45.大事な事なので
「まずは、体内魔力を糸状にして取り出す練習からだ。行く行くは、指先から最低でも5本の魔力糸を出せるようになってもらうからね?」
尚、私は足を含めた全ての指先から、髪の毛程の太さの魔力糸を十数本形成する事が出来る。まぁ、魔力を放出可能なのは指先だけでは無いのだが、一番やりやすいのでね。
エリスティンは、額に汗を流しつつ力を溜め………腕の先から極太の魔力が流れ出てきた。
実は、魔力をそのまま体外に放出するのは難易度が高い。属性を持たせた魔力ならば比較的易しいのだが、造形魔法で使う魔力は色の付いていない無属性だ。
属性魔法の方が易しいのは、世界を構成する魔力と馴染むからだと言われている。これが、無属性魔法が難しいと言われている所以でもあるらしい。まぁ、無属性の中にも認識されていないだけで、普通に属性は在ると思うのだけど、判明している五元素に則った魔法の方が簡単だからね。
「グゥ………ク………」
エリスティンは呻きつつ、放出される魔力を抑えるかのように出力を弱めていっている。
腕から放出される魔力は徐々に弱くなり、途中で消失した。
それと同時に床に手を付いて座り込むエリスティン。顔から滝のような汗をかき、息を荒げているのを見るに、相当キツかったと思える。
「いや………無理っ」
無理じゃないぞ。最低でも指先よりも細く魔力を出せないと、造形魔法なんて夢のまた夢だ。やれば出来る。やらねば出来ぬ。とりあえず反復練習あるのみだ。
「そりゃあ、ユーキスタス様は天才ですから、これ位は軽いんでしょうけど、俺みたいな一般人には、無理ですって」
無理じゃないぞ。大事な事なので2回言いました。
私が何年修行してきたと思っている。膨大過ぎる魔力を持つが故に、来る日も来る日も魔力操作の練習あるのみだった。
私の魔法の先生である叔父は、結構割とスパルタ気質だった。魔法の授業以外では優しかったのに。
恐らく叔父には、自分に出来る事は他の人にも出来るという考えが根底にあり、当時10歳であった私にも同じレベルの操作精度を求めていたのだろう。まぁ、その甲斐あってか、叔父も認める………いや、叔父の想定を遥かに超えた仕上がりになってしまったのだが。
エリスティンも、私ではなくハーバリアス家に師事すれば同じようなレベルになるんじゃないか? そういえば、丁度良く側近見習いにハーバリアス家の子が居たような。
「ドナテロは超感覚派なんで、俺には無理です」
まぁ、それはそう。
私も何度か話を聞いてみたのだが、何を言っているのか二割も理解出来なかった。同じ言語を話している筈なのに………不思議だな?
そんなこんなで、Bクラスとの合同授業は終了した。エリスティンは、ついぞ腕より細くは出来なかったが、このまま練習を重ねていけば、そのうち放出魔力が指先よりも細くはなるだろう。卒業するまでには簡単な造形魔法程度は出来るようになってほしいものだ。
これで側近見習い等の身内が居るクラスとの合同授業は終わった。
後は、CクラスとDクラスとの授業だ。
Cクラスは、財政状況が厳しく魔力操作を学ぶ機会が少なかったり、脳筋………操作を苦手としている者が集まるクラスだ。平民推薦者の多くはここに居るらしい。尚、Dクラスは訳有クラスなので、実質Cクラスが最低ランクのクラスだ。
Dクラスは、Sクラスと同じように1人しか在籍していない。
担当講師曰く、その生徒は魔力が突出して高いが、操作精度はお粗末だった。魔力量によるゴリ押しで魔法を発動させていたが、使う魔法を間違えれば一帯が更地になっていただろう。
故に、Dクラスでは魔力操作と共に、魔法を扱う上での常識を植え付ける事が主題になるらしい。………嫌な予感がしてきたな。