黒き魔王のホバーカーとホバー馬車
前書き
2019年1月下旬。甲斐の国大学の旧休憩室。
ここは、既存の物理法則と経済の常識が、天才たちの「劇物」的な発想によって、毎日、崩壊と再生を繰り返す秘密の研究拠点だ。
この日、議題に上がったのは、高水圧養殖システム「陸の海」の余剰予算。社長である舞桜が守ろうとする「公共事業の1億円」という枠組みに対し、万桜は「文明の慣性」を破壊する二つの計画、すなわち「昇華ガス式ホバーカー」と「AI御者ホバー馬車」を提案する。
車重と摩擦という二大抵抗をキャンセルし、過去の文明を苦しめた「馬糞問題」にLDSと人工知能で終止符を打つ。
地方のインフラから都市の物流まで、すべてを再設計しようとする彼らの議論は、最終的に「ファミコン」ならぬ「ゼネコン」への丸投げという、あまりにも壮大で、あまりにも脱力的な結論へと着地する。
2019年1月下旬。甲斐の国大学、旧休憩室にて
旧休憩室は、昼間の喧騒とは無縁の、薄暗い静寂に包まれていた。テーブルの上には、佐伯が持ち込んだノートパソコンが置かれ、「陸の海」システムの最終シミュレーション結果が3Dモデルで表示されている。
「魔王さま、これだけあれば充分だ」
佐伯が、画面を指差す。彼の専攻は建築、特に構造物の耐久性だ。
「上下左右、そして前後を昇華ガスで囲み、エアバッグの圧力を相殺する二重構造。内側にかかる水圧を、外側からのガス圧で完全にキャンセルできてる。外壁の鉄骨にかかる負担は、想定よりも89パーセント低減した。これなら、極端な話、鉄筋コンクリートでなくとも、強化プラスチックのケースでさえ耐えられる」
佐伯は、この万桜の発想が、自身の持つ建築の常識を根底から破壊したことに、いまだ戸惑いを覚えている。
「これくらいありゃいいんじゃねえか魔王さま」
万桜が、佐伯の言葉を受け取った。
「サンキュー佐伯くん。魔王、善きに計らえ」
万桜は、人工知能アシスタント「魔王」に、シミュレーション結果から必要な初期予算を算出させる。
「試算完了。シミュレーション結果に基づく必要経費は、設備費、人件費、ドライアイス製造費を含め、8千3百万です」
人工知能アシスタント、魔王の無機質な声が響く。
「億いってねえな」
番長がポツリと呟く。万桜はガシガシと髪を掻き毟り、
「いいじゃねえかボッチ! 安く済むんだからよ」
嘆くように舞桜に投げるが、
「駄目よ。今回の予算は1億。公共事業なんだから、みんなに行き渡るように設定しなさい」
舞桜は、頑なに取り合わない。彼女の哲学では、「淀んだ資本」は市場に流し込まねばならないのだ。
が、これがイケなかった。頬を膨らませた万桜は、ふと気づき、獰猛に嗤う。
「じゃあよ、この前に言ってた空飛ぶ車、作ろうぜ?」
万桜の発言に、室内の空気は一瞬で凝固した。
「歩哨に立ちます!」
佐伯は即座に、室内から緊急退避し、旧休憩室の入口に直立不動の姿勢で立った。防衛大の佐伯にとって、「空飛ぶ車」という単語は「絶対に対応不可能」な劇物なのだ。
「今日はナマズいってみるか?」
番長は、魔改造給湯室に立って、優等生へと変化したナマズの調理に取り掛かる。番長の哲学もまた、「目の前の劇物から目を逸らす」ことだった。
逃げ遅れた舞桜は、テーブルの端で青い顔をしている。
「くっ、こ、殺せ…」
リアルクッコロである。
「いや、おまえの兄ちゃんに殺されるわ」
万桜は嘆息し、頭の中の巨大な設計図を舞桜に叩きつけるように語り始めた。
「聞いてくれボッチ。『陸の海』で使った昇華ガスの圧力相殺のアイデアを、そのまま車に持ち込むんだ」
万桜は立ち上がり、ジェスチャーを交えながら説明する。
「車の底に二層のエアバッグを仕込む。内側を昇華ガスで膨らませて車体を地面から浮かせ、外側は、その内側の膨張力と同じ圧をかけて、内側のバッグが破裂しないように圧力を固定する」
「だから、膨張そのものは相殺できないわ。物理学的にありえない」
「違う! 膨張そのものは相殺しない。昇華による膨張エネルギーを、永久に、無限に固定するんだよ」
万桜は、人差し指を立て、空中の一点を指した。
「ドライアイスが昇華してガスになると、それは単なる『運動エネルギー』になる。そのガスを密閉空間に閉じ込めれば、そのエネルギーは『圧力』という形に変換されるだろ?」
「ええ、それがどうしたの?」
「その圧力を、二重のエアバッグと、それを囲む高強度の車体フレーム全体で受け止め、外部に漏らさない。つまり、昇華によって生まれた巨大な膨張エネルギーを、外部の鉄骨が完全に閉じ込め、永久機関のような『浮力』として固定するんだ」
万桜は、その天才的な発想に、自ら熱狂した。
「そうすれば、一度昇華したガスは、昇華後の体積を保ったまま、車体を無重力に近い状態に浮かせ続ける。エネルギーの再投入はほとんど必要ない。車重の99パーセントは、このエアバッグと昇華ガスの固定圧で負担できることになる」
「ちょ、ちょっと待って! それって、車体を浮かせたまま、無数のトラックボールで路面を転がるってこと…」
「そうだ! 路面との摩擦は、無数のトラックボールによる『点』の転動になる。車重という垂直方向の抵抗がゼロに近いから、推進に必要なエネルギーは、空気抵抗とトラックボールの転がり摩擦の極々小さな分だけで済むんだ!」
万桜の瞳には、すでに空を滑る無数のホバー自動車の群れが見えていた。
「そうなれば、エンジンの役割は、路面を掴むタイヤによる方向制御と、空気抵抗を押し返すための最小限の推進力だけでいい。たった数キロワットの出力で、この車は時速数百キロを出せるようになる!」
舞桜は、万桜の天才的な「エネルギーの固定」という発想に、寒気を感じた。
「エネルギーを固定し、摩擦をキャンセルする…そんなもの、『文明の慣性』を破壊する劇物よ!」
しかし、彼女のビジネスセンスは、即座にその価値を弾き出す。
「1千7百万をホバー自動車に回すなら、あたしを殺すのは黒木ではなく、世界中の自動車メーカーね…」
舞桜は、1億という公共事業の予算枠を、世界の交通網を破壊し尽くすための起爆剤として、万桜に渡すことを決意した。
「って、あまった予算で文明を動かすんじゃないッ! でも、固定はできないけど、擬似的に固定させることはできるわね」
舞桜は、不意に社長業を放り捨てて、表情が学徒のそれとなる。彼女の経営者としての本能は1億を公共事業に回せと言っていたが、技術者としての魂が、万桜の「劇物」的アイデアの前に屈服した。
「昇華ガスの供給と、定期的な排出だ。さすがはボッチ、気づいたな?」
万桜は悪戯っぽく笑い、先ほどまで髪を掻き毟っていた苛立ちを消し去る。
「永久固定なんて、熱力学の法則を無視する永久機関と同じ。熱効率100パーセントの夢物語だ」
「ええ。でも、その膨張エネルギーを、外部の抵抗ではなく、『時間』という形で固定することはできる」
万桜は、ホバーカーのシステム図を空中に描き出すように、身振りを加えた。
「俺たちが目指すのは、『エネルギー再投入の頻度が、無限大に低い車』だ」
「具体的には?」
「二層エアバッグによる圧力相殺はそのまま維持する。車体が浮いている状態は、車重という抵抗を無視できている状態だ。この状態を維持するために、ガス圧の極小な低下を、どのように補うかが肝になる」
万桜は、給湯室から出てきた番長が、まな板の上に置いた優等生のナマズを指差した。
「ナマズは浮袋で浮力を調整する。俺たちの車も同じだ。ガス圧が0.1パーセント低下したら、その分だけ、極小のドライアイスをヒーターで昇華させて、圧力差をゼロに戻す」
「つまり、高圧ガスボンベからガスを供給する代わりに、固体のドライアイスを積んで、少しずつ『消費』し続けるわけね。液体燃料のように『燃焼』させるわけじゃない」
「そうだ! 昇華ガスの供給は、圧力維持と極小なエネルギー消費に限定される。車重を支える99パーセントのエネルギーは、すでに固定された圧力が担っている。その維持コストが、極限まで低いんだ」
万桜の興奮が、舞桜にも伝播する。
「その車体を無数のトラックボールで転がす。路面との接触抵抗は、0.01パーセント以下。そして、推進力だ」
「小型のモーターと、それを支える小さなバッテリーで充分になるわね」
「ああ。業務用扇風機ほどの風力と、ラジコンほどの動力だ。エンジンは、空気抵抗を押し返すためと、タイヤによる方向制御にだけ使う」
万桜は、力説する。
「既存の車は、2トンの車重を動かすために、摩擦という、最も巨大な抵抗に打ち勝つ必要がある。俺たちの車は、車重という抵抗を、昇華ガスで物理的にキャンセルする」
「そして、推進を転がり摩擦の極小化に委ねることで、エネルギー消費を劇的に下げられる…」
舞桜の瞳が、青く光った。彼女の計算が、この構想の持つ経済破壊力を弾き出したのだ。
「100リットルのガソリンが、100キロ走るためのエネルギーだとしたら、ホバーカーは同じエネルギーで、5千キロ走る。冗談でしょ?」
「燃費なんて概念は消える。燃料電池もいらねえ。電力の消費も、ほとんどない。車載バッテリーだけで、数十時間は駆動する究極のエコカーだ!」
万桜は、この技術のもう一つの利点を挙げた。
「そして、一番のメリット。制御が楽なんだ。わずかに浮上するだけのハイブリッドな乗り物だから、空飛ぶ車のような複雑な制御は不要だ。タイヤが地面を掴んでいるから、強風でも車体が傾くことはない」
「坂道は?」
「坂道では、浮力を切るか弱める。そうしないと、後ろに後退しちまう。平坦な道や下り坂こそが、この車の真骨頂だ」
万桜は、満足そうに、旧休憩室の天井を見上げた。
「昇華ガスで重力をキャンセルし、トラックボールで摩擦をキャンセルする。エネルギーは擬似的に固定する。この車が走る未来に、燃費なんて単語は存在しない」
「そして、世界中の自動車産業と石油産業が、私たちのセイタンシステムズに膝を屈することになる…」
舞桜は、自分の提案した1億の予算が、人類史上最大の「文明破壊」の引き金になることを確信し、ゾクリとした。
「1億の公共事業費は、みんなに行き渡るわ。交通革命という形でね」
舞桜は、万桜の提案を、正式に受理した。
「だったらよ。馬車でいいんじゃねえか?」
ナマズを河豚に見立てたナマズチリをテーブルに運んできた番長が、一石を投じた。その「ホバー馬車」は、浮いている荷車を馬が引くという、シンプルかつ革命的な発想だ。
「化石燃料が不要であって、昇華ガスのリセットも発生しない。昇華ガスを供給するドライアイスの備蓄だって、車体よりも馬車の方が容易だろう」
番長は、あくまで実用的な視点から、万桜の夢を「古代と未来の融合」という形で着地させた。
「いいね!」
はしゃいだ声で莉那が投げ込む。彼女は、新入社員の面接を終えて戻ってきたところだった。
「途中から聞いてたけど、これってさ、自動運転に革命起きるんじゃない? 浮いている荷車なら、馬の力は推進力に集中できるわ。人工知能御者! 飲酒運転もなくなります!」
莉那の発想は、「馬」という有機的な動力を、「人工知能」という無機的な知性で制御するという、さらなる「文明のハイブリッド化」へと万桜の構想を引き上げた。
「確かに可能性の塊だなこりゃ~」
万桜は、自身のホバーカー構想が、番長の「馬車」と莉那の「AI御者」によって、究極のエコ&安全な交通システムへと進化するさまを、脳内で即座にシミュレーションした。
「佐伯くん飯だよ! 続きは食後だ」
万桜は、室外で直立不動の姿勢を崩さない佐伯を呼び戻して、席につく。
ナマズチリ:落第生たちの饗宴
給湯室改め「番長厨房」から運ばれてきたのは、土鍋から湯気を立ち昇らせる「ナマズチリ」だ。
鍋の中には、昆布と鰹節の澄み切った和風出汁が張られ、その白濁したスープの中には、丁寧に切り分けられたナマズの身が、淡いピンクを帯びた純白の輝きを放っている。
番長が「河豚に見立てた」と言うように、ナマズの身は厚く、その一切れ一切れが、高級な白身魚だけが持つプリッとした弾力性を予感させた。
万桜は、舞桜に、鍋の具材を差し出す。
「食えよボッチ。こいつは、俺たちの『陸の海』が生み出した、もう一つの革命だ」
舞桜は、ナマズの切り身を箸で掴み、口に運んだ。
「………っ」
彼女の目が見開かれる。
泥臭さや鉄の匂いは微塵もない。身は鱸を凌駕するほど繊細でありながら、高水圧環境で鍛えられた繊維が、噛むほどに強い弾力で舌を押し返す。
出汁の穏やかな塩気と、ナマズの清澄な旨味が混ざり合い、それは高級料理店で供される「天然物の極上白身魚」の味わいそのものだった。
「ナマズが……まるでタイみたい……」
舞桜は、文明の破壊者としての万桜の才能だけでなく、「食料の常識」をも覆す、番長の調理技術とシステムの成果に、純粋な感嘆の息を漏らした。
「美味そうだな」
万桜は、ナマズの切り身を口に放り込む。
「佐伯くん。さっきのホバーカーの予算は、この優等生ナマズを、世界中の食卓に届けるためのインフラ整備に使うんだ。馬車にしろ、AI御者にしろ、目指すところは同じだ」
佐伯は、ナマズチリの湯気に顔を近づけ、その芳しい香りを吸い込んだ。室外で立ち尽くし、緊張で強張っていた体が、ようやく解けていくのを感じる。
「……確かに、このナマズチリを味わってしまうと、文明を変えるしかないという気がするな…美味いは正義だ!」
佐伯は、万桜の「劇物」的構想を、この「絶品のナマズ」という最も具体的な成果によって、ようやく受け入れることができた。
彼らの「文明シフト」は、壮大なエネルギー革命であると同時に、人々の日常を豊かにする「食の革命」でもあった。
旧休憩室という、歴史の片隅にある場所で、若き天才たちの「文明と食」を巡る議論は、午後のひととき、ナマズチリの湯気に包まれて、束の間の休息を迎えるのだった。
「問題があるとすりゃ、馬糞だな。昔はどうしてたんだろうな?」
食事の後片付けを終えた万桜が、舞桜に投げ掛ける。
万桜は、自身の「陸の海」システムや多層構造農業が、「排泄物や廃棄物を資源化する」という哲学の上に成り立っているからこそ、このシンプルな問題に立ち止まったのだ。
「ああ、馬糞ね。それはね、黒木。近代都市の成長を一時的に止めかけた、文明の歴史における、極めて大きな問題よ」
舞桜は、自身が考案したAIアシスタント、魔王のデータを引き出すかのように、淀みなく説明した。
「馬車が交通の主役だった時代、馬糞は最初は肥料として非常に価値が高かった。都市周辺の農地で使われていたからよ。排泄物じゃなくて、『資源』だったの」
「ふむ」
万桜が頷く。彼の多層構造農業と同じロジックだった。
「だけど、19世紀末に都市が巨大化すると、このバランスが崩壊するのよ。特にニューヨークやロンドンといった大都市では、馬糞の量が『排出量>処理能力』という、環境破壊レベルに達した」
「どれくらいだよ?」
「ニューヨークだけでも、一日に900トンもの馬糞が排出されたと言われている。都市中が馬糞の山。衛生問題、悪臭、そして乾燥した馬糞が舞い上がって引き起こす伝染病。都市の交通も馬糞で覆われた路面で滞り、誰もが『数十年後には、馬糞が都市を埋め尽くす』と予言した」
万桜は、思わず手に持っていた皿を止める。
「マジかよ……」
「それが、自動車、つまりガソリンエンジンという、馬糞の排出量がゼロの移動手段が、都市のインフラに受け入れられる、最大の社会的な要因になったと言われているわ。馬糞が、人類を内燃機関の時代に押し出したのよ」
舞桜は、「文明の負荷」が「新たな文明」を生んだという、歴史の皮肉を突きつけた。
「なるほどね~俺たちが目指すホバー馬車は、昇華ガスをリセットする必要がある代わりに、馬糞という、人類史が解決に失敗した『文明の負荷』をゼロにするという、究極の解決策か」
万桜は、自身の「食の革命」と「交通の革命」が、いかに密接に絡み合っているかを再認識した。
「つまり、俺たちは、文明が過去に失敗した問題を、新しい技術で解決しようとしているわけだ」
舞桜は、万桜の言葉に静かに頷いた。彼女の表情は、既に次の戦略を練っている社長の顔に戻っていた。
「ええ。ホバー馬車は、排気ガスと馬糞という、過去と現在の二つの公害から、人類を解放する『究極のエコ』になるわ」
万桜は獰猛に笑って、
「極端なんだよ。どいつもこいつも。真面目か? 信源郷町みたいな村なら馬車、甲斐の国市みたいな街ならホバーカー。使い分けりゃいいじゃねえか? 馬糞のタイミング? 人工知能が制御できるし、LDSで常時馬の体積を監視して、コンポストに回収すりゃ資源じゃねえか? 田舎と都市で道路設計を変えんだよ」
呆れ返るように万桜は言い放つ。彼の天才性は、常に「矛盾するものの共存」にこそ、真の効率性を見出す。
「確かに地方の方が、車の事故が多いし、車がなきゃ生活が成立しないわね……」
舞桜は、万桜の提案する「両極端の共存」という、彼の核心的な哲学に深く納得した。社長業という現実を見つめる立場だからこそ、地方が抱える問題の根深さを理解している。
「地方都市にとってのホバー馬車の可能性は、『車がなきゃ生活が成立しない』という、そのジレンマを、根本から解消するわ」
「どういうことだよボッチ?」
「地方の交通問題は、高齢化による事故と、過疎地での高額なインフラ維持費の二つが常に壁になっている。でも、このシステムなら、両方を同時に解決できる」
「ふむ」
「ホバー馬車よ。昇華ガスで車重の抵抗をキャンセルした浮遊式の荷車は、舗装の荒れた農道でもスムーズに動くことができる。つまり、高額な道路の維持・補修コストが激減するわ。インフラの費用対効果が、都市部と同じになる」
「あ~、ペイできる公共事業が、地方でも成立するわけか」
「ええ。そして、サブリナが言った人工知能御者を組み合わせる。トラックボールによる簡単な推進力で済むから、システムは複雑じゃない。これで、高齢ドライバーによる事故や、飲酒運転といった、地方都市の悲劇的な問題が解消される」
舞桜は一息つき、
「自動運転に比べて、馬の力と、馬の『知恵』が加わるから、システムもシンプルで安全よ。まさに、地方創生のための『文明シフト』だわ、黒木」
舞桜は、馬糞の資源化と、事故の削減、インフラ費の圧縮という三位一体のソリューションが、日本の地方が抱える構造的な問題を一気に解決することに気づき、静かに戦慄した。
「都市ではホバーカーで物流の革命を、地方ではホバー馬車で安全と経済の革命を起こす。私たち、いよいよ文明そのものの設計者になろうとしているのね」
舞桜は、目の前で皿を片付ける万桜に、背筋が凍るような畏敬の念を抱いた。
「黒木。あなたって、本当に……」
「なに?」
「劇物よ。最高の劇物だわ」
舞桜は、獰猛な笑みを浮かべた万桜に、心からの賛辞を贈った。
彼は、「すべてを一つで解決しようとする」常識の愚かさを嘲笑する。
「田舎と都市で道路設計を変えんだよ。地方は馬糞コンポストの配置前提で、都市はホバーカーの運行速度優先で、インフラを再設計する」
万桜の天才的な「二元論の統合」の結論に、その場にいる誰もが息を呑んだ。
「で、道路設計の件は、ボッチ。おまえのファミコンに話持ってっといて」
万桜は丸投げした。
「「「ゼネコンな!」」」
舞桜を筆頭に、番長、佐伯の常識組が、三者三様の声で、万桜の耳にツッコミを炸裂させた。
「黒幕、公共事業を担うのは、任天堂じゃねえ! ゼネラル・コントラクター(総合建設業者)だ!」
番長のツッコミが最も鋭く、的確だった。
「魔王さま! 建築のプロとして一言言わせてください。ゼネコンを軽視しないでください!」
佐伯は、万桜の才能には心酔しているが、自身の専門分野だけは譲れない。
「ねえ、ファミコンでゼネコンのゲーム作れば、予算通るんじゃない~?」
莉那は、この極度の緊張感を、エンターテイメントとして昇華させる提案をした。
万桜は、三人のツッコミの集中砲火を浴びながらも、獰猛な笑みを崩さない。彼の頭の中では、既に「ホバー馬車とホバーカーの二極システム」という、新たな文明の骨格が、1億という資金を燃料に動き始めていたのだ。
『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をお読みの地球の皆様へ!
いつも拙作『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をお読みいただき、本当にありがとうございます!
物語の中で、「魔王」こと黒木万桜は、時には「水嚢の川」で災害に立ち向かい、時には中古スマホを活用したクローズドネットワークなんて突拍子もないアイデアまで生み出しています。
実は、この物語には、万桜のそんな「もしかしたら、これって本当に役立つかも?」と思えるような、たくさんのアイデアが散りばめられているんです。読者の皆さんも、「これ、面白い!」「こんな風に使えるんじゃないか?」なんて、閃いたことはありませんか?
地球のみんなぁ~! オラに「★」をわけてくれーっ!
もし、この物語を読んで、少しでも「面白い!」「次の展開が楽しみ!」「万桜のアイデア、イケるかも!」と感じていただけたなら、どうかページ下部の【★★★★★】ボタンをポチッ!と押して、星評価を分けていただけないでしょうか!
皆さんのその「★」一つ一つが、作者の大きな励みになり、万桜の次の「魔王案件」へと繋がるエネルギーになります!
引き続き、『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をどうぞよろしくお願いいたします!




