白き勇者の叫びと黒き魔王の立体凧
前書き
新年の賑わいが遠のいた、静かな神社で再会した幼馴染たち。
酔いに任せた勇希の告白が、万桜の誤解を解き放ち、彼らの間にあった見えないわだかまりが、雪解けのように溶けていく。
そして明くる朝。
黒木家の離れで、勇希と舞桜は、過去の思い出と現在の感情を静かに分かち合っていた。
しかし、そんな静寂を切り裂くように、庭からは万桜の元気な声が響いてくる。
彼は、常識を覆す奇想天外な発想で、周囲の人々を巻き込み、時には呆れさせながらも、彼らの日常を豊かに彩っていく。
これは、ありえたかもしれない未来ではなく、今、この場所で彼らが選んだ日常の物語。
愛と友情、そして少しの理不尽さが織りなす、温かくて賑やかな青春の1ページ。
2019年元旦。御井神神社の境内。
新年の賑わいが遠のき、静まり返った御井神神社の境内で、御神酒の香りが夜の冷気を帯びていた。社の脇にある休憩所で、湯気を立てる御神酒を片手に、大人になったばかりの若者たちが肩を寄せ合っている。しかし、その一角で、先に御神酒を口にした勇希は、既に限界を超えていた。
「ううっ……」
普段は凛とした彼女の瞳から、大粒の涙がとめどなく溢れ出す。
「頑張ったんだ……万桜なら、東京本郷大に行けるって……だから、頑張ったんだっ!」
絞り出すような声でそう告げると、勇希は隣に座る舞桜の振袖の袖を掴み、嗚咽を漏らしながらその肩に顔を埋めた。深藍色の振袖に、桜の刺繍が雪のように舞う美しい生地が、勇希の涙でじわりと濡れていく。舞桜は、そんな友人を優しく抱き寄せ、その背をゆっくりと撫でていた。視線はちらりと、戸惑いの表情を浮かべる万桜に向けられる。
万桜は、御神酒の入った紙コップを握りしめたまま、ポカンと口を開けていた。彼の脳裏には、一年前の教室での出来事が鮮明に蘇る。あの時、勇希に叩かれた頬のヒリヒリとした感覚と、投げつけられた「バカ魔王ッ!」という罵倒。てっきり、自分の進路選択が勇希を傷つけ、拒絶されたのだと思い込んでいた。しかし、今、目の前で泣き崩れる勇希の言葉は、彼の解釈とはまったく異なるものだった。
「あれ? これ俺…フラれてなくない?」
万桜が、恐る恐る、いや、どこか期待に満ちたような声で呟いた瞬間、勇希は舞桜の肩から顔を上げた。その濡れた瞳は、憎しみと愛情が入り混じった複雑な光を宿し、真っ直ぐに万桜を射抜く。酔いのせいで紅潮した頬が、普段の彼女からは想像もできないほど、幼く、そして感情的だった。
「おまえなんか、嫌いだッ!」
絞り出したかと思えば、次の瞬間には怒りにも似た感情を爆発させる。
「あたしが、あたしがどんだけ頑張ったと思ってるのッ! おまえと…おまえと一緒に行くために…東京本郷大に行くために、どれだけっ…どれだけあたしがっ!」
言葉にならない思いが、彼女の喉から搾り出されるような叫びとなる。
「おまえなんか嫌いだ、大嫌いだッ!」
万桜の胸ぐらにでも掴みかかりそうな勢いで当たり散らし、その感情を全て吐き出すかのように怒鳴り付けた勇希は、再び舞桜の胸元に顔を埋めると、深い寝息を立て始めた。まるで嵐が去った後のように、彼女は静かに眠りについてしまった。
その光景を呆然と見つめていた万桜は、数秒の後、ようやく事態を理解したように、はぁ、と大きなため息をついた。彼の顔には、安堵と、少しの照れくささ、そして、幼馴染の意外な一面を知ったことへの複雑な感情が入り混じっていた。
「…違うらしい…てっきり振られてねえかと…ボッチ、勇希、俺がおぶるよ」
「ボッチ」と呼んだ舞桜に、どこか反省したような、それでいて少し嬉しそうな表情を浮かべ、万桜はそっと勇希の身体を抱き上げ、慣れた手つきで背中におんぶした。勇希の華奢な体が、万桜の背中にすっぽりと収まる。彼女の吐息が、万桜の首筋にそっとかかった。
夜空には、まだ細い月が浮かんでいる。御神酒と初詣の喧騒の中で、二人の幼馴染の間に張り詰めていた、見えない糸が、ようやく解け始めたようだった。そして、この小さな雪解けが、彼らの未来にどんな景色をもたらすのか、誰もまだ知る由もなかった。
万桜が勇希を背負い、その場を立ち去ろうとした瞬間、甲高く楽しそうな笑い声が境内に響いた。
「ニャハハハッ! フラれてやんのー」
からかってくるのは莉那だ。勇希は泣き上戸で、莉那は笑い上戸。彼女たちの感情の振れ幅は、いつだって万桜たちを翻弄する。
「へーいへい。ああ、フラれましたよーっだ」
万桜は開き直って受け流し、軽口で返す。その姿は、先ほどまでの困惑と動揺が嘘のようだった。
すると、拓矢が口を開く。
「でも、よかったんじゃねえか? おまえが東京行ってたら、番長は結婚…いや、結局、今と変わってねえな…」
彼は冷静に、そして淡々と、もし万桜が別の選択をしていた場合の未来を分析する。
「山に川を張って、俺が戻って、茅野さんが巻き込まれて、やっぱり共同学府が設立される…」
その言葉に、舞桜は怪訝な顔をした。
「巻き込まれるかしら?」
その見解には懐疑的だ。すると拓矢は、まるで赤い紳士服の男を憑依させたかのように、大げさなジェスチャーでその未来を再現してみせた。
「舞桜ッ! 面白い子らおるで? おまえも交ざりぃッ!」
そして、その幻影の未来はさらに続く。
「そんで、ボッチに『名前を変えなさい。黒木万桜』ってなって、『え、なに、プロポーズ?』ってなって、勇希とボッチに『うるせえバカ魔王ッ!』ってなる…理不尽だーッ!」
万桜は、拓矢が語る未来図を頭の中で描き、理不尽を嘆いた。彼の脳裏に浮かんだのは、拓矢の言葉通り、自分の名前を口にする舞桜の姿、そして再び「バカ魔王ッ!」と怒鳴りつける勇希と舞桜の幻だった。
しかし、それは万桜が東京に行き、この町を離れた場合の、ありえたかもしれない別の未来だった。
だが、万桜は今、この場所にいる。
そして、彼の背中には、眠りに落ちた勇希の温かい重みがある。その重みは、彼の選択が正しかったことを、なによりも雄弁に物語っていた。
凍えるような冬の夜に、微かに揺れる灯りの下。酔って眠る幼馴染と、軽口を叩き合う友人たち。この当たり前の日常こそが、万桜が手に入れたかけがえのない宝物だった。
理不尽を嘆いた万桜の顔に、いつしか安堵と、温かい感情が広がっていく。
「おう。おまえら、ちょっとこいつを試してみろよ」
番長が差し出してきたのは、紙コップに盛られた熱々の餅だった。
湯気と、どこかクリーミーな香りが漂う。
「まさかのプレーン? いいえ、番長のことだから、そんなことはないわね…」
訝しげに呟きながらも、舞桜は熱々の餅に齧り付いた。
その瞬間、彼女の瞳が見開かれる。
「ほ、ホワイトソースにチーズ? でも、お餅なのに、粘り気が弱い…でもチーズだから伸びる…番長、これは一体、なに?」
素直に美味しい。興奮を隠しきれない様子で、舞桜は説明を求めた。
すると、万桜は得意げに口を開く。
「あぁー、詰まりにくい餅だよ」
彼は言葉を続けた。
「この餅はな、餅米100%の美味しさを保ちながら、喉に詰まりにくいように考案した、番長と俺の構想だ」
万桜は、熱い餅を紙コップから取り出し、皆にその食感を見せるようにゆっくりと引き伸ばす。
「餅の粘りの元はアミロペクチンっていうデンプンなんだが、通常の餅はそれが熱で鎖のように繋がって、大きな塊になる。それが喉に詰まる原因だ」
彼の説明に、舞桜は真剣な表情で耳を傾けていた。
「だから、この餅には秘密の技術を使っている。ホワイトソースに含まれる脂質と乳化剤、そしてチーズのタンパク質だ。こいつらが、アミロペクチンの鎖が絡み合うのを物理的に邪魔するんだ」
莉那は目を丸くして、万桜の餅を見つめる。
「へー! 食べ物で喉に詰まるリスクを下げるっていう発想が、すごいや!」
「だろ?」
得意げに笑い、万桜は続ける。
「餅米を炊く時の水分量も厳密に調整し、餅をつく工程で、温度を一定に保つための工夫も凝らした。そうすることで、餅米100%の美味しさを残しつつ、喉に詰まりにくさという、両立が難しい性質を実現したんだ」
拓矢は、感心したように頷きながら、万桜の言葉を聞いていた。
「なるほどな…これって、昔からある餅の常識を、根本から覆すってことか」
拓矢はそう呟くと、万桜の肩を叩いた。
「すごいな、おまえらの発想には、いつも驚かされるぜ」
仲間たちの賞賛の言葉に、万桜は少し照れくさそうに、でも誇らしげに胸を張った。
「万桜、撤回はしないぞ…」
目覚めた勇希が、ポカンと口を開けている万桜に、忽然と囁く。
「これ以上、あたしに嫌われたくないなら」
普段の勇希からは想像もつかない、恫喝にも似たその言葉に、万桜は深く、深いため息をついた。
「へいへい」
そう言って、万桜は勇希を背中からそっと下ろし、隣の舞桜の横に座らせた。
そして、番長から受け取った、熱々の餅を彼女の口元へ運んでやる。
勇希は、それを一口食べると、うっとりと目を閉じた。
舞桜たちが感心したように見つめる中、万桜は再び溜息を吐き出す。
勇希は、そのまま半分ほど食べると、満足したようにまた眠りについた。
その光景を、莉那はクスクスと笑いながら眺めている。
「ニャハハハ! 勇希、ずるーい!」
拓矢は、もう一度、万桜の肩を叩いた。
「ほら、信源郷町の姫姉さまが寝ちゃったぜ?」
そう言われて、万桜は少し照れくさそうに笑うと勇希のことをおんぶした。
彼の背中には、眠る勇希の重みがある。手には、彼女が一口食べた餅の、温かい重みがある。
そのすべてが、万桜の心にじんわりと染み渡る。
新年の夜は、まだ始まったばかり。
凍えるような夜空の下、彼らの間には、確かに新しい何かが始まっていた。
「番長、あっちもあるか?」
万桜は番長に催促する。番長はニヤリと笑うと七輪の上で香ばしく焼き上がる磯辺焼きを菜箸でつまんで、紙コップに入れた。
番長は、磯辺焼きの入った紙コップを万桜に手渡すと、満足そうに腕を組み、口を開いた。
「おう、モチモチ構想は面白い。だがな、黒幕。おまえが構想を立てるなら、俺は実践でそれを証明してやる」
番長は、七輪の脇に置かれた一升瓶から、秘伝の醤油だれを小さなハケで磯辺焼きに塗りながら、その製法を語り始めた。
「磯辺焼きの餅は、つくりが肝心だ。まず、うるち米の米粉(上新粉)と、餅米の米粉(もち粉または白玉粉)を3:7の比率で混ぜる。そうすることで、餅米100%の餅より粘りが少なくなる。その上で、餅を焼く火加減だ。強火で一気に焼くと、表面だけが固くなって、内部が柔らかくならない。だから、弱火でじっくり、両面を丁寧に炙る。そうすることで、餅の内部までしっかりと熱が入り、全体が均一に柔らかくなる。焼き上がった餅に醤油だれを塗るが、これも二度塗りだ。一度塗って乾かし、もう一度塗る。こうすることで、醤油の風味が餅にしっかりと染み込み、香ばしさが際立つ」
番長は、一つ一つ丁寧に、その製法を説明していく。それは、まるで長年培ってきた匠の技を、惜しみなく伝授しているかのようだった。
「そして、なにより大事なのは、食べる側の工夫だ。焼きたてを冷まさずに、熱々のうちに食べること。熱い餅は、口の中でほどけやすく、喉に詰まりにくいからな」
番長の言葉に、万桜は静かに耳を傾けていた。彼の構想が、番長の手によって現実のものとなり、目の前に差し出されている。
その温かさは、餅の熱さだけではなかった。
「餅って言えばこっちだよな番長」
万桜は、そう呟くと、磯辺焼きの入った紙コップをそっと受け取った。
御神酒の酔いと、餅の温かさが、彼の心を満たしていく。
★★★★★★
凍えるような冬の朝の光が、障子越しに黒木家の離れへと差し込んでいた。吐く息は白く、部屋の隅には火鉢が置かれ、微かに熾火が赤く光を放っている。その静謐な空間で、勇希はリビングの床に、額を擦りつける勢いで頭を下げていた。
「すまないッ! 舞桜、本当にすまないッ! あたし、昨夜は抑えられなかったんだ…」
普段の凛とした姿からは想像もつかない、痛々しいほどの土下座。彼女の震える肩は、昨夜の記憶がどれほど強烈なものだったかを物語っていた。
しかし、土下座された側の舞桜は、さして気にした様子もない。彼女は火鉢の縁に手をかざし、温かさを感じながら、ふわりと微笑んだ。
「勇希、そんなに気に病むことじゃないわ。あのくらい、よくあることよ」
舞桜の言葉に、勇希は顔を上げる。その瞳は、まだ少し潤んでいた。
「でも…! 万桜に酷いこと言ったし、拓矢たちにも迷惑かけたし…」
「迷惑じゃないわよ」
舞桜は、きっぱりと言い放つ。
「むしろ、清々したんじゃないかしら? 黒木もずっと、勇希の気持ちがわからずに、戸惑っていたみたいだから」
万桜は、勇希が東京本郷大を目指して猛勉強していたことを知らなかった。それは、勇希が彼のためだけに努力していたという事実を、勇希自身が万桜に隠していたからだ。
舞桜は、昨夜の勇希の告白を聞いて、全てを理解していた。万桜が東京本郷大という、自分と同じ目標を持つことへの喜びと、その目標に向かって努力している自分を認めてほしいという、無邪気で、そして健気な思いが、あの涙と叫びになったのだと。
「勇希があそこまで感情を露わにするなんて」
舞桜は、楽しそうに笑いながら言葉を続けた。
「それに、昨夜の勇希は、可愛かったわよ」
その言葉に、勇希の頬がみるみるうちに赤くなる。
「そ、そんなことないッ! そ、それに…覚えてるんだ…」
勇希は、恥ずかしそうに顔を伏せる。舞桜は、その様子を見て、再びクスクスと笑った。
「そうね。だって、覚えてなかったら、土下座なんてしないわよね」
舞桜の指摘に、勇希は言葉を失った。顔は真っ赤になり、全身が熱い。
「ま、舞桜…あまり、いじめるな…」
「いじめてないわよ」
舞桜は、そう言って微笑む。
その時、庭から元気な声が響いてきた。
「うぉりゃあっ!」
万桜の声だ。
「兄ちゃん、次あたし、あたし!」
桜の声がそれに続く。舞桜が障子戸をそっと開けると、冬の冷たい空気が流れ込んできた。庭には、万桜と桜の姿があった。
万桜が、立体的なスカイグライダーのようなものにぶら下がって、十数メートルほども滑空している。彼の足元には、なにやら見慣れないものが履かれていた。それは、スポーツ義足の原理と同じように、しなって跳躍力を跳ね上げるホッピングシューズだった。万桜が着地するたびに、地面から弾むような音が響く。
「あれ…えっと、勇希…あいつは、なにをやっているの?」
万桜が、なぜこんなことをしているのか、舞桜には理解が及ばなかった。
舞桜の隣に座る勇希は、不思議そうに首を傾げた。
「うん? ハンディスカイグライダーだろ? それがどうした?」
勇希にとって、それは当たり前の光景であるかのように、何でもないことだとでも言うように呟いた。
万桜は、桜の掛け声に応えるように、再び軽々と宙を舞う。彼は、そのグライダーとホッピングシューズを駆使して滑空を続けていた。
「一昨年くらいに、サブリナが立体凧の人工知能制御に成功してな、滑空距離が格段に伸びた」
そう言って勇希は上空に浮かぶ立体凧を指差した。
「いや、伸びたって…」
舞桜は呆れ、ハッとした表情を浮かべ勇希は舞桜を見た。
「あ、そうか…舞桜は知らなかったな」
勇希は、舞桜に語りかける。
「ハンディグライダーのアイデアってのは、万桜の発想が元になってるんだ」
勇希は、庭で宙を舞う万桜に目を向けながら、ゆっくりと話し始めた。
「フロッピーディスクを開発したじいちゃんが作ったジャンピング・シューズを利用して、あれを、さらに進化させたのが、あいつの足元にあるホッピングシューズだ…アホだから、バネを単純に2倍にしてる」
勇希は、言葉を選びながら続けた。
「それに、空中に浮かんでいる立体凧も、あいつのアイデアだ。去年までは、LAN線を単純にワイヤーと一緒に伸ばしていたが、今年は違う自衛隊の高高度気球を利用できるから無線をフル活用だ」
茫然とする舞桜に勇希は続ける。
「その立体凧を、さらに進化させたのが、上空の立体凧だ。あいつは、立体凧の形状を人工知能で制御して、風の力を効率的に受け流すことに成功したんだ。そのおかげで、強風の中でも安定して、上空に滞在できるようになった」
勇希は、庭で優雅に滑空する万桜の姿に目を細めた。
「その立体凧とジャンピングシューズを組み合わせて、生まれたのが、ハンディグライダーだ」
勇希は、舞桜にそう言って微笑んだ。
「あのグライダーは、風の力を推進力に変換する。ジャンピングシューズでジャンプした勢いと、風の力で、万桜は空を飛んでるんだ」
勇希の言葉に、舞桜は言葉を失った。
万桜が、なぜこんなことをしているのか、ようやく理解できたからだ。
「…バカなのあいつ?」
舞桜は、ただ一言、そう呟いた。
「どちらかと言えばアホだな…どうした舞桜? 万桜はあたしがもらっていいのか?」
挑発的な勇希に、
「2年は待ってくれるんでしょ? 待って待って? 理解が追いつかない…あいつに生涯預けて大丈夫?」
彼女の目には、庭で楽しそうに宙を舞う万桜と、懐疑的な疑問符が飛び交いまくりだ。
「おい、万桜ッ! 桜の次はあたしだ!」
勇希は、舞桜の打算を一蹴し、きょとんとする万桜に投げかけた。
「ごめんて、黒木、勇希の次はあたしッ!」
舞桜は、慌てて勇希に続いていく。
「黒木にしては、珍しいわね?」
舞桜が万桜に投げかけると、万桜は惚けた視線を向けた。
「あん? なにがよ? 正月は凧揚げて、はしゃぐもんだろうが?」
万桜は当たり前のように、上空の凧を見つめ、ハッと気づいたように目を輝かせた。
「なあ、ボッチあれって、簡易通信網を構築できねえかな?」
立体凧の可能性を口にする万桜に、舞桜は深く、深いため息を吐いた。
「お正月くらい、魔王を封じてよ…それと黒木が家事をしてないなんて珍しいって話よ…」
舞桜の呆れた口調に、万桜は空から降り立つと、なぜか胸を張った。
「なに言ってんだよ? 松の内は働いちゃダメなんだぜ? 働いていいのは、小遣い欲しい子供だけだ。墾田永年私財法に制定されてるらしいぜ?」
万桜は、得意げにそう言って、珍妙な歴史の知識を披露する。もちろん、そんな史実はない。舞桜は、その言葉に、またもやため息を吐こうとした。
その時だった。
庭の門から、奇妙な荷車を引いた子供たちが、珍妙な掛け声をあげて、オセチの路上販売を展開し始めたのだ。
「オセチぃー、オセチは要らんかねえー」
「なによ、あれ?」
舞桜は、ジト目を貼り付け、万桜に説明を求める。
「1IICOで、一人分のオセチを配布するサービスだな。オセチは近隣のばあちゃんたちの謹製だ。どれも間違いねえ。1食およそ800円前後だが、正月くれー金使いやがれってな」
万桜は、そう言って子供たちの方へ駆け寄っていく。
IICOは、この町でのみ通用する電子食券。万桜が最近、地域通貨として考案したものだ。
舞桜は、万桜の背中を、呆れたような、しかし少しだけ優しい眼差しで見つめていた。
彼は、いつだって、自分の好奇心に忠実だ。そして、その好奇心は、いつも誰かを笑顔にする。
『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をお読みの地球の皆様へ!
いつも拙作『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をお読みいただき、本当にありがとうございます!
物語の中で、「魔王」こと黒木万桜は、時には「水嚢の川」で災害に立ち向かい、時には中古スマホを活用したクローズドネットワークなんて突拍子もないアイデアまで生み出しています。
実は、この物語には、万桜のそんな「もしかしたら、これって本当に役立つかも?」と思えるような、たくさんのアイデアが散りばめられているんです。読者の皆さんも、「これ、面白い!」「こんな風に使えるんじゃないか?」なんて、閃いたことはありませんか?
地球のみんなぁ~! オラに「★」をわけてくれーっ!
もし、この物語を読んで、少しでも「面白い!」「次の展開が楽しみ!」「万桜のアイデア、イケるかも!」と感じていただけたなら、どうかページ下部の【★★★★★】ボタンをポチッ!と押して、星評価を分けていただけないでしょうか!
皆さんのその「★」一つ一つが、作者の大きな励みになり、万桜の次の「魔王案件」へと繋がるエネルギーになります!
引き続き、『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をどうぞよろしくお願いいたします!




