51.顔に出ている
「恐らくですが、今年入学での中退者は少ないでしょう。もしかしたら、0人かもしれません。同じ学年にユーキスタス様が居ますからね。同年代の者として未来の為政者との繋がりを作る事が、何よりも優先される事項だと思いますから」
セドリック・フォン・ウィッツバーグ子爵令息によると、数十年前の父の代でも中退者はほぼ居なかったらしい。0人という訳ではないが、例年に比べてかなり少なかったようだ。
ただ、彼はそんな事を言っているが、現生徒会の面子はジュリエッタ嬢が卒業したら軒並み中退するだろうな。
彼等は、ジュリエッタ嬢を守るために各家から送られてきた護衛だ。まぁ、他にもそんな奴等は居るだろうが、エドガーが手元に置いた彼等はその精鋭といった所だ。
そんなグランデスブルグ派の精鋭である彼等は、王子である私よりもグランデスブルグ家のジュリエッタ嬢の方が大事だと思っているのだろう。王家との顔繋ぎよりも、親である公爵家に忠誠を尽くすタイプだ。顔に出ている。
まぁ、それを引き止めるのが来年の私の役割だな。前途有望な若者をおめおめと帰す訳にはいかない。是非私の手足となって働いて貰いたいものだ。
「時間も押していますし、本題に入りますが………。実は本題が2つあります。一つは、秋の中間考査。こちらは今迄通り準備を進めていますので、大きな問題が起こらない限り、恙無く進行出来るでしょう。1年生を除いた2・3学年対象の試験ですので、ユーキスタス様とセドレアは余り気にしなくても良いです。生徒会の役割は、主に学院講師と生徒との折衝となります。これの詳細はまた別に説明致します。………そして、もう一つになるのですが…………来年度に隣国から第三王子が留学してくるそうです」
中間考査。これはいい。前世的に言うと、中間テストだ。ついでに文化祭も混じった、学院の一大イベントとなっている。
この文化祭の期間に、来年度入学するための貴族子息向けとして、本来部外者立入禁止の学院に学院を開放するそうだ。前世的に言うならば、オープンキャンパスか。………まぁ、文化祭は学院の有志と講師がやるだけなので規模はそれなりに小さいのだが。
問題はもう一つの方だ。隣国? 一番大事な事だが、何処の?
「同盟国であるプリンストク王国ですね。それの第三王子である、ユークリッド・ディアンシラ・プリンストク様だそうです。どうやら本当は今年入学したかったそうですが、話が急過ぎた事と入学の年齢に達していなかった事を理由に断っていたようです。………まぁ、狙いは明らかにユーキスタス様でしょうし、入学してきた際には新生徒会長として宜しくお願い致しますね?」
山脈挟んで向こう側にある同盟国プリンストクは、山々に囲まれ林業を主産業とした、風光明媚な観光名所も多いと噂の国だ。私の母の出身国でもある。
プリンストクの更に向こう側にエンドロフィア国と同等の国があるため、プリンストクを緩衝地帯としている背景がある。
そんな国の第三王子がこの学院に来るとな? 確か、第二王子はあちらの国に留学していた筈だから、それのバランスを取るためか。
私は彼とは会った事は無い。そもそも、国外へと出た事も無い。まぁ、前世とは違い国外旅行も気軽に出来ない身だから当然ではあるのだが。
しかし、他国の王子が来るのか………。如何にも過ぎる展開だな。つまり、来年も“乙女ゲーム”が続くと考えて良いだろう。しかも、来年度は私が生徒会長だ。厄介事が増えそうで困る。その事実に思わずため息が出そうになった。
「………ところで、来期も生徒会に何人かは残りますよね? 他国の王子が来るとなると、経験豊富な役員が居ないと上手く回らないと思うのですが?」
「そうですね。“王子”からの呼び掛けがあれば誰であれ、参加致しますよ」
ニッコリ。私の問いに答えたのはセドリックだ。わざわざ“王子”という語を使っている辺り、私の下に来る気が無いのは丸分かりだ。“学院”に居る私は、“王子”ではなく“生徒”なのだと、言外に強調しているのだ。
実は武人気質らしいメニエッタ嬢は、恐らくセドリックと同じように望み薄だろう。ジュリエッタ嬢卒業と同時に中退して、彼女の侍女とかになりそうな気がする。
私と同じ歳であるセドレアは………よく分からない。先程セドリックが言っていたように、王子との顔繋ぎのために学院に残るのか、領地運営のためにグランデスブルグ子爵の元へ帰るのか、今の段階では判断しかねる。
1年生のグランデスブルグ派貴族は他にも居るが、ジュリエッタ嬢に一番近いのは従兄弟であるセドレアだ。
ジュリエッタ嬢の婚約者であるレイレアムスが私の側近見習いだし、もしかしたら残るかもしれないな。………レイレアムスを生徒会に入れるか。私は、セドレアという有能な者を引き止めるために、レイレアムスを生贄に捧げる事を決めた。
これからもイベントは目白押し。