05.3歳になりました
私は3歳になった。
あれから色々あったが、特に何事も無いようにしたので詳しくは割愛しておこう。
この3年間で、私のフルネーム、国名、使用言語、その他諸々が大まかであるが分かった。
まず、私の今世での名前だが、ユーキスタス・フォン・エンドロフィアという。エンドロフィア王国の王太子の長男、つまり王子である。
エンドロフィア王国とは、タグレント大陸の一角にある国で、海に面した風光明媚な国であるらしい。因みに、日本と同じように四季がある。私付きの侍女から聞いた。
しかし、タグレント大陸もエンドロフィア王国も聞いた事の無い名前だ。私も全世界の国名を知っていた訳ではないが、こんな国は何処にも無かった気がする。
使用言語は、西大陸共通語。大体、ここら辺の国は同じ言語で意思疎通が出来るそうだ。前世の感覚だと、それぞれの国ごとで話す言語が変わりそうだが、便利な共通語なんてモノがあるんだな。
遥かな昔、ここ西大陸には超巨大な国家があった。しかし、それが滅び幾つかの国へと分化したようだ。それによって、同じ言葉を話す国が多いという事らしい。超巨大国家………ローマ帝国かな? いや、知らない大陸と国名だし、何か根本的に違う気がする。
しかし、それならば、その超巨大国家の名前が言語の方に付いていそうなモノだが。まぁ、誰も覚えていないから共通語という言葉に落ち着いたのかもしれないな。
「ユーキスタス様。そろそろハーバリアス講師がいらっしゃるお時間です」
今の私は3歳である。もう一度言おう。3歳である。
そんな3歳の私の1日のスケジュールは綿密だ。現代的に言えば、習い事やお稽古が朝から晩までみっちり詰め込まれている。朝の軽い運動から始まり、算術、史学、文学、音学、等々。3歳でやる事か?という疑問はあるが、これが王族の務めとか言われてしまえば、ぐうの音も出ない。
今から来るハーバリアス講師は、この内の算術と史学、文学を担当する。王族とかで定番の帝王学は年齢的にまだ早いらしい。ただ、私の神童ぶりを見て予定が早まる可能性も示唆された。
しかし、神童とはね。これは偏に前世の影響だろう。こんな事なら、適当に間違えたふりでもしておけば良かった。だが、雑に間違えると、手を抜いていると見破られるから私もそれ程手を抜けなかったのだ。
その結果が神童という評価である。ハーバリアス講師には悪いが、私はただの一般人である。その内、普通の人間になるだろうから余り過度な期待は持たないでいてくれると精神的に助かる。
まぁ、それは兎も角。ハーバリアス講師には随分と助けられている。神童云々はいただけないが、王族としての一般教養を解りやすく噛み砕いた情報として教えてくれる。彼は幾ら神童扱いしても、私が3歳であるという事を慮ってくれているのだろう。
人に物を教える時は猿にでも分かるように説明しろと前世で習ったが、まさしく猿並みの3歳児にも解りやすい説明であるため、相当優秀な者のようだ。人によっては詰め込み教育こそ正義と言うかの如く、解説を放棄する講師も居るからな。いや、王族の講師なんて立場に居るのだから元々優秀なのは間違いないか。
中でも、史学は私のお気に入りだ。何しろ、この国の歴史は前世では聞いた事も無い事の連続だったのだ。人間、知らない事を知りたいと思うのは本能なのだなぁと思った次第。ちょくちょく気になる言葉が散見されるが、これについては後で語ろう。
算術は、まぁ、前世でもやっていたしどうという事は無い。簡単な四則関数を解くだけだ。と、スラスラ解いていたら神童扱いされたのだが。
文学は所謂国語だ。文法やら詩歌やらを学ぶ学問だ。私の西大陸共通語は未だ完璧とはほど遠い。それは、特殊な言い回しやら慣用句を覚えていないせいだ。しかし、この文学を勉強する事でそれを補ってくれる。ハーバリアス講師様々である。
まぁ、私の高い学習意欲が普通の3歳児の範疇を大きく逸脱していたせいで、ハーバリアス講師の勘違いが加速してしまう訳なのだが。
「今日は晩餐会の日でしたね? では、ここまでと致しましょう。では、また明日参りますので、今日の箇所を復習しておくようにお願い致します」
そう言ってハーバリアス講師は引き上げていった。
ハーバリアス講師が言う“晩餐会”とは、月1で行われる王族………家族のみで行う夕食会の事だ。