48.残当
本人に自覚が一切無さそうであるため、違うと思いたいが、自爆実行犯は得てして正しい情報を与えられないものだ。
だが、これらの事は疑惑でしかない。“ミラース”の姓を持つ者は、このモニカ嬢だけではない。………これは、ミラー侯爵家含め、学院に通う平民達の身辺を徹底的に洗った方が良いかもしれないな。
心の閻魔帳に王家への報告書に記載する内容をメモしながら、意識的に笑顔を浮かべ口を開く。
「エラ・ミラースさん。魔力暴走は危険な現象だ。聖属性なる物が実在するとしても、魔力暴走で引き起こされる被害は甚大な物となる。もし、それが学院内で起きた場合どうなるか分かるかな? あのミラー侯爵に見出された聡明な貴女ならば分かると思うが………」
「え? えーと、罰として反省文でも書かされる? 奉仕活動とか?」
………………。おっと、折角作った笑顔に罅が入る所だった。どうやら、彼女は未だに何も分かっていなかったようだね。
「ファビーノ子爵。彼女は魔力制御やそれに関する常識以前の問題ではないだろうか? 他のミラース達は比較的まともだったと思うが、何故彼女はこうなのだろう? 平民が学院に入るためには、3つの課題を確認する筈だと記憶しているが?」
彼女のような平民がこの学院に入学するために必要な物は3つ。入学に必要な学力、貴族の後見人、そして王家に反抗的な思想に染まっていない事だ。
超絶的に頭脳明晰であり、超有力貴族の後見人を得たとしても、王家に反抗的であると判断されれば入学する事は出来ない。そればかりか後見人ごと、王家に要注意人物としてマークされる事になる。
このモニカ・エラ・ミラース嬢は、王家に反抗的であるとまでは言えないが、魔力暴走を危険なものだと考えていない辺り、危険思想に染まっている可能性がある。
残念だが、この国は民主主義ではなく君主制なのだ。権力者に楯突く可能性のある不穏な芽は早々に摘み取るに限る。まぁ、流石に命までは摘み取らないが。
こんな事は言いたくないが、モニカ・エラ・ミラース嬢はこの学院に相応しくないのではないか? そんな私の問い掛けに対して、ファビーノ教諭は申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「申し訳ありません。入学選考については厳粛に行っている筈です。ですが、王子が懸念している点を鑑みて、学院長及び選考担当の職員と協議をしたいと存じます」
「そうですね。私も故意ではないと思っていますよ。しかし、この件は王家に報告する事になるでしょう。それについては分かっていますね?」
ここは王立学院であるが、その運営については基本的には学院内部の人間だけで行う事になっている。学院長は王家の人間ではないし、教員にも王家の者は居ない。
問題を起こした生徒を退学させるかどうかを決めるのも基本的には学院運営の者だ。それについて貴族家は口を挟む事は出来ない。………王家を除いて。
何と言ったって、この学院は“王立”なんでね。王家は運営方針については基本的に口を出さないようにしているが、何かが在った場合はその限りではない。
王家からの命令が飛べば、モニカ嬢は近い内に退学処分となるだろう。退学までに至らなくても、誤った思想を是正するための処置が取られる事になる。
モニカ嬢が、魔力制御の達人であるファビーノ教諭の言葉や、王子である私の言葉でも考えを改める事がないのならば、この場では何を言ったとしても無駄だろう。
終了時間にはまだ早いが、Dクラスとの合同魔力制御講習はこの場で終了となった。ファビーノ教諭には、モニカ嬢についての所見を纏めて貰わなければならないし、これ以上モニカ嬢の相手をするのは面倒臭い。
モニカ嬢はこの顛末に対して不服そうだったが、私やファビーノ教諭は残念ながら当然の事だと思っているよ。
王家の意向には逆らえない学院長。