52.中間考査
時間は飛び、中間考査の時期となった。
と言っても、大抵の1年生には縁もゆかりも無いイベントだ。精々、文化祭を楽しむ位の物か。
文化祭と言っても、前世的な文化祭ではない。前世では、それぞれの部活動等が飲食の出し物や、演じ物、研究発表会等を行っていた。しかし、この学院では研究発表会のみだ。
今迄の物だと、この大陸で興った国の歴史を総浚いした物や、新しい無属性魔法の発見とかだ。大抵の研究は学院の講師が行っているが、中には生徒が主導して行った物もあるようだ。
さて、今回の文化祭では“ジュリエッタ嬢について”の研究発表がある。発表者はレイレアムスを始めとしたグランデスブルグ派の生徒と、研究補助の講師だ。
発表内容が存命中のただの公爵令嬢個人の研究とは、一体どういう事態かと思っただろう。
まず、忘れてはならないが、ジュリエッタ嬢の両足は通常の物ではない。肉が魔力過多によって結晶化してしまった物体を魔法で固定化し、義足として用いているに過ぎないのだ。
これは、そんな義足に関する研究なのだという。この世界は車椅子やら義足やらの身体的な補助具の種類が異様に少ない。
そもそも、封建制度が残っている辺り、前世の時代よりも文明的に遅れているようだが。科学の発明品が巷に溢れていないのも、前世には無かった魔法が関係しているのは明らかだろう。
まぁ、そんな訳で、私がアイデアを出した例の義足や車椅子は、グランデスブルグお抱えの技術者や研究者達に少なからずショックを与えてしまったようである。そのため、当人であるジュリエッタ嬢と重要参考人である王子が在学中である時期を狙って発表する事らしい。
但し、技術公開をする訳ではない。技術の核心的な部分は秘匿するが、この“義足”という前向きな補助具を世界へ向けて発信していくそうだ。
私は当の発表会に当事者として招待されている。
そんな訳で、アンティローゼ嬢を伴ってレイレアムス達の研究発表室へと足を運んだ次第だ。同行者はカストルとその婚約者のアイリーン嬢。奇しくもダブルデートのような形になってしまったが、奴等が見ているのは婚約者ではなく、王子である。
「ユーキスタス様、お待ちしておりました」
私達を出迎えたのは、レイレアムスとジュリエッタ嬢だ。レイレアムスは兎も角、ジュリエッタ嬢がこんな所に居て良いのか?
「研究内容が私の事ですからね。生徒会の雑務は他の者に回して来ました。それに、私が居た方が都合が良いでしょう」
まぁ、研究対象がジュリエッタ嬢の両足なので、居てくれた方が良いのはそうなんだが………。本当に良いのか? 場合によっては、その両足を衆目に晒す事になると思うが。
ジュリエッタ嬢は、いつもの長ズボン姿ではなく、ロングスカートだ。つまり、彼女もそれなりの覚悟で挑んでいるという訳だ。………いや、覚悟って何の覚悟だ。
因みに学則での女生徒のスカート丈は膝下程度となっている。“乙女ゲーム”らしく大半の生徒は膝上に調整しているが、ジュリエッタ嬢のように踝まで隠すような者は居ない。
「ユーキスタス様が心配為さらずとも、見せるとしても他の女生徒程度しか見せませんよ。つまりこの学院での“普通”程度ですね。………まぁ、見る人によってはショックが強い物かもしれませんので、実物を見せるのは控えて映像写真を見せるに留めますが」
この研究発表会には、ジュリエッタ嬢人気のお陰で普段ならば集まらないような人数が集まっている。まぁ、つまりは多数の女生徒で構成されたジュリエッタ嬢の親衛隊だ。
親衛隊の内部に入っているグランデスブルグ派の生徒が上手く調整してくれている筈だが、場合によっては彼女達が暴徒化しかねないだろう。この場に王子とジュリエッタ嬢が居る事で理性を保ってくれるとは思うが、彼女の結晶化した両足を見てパニックを起こす可能性もあり得るだろう。
レイレアムスの言う“映像写真”とは、前世の写真のような物で、私が学院入学前に開発し、幼い頃に作った光石と同じ様に功績を叔父に押し付けて来た代物だ。
写真と言っても、紙等に印刷した物ではない。前世的に言えば、投射型映像だろう。性能を絞って作ったので、映された物が動く事は無い。
まぁ、確かにアレならば、事前に撮影した物を見せれば良いだけだから、実物を見せるよりも混乱は抑えられるだろう。何より、足を親族以外に見せるっていうのは、この国の風俗的に宜しくないのでね。