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黒き魔王とブロックチェーン

前書き

 2018年9月下旬、横須賀防衛大学校の会議室。二等陸将の佐々蔵之介は、少年たちがわずか3日で住宅を建てた動画に驚愕する。その常識外れの才能は、万桜の両親である黒木大雅と佳代譲りのものであり、佐々はその現実に、諦めと安堵を覚えるのだった。

 一方、甲斐の国大学のカフェでは、舞桜が万桜の持つデバイスの画面を見て悲鳴をあげる。そこに映し出されていたのは、万桜が開発した『自動描画システム』が生成した、舞桜そっくりの三次元モデルだった。そのモデルは、彼女の身体に隠された秘密の傷跡まで忠実に再現しており、舞桜は、万桜の持つ底知れぬ才能に恐怖と畏敬を抱く。

 万桜は、自分の行為が舞桜のプライバシーを侵害したことを理解できず、莉那と番長から激しい怒りを向けられる。莉那の涙ながらの訴えに、万桜は、自分が他人の心を「裸」にしてしまったことの重大さを悟る。しかし、万桜は、その技術がもたらす未来の可能性を熱弁し、オーダーメイドの服や靴、さらには生理用品の歴史を変える壮大なビジョンを語る。

 万桜の言葉を聞いた舞桜は、再び戦線に復帰する。彼女は、万桜の才能を社会に活かすという使命感に燃え、周囲の視線も気にせず、生理用品の進化について熱く語り始めた。その結果、万桜は女子たちによる「デリケート案件」の会議に強制参加させられることとなり、心身ともに疲れ果てる。

 この物語は、万桜の天才的な発想と、それに伴う周囲の人間たちの葛藤、そして、その才能が新たな「魔王案件」として、社会を変革していく様を描く。万桜は、自らの才能が、単なる技術開発に留まらず、人間の生活そのものを豊かにする可能性を秘めていることを、身をもって知るのだった。


ブロックチェーンって仮想通貨だけじゃないよね。

 2018年9月下旬。横須賀防衛大学校の会議室。

 無機質な空間に、佐々(サッサ)蔵之介二等陸将の呻き声が響き渡っていた。

 正面に設置された大型モニターには、万桜(マオ)拓矢(タクヤ)たちが汗を流しながら作業する動画が映し出されている。泥まみれになりながらも、信じられないほどの効率で住宅を組み上げていく少年たちの姿は、滑稽であると同時に、底知れぬ恐怖を佐々(サッサ)に与えていた。

「ホバークラフト台車、個人がパワーショベルとパワークレーンに変貌する蒟蒻繊維土ブロック製造器…頼む倉田、この動画は創作だと言ってくれ…」

 佐々(サッサ)は、心底縋るような眼差しで、動画の作成者である倉田琴葉(コトハ)に訴えかける。彼の声音には、長年培ってきた軍人としての威厳は欠片もなく、ただただ、この現実に抗いたいという切実な願いが滲んでいた。

 しかし、琴葉(コトハ)の返答は、あまりにも冷静で、佐々(サッサ)にとっては残酷なものだった。

「現実です。独立上下水道完備の住宅が、男子5名で建ちました」

 その言葉は、佐々(サッサ)の心に深く突き刺さった。

 琴葉(コトハ)が淡々と報告を続ける。

「作業日数は約3日。総工費は建材費のみ。水道管や汚水管の接続、電源確保も問題なく、通常の住宅と遜色ありません。また、使用されている木材は、規格外の端材を再利用した組木材です。強度は十分にあり、耐震性も確保されています」

 佐々(サッサ)は、椅子に深く腰掛けたまま、顔を手で覆った。

「この前、水嚢の川で兵站輸送に革命起こしたばっかじゃん! 拓矢(タクヤ)、どうなってんの? おまえの幼馴染?」

 佐々(サッサ)は、逃げ場のない現実に背を向け、せめてもの救いを拓矢(タクヤ)に求めた。

 拓矢(タクヤ)は、佐々(サッサ)の視線を受け止めるが、その瞳はどこか遠くを見ている。

「大雅さんと佳代さんの子だからです」

 拓矢(タクヤ)は、まるで他人事のように淡々と答え、万桜(マオ)の両親に責任を転嫁した。拓矢(タクヤ)の父である斧乃木力也は、かつて万桜(マオ)の父である黒木大雅と共に、特殊作戦群に所属していた。佐々(サッサ)もまた、彼らと戦場で肩を並べた戦友だ。

「じゃあ、仕方ない…あいつらも、大概だった…」

 佐々(サッサ)は、深く長い溜息をつくと、観念したように呟いた。

 万桜(マオ)の常識外れの行動は、彼の両親譲りの才能であり、最早、佐々(サッサ)ごときが理解できる範疇ではない。そう自分に言い聞かせた。

 佐々(サッサ)は、スクリーンに映し出される動画を、じっと見つめる。そこには、目を輝かせながら作業に没頭する万桜(マオ)の姿があった。

 佐々(サッサ)の心には、諦めと同時に、ある種の安堵が広がっていた。万桜(マオ)のような天才が、自分たちの側にいてくれるのならば、きっと、未来は明るいはずだ。

 そう信じようと、佐々(サッサ)は、心に強く誓った。


★ ◆ ★ ◆ ★


 2018年9月下旬。甲斐の国大学カフェに併設された、セイタンシステムズの拠点。

 舞桜(マオ)の悲鳴のような声が、静かなカフェに響き渡る。

「待ちなさい黒木! それは、私のプライバシーに関わるわ!」

 舞桜(マオ)の悲鳴のような制止の声が上がる。彼女は、万桜(マオ)が手に持っているデバイスの画面に、自分そっくりの三次元モデルが映っているのを見て、心臓が止まるかと思った。

「大丈夫だって、これはMRIで撮影したデータを、画像分析してベクターデータ化しただけだぜ? もちろん、個人情報は全部消去してあるし、服も着せてある。それに、所詮は画像だろ?」

 万桜(マオ)は、彼女の動揺をまるで意に介さず、朗らかな声でそう言った。

 しかし、舞桜(マオ)の恐怖は、万桜(マオ)の言葉では消えなかった。

 彼女の目の前には、万桜(マオ)が開発した『自動描画システム』の最新バージョンが鎮座している。それは、単なるお絵描きツールではない。画像を数学的な「線」で構成されるベクターデータとして解析し、再構築する、革新的な人工知能だ。

 万桜(マオ)は、舞桜(マオ)のMRIデータを入力し、システムのボタンを押した。

 すると、数秒の処理時間の後、モニターには、彼女の全身像が映し出される。それは、完全に三次元化された舞桜(マオ)の姿だった。服のシワ、髪の毛の一本一本まで、信じられないほど精緻に描写されている。しかし、万桜(マオ)の言葉通り、モデルはしっかりと服を着ており、肌の露出は一切ない。

「…な、なにこれ…」

 舞桜(マオ)は、その完璧な再現度に、思わず息をのんだ。

 万桜(マオ)は得意げに説明を続ける。

「自動描画システムを応用して、三次元データを自動で生成するシステムだ。MRIから抽出したベクターデータを、まるで本物のように立体的に再現するんだぜ?」

 万桜(マオ)は、そう言って、マウスでモデルをグリグリと動かし、様々な角度から舞桜(マオ)のモデルを眺めた。

「このモデルは、ブロックチェーンで管理されているから、勝手に改ざんされる心配もない。セキュリティは完璧だぜ!」

 万桜(マオ)は、興奮して語る。しかし、舞桜(マオ)の視線は、モデルの左腕に釘付けになっていた。

 モデルの左腕には、彼女が幼い頃に手術をした際に残った、小さな傷跡が忠実に再現されている。それは、誰も知らない、彼女だけの秘密だった。

 その傷跡まで、完璧に再現されている。

「…おまえ、どこまで知ってるのよ…」

 舞桜(マオ)の声は、震えていた。

 万桜(マオ)は、彼女の動揺に全く気づくことなく、首を傾げる。

「え? そりゃ、なんでもだろ? これは、医療分野や建築分野にも応用できる画期的な技術になるんだぜ?」

 その言葉に、舞桜(マオ)は、自分の心臓が凍りつくような感覚を覚えた。

 万桜(マオ)は、自分の身体の秘密まで、すべてお見通しなのではないか。

 そんな恐怖と、彼の持つ底知れぬ才能への畏敬が、舞桜(マオ)の心を支配していた。そして、その恐怖は、次第に別の感情へと変わっていく。誰もが気づかない、自分だけの秘密を、彼は見抜いてしまった。

 それは、まるで、自分の心の奥底を覗かれたような、恥ずかしいような、それでいて、少しだけ嬉しいような、複雑な感情だった。

 舞桜(マオ)は、赤くなった顔を、万桜(マオ)に見られないように、そっと俯いた。

 万桜(マオ)は、そんな舞桜(マオ)の様子を見て、不思議そうに首を傾げる。

「ボッチ、どうしたんだ? 顔、赤いぜ?」

「う、うるさいわ! 風邪よ風邪!」

 舞桜(マオ)は、精一杯の強がりを言って、万桜(マオ)から逃げるように、カフェの外へと駆け出していった。


 舞桜(マオ)が駆け去っていった後、静寂が訪れたカフェの休憩室に、突如として鈍い音が響き渡った。

 それは、莉那(リナ)が渾身の力を込めた、万桜(マオ)の臀部への鋭い蹴りの音だった。

「痛ぇな! いきなりなにすんだよサブリナ!」

 万桜(マオ)は、痛みに声を上げながら、その場に崩れ落ちそうになる。しかし、それを許さなかったのは、彼の背後に立っていた番長(バンチョー)だ。

 番長(バンチョー)は、素早く万桜(マオ)の頭を鷲掴みにし、アイアンクローで彼を宙に吊るし上げた。

黒幕(フィクサー)、これは駄目だ…擁護のしようもねえ…」

 番長(バンチョー)は、その筋肉質な腕に更に力を込め、万桜(マオ)の頭を締め上げた。

「見損なったぞ万桜(マオ)?」

 莉那(リナ)は、悔しさと怒りが入り混じった、泣きそうな顔で万桜(マオ)を責め立てた。

 彼女たちの怒りの理由が全くわからない万桜(マオ)は、必死に痛みに耐えながら、番長(バンチョー)から逃れようともがく。

「痛ぇな! 離せよ! な、なにがだよ? 俺はなにも悪いことしてないだろ!」

 万桜(マオ)は、純粋に怒ったように、物理的な制裁の理由を尋ねた。

 その言葉を聞いた莉那(リナ)は、堪えきれずに、大粒の涙を流した。

「なにが、なにも悪くない! 裸を、ベクターデータに落とし込むことの意味、あんたはわかってるの!?」

 莉那(リナ)の叫びは、カフェの壁に反響し、万桜(マオ)の耳に突き刺さる。

 しかし、万桜(マオ)は、その言葉の意味を理解することができなかった。

「ベクターデータってのは、単なる画像の集合じゃない! 身体の構造、筋肉の付き方、骨格の歪み、全部が数値化されて、永久に保存されるってことなんだよ!」

 莉那(リナ)は、涙ながらに、万桜(マオ)に語りかける。

「あんたは、舞桜(マオ)の秘密を、物理的な身体情報という形で、完全に掌握したんだ! それが、どれだけ恐ろしいことか、わかってるの!?」

 万桜(マオ)は、その言葉に、ようやく事の重大さを理解し始めた。

 彼は、ただ単に、舞桜(マオ)の身体を三次元モデルにしたかっただけだ。それが、これほどまでに、彼女を傷つけるとは、想像もしていなかった。

 番長(バンチョー)は、万桜(マオ)を床に下ろすと、静かに彼を見据える。

黒幕(フィクサー)、おまえの才能は、兵器にもなれば、人を救う光にもなる。でもな、今回ばかりは、はっきりと言ってやる…おまえは、人の心を、裸にしたんだ」

 その言葉は、万桜(マオ)の心に深く突き刺さった。

「ちょっとやっちまった…」

 万桜(マオ)は、力なく呟く。

「俺は、ボッチのことを…」

 その言葉の続きを、彼は口にすることができなかった。

 莉那(リナ)は、そんな万桜(マオ)の姿を見て、涙を拭い、静かに彼の肩に手を置く。

「わかってくれたのなら、それでいい。舞桜(マオ)に謝ってあげて。ちゃんと、心から…」

 莉那(リナ)の言葉に、万桜(マオ)は、深く頷いた。

 彼は、自分がしてしまったことの大きさを、ようやく理解したのだ。

 そして、彼は、自分の才能が、どれだけ大きな責任を伴うものなのかを、改めて認識したのだった。


 番長(バンチョー)莉那(リナ)の説教に、万桜(マオ)は、ついに堪忍袋の緒が切れた。

「って、だからブロックチェーンをかけてんだろうが! 小せえ理屈で未来への動線塞ぐんじゃねえ!」

 万桜(マオ)は、倫理という理屈で、彼の偉大な未来を塞ごうとする二人に、まるで獣のように吠えた。

「ブロックチェーン?」

 莉那(リナ)は、万桜(マオ)の聞いたこともない言葉に、きょとんと目を丸くする。

「あれじゃねえか福元、仮想通貨。怪しい金の匂いがプンプンするぜ」

 番長(バンチョー)は、その程度の認識で、万桜(マオ)を冷ややかに見つめた。

 万桜(マオ)は、そんな二人の無知な反応に、頭を掻きむしる。

「ちげーよ! ブロックチェーンってのはな、データを鎖みたいに繋いで、誰にも改ざんできねーようにする技術だ! データは一箇所じゃなくて、みんなで管理するから、たとえ誰かが見ても、勝手に書き換えたり、消したりはできねーんだよ! もちろん同意なき閲覧もな!」

 万桜(マオ)は、興奮して捲し立てた。

「つまり、ボッチの身体データは、俺も、ボッチも、それどころか世界中の誰一人として、勝手に変えたり消したりはできねー! だから、プライバシーは完璧に守られてるんだよ!」

 万桜(マオ)は、拳を握りしめ、二人に訴えかける。

「そして、そのデータを使えば、なにが作れるかわかるか!?」

 万桜(マオ)は、間髪入れずに言葉を続けた。

「サブリナ、おまえだって、いつも言ってるだろ? ブラジャーが締め付けて苦しいって!」

 莉那(リナ)は、耳まで真っ赤にして顔を背ける。

「う、うるさいわね! それが、この話と、なにが関係あるのよ!?」

「関係、大ありだ! この技術を使えば、おまえの身体データに合わせて、世界でたった一つの、完璧にフィットするオーダーメイドのブラだって作れるんだぜ?」

 万桜(マオ)は、そう畳み掛け、さらに言葉を続けた。

「靴も服もだ! もう、サイズが合わねえとか、買ったから我慢して履く、そんな悩みとは無縁の時代になる!」

 万桜(マオ)の言葉は、二人の心を揺さぶった。

 番長(バンチョー)は、万桜(マオ)のそのスケールの大きさに、ただただ圧倒されていた。

 莉那(リナ)は、自分が悩んでいた小さな悩みが、万桜(マオ)の壮大なビジョンの、ほんの一部分に過ぎなかったことを知り、言葉を失った。

 万桜(マオ)は、二人の反応を見て、満足そうに頷いた。


 万桜(マオ)の壮大なビジョンに、莉那(リナ)番長(バンチョー)が言葉を失っている中、ドアが勢いよく開いた。

「そのとおりよ。サブリナ」

 そこには、先ほど駆け去っていったはずの舞桜(マオ)が立っていた。彼女の顔は、まだ少し赤いが、その瞳には、迷いのない強い光が宿っていた。

 舞桜(マオ)は、莉那(リナ)番長(バンチョー)、そして万桜(マオ)を鋭く見据え、高らかに宣言する。

「あたしたちは、生理用品の歴史を、根本から変えるわ!」

 その言葉に、莉那(リナ)番長(バンチョー)は、思わずゴクリと唾を飲み込んだ。

 舞桜(マオ)は、一歩も引かずに、万桜(マオ)の言葉を引き継ぎ、オーダーメイド生理用品の可能性を、論理的に、そして情熱的に力説し始めた。

「現在の生理用品は、平均的な女性の身体に合わせて作られている。それは、まるで、平均的な頭の形に合わせて作られた帽子を、全員に被せているようなものよ。そこに、当然、不快感や漏れという問題が発生するわ」

 彼女は、まるでプレゼンをしているかのように、淀みない言葉で語る。

「黒木の技術は、その問題を解決する。MRIで取得したデータをベクター化し、個々人の身体の形状を正確に再現することで、完璧にフィットする生理用品を製造できるのよ! これは、単なる『快適性』の問題じゃない。『女性が、生理期間中も、活動的でいられる』という、社会全体への貢献に繋がる、人類の進化よ!」

 舞桜(マオ)の言葉は、熱を帯びていく。

「漏れを気にすることなく、スポーツを楽しめる。長時間の会議でも、集中力を切らさずにいられる。これは、単なる製品開発じゃない。女性のエンパワーメント、ひいては社会全体の生産性向上に繋がる、壮大なプロジェクトなのよ!」

 カフェにいる他の客が、好奇心に満ちた眼差しで、こちらを見ている。

 そんな中、万桜(マオ)番長(バンチョー)は、諸手で顔を覆い、その場に蹲った。

「「恥じらって下さい。そして、声を抑えて! お願いですから!」」

 二人は、縋るように懇願した。

「ヤロー居るのに、デリケート案件について熱弁するな!」

「しかも、こんなに大きな声で…!」

 二人の悲痛な懇願にも、舞桜(マオ)は、一向に構うことなく、熱弁を続けた。

 彼女の脳内には、もはや「恥ずかしい」という概念は存在しない。あるのは、万桜(マオ)の才能を、未来へと繋ぐという、ただ一つの使命感だけだった。

 そして、この瞬間、舞桜(マオ)は、再び「魔王案件」の戦線に復帰したのだった。


「つか、思春期じゃねえんだから、興味津々なわけねえだろう?」

 万桜(マオ)は、そう言い放ち、再び冷静な表情に戻る。

 その言葉を聞いた莉那(リナ)は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「へえ~? そりゃどうかな? もしかしたら、内心では、舞桜(マオ)が興奮して話している、その生理用品のサイズについて、想像してたりして?」

 莉那(リナ)は、わざとらしく、万桜(マオ)の顔を覗き込む。

「お、俺はど変態かーッ! 俺にやらしい気持ちは微塵もねえ!」

「本当に~? この3Dモデル、こっそり裸にしてニヨニヨすんじゃないのぉ?」

 莉那(リナ)は、さらに言葉で追い詰める。

 万桜(マオ)は、頭を掻きむしり、叫んだ。

「ちげーよ! つか、そんなことのために大金遣うか!」

 彼は、からかいから逃れるように、ホワイトボードに向かい、ペンを手に取った。

「いちいちMRIのデータ使ってたら、金掛かって仕方がねえ。そこでこれだ」

 万桜(マオ)は、自身の構想を殴り書く。

 そこには、「LDS」と「超音波センサー」、「心音」といった言葉が、乱雑に描かれていた。

「MRIってのは、磁力と電波を使って、身体の内部を詳しく調べるもんだ。でも、めちゃくちゃ高え。だから、もっと安価な、LDSと超音波センサーと脈音や心音のデータで、ザックリと形や内部構造を把握するんだ」

 万桜(マオ)は、熱心に説明する。

「そして、そのザックリとしたデータを、MRIのデータを標本にして、人工知能が試行錯誤を繰り返し、精度を上げる。そうすりゃ、誰もが安価に自分の身体をスキャンできる、安価なMRIが作れるぜ?」

 万桜(マオ)は、自慢げに振り返る。しかし、莉那(リナ)舞桜(マオ)は、万桜(マオ)の真剣な表情を前に、からかうのをやめていた。

 二人は、万桜(マオ)の頭の中には、いつも、自分たちが想像もできないような、壮大な未来のビジョンがあることを知っていた。そして、それが、彼の最大の魅力であることも、改めて認識したのだった。

「黒木…」

 舞桜(マオ)がポツリと、

「あたしの裸に興味ゼロか?」

 呟くように投げかける。

「恥じらって! お願いですから恥じらって!」

 元休憩室に万桜(マオ)の悲鳴が木霊した。


「いや、女性陣特有の話題は、勇希たちが帰ってきてからやってくれ…」

 万桜(マオ)は、心底うんざりしたように言う。

 彼は、この状況が、自分の想像を超える、全く新しい「魔王案件」であると悟っていた。

「俺が思い浮かぶのは、3DプリンタやMRI連動くれえだ。あとは社内福利厚生や、健康保険適用くれーか?」

 万桜(マオ)は、あくまで技術者としての視点で、淀みなくアイデアを述べた。

 その言葉を聞いた舞桜(マオ)は、満足そうに頷き、莉那(リナ)に命じる。

「サブリナ」

「御意!」

 莉那(リナ)は、にっこりと笑みを浮かべ、万桜(マオ)に近づく。そして、有無を言わさず、彼の両腕を背中に回し、強固に拘束した。

 万桜(マオ)は、彼女の予想外の行動に、悲鳴を上げる。

「おい、なにすんだよサブリナ! やめろ!」

 しかし、彼の抵抗は虚しく、莉那(リナ)は、万桜(マオ)をズルズルと、舞桜(マオ)琴葉(コトハ)の元へと引きずっていく。

 番長(バンチョー)は、その光景を、ただ呆然と見つめていた。

黒幕(フィクサー)に最敬礼!」

 番長(バンチョー)は、そう言って、深々と頭を下げた。それは、まるで、戦場へ向かう友を見送るかのような、悲痛な最敬礼だった。

 万桜(マオ)は、ゲッソリとした面持ちで、女子2人…いや、正確にはリモート越しの勇希と琴葉(コトハ)を交えた女子4人の熱い議論に、強制的に参加させられる羽目になった。

 彼の「柔軟な発想」は、女子たちの「デリケート案件」という、未踏の領域に足を踏み入れることになったのだ。

 そして、万桜(マオ)が解放されたのは、日がとっぷりと暮れる頃だった。

 彼は、心身ともに消耗しきっていた。

 まるで、過酷な修行を終えたかのように、全身から力が抜けている。

 彼は、フラフラとカフェを出ると、夜空を見上げ、呟いた。

「未来への動線…こんなにもハードなもんだったのか…」

 その声は、虚しく夜風に消えていった。しかし、彼の頭の中には、女子たちの熱い議論と、デリケートな案件についての、想像を絶するアイデアが、既に渦巻いていたのだった。

『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をお読みの地球の皆様へ!

いつも拙作『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をお読みいただき、本当にありがとうございます!

物語の中で、「魔王」こと黒木万桜は、時には「水嚢の川」で災害に立ち向かい、時には中古スマホを活用したクローズドネットワークなんて突拍子もないアイデアまで生み出しています。

実は、この物語には、万桜のそんな「もしかしたら、これって本当に役立つかも?」と思えるような、たくさんのアイデアが散りばめられているんです。読者の皆さんも、「これ、面白い!」「こんな風に使えるんじゃないか?」なんて、閃いたことはありませんか?

地球のみんなぁ~! オラに「★」をわけてくれーっ!

もし、この物語を読んで、少しでも「面白い!」「次の展開が楽しみ!」「万桜のアイデア、イケるかも!」と感じていただけたなら、どうかページ下部の【★★★★★】ボタンをポチッ!と押して、星評価を分けていただけないでしょうか!

皆さんのその「★」一つ一つが、作者の大きな励みになり、万桜の次の「魔王案件」へと繋がるエネルギーになります!

引き続き、『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をどうぞよろしくお願いいたします!

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