黒き魔王の初釜
前書き
2019年、新年を迎えた甲斐の国大学元休憩室前。
そこは、人日の節句に似つかわしくない、四メートルもの巨人が鎮座する奇妙な茶室と化していた。黒き魔王・万桜が打ち出した今年の抱負は、あまりにも荒唐無稽なものだった。
「海を建てようぜ?」
内陸の山梨県に、魚を養殖するだけでなく、エネルギーをも生み出す「陸の海」、すなわち「複合発電所」を創るという、文明シフトそのものの構想。
社長である舞桜は「水産学部がない」という現実の正論で天才の暴走を止めようとするが、万桜は「天草の排水で塩を設計する」という「農学の範疇」のアイデアで、その壁を軽々と飛び越える。
さらに、これまでの多層構造農業がわずか数ヶ月で30億円という驚異的な「ペイできる公共事業」として成立した実績が、泰造や北野学長といった大人たちの常識を打ち砕く。
もはや、万桜の構想は「夢物語」ではない。それは、「止められない現実」。
「海建てるわよ」
舞桜の決裁とともに、「内陸文明」のためのエネルギー、食料、そして労働力の革命が、ここ甲斐の国から始動する。
やっと、スサノワ 〜KUNIYUZURI〜が更新できました。
2019年、人日の節句。甲斐の国大学元休憩室前。
一月七日の早朝、澄み切った冬の空の下に、異様な光景が広がっていた。旧休憩室の前に立つのは、身長四メートルはあろうかという巨体。その巨体は、一抱えもあろうかという数枚の板を、まるで紙切れのように軽々と抱えていた。
それは、畳だった。
巨人の動きに合わせて、畳の縁がパサリと揺れる。しかし、その動きは滑らかで、一枚も地面に落ちる気配はない。
「おかしい…! おかしいおかしい…!」
舞桜の悲鳴に、淳二が同調する。
「いや、おかしいやろこれ! どういう原理やねん!」
二人が顔面を蒼白にしている一方で、万桜と莉那は平然としていた。
「え、だって重いじゃん、畳」
万桜は当然のように言う。畳は一枚でも相当な重さがあり、数枚まとめて持とうとすれば、それはもう重労働だ。それを巨人が軽々と持ち運んでいるのは、彼らからすれば「ああ、これなら運べるな」という理屈になるのだろう。
「うん、人日の節句に持ち込むとは、粋な計らいだな拓矢」
勇希は遠い目で、現実から逃避した。
巨人の隣に立つ拓矢が、一仕事終えたように爽やかな息を吐き出す。
「とりま、莉那がやりたがってた初釜には間に合ったぜ」
拓矢の言葉に、巨人はゆっくりと腰を下ろし、抱えていた畳を丁寧に地面に置かれた箱の上に並べていく。その動作は、まるで熟練の職人のようだ。
「畳もロッドロボで縫えたしな」
畳の縁に目を凝らすと、そこには一本一本の縫い目が、正確無比に刻まれていた。
それは、ただの縫い目ではない。ロッドロボが縫った、完璧な縫い目だった。
倉庫の奥に運び込まれたロッドロボは、畳の重さと大きさに合わせて、自らのアームを伸縮させていた。そのアームの先には、万桜が考案した「スマートミシン」の技術が組み込まれている。複雑なロボットアームの代わりに、単純な「押す・引く」動作を繰り返すことで、繊細な畳の素材を傷つけることなく、正確に縫い進めることが可能だった。
人工知能が畳の表面をリアルタイムでスキャンし、ミリ単位のズレも許さない精密さで、針の位置を調整する。巨人は、その人工知能の指示に従い、ただアームを動かすだけだ。
巨人の手とAIの知性が融合し、人間の熟練職人をも凌駕する、完璧な畳が完成したのだった。
藤枝は、モニター越しに、身の丈四メートルの巨人が睥睨する光景を眺めていた。その巨体は、精巧な人形のように静止している。
「逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ」
逃げ出したい衝動を抑えて、藤枝は自分を鼓舞する。モニターの景色に合わせてからだを動かす。巨人が持つ畳に見立てたプレートは、湿った汗で滑りそうだった。
一方で、そんな藤枝の様子を遠巻きに見ていた琴葉は、疲労困憊といった表情で、遠い目をして呟く。
「ほう、勇敢だな藤枝」
その言葉は、まるで他人事のようだ。隣にいる佐伯が、乾いた笑みを浮かべて激励する。
「笑えばイイと思うよ」
しかし、琴葉は首を横に振る。
「ごめん、無理。笑える要素がない」
琴葉が天を仰ぎ、乾いた笑みを浮かべたまま涙を流す。
「チックッショー……」
その時、藤枝が開き直って提案した。
「倉田先輩、魔王さまに聞いてみればどうッスか?」
琴葉の視線が、休憩室の隅で涼しい顔をしている万桜へと向かう。
「そうだな」
琴葉は、諦めにも似た表情で万桜に尋ねた。
「黒木くん。部品が小さすぎて、リアル・RIKAちゃんが上手くできない。なにか、良いアイデアはないだろうか?」
琴葉は、自分の言葉を後悔する前に、万桜の答えを待った。
万桜は、琴葉の質問を少しも意外に思っていないように、なんてことない様子で答えた。
「まず半分のサイズのアンドロイドを作って、そいつを操作して、さらに半分のサイズのアンドロイドを作る。マトリョーシカ工法でイケるんじゃねえか?」
その言葉を聞いた瞬間、藤枝と佐伯は絶句し、琴葉は膝から崩れ落ちた。
常識という名の壁を、天才のひらめきは軽々と飛び越えていった。
藤枝たちが巨人のマトリョーシカ工法に打ちひしがれている一方で、給湯室と呼ばれる魔改造された厨房では、番長がせっせと腕をふるっていた。
ガスコンロの上では、土鍋がコトコトと音を立て、真っ白な湯気の中に、小さく砕かれた米が踊っている。番長は、中華鍋を振るうような手つきで、しゃもじを巧みに操り、米粒が均等に熱と水分を吸い上げるように丁寧に混ぜ続けた。
中華粥に適した米は、水を吸いやすく、粘り気が少ない。番長は、その米の特性を最大限に引き出すように、絶妙なタイミングで鍋をかき混ぜる。
米粒の芯まで熱が通り、トロトロの粥へと変わっていく。
その間に、屋外に展開された野点用の茶室では、莉那が湯の沸き立つ音を聞きながら、器用に茶を点てていた。竹製の茶筅がカシャカシャと音を立てるが、その音に反して、立ち上る茶の香りはごくわずかだ。
代わりに、休憩室の隅まで漂ってくるのは、なんとも言えない芳しい出汁の香り。それは、番長が作っている七草薬膳粥から漂う、滋味深い香りだった。
その香りは、昆布や椎茸の優しい風味と、セリやナズナといった七草のほろ苦さが混じり合い、茶の香りをかき消して、空間を支配する。
莉那は、その香りに顔をしかめることもなく、むしろ心地よさそうに目を閉じた。
その様子を見た舞桜が、ふと哲学的な問いを空に投げかける。
「茶道とは?」
そんな舞桜の問いかけに、茶室から少し離れた場所で、椅子に腰掛けていた万桜が答える。
「いいじゃねえか? 七草薬膳茶粥でも。茶の湯なんて、基本は遊びだぜ」
万桜は、茶の湯の本質を言い切った。
静寂の中で精神を研ぎ澄ます茶道も、仲間と語らいながら楽しむ初釜も、どちらも「茶」という共通の遊び道具なのだ。
人日の節句の即席の茶室は、侘び寂びの「わ」の字もない、奇妙な空間だった。畳の上に七草薬膳茶粥が盛られた茶碗が並び、その向かいには巨人の足元が鎮座している。
万桜は、そんな異様な空間の中心で、茶碗を手に取ると、舞桜に新年の挨拶を丸投げした。
「社長。善きに計らえ」
舞桜は、一瞬呆れた顔をしたものの、すぐに気を取り直して、凛とした声で挨拶を始める。
「皆様、新年明けましておめでとうございます! 今年も一年、どうぞよろしくお願い申し上げます!」
その言葉に、みんながそれぞれの調子で応えた。
淳二が「うす!」と声を張り上げ、勇希は「よろしく」と静かに会釈する。莉那は優雅に微笑み、拓矢は「おー」と気のない返事を返した。
舞桜は、挨拶を終えると、茶粥を一口すすりながら、万桜に話を振る。
「じゃあ、今年の抱負、黒木から。おまえをトリにさせちゃいけない気がする」
万桜は、舞桜の言葉に小さく頷いた。
「田圃も建てたしよ。今度は海建てようぜ?」
万桜の言葉に、その場にいた全員が固まる。舞桜は思わず茶碗を置いた。
そして、万桜は、誰もが理解できないような言葉で、とんでもない構想をぶちまけた。
それは、空気圧縮機を海底に設置し、風力発電で得たエネルギーで空気を圧縮してパイプに送り込み、その圧縮された空気の膨張圧で、巨大なコンクリート製の「箱」の中に人工的に高水圧の環境を作り出すというものだ。
その高水圧の「箱」の中で、熱帯魚から深海魚まで、あらゆる種類の魚を養殖する。
サバの寄生虫は高水圧で死滅し、淡水魚と海水魚を同じ箱の中で飼育できる。
餌は、多層構造農業で作った野菜や米、そして養蚕で得た蚕を混ぜて与える。
魚の排泄物や、飼育中に発生する二酸化炭素は、農業に利用する。
まさに、海を陸上に再現する「陸の海」構想だった。
万桜の言葉は、常識をはるかに超えていた。
人々が、驚きと呆れが入り混じった顔で固まっている中、万桜は美味そうに七草薬膳茶粥を完食した。
硬直する中、勇敢なる白き勇者である白井勇希が、万桜の荒唐無稽な提案に切り込む。
「待て万桜! それはあまりにも…」
勇希の視線が腰をおろした巨人に向く。
「チックッショー」
白き勇者は、天を仰いで、瞳に涙を飲み込ませ、早々に諦めた。
「…あまりにも、コストが高すぎる! 風力発電を動かすロッドロボ、圧縮空気を送るパイプ、そのエネルギーのすべてを、ただの箱に閉じ込めるなんて、採算が取れない! そうだろ?」
万桜は、余裕の表情で勇希に首肯する。
「ああ、正論だ勇希。だから、その箱を、ただの箱にしちゃいけねえ。陸に海を創るなら、その水そのものがエネルギーの貯蔵庫になるよう、箱を複合発電所にするんだ」
「複合発電所だと…?」
勇希は問い返す。
「海水の温度差だ」
万桜は、七草茶粥を一口啜りながら、構想の続きを語った。
「箱の中の高水圧海水を、外部の地熱や、風熱発電で生み出した熱で温める。この温かい高圧海水を、今度は逆に、深層ブライン水や、液化ドライアイスの冷却で冷やすんだ。この温かい海水と冷たい海水の温度差で、熱機関を回して発電する」
つまり、「陸の海」は、魚を養殖するだけでなく、高水圧環境と海水の温度差を利用して、発電までを同時に行う、超効率的な循環型エネルギー施設となる。
「さらにだ。この高水圧の箱は、水が非圧縮性流体である特性を最大限に利用した、究極の蓄電池にもなる。風力発電で余ったエネルギーを水圧という形で貯めておけば、いつでも熱機関を回して電力に変換できる揚水発電の陸上・高圧版だ!」
万桜の言葉は、もはや漁業革命の領域を超えていた。それは、エネルギーと食料の概念を同時に書き換える、内陸文明のための新時代のインフラの提案だった。
「「「諦めないで!」」」
琴葉たち、幹部自衛官候補生たちが、膝を崩した勇希に再び立ち上がれと叫ぶ。
「これ美味いなサブリナくん、番長くん。あ、これ茶の湯やね。結構なお点前で」
淳二は七草茶粥の奥深さに感動し、現実逃避。
「恐縮でござる。拙者も、七草薬膳粥の香りの芳しさと、茶の湯の静寂が、見事に調和していると感じ申した」
優雅な笑みを浮かべ、茶碗を畳に置かれた茶托の上に置いた莉那に、番長が続く。
「へえ、福元。おまえ、そんな言葉遣いもできたのか。いや、七草薬膳粥の米が持つ、自然な甘みと薬膳のほろ苦さが、茶の湯の遊び心をより引き立てている。黒き魔王さまの「遊び心」という言葉は、こういうことだったのだと、深く合点がいったでござる」
番長は、いつもの荒っぽい口調に、どこか古風な言い回しを混ぜて返礼した。
人々が、驚きと呆れが入り混じった顔で固まっている中、万桜は美味そうに七草薬膳茶粥を完食した。
「黒木。おまえは大切なことを見落としている。ここは山梨県の国立大学よ。水産学部も海洋学部もありません」
舞桜は、ど正論を突きつけた。これには、さすがの魔王さまも、
「ぬ、抜かったぁーッ!」
全面降伏するより他にない。が、
「じゃあよ。塩を設計しようぜ?」
万桜は、
「天草とか、県内で加工してるじゃん。あれは寒天や心太の材料だ。それを煮詰めて固める工程で、ミネラルが凝縮した排水が大量に出る」
ただでは転ばない。
「その排水を、内陸の乾燥した気候で、ただ干す。これなら風熱とかでエネルギーを投じる必要もねえ。その副産物として、ミネラルが豊富な塩が作れると思うんだ。これなら農学の範疇じゃねえか?」
舞桜の視線を往なすように、万桜は完璧なロジックを叩きつける。
これには勇希も、
「塩の設計か。確かにそれはありかもしれない。野菜やハーブのミネラルをブレンドしたハーブソルト! いいなそれ!」
食いつく。勇希は料理が苦手だ。手間を省ける魔法の調味料は、大歓迎だった。
「なるほど。斧乃木くん、あなたの視線が物語っているわね」
舞桜は、今度は拓矢に視線を向けた。
「その通りだな茅野さん」
拓矢は、腕を組み、顎に手をやりながら淡々と応じる。
「天草の加工工程で出る排水は、産業廃棄物だ。それを万桜は、『乾燥の適地』という、この土地最大の強みで資源化しようとしている。排水を蒸発させるためのエネルギーコストがゼロになるんだ。漁業ではなく、『加工技術』と『環境工学』の問題だ。これで、陸の海の「塩」は完成だ」
拓矢の解説に、淳二は七草茶粥の茶碗を勢いよく畳に置いた。
「なんや! 魔王さまの海は、発電所で、畑で、ついでに製塩所でもあるんかいな!」
その規格外の事実に、淳二は、もはや笑うしかなかった。
「海つっても魚の養殖は没んなったけどな。でも、その製塩所で造る塩の成分は、俺たちが設計する。それでよしとするよボッチの兄ちゃん」
万桜は、にやりと笑って見せた。その顔は、一瞬前の全面降伏など、まるでなかったかのように、「黒き魔王」の傲岸さで満ちていた。
「諦めちゃうなんて君らしくないね。黒木くん」
そう言って野点用の即席茶室に訪れたのは、甲斐の国大学学長の、北野爽大学長と、
「学部がないなら、連れてきちゃえばいいじゃない?」
勇希の父親である市議会議員の白井泰造だ。
「「よ、余計なことを…」」
舞桜と勇希は、怨嗟の籠もった視線をふたりの大人たちに向けた。
「「「学長。あけましておめでとうございます」」」
万桜と莉那と番長はご挨拶。
「コトヨロ皆さん」
学長の挨拶は軽い。万桜たちに毒されたようだ。
「そんな怖い目で見なさんな勇希、茅野くん。だって、これ使徒じゃん。こんなもの実現させたら共同キャンパスに参加したい大学は増えるさ。さっそく奥州大学から申し出があったばかりだよ」
北野学長は、三角座りして待機する四メートルの巨人を見ながら、事実を告げた。
奥州大学とは、水産学部こそ持たないものの、農学部に「海洋生物科学科」という水産系の専門学科を有し、生物資源の活用や海洋環境の制御に強い。
万桜が主張した「農学の範疇」というロジックは、そのまま奥州大学の得意分野と合致していた。
「勇希から聞いたよ万桜ちゃん。農薬を使わないで、作物の毒素を除ける可能性があるんだって? じゃあ、漁業にも応用が可能だって思ってるんじゃないか?」
泰造が、朗らかな声で挑発するように投げ掛ける。
「ああ、河豚の無毒化なんか有名だよね勇希の父ちゃん」
万桜の魔王にスイッチが入る。
「外敵が居らず、水圧も水温も最適化された環境であれば、魚は勝手に増える。ブラックバスやザリガニが増えたようにな」
勇希と舞桜は、天を仰ぎ、莉那と番長は魔王の構想の先を求め、拓矢たち幹部自衛官候補生たちは、乾いた目をして諦めた。
「まず水圧だ。これはエアコンプレッサーと昇華ガスの力で再現できると思う。同様に擬似的に中空に浮いてる海水は、多層構造物に負荷を掛けない。一反の土地があれば、複数の魚介類が、無毒で、そして天然に近い状態で育てられる」
万桜は、核心を突く。
「高水圧であれば、地上由来の病原菌が活動できねえ。これがこのシステムの成功を約束する証左だ」
万桜は、いったん言葉を切り、
「野菜もそうだが、漁業、養殖業と言えば重労働だ。現状はジジババが身体に鞭打って続けている。でも、藤っち、畳は重かったか?」
万桜は唐突に、四メートルの巨人を操作していた藤枝に投げ掛ける。
「いや、プレートが重いとかねえだろ魔王さま」
藤枝は当然を答えた。
「このマカロニ・テンダー構想アンドロイドがあれば、二酸化炭素濃度が高い密室で引退した高齢者が作業できる。知識も知恵も人工知能が学習できる」
万桜は、その言葉を区切る。
「エルダーワーカーの知恵をデジタルで継承できる。そして、それは漁業や林業でも同じだ」
万桜は、この「陸の海」構想が、食料とエネルギーの革命に留まらず、「超高齢社会における労働力継承の革命」であることを言い切った。
「舞桜。セイタンシステムズの純利益、いくらや」
淳二が唐突に振ると、
「30億よ兄さん。ざっくり計算して30億」
舞桜は投げやりに答える。開業が去年の9月だ。
「泰造、産学連携モデルの予算ってどれだけ使った?」
今度は泰造に投げ掛ける。泰造は苦笑しながら、
「減ってませんよ先輩。だって建てるだけでペイできちゃうんだもん。俺、ペイできる公共事業って初めて見た」
そう答えた。もう笑うしかない。
「せやろな。俺も初めてや」
淳二も苦笑する。
「あと、みんな魔王案件だと、必要以上に張り切るんだよね。多層構造物の建造って、普通どれくらいかかるの先輩。6層の建物が3棟。半月っておかしいって」
泰造は呆れてしまう。人件費が大幅に削減され、
「建材費も余ってるとこから、安く買っちゃうしな。億使ってないやろ?」
淳二の推測に、泰造は頷く。
「じゃあ、海建てるしかないようだね」
北野学長がそう纏めて、社長である舞桜の瞳をジッと見る。
「わかった! わかりました! 黒木、海建てるわよ」
舞桜はやけくそ気味に、決裁する。
「「「やりぃッ! 寿司食べ放題だぜ!」」」
万桜と莉那と番長はガッツポーズ。幹部自衛官候補生たちは、
「「「「いや、稼いでんなら店で食え」」」」
ユニゾンで突っ込んだ。
◆「公共事業が空振りに終わる理由」と「万桜の多層構造農業」
淳二が漏らした「ペイできる公共事業なんて初めて」という言葉の裏には、従来の公共事業が抱える構造的な問題が隠されている。
・従来の公共事業の空振り
一般的な公共事業、特に地方創生やインフラ整備は、しばしば「空振り」に終わる。その最大の理由は、目的が単一で、土地の特性を活かせていない点にある。
★単一目的への過剰投資:
例:「観光客を呼ぶためだけの巨大な施設」や「物流のためだけの新しい道路」など、一つの目標達成のためだけに莫大な予算が投じられる。
その結果、予想外の状況(パンデミック、人口減少)に直面すると、施設はすぐに「負の遺産」、つまり維持費だけがかかる赤字施設となる。
・地域特性の無視と輸入コスト:
地方で農業施設や工場を建てる際、必要な資材や技術、エネルギー源の多くを外部(輸入、他県)に依存してしまう。
これでは、初期投資が地域内で循環せず、ランニングコストも外部に流出し続けるため、持続的な収益を生み出せない。
★万桜の「多層構造農業」がペイする理由
一方、万桜の考案した「多層構造農業」は、これらの問題を天才的な効率性で解決している。
・複合目的による収益の多角化:
万桜の施設は、単なる「畑」ではない。それは、「エネルギー(風力・断熱圧縮)」「食料(米・野菜・家畜)」「資源(製塩・堆肥)」の三位一体の循環システムである。
複数の収益源を持つため、一つが不調でも全体が崩れず、初期投資の回収を極めて短期間で達成できる。
・内陸資源の最大活用:
「風」や「太陽光」といった、甲斐の国の内陸資源をエネルギー源とし、「天草の排水」という産業廃棄物を「塩」という資源に変える。
これにより、ランニングコストと資材の外部依存度を極限まで下げ、地域内での持続的な経済循環を生み出す。
セイタンシステムズが設立後、わずか数ヶ月で30億円という驚異的な純利益を上げられたのも、この「多層構造建築」という公共事業が、「建設費を自ら稼ぎ出し、地域に富を循環させる」という、人類史上初の「自己完結型公共事業」だったからに他ならない。あとは万桜のアホな思いつきに、かなりの面で依存している。
『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をお読みの地球の皆様へ!
いつも拙作『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をお読みいただき、本当にありがとうございます!
物語の中で、「魔王」こと黒木万桜は、時には「水嚢の川」で災害に立ち向かい、時には中古スマホを活用したクローズドネットワークなんて突拍子もないアイデアまで生み出しています。
実は、この物語には、万桜のそんな「もしかしたら、これって本当に役立つかも?」と思えるような、たくさんのアイデアが散りばめられているんです。読者の皆さんも、「これ、面白い!」「こんな風に使えるんじゃないか?」なんて、閃いたことはありませんか?
地球のみんなぁ~! オラに「★」をわけてくれーっ!
もし、この物語を読んで、少しでも「面白い!」「次の展開が楽しみ!」「万桜のアイデア、イケるかも!」と感じていただけたなら、どうかページ下部の【★★★★★】ボタンをポチッ!と押して、星評価を分けていただけないでしょうか!
皆さんのその「★」一つ一つが、作者の大きな励みになり、万桜の次の「魔王案件」へと繋がるエネルギーになります!
引き続き、『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をどうぞよろしくお願いいたします!




