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黒き魔王のリアルロボ

前書き

 2018年から2019年へ、時代が移り変わる年の瀬。甲斐の国大学の会議室では、クリスマス・イブに、佐々陸将と万桜、そして彼らの取り巻きのメンズたちの間で、リアルロボットを巡る熱い議論が繰り広げられた。それは、単なる技術論ではなく、人間の弱さと向き合うか、力でねじ伏せるかという、哲学的な戦いでもあった。

 時を同じくして、万桜の幼馴染である勇希と舞桜は、彼らの会話から、すれ違った過去を鮮明に思い出す。そして、舞桜の機転によって、万桜のリアルロボ構想は特許出願へと向かうことになった。

 年の瀬、突如として黒木家に集結した若者たち。そして、彼らが迎えた2019年の元旦は、華やかな振袖と、初詣に向かう賑やかな声に包まれていた。

 その裏で、舞桜の兄である淳二は、誰よりも早く、遠い異国の地で囁かれ始めた、未曾有の危機を察知していた。その危機は、やがて世界を揺るがすほどのパンデミックとなることを、この時の誰もが知る由もなかった。

 これは、天才たちが創り出す物語の、新たな幕開けである。

 2018年12月24日。甲斐の国大学会議室。

 長机の向こうに座る佐々(サッサ)陸将の、射抜くような眼差しを意に介さず、万桜(マオ)は抱えた不満を叩きつけた。

「え、知ってる? 今日はイブ。クリスマス・イブ! 一回生のイブ! 一度きりのイブ!」

 佐伯と藤枝に脇を固められているというのに、万桜(マオ)は強気に言い放つ。

「黒木くん。君に特定の相手がいないのは、調査済みだよ…」

 佐々(サッサ)の言葉に、万桜(マオ)はハッと周りを見比べる。

 マカロニ・テンダー構想を委ねた東京本郷大学の学徒、西郷輝人は脂肪分が潤沢な巨漢で、汗臭い。そして、アニメのプリントされた紙袋と、長いカラフルな鉢巻きと法被がよく似合う。

「く、黒木氏もこちら側でしたとは、それがし黒木氏を誤解していたでござるよ」

 西郷の言葉に、万桜(マオ)はコメカミに青筋をたて、圧が強まったことを悟った佐伯と藤枝は素早く飛び退いた。

「まあ、そう怒るなよ黒木くん。でも、デートする相手いないのはホントだろ? 拓矢(タクヤ)から聞いたぜ。ロボロボしいロボの構想あるんだって?」

 佐々(サッサ)やその場に居合わせたデートの相手がいないメンズたちは、目を輝かせて万桜(マオ)を見つめた。もっとも佐々(サッサ)は既婚者だが。

「言っとくけど、相手がいねえだけだからなッ? モテねえわけじゃねえからな?」

 強がる万桜(マオ)に、モテないメンズたちは、ウンウンと頷き、続きを促す。

 その期待に満ちた視線に、万桜(マオ)の口角がゆっくりと上がった。

 よし、わからせてやろう。

「いいか、俺が創るロボットは、単なるロボットじゃねえ。ネガティブな現実を、力でぶっ飛ばすための究極の道具だ!」

 万桜(マオ)の言葉に、メンズたちはゴクリと唾を飲み込む。

「俺は、人間を拡張する工具を創ってる。超電導リニアの原理で関節を動かす『リニア円環関節』。人間を超える力と速さを生み出す、最強の駆動システムだ」

 万桜(マオ)は熱く語る。西郷は、食い入るようにその話を聞き、時折メモを取っている。

「装甲はFRP、燃料はディーゼル。人工知能が人間の動きを解析して、遠隔でロボットを制御する。それは、理不尽な現実をぶっ飛ばす、俺の拳そのものだ!」

 その言葉は、まるで魔法のように、メンズたちの心を掴んだ。

「すげぇ…」

「ロマンだ…」

 彼らの目が、希望に満ちて輝き始める。

 佐々(サッサ)は、その光景を満足げに見つめ、静かに呟いた。

「…クリスマス・イブに、最強のロボット構想。悪くない」

 その声は、重厚な響きを帯びていた。

 彼らの熱気は、暗い会議室を、まるでクリスマスツリーのイルミネーションのように明るく照らし出した。


「陸将さん。聞いてください! まだ話し終わってないんですよ! 俺の『リアルロボ』は、そんなに生ぬるいもんじゃねえ!」

 万桜(マオ)は、息を整え、両手を広げた。

「俺のリアルロボは、単なるSF的なロマンじゃない。現実的な技術とロジック、そして何よりも、俺の『好天思考(ポジティブ)』の結晶です! まずは、このリニア円環関節ですよ」

 万桜(マオ)は、テーブルに広げた設計図を指さす。

「腕だけじゃねえ。この関節は、首や胴体、脚部、あらゆる稼働部に組み込める。外側の円環がフレームで、内側の半円や4分の3円環が可動部分。この二つの間に液体窒素を流し込む。そうすれば、超電導リニアの原理で、モーターもギアもいらなくなる」

 万桜(マオ)は、興奮のあまり、テーブルの上のペンを乱暴に掴んだ。

「摩擦がない! 壊れる部品がない! メンテナンスがほとんどいらない! そして、これが重要なのですが、従来のロボットではあり得ないほどの超高速、そして超繊細な動きを両立できる! パワーだって、出力は無限だ! 原理上、モーターやギアの出力上限がないから、電圧と電流を上げれば、パワーも上がっていくんですよ!」

 万桜(マオ)の声は、次第に熱を帯び、会議室に響き渡る。

「そして、操縦方法ですが……コックピットなんていうダサいものは、つけません! ロボットに頭部カメラを搭載します! それは、ロボットの『目』じゃない! 操縦者の『目』だ! ロボットの頭部に搭載されたカメラからの映像を、操縦者が搭乗するドーム状のモニターに映し出す。そうすることで、操縦者は、まるで自分がロボットになったかのように、周囲の状況を把握できる。そして、ドーム状モニターの映像に合わせて、操縦者が手足を動かす。その動きを、高性能なクラウド上の人工知能が解析し、瞬時にロボットの全身に反映させる。思考制御じゃない! 自分の肉体を通して、ロボットを動かすんですよ! これが、俺の追い求める人間とロボットのシンクロだ!」

 佐々(サッサ)が、驚きと感嘆の入り混じった表情で万桜(マオ)を見つめる。

「俺が創りたいのは、人間の苦悩を、物理的に、そして科学的に叩き潰すための道具。悲しみや苦しみを、力でねじ伏せる。その究極の道具が、このリアルロボなんだ!」

 万桜(マオ)は、ぐしゃぐしゃになった資料を抱えながら、力強く言い切った。

「さらに、円環関節ですよ! 腕だけじゃない! 肘や手首にも円環を埋め込む。腕の第一関節と第二関節の間には、コークスクリュー・ブローを打つための、完全円環を埋め込む! そして、その無限の出力を生み出すのが、燃料のディーゼルだ!」

 万桜(マオ)は、確信に満ちた目で佐々(サッサ)を見つめる。

「ディーゼルはどこでも手に入る。災害現場だって、そこら中に転がってる。そのディーゼルを動力として、超電導リニアを動かす。これが、俺のリアルロボだ! これは、単なるSFじゃない。現実的な技術とロジックに基づいた、俺の意志の結晶だ! これが、俺の追い求める『リアルロボ構想』だ!」

 モニター上に映し出されたリアルロボの肩関節の構想を眺め、万桜(マオ)はモテないメンズたちに語り始めた。

「リニアの円環を二重にして肩の関節を再現すんだよ」

 その言葉に、佐々(サッサ)蔵之介陸将は満足そうに頷いた。

「やっぱロボっつったら、こうだよな? 俺、世代的にこっち派。カミさん亡くして集合意識を統合とか、拗らせ過ぎだろ?」

 佐々(サッサ)の言葉に、万桜(マオ)は目を輝かせる。

「だよねー?。陸将さん、わかってるじゃん!」

 そこに、西郷輝人が口を挟んだ。

「いやいや、それがしは、あの内面的な葛藤こそが、物語を深くしていると思うでござるよ」

 佐伯と藤枝も、西郷に同調する。

「そうですよ! ああいう、繊細な内面の描写があるから、感情移入できるんです」

「俺は、あの最終話の、皆が拍手してくれるシーンに、救われました」

 メンズたちは、それぞれの思いを熱く語る。

 だが、佐々(サッサ)万桜(マオ)は、その言葉に、冷ややかな視線を向けた。

「それが、ネガティブ厨二病だろ」

 万桜(マオ)の言葉に、西郷は憤慨した。

「ネガティブとは、なんでござるか! あれは、人間の弱さと向き合う、真摯な姿でござる!」

「弱さと向き合う? 向き合ってなんになる? 向き合うだけじゃ、腹は減るし、寒いし、誰も救われねえだろ?」

 万桜(マオ)の言葉に、メンズたちは押し黙る。

「よく言った。さっすが大雅と佳代の息子だぜ! あんな、内面的な葛藤で世界を救えるわけがない。本当に世界を救うのは、理不尽な現実をぶっ壊す、圧倒的な知能と知性だ」

 佐々(サッサ)が、モニターに映し出されたロボットの腕を指差しながら、力強く言い放つ。

「だろ? 俺が創るのは、目の前の不条理を、科学と知能で物理的に解決する道具。内面的な葛藤を、ぶっ飛ばすための『リアルロボ』だ!」

 その言葉は、会議室にいる全員の心に、深く突き刺さった。

 誰もが、万桜(マオ)佐々(サッサ)の、その言葉の重みを感じていた。

 それは、単なるロボット談義ではない。

 それは、理想と現実、そして人間の弱さと向き合う、哲学的な戦いだった。

 クリスマス・イブの夜。

 甲斐の国大学の会議室で、もうひとつの戦いが、静かに繰り広げられていた。


「一応言っておくけど、俺、今年の2月までは彼女いたからな?」

 万桜(マオ)は、藤枝たち、特に自分をネガティブ厨二病のチームに引き摺り込もうとする西郷を牽制した。

 その言葉は、会議室の入り口に立っていた、万桜(マオ)の中での『元彼女(元カノ)』である勇希(ユウキ)の耳にも届いた。

(ち、違うッ! 違うんだ万桜(マオ)ッ! あたしは、おまえを拒絶したんじゃないッ!)

 勇希(ユウキ)は、心の中で叫んだ。同じく、会議室の入り口で、勇希(ユウキ)に縋るような視線を向ける舞桜(マオ)は、

(お願い。あと2年待って勇希(ユウキ)

 と目で訴える。

 万桜(マオ)の言葉は、勇希(ユウキ)の脳裏に、あの日の出来事を鮮明に蘇らせた。


 2018年2月上旬、信源郷町高校3年A組の教室。

 乾いた音が響き渡る。

「か、甲斐の国大学だと? き、聞いてないぞッ! ま、万桜(マオ)ッ?」

 勇希(ユウキ)は、万桜(マオ)の受験校を聞いて、あからさまに動揺していた。アパートも見つけていた。東京本郷大学へ進学する準備も万端だ。

「俺、国立って答えたぜ? な、なんだよいきなり?」

 万桜(マオ)にとって国立と言えば、歩いて通える甲斐の国大学一択だ。しかし、勇希(ユウキ)の中では、万桜(マオ)の可能性を彼以上に評価していた。万桜(マオ)ならば、最高学府である東京本郷大学を目指し、国家でさえ動かせる。そう確信していた。拓矢(タクヤ)莉那(リナ)と楽しく過ごす青写真さえあった。

「まあ、農家の長男は嫁…」

 また乾いた音が教室に響き渡り、勇希(ユウキ)の平手が万桜(マオ)の言葉を遮った。勇希(ユウキ)は俯き、しかし、万桜(マオ)はここでも鋼鉄(ハガネ)好天思考(ポジティブ)を炸裂させる。

「え、勇希(ユウキ)…そんなに俺と離れるの嫌なのか? わかったよ勇希(ユウキ)、結婚しよう!」

 教室中が、この一言に沸いた。涙を流し掛けた勇希(ユウキ)は、天井を仰ぎ涙を瞳に飲み込ませ、万桜(マオ)の臀部に強烈な蹴りを叩き込み、

「うるせえッ! バカ魔王ッ!」

 緊張した修羅場を吹き払った。

 それは、彼らの関係が破局した瞬間であり、勇希(ユウキ)万桜(マオ)の幸せを願って、敢えて突き放した、愛の告白でもあった。


 2018年12月24日。甲斐の国大学会議室。

 回想から現実に引き戻された勇希(ユウキ)は、再び葛藤する。

 万桜(マオ)の、あの単純で、幼稚で、しかし力強い「好天思考」。

 そして、その傍らで、真剣な眼差しで万桜(マオ)を見つめる舞桜(マオ)

 その時、舞桜(マオ)が静かに、しかし力強く言った。

「黒木。あとでリアルロボ構想の特許出願書類をメールしなさい」

 その言葉に、勇希(ユウキ)は思わず息をのんだ。

 あの日の万桜(マオ)は、間違っていなかった。

 佐々(サッサ)蔵之介陸将は、勇希(ユウキ)舞桜(マオ)に連れられて、会議室を去る万桜(マオ)に、温かい視線を向けた。

「ヤローども、わかってるな? 黙っていよう。それが優しさだ」

 ポソりと一言、モテないメンズに釘を刺す。

 メンズたちは、佐々(サッサ)の言葉に、サムズアップで無言に応えた。

 だが、万桜(マオ)たちの姿が見えなくなるや、抑えきれない本音を吐き出した。

「「「「リア充爆ぜろッ!」」」」

 それは、クリスマス・イブに、ひとりで部屋でゲームをする運命にある者たちの、深く、重く、そして虚しい怨嗟の声だった。


 2018年12月24日。甲斐の国大学。

 勇希(ユウキ)舞桜(マオ)に連れられて、万桜(マオ)は、会議室を出た。

 歩きながら、万桜(マオ)舞桜(マオ)に切り出した。

「ボッチ。漆の話あったじゃん? あれってさ。極端な話、棒で突いたり、剪定予定の枝にストレス与えれば、漆本体へのダメージって少なく済むんじゃねえか? マカロニ・テンダー構想のアンドロイドならかぶれねえしよ」

 舞桜(マオ)は、驚きと感心がないまぜになった表情で答える。

「確かにそれなら、傷つけないでウルシオールを採取できるかもね…」

 隣を歩く勇希(ユウキ)も、その会話に加わる。

「なら葉っぱをロボが揉めばいいんじゃないか? 漆は自衛の為にウルシオールを葉っぱに集中させるかもしれない」

 勇希(ユウキ)の言葉に、ふたりは頷いた。

 彼らの議論は、周囲のクリスマス・ムードとはまったく異なる、知的で、熱く、そしてどこか歪んだ熱気を帯びていた。

 ふと、万桜(マオ)が、窓から見える光景に、獰猛な笑みを浮かべる。

「おいおい、なんかリア充がふたりの世界築いてんぜ?」

 窓の中では、莉那(リナ)拓矢(タクヤ)が親密な距離を、より親密に縮めつつある。秋に莉那(リナ)は、勇希(ユウキ)の恋路を意図的に塞いでいた。その復讐心に火がついた勇希(ユウキ)が、万桜(マオ)の言葉に乗る。

「けしからんな。あたしの邪魔をしたくせにな…」

 勇希(ユウキ)の言葉に、舞桜(マオ)は一切の逡巡もなく、ふたりに突撃を指示した。

「黒木、勇希(ユウキ)。突撃せよッ!」

「「ラジャ!」」

 ふたりは、簡潔に応え、休憩室へと駆け込んだ。

 休憩室の扉が、勢いよく開け放たれた。

 その瞬間、莉那(リナ)の悲鳴が、大学中にこだました。

「き、貴様、貴様、貴様ッー!」

 窓の外では、雪が静かに降り始めた。

 しかし、休憩室の中では、クリスマス・イブの小さな戦争が、静かに、しかし激しく、始まっていた。


★★★★★★


 2018年、年の瀬の黒木家。

 勇希(ユウキ)拓矢(タクヤ)莉那(リナ)の3人が居るのはわかる。が、

「え、おまえ帰らねえの?」

 万桜は、東京出身の舞桜(マオ)に問いかけた。駅前のタワーマンションに住む舞桜(マオ)が、年末年始を実家で過ごさないという選択は、彼には理解できなかった。

「違うのよ。黒木、善さん…兄さんたちが、こっちに来ちゃってるのよ」

 舞桜(マオ)は、疲れ切った顔で答える。一度、舞桜(マオ)の部屋を訪れたことがある万桜は、その部屋が単身者向けとしては広いことを知っていた。しかし、子供ふたりと、大人3人が過ごすには、どう考えても手狭だ。

「なんでも兄さんの勘が騒いでるらしいの…来年、てか今年には、こっちに移住してくるらしいわ」

 舞桜(マオ)は、遠い目をして答えた。兄の淳二(ジュンジ)のふたつ名は、赤い社長。一度決めたら、人の3倍の行動力と決断力で突き進む男だ。

「まあ、正月家族で過ごすんなら、いいけどよ。じゃあ、ボッチも2年参り行こうぜ? 御井神神社の初詣は、気合い入ってかっらよ、東京の初詣とは違うと思うぜ」

 万桜は、地方のイベントに対する力の入れようを強調した。


 2019年元旦。黒木家の離れ。

 除夜の鐘が遠くから聞こえてくる。しんとした寒さが満ちる夜明け前、女子3人は身支度を整えていた。

 勇希(ユウキ)が、誇らしげな笑みを浮かべ、スマートミシンで仕立てた防寒仕様の振袖を腕に取る。

「スマートミシンを使って、防寒仕様振袖を作っておいて正解だったな。これなら初詣もへっちゃらだ」

 勇希(ユウキ)がそう言うと、真っ赤な布地から覗く白いうさぎの刺繍が、灯りの下でふわりと輝いた。莉那(リナ)は、その振袖に触れて、柔らかな手触りを確かめる。

「実質、材料費だけで済んじゃったね? しかもコートみたいにボタンで止めるワンタッチ振袖だし」

 莉那(リナ)が微笑む。それは、機能性を追求しながらも、見た目は従来の振袖と変わらない、美しさと実用性を両立した特別な一着だった。舞桜(マオ)もまた、その振袖にそっと袖を通す。

「向こうで着るつもりだったけどね」

 舞桜(マオ)が呟く。舞桜(マオ)が着る振袖は、深い藍色を基調とし、桜の花びらが雪のように舞う柄が施されていた。袖を通すと、まるで雪の中に咲く一輪の花のようだった。


「お、イイねぇ。華やかじゃねえか?」

 離れから出てきた勇希(ユウキ)莉那(リナ)舞桜(マオ)の振袖姿を見た善次郎は、目を細めて嬉しそうに言った。3人娘の晴れ着姿は、厳かな冬の夜に彩りを与えている。

「あれ、じいちゃん、行かないの?」

 舞桜(マオ)が善次郎に尋ねる。善次郎は、申し訳なさそうな顔で肩をすくめた。

「じいちゃんは、寒いので行きません。それにな」

 ちらりと奥の部屋を指差す。そこには、こたつで眠る桜の姿があった。どうやら、善次郎は桜の寝顔を見守ることを選んだらしい。

「おい、万桜(マオ)、そろそろ行こうぜ?」

 玄関の引き戸が開き、拓矢(タクヤ)が顔を出す。拓矢(タクヤ)はいつものジーンズにダウンジャケットという、ごく普通の格好だ。

「おう、拓矢(ジェイ)。あけおめ」

「ことよろ。善さん、あけましておめでとうございます」

 万桜(マオ)拓矢(タクヤ)は軽く新年の挨拶を交わす。拓矢(タクヤ)は善次郎には丁寧な言葉遣いで、きちんと頭を下げた。

「おう。ことよろ拓矢(タクヤ)

 善次郎の返事は軽い。その様子を見ていた莉那(リナ)は、少し不満そうに振袖の袖を広げた。

「おまえたち。なにか忘れちゃいないかい?」

 3人の振袖姿に、拓矢(タクヤ)たちの反応は薄い。その理由を、拓矢(タクヤ)が代弁する。

「去年いっぱい褒めたじゃん!」

 その言葉に、万桜(マオ)勇希(ユウキ)舞桜(マオ)の3人は顔を見合わせて笑った。

「じゃあ、ちょっと行ってきます」

「おう。いってらっしゃい。ああ万桜(マオ)。今年は飲んでイイぜ?」

 善次郎の言葉に、万桜(マオ)は目を丸くした。かつては誕生日が一律元日だった。今年、5人は晴れて成人を迎えた。

「へっへー。やりぃッ! おい、おまえら御神酒いただきにいくぞッ!」

 万桜(マオ)は嬉しそうに叫び、3人娘と拓矢(タクヤ)を率いて、神社へと歩みを速めた。真新しい振袖と、初詣に向かう5人の賑やかな声が、静かな夜の空気に溶け込んでいく。


 赤い社長が感じ取った危機。

 それは、2019年の元旦、誰もが新しい年の始まりに浮かれている中で、彼だけが掴んだ不穏な未来の予兆であった。

 彼の研ぎ澄まされた直感は、遠い異国の地で囁かれ始めた、得体の知れない病の影を捉えた。まだ誰も、それが世界を揺るがすほどのパンデミックに繋がるとは想像もしない頃だ。

 その迅速な経営手腕と、未来を予知するかのような直感で、彼は年末に起こり得るであろう社会恐慌から、家族をいち早く退避させたのである。

 彼の妹である舞桜(マオ)が率いる株式会社セイタンシステムズは、まだ誰も知らないこの静かなる危機に、どう立ち向かい、どう在るのか。

 物語は、来るべき新時代へと向かう、新たな局面を迎えようとしていた。

『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をお読みの地球の皆様へ!

いつも拙作『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をお読みいただき、本当にありがとうございます!

物語の中で、「魔王」こと黒木万桜は、時には「水嚢の川」で災害に立ち向かい、時には中古スマホを活用したクローズドネットワークなんて突拍子もないアイデアまで生み出しています。

実は、この物語には、万桜のそんな「もしかしたら、これって本当に役立つかも?」と思えるような、たくさんのアイデアが散りばめられているんです。読者の皆さんも、「これ、面白い!」「こんな風に使えるんじゃないか?」なんて、閃いたことはありませんか?

地球のみんなぁ~! オラに「★」をわけてくれーっ!

もし、この物語を読んで、少しでも「面白い!」「次の展開が楽しみ!」「万桜のアイデア、イケるかも!」と感じていただけたなら、どうかページ下部の【★★★★★】ボタンをポチッ!と押して、星評価を分けていただけないでしょうか!

皆さんのその「★」一つ一つが、作者の大きな励みになり、万桜の次の「魔王案件」へと繋がるエネルギーになります!

引き続き、『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をどうぞよろしくお願いいたします!

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