞬間、動物には痛みが走るが、細胞を傷つけるには至らない、最適な周波数の静電気を瞬時に放電する。これにより、獣たちはその場所を『非合理な痛みのある場所』として認識し、接近を阻む」
万桜の口もとが、怨敵たちの怯える姿を思い浮かべて歪む。
「これはビリビリコロコロドローンくん」
次に万桜が取り出したのは、全面が柔らかい緩衝材で覆われた、バスケットボールほどのサイズの球体ドローンであった。人工知能魔王AIが制御するこのドローンは、獣の接近を上空の中継基地から感知すると、地面を転がりながらその獣へと突進する。
「熊や猪は、予測不能な動きをする小さな物体を嫌うという行動のノイズがある。このドローンは、接近と同時にボディ表面から断続的に静電気を放出し、『触れると痛い、予測不能な物体』として、獣にトラウマを与える。さらに、農作物を荒らす際、身体をこすりつけていく獣の習性を利用して、奴らに静電気を『お土産』として持ち帰らせ、巣の周辺をも非合理な痛みのある場所として記憶させる」
そして、万桜は極めつけを取り出す。彼の最終兵器は、巨大な円筒形の金属製キャノンであった。
「これは投網キャノンです」
そのキャノンの内部には、細かく折り畳まれた超軽量の捕獲用投網が装填されていた。
「従来の投網は、人手で投げる『力と技術のノイズ』がある。このキャノンは、その投網を、ベルヌーイの定理で増幅させた超高速の風で吹き飛ばす。投網の展開は、風の流速と投網の形状が織りなす揚力によって最適化され、数百メートル先の獣を正確に捕獲する」
その装置は、一瞬で投網を広大な範囲に展開させ、獣を逃がさないという、論理的な完璧さを誇っていた。
「そして、捕獲した獣は、泥抜きして太らせて食ってやる!」
万桜は、獣害のノイズを食資源へと変換するという、究極の合理的な結論を、満足気に言い放った。
「と言うか、万桜…これ、対決する気満々だよな?」
勇希が呆れたように、新開発された獣害対策の武器――電気マキビシ、ビリビリコロコロドローンくん、そして投網キャノン――を眺めながら指摘した。
「あったりめえだ! ウチの桃、食い散らかしやがって! タラフク食わせて、太らせて、熊の手の満漢全席にしてやんぜ!」
万桜は、実家の桃を蹂躙された怒りに我を忘れ、野生的な獰猛さで吠えた。彼の目には、もはや科学者の冷静さはなく、復讐の論理しか映っていなかった。
「「やめなさい」」
北野学長と勇希が、異口同音に叱りつけた。勇希は、その鋭い手刀で、万桜の頭に「愛ある制裁」を叩き込む。
「せっかく4メートルのロボットがいるんだから、それで追い払えばいいでしょ?」
そう言って声をかけてくるのは、CEOである舞桜であった。彼女の視線は、「マカロニ・テンダー・アンドロイド」の技術の、最も単純かつ原始的な『物理的な暴力』としての活用法を指し示していた。
「秘匿するから使えねえじゃん」
万桜は唇を尖らせる。せっかく究極の技術で大型ロボットを作ったというのに、「軍事機密」という非合理性によって、「実家の桃畑を守る」という最も緊急性の高いタスクに使えないことが、悔しいらしい。
「まあ、熊よけグッズとしては、有効だと思うわ。魔王、善きに計らえ」
舞桜は、「熊を追い払う4メートルの人型兵器」という、その『論理的な非合理性』を楽しみながら、人工知能魔王に特許出願書類の作成を丸投げする。彼女の頭の中では、既にこの「熊よけロボット」が、「広域農地警備用自律型警戒システム」として、数億円の価値を持つ製品として再定義されていた。
「熊の手って美味しいの?」
莉那が、話題の中心である「熊の手の満漢全席」について、舞桜に無邪気に尋ねた。彼女にとって、この熊の掌は、倫理や技術ではなく、単なる『未知の料理』のジャンルであった。
「まあ、満漢全席の『満』を名乗るだけあって、乾燥させて臭みを抜いた掌の腱を、アワビやフカヒレ、ナマコと一緒に、5日以上かけて煮込む『時間のノイズ』を極限まで投入した料理よ」
舞桜は、超お嬢さまとしての経験に基づき、その『非合理的な料理』の全工程を、冷静に解説する。
「肉というよりは、『コラーゲンの塊』の食感で、特に珍しい『食の論理』はないわ。あたしは少食だから、量のが多すぎて、向かないわ」
舞桜の、「希少性」や「味」よりも「コスト」や「量」で論理を組み立てる解説に、莉那は苦笑する。
「まあ手を食べたいって思わないなぁ」
莉那は、「手」という『人間に近すぎる部位』を食べることに、生理的な嫌悪を感じていた。
しかし、その会話を聞いていた白き勇者、勇希が、その非合理な料理に『純粋な興味』を示してしまった。
「熊の手か……」
彼女の脳裏には、高脂肪・高糖分のフードワゴン群を平らげた『食欲のノイズ』が、再び起動し始めていた。
「おい万桜、熊を退治するなら付き合うぞ?」
勇希は、「共存」という建前を瞬時に「狩猟と食」という『本能のノイズ』へと書き換え、目を輝かせた。
「マジで? さっすが勇希だ。信源郷町の白き姫姉さまだぜ!」
万桜は、「熊の手」という『究極の食の論理』を共に追求してくれる勇希の非合理な献身に感動し、ふたりはノリノリになる。「獣害対策」という『公共の論理』は、既に「個人的な復讐と食欲の論理」へと変質していた。
「「「やめなさい!」」」
周りのみんなに、「論理の暴走コンビ」は叱られる。その声は、北野学長、舞桜、莉那の三人の異なる周波数の叱責が、「人類の最後の良心」として、休憩室の空気に木霊したのであった。
番長が、魔改造された給湯室、と言うよりもはや番長専用厨房と化した空間から、大きなボウルとトレイを持って現れた。完璧なリーゼントは崩れることなく、その手つきは、荒々しい見た目とは裏腹に、極めて繊細であった。
「おう。こいつを食ってみろよ」
そう言って差し出してくるのは、透明なガラスのボウルに美しく盛り付けられた桃のフルーツポンチだった。炭酸の泡が微かに弾け、甘く芳醇な香りが旧休憩室に広がる。
しかし、そのフルーツポンチに入っている桃は、驚くほど少なかった。
「黒幕。今年は豊作になるぜ」
番長は、その『少量の桃』が入ったボウルを差し出しながら、「豊作」という、現実の論理とは真逆の言葉を嘯く。
「どこがだよ? 辛うじて食える桃、これしか残ってねえじゃん?」
万桜は、『熊の暴力』によって無残に食い荒らされた、畑の現実を突きつける。ボウルの中の桃の欠片は、まさに「残された論理的な残滓」のように見えた。
番長は、その少量の桃を指し、力強く語り始めた。
「御井神神社じゃ、獣害は山の神の供物と解釈してるんだ。畑の作物は、もともと山の神さまからの分け前ってことでな」
彼は、「被害」というネガティブなノイズを、「神からの恩恵」という究極の『精神的な好転思考』で再定義する。
「そしてな、こうして山の神さまのお下がりをいただくと、その年の山の幸が豊作になる、と言われてる。まあ、開き直りに過ぎねえが、俺たちは、そうやって鋼鉄の好天思考を炸裂させてやってきたんだ」
番長は、論理や科学では解決できない『非合理な現実』に対して、『文化と精神論』という、もうひとつの非合理な対抗策を提示した。
「墾田永年私財法は?」
番長が、万桜の「論理的な土地所有権」を揺さぶる言葉を投げ掛けると、万桜は顔を歪ませた。
「諦めねえ! ちぇー、わかったよぉ。山の神さまのお供えってことで割り切るよぉ」
万桜は、「不屈の精神」という墾田永年私財法の理念で割り切った。
彼は、「復讐」の論理を「恩恵の享受」という形に歪ませながらも、差し出された『黄金色の桃の残滓』を口にした。
「うめぇ……」
一口食べた瞬間、万桜は低く呻いた。残ったわずかな桃は、極限まで熟しており、凝縮された甘みと酸味が、口の中で爆発する。
「まあ、獣害が事前に察知できることも重要だ。父さんに話を通しておくよ」
勇希は、そう言って、立体パラグライダーという『空中通信中継基地』を、甲斐の国大学の空で運用するための、法的手続きについて詰めることにした。実際には、市議会議員である父親の泰造に丸投げするだけだが、その行動は迅速であった。
「空中通信中継基地を、学生ベンチャーが運用するなんて、既存の航空法や電波法にとって、『論理的なバグ』でしかないな」
勇希は、万桜の論理が作り上げた『非合法スレスレの現実』を、『法のノイズ』へと変換し、父親に処理させる。彼女の論理では、「最速で問題解決できる手段を選ぶ」ことが、最も合理的な判断であった。
「特に、ドローンとパラシュートで冗長構成を組んでいるとはいえ、あれは『無人航空機』なのか、『気球』なのか、『単なる通信設備』なのか、法的な定義が混沌としている。このまま運用すれば、行政指導が発生し、システムが停止する」
勇希は、泰造に電話をかけながら、「前例のない技術」を「既存の法体系の枠組み」に無理やり押し込めるという、最も非効率な作業を開始した。
「まあ、重要よね。でも、これがあれば、人工知能が御者を担う馬車運用も現実味を帯びるわね」
舞桜もまた、父親代わりである大手ゼネコン社長の兄である淳二に、魔王案件のひとつを丸投げしている。それは、立体パラグライダーによる『広域監視と通信網』を前提とした、コンポストを配置した郊外仕様の道路設計についてだ。
「馬車よ。車線なんて要らないわ。コンポストで生成したメタンガスをエネルギー源とし、家畜の排泄物を肥料として還元する、究極の『環境ノイズを排除した循環型物流』」
舞桜の構想は、「自動車」という『非合理な化石燃料依存のノイズ』を排除し、「馬車」という『論理的な循環型システム』で代替しようという、冷徹な論理に基づくものであった。彼女の兄、淳二は、この「馬車による近未来の道路設計」という、『時代錯誤と未来志向が混在したノイズ』を、都市計画の専門家たちに押し付けられることになる。
「ここみたいな村なら、車よりは馬車だよねー」
莉那は窓の外の景色を見やって、そう宣う。彼女の視線の先には、細く曲がりくねった農道が、山の麓まで続いていた。
「だって、車はコストが多すぎるもん。馬車なら、『食料と馬糞の処理』というシンプルな論理に集約できる。そして、その糞すらも、『肥料という資源』に還元できる。究極の合理性だよね」
莉那は、純粋な技術的視点から、「馬車」こそが、この「田舎の論理」における最適解であると断定した。
こうして、万桜の生み出した「論理の暴力」は、『法』と『都市計画』という、最も硬い『社会のノイズ』を、娘たちの父親という『個人的なリソース』を使って、ねじ曲げていくのであった。
「この電気マキビシは有効じゃねえか? 熊にあったら逃げることが第一だ。これなら逃げる時間が稼げるぜ」
番長は、テーブルの上のジョークグッズめいた黒いマキビシを指差し、その『論理的な防御力』を主張した。彼の論理は、「獣との対決」から「人間側の生存戦略の最適化」へと切り替わっていた。
「ああ。黒木くんの論理にしては、珍しく常識的だ」
北野学長は、手を打って感心する。
従来の獣よけ対策は、爆竹や鈴といった音による威嚇が主であったが、獣が音に慣れてしまうと、その効果は激減するという『学習のノイズ』があった。
「でも、このマキビシは違う」
万桜が、その常識的な論理の『論理的な暴力性』を説明する。
「獣がこのマキビシを踏んだ瞬間に発生する静電気は、『予期せぬ痛み』という『非合理な恐怖』を、『足の裏の感覚』という原始的な部位に直接刻み込む。しかも、その痛みは『生命を脅かすほどではない』という最適化されたレベルに設定されている。獣はパニックを起こすことなく、ただ『ここは痛くて不快な場所だ』という論理を脳にインプットする」
そして、最も重要なのは、その「時間稼ぎの論理」であった。
「熊が電気マキビシの群れを踏み荒らしている間に、人間は安全に逃走する『0.6秒の猶予』が生まれる。この『0.6秒のノイズ』こそが、人間の生命の『生存の論理』を成立させる」
舞桜は、「逃走のための論理」という常識的な戦術を、静かに評価した。
「熊の『思考の一時停止』を引き起こすという点で、非常に有効なハックね。しかも、マキビシ自体が安価だから、『広範囲への散布コスト』というノイズも低い」
莉那もまた、技術者としてその合理性を認めた。この電気マキビシは、「獣害対策」という大きなテーマを、「個人の生存」という小さな論理へと最適化することに成功していた。
『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をお読みの地球の皆様へ!
いつも拙作『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をお読みいただき、本当にありがとうございます!
物語の中で、「魔王」こと黒木万桜は、時には「水嚢の川」で災害に立ち向かい、時には中古スマホを活用したクローズドネットワークなんて突拍子もないアイデアまで生み出しています。
実は、この物語には、万桜のそんな「もしかしたら、これって本当に役立つかも?」と思えるような、たくさんのアイデアが散りばめられているんです。読者の皆さんも、「これ、面白い!」「こんな風に使えるんじゃないか?」なんて、閃いたことはありませんか?
地球のみんなぁ~! オラに「★」をわけてくれーっ!
もし、この物語を読んで、少しでも「面白い!」「次の展開が楽しみ!」「万桜のアイデア、イケるかも!」と感じていただけたなら、どうかページ下部の【★★★★★】ボタンをポチッ!と押して、星評価を分けていただけないでしょうか!
皆さんのその「★」一つ一つが、作者の大きな励みになり、万桜の次の「魔王案件」へと繋がるエネルギーになります!
引き続き、『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をどうぞよろしくお願いいたします!




