43.夜露死苦
結論、私は必要でした。
Aクラスは事実上の最上位クラスだからね。そのため調子に乗る生徒は出てくる訳で。それを諌めるために私の存在が必要だった訳だ。………最上位はSクラスじゃないのかって? あれは私のためだけに作られた特殊なクラスだから………。特殊であって、特別な訳ではないのがミソだ。
私が見た限りだと、Aクラス内で一番魔力操作が上手いのはドナテロだ。保有魔力は少ないが、省魔力化に優れているため、更に磨けばそれなりの魔法を使えるようになるだろう。
だが、それを面白く思わない人間も居るようだ。高位貴族家を差し置いて、子爵程度が調子乗るなよとかそんな感じ。
こんな馬鹿な事を言っているのは、貴族派の中核である某候爵家の馬鹿息子だ。事前学習した中でも注意対象としてピックアップされていたため、これは予想通りの結果ではある。
そんな彼には、私が直接指導してあげる事になった。ほら、君より身分も実力も高い私が直接指導してあげるのだからもっと喜びたまえよ。王家を差し置いて、候爵家程度が私の側近見習いを馬鹿にするとは片腹痛い。
と内心思っていたのだが、件の候爵子息は思っていたよりも素直だった。何と言うか、ミーハー? ”乙女ゲーム“で言う、当て馬的な人物かと思っていただけに落差が激しい。
彼が私の指導に目を輝かせている様子を見て、同じAクラスであるローズが『また信奉者を作りましたわね』とか生暖かい目で見ている。違いますからね?
そんな馬鹿息子君は、私からの訓示を受け短時間でドナテロの稀有さ………というよりも異常さに気が付く事が出来た。
魔法関係でならば世界屈指であると自負している私が見ても、ドナテロがやっている事は意味不明なのだ。流石、何代にも渡って”塔“に傑物を送り出す事で有名なハーバリアス家である。
尚、例の候爵子息………アウグスト・フォン・ステイルは、今後はドナテロに師事を乞う事にしたようだ。………まぁ、私はAクラスに常駐している訳じゃないからね。
しかし、ドナテロは私の側近見習いだった筈だが、まさか私がドナテロの踏み台にされるとはね………。それにしても、ステイル家は一応貴族派の重鎮だったが、王派であるドナテロと仲良くしていいのか?
「何言ってるんですか。学院は家の事情とは切り離されている場所である筈です。それが建前であっても、家の者が私にこれを理由に文句を付ける事はありません。ならば、私より優れている者に教えを乞うのが正しい在り方。まぁ、子爵家の者に師事するのは以前の私ならば良しとはしなかったですが、ハーバリアスの実力は確かです。そこに派閥は関係ありません」
ドナテロに突っかって来た時は、また馬鹿が出てきたと思ったけれど、彼は割と愉快な性格しているようだった。
尚、この一連の流れはたった1時間で起きた事である。………いや、初回から濃いよ………。
次回の魔力操作の授業はBクラス。つまりエリスティンのクラスと合同だ。と言っても、来週の事になる。
一時は私だけ特殊なクラスに放り込まれた上に、他クラスの生徒の実習補助をすると聞いて若干不安な面もあったが、終わってみると案外大した事は無かった。それに、別クラスの者とも交流の場が増えるというのも良い事だ。今から他のクラスとの交流も楽しみになってきたな。
ただ、エリスティンが在籍するBクラス以外には身内と呼べる間柄の生徒は居ないのだが………まぁ、なるようになるだろう。
「折角のユーキスタス様との合同授業の初回でしたのに、ステイル様に取られてしまいましたわ。次回からは私の事も見て下さいますよね?」
アンティローゼ嬢が拗ねたように問い掛けてくる。ここで取るべき態度は、「勿論だよ」と言う事なのであろうが、残念ながら私が付くのはステイル候爵令息のような問題児が優先なんだ。そもそも、優等生なアンティローゼ嬢には私の指導なんてのは要らないだろう。
「つまり、私が悪い子になれば宜しいのですね?」
そんな言葉に、アンティローゼ嬢がグレた様子が脳内に浮かぶ。
剃り込みを入れ、サングラスを掛け、“夜露死苦”と書かれた白い特攻服を着たアンティローゼ嬢………。何だこの想像。昭和か? 今はもう令和………いや、異世界だった。
「勿論、冗談ですよ。私がクルシュタット家の顔に泥を塗る訳にも参りませんもの。私は大人しく、クラリス様と練習していますわ」
ニッコリ。笑顔から圧を感じる。いや、これはフォローが必要だな。
その後、アンティローゼ嬢を宥めすかした事で、ようやく機嫌を直してくれた。………勿論、これは彼女が譲歩してくれた結果であるが。
あと数話でストックが切れる。