06.晩餐会
私達家族が一堂に会するのは珍しい。現王である祖父に祖母、王太子となる父と母、父の弟妹………第二王子となる叔父と第一王女の叔母、そして王太子の息子である私、それぞれの役割が忙しく会う機会が殆ど無いのだ。
そんな訳で、月に1回全員のスケジュールを無理矢理空けての晩餐会が開かれるという訳だ。これは王族のみという私的な晩餐会であり、基本無礼講。場合によっては、現王である祖父に直談判出来る機会という訳だ。但し、暗黙のルールとして政治の話は禁止されている。
晩餐会は基本全員参加である。体調が著しく悪かったりする場合は不参加でも許されるが、仕事が忙しい等の言い訳は一切考慮されない。王でさえ、このルールからは逃れられないのだ。
勿論、この晩餐会に参加したくない訳ではない。母以外の親族に会うのが極めて稀な私にとっては、数少ない交流の場なのだ。参加しない理由は無い。
晩餐会はそこそこ大きな丸テーブルで行われる。私が参加し始めた頃は長方形の長テーブルだったのだが、現王である祖父の『儂も孫ともっとお話したい』という駄々によって丸テーブルに変更された。そんな訳で、私の席は常に祖父の隣である。
席順はランダムであり、これといった席は無く、各々好きな席に座るといった具合だ。と言っても、座る場所はそこそこ固定されている。祖父の隣には私が座るし、王太子である父の隣には母、母の隣には絶対に座らない叔父といった感じだ。
さて、この叔父だが、良い意味でも悪い意味でも王族らしくない。政治家というよりも研究者といった側面が強く、研究にのめり込み過ぎて晩餐会に出渋るといった状況も少なくなかった。まぁ、その場合は叔父の側近や叔母が無理矢理連れて来るのだが。
父と叔父は王太子と第二王子という関係だ。兄弟仲は至って良好であり、叔父は兄を支える弟………実際に支えているかは別として、王太子である兄を上げるのを忘れないスタンスであるようだ。
不敬な事を考える輩にとっては、第二王子という存在は甘い汁を貪るという目的の格好の的になるのだろう。叔父を担ぎ上げ王太子を引き摺り下ろし、恩を売った体で自身の地位を引き上げる。前世のドラマや小説で散々見た展開だ。
叔父はそんな兄弟間のギクシャクした関係を無くすべく、政治の世界を離れて研究に没頭しているのかもしれない。………単なる趣味人という説もあるか。
少なくとも、今迄の叔父の様子からは野心は見えない。いつか王太子を弑して、その席に座ってやろうという気は無いようだ。
今日もいつも通り、叔父は最後に登場した。時間には間に合っているので、祖父は叔父をギロリと睨んだだけだった。ほぼ毎度の事だから、祖父も諦めているのかもしれない。
「お兄様、遅いですよ。確かに晩餐会の時間には間に合っていますが、お兄様が遅れる分だけユー君のお食事までの時間が伸びるのです。幼子であるユー君の体調を慮って早く来る事は出来ないのですか」
「それは、ユーキ君、すまない。研究が立て込んでいてね。私も出来る限り急いで来たんだが、今回も最後になってしまったな。ある程度の目処が付けば早く来るつもりだったんだが、どうにもね………」
祖父は叔父に対して口出しはしなかったが、代わりに叔母が苦言を呈していた。
余談だが、祖父と女性陣は私の事をユー君と呼ぶ。ユーキスタスという名前は長いし、私が“ユー君”と言う呼称は愛称であると理解しているためと考えられる。
父は“ユーキスタス”、叔父は“ユーキ君”と呼ぶ。叔父はよく分からないが、恐らく父は私を“ユー君”と呼ぶのは気恥ずかしいのだろう。
晩餐会での会話内容は主に私の事だ。晩餐会の主催は現王である祖父であり、通常ならば祖父が家族へと話を振る立場にある。しかし、大抵の話題は私の事だ。
祖父が私に構いすぎている気がするが、いつもの事なので皆諦めている節がある。
私はお子様なので、他の皆とは食べるメニューが少し違う。食べるスピードも遅い。いや、遅いと言うよりも、逐次ある祖父からの質問に返答したりしていて、結果的に遅くなってしまうのだ。流石に身内であっても、現王である祖父相手に礼を失した行動は取れないのでね。
質問内容は主に私の習い事についてだ。ハーバリアス講師の事だとか、彼から何を学んでいるか等々。普段触れ合う機会が無い分、こういった所で私の近況を知っておきたいのだろう。普段の生活とかも聞かれるが、普段の生活≒1日の大半を占める習い事なので、特に答える事は出来ない。