04.今世の父との邂逅
そんなこんなで、私と母の初邂逅は無事に終わった。
私と母の居住場所は違うようで、時が来ると乳母に抱きかかえられ、母とは引き離されてしまった。母は涙目で私を見送るが、これについてとやかく言う事は無い様子だった。恐らく、これがこの国の標準なのだろう。
王族としての務めがある故に、赤ん坊と同じ空間には長らく居られないとか、そういうのもあるかもしれない。
私を育てるために、乳母という子育ての専門職を雇うくらいだ。私の母といえど、執務からは逃れられないのかもしれない。
今世の父に会ったのは、それから暫くしての事だった。
今日も何度目かの母との触れ合い………と思っていたら、部屋に成人男性が数人入ってきたのである。すわ、暴漢かと思ったが、そもそも暫定王宮に暴漢が入って来れる筈もなく、それに暴漢にしては服装が綺麗過ぎる。
その内の一人が母へと近付いてくる。周囲の侍女はそれを止めようともしないので、顔見知りなのだろう。
『マリアンヌ、息災のようだな。体調を崩したと聞いて、気が気ではなかったぞ。………それで、その、この子が?』
『ええ。この子が私とジークヴァルト様の子、ユーキスタスですよ』
母と男は仲睦まじげに話し合っている。男の私を見る目は、母と同じく愛情に溢れているように思える。母の態度や男の様子から考えるに、彼が私の今世の父なのではなかろうか。
『赤子の世話は戦場の如くと聞いている。乳母殿達も息災であろうか。何か困った事があれば遠慮なく申し付けてみよ。可能な限り便宜を図ろう』
『はい。ユーキスタス様は大変賢く可愛く。私の息子とは比べるべくもない程、手の掛からないお子であります。多少ご不快な事が在っても泣きもせず、鷹揚に構える大変赤ん坊らしくない御仁に御座います。流石は“賢王”ジークヴァルト系譜の方であると畏敬の念を抱いているところで御座います』
今世の父の目鼻立ちは鋭く、猛禽類を思わせる顔付きだ。全体的にバランスが整っているため、充分美形の部類ではあるが、絶世の美女である母と並ぶと一段見劣りするのは事実だ。いや、大分イケメンですけどね?
歳の頃は二十代後半といった所だろう。肌は瑞々しく張りがあるが、若干苦労しているようで眉間に薄っすらと皺が刻まれている。
しかし、私はこの父母の子供か。となると、私も相当な美形に育つのかもしれないな。まだ私の姿を確認した訳ではないから、美醜については分からないが。
『そ、そうか。………私が抱いても構わないか?』
『貴方はこの子の父親なのですから、当然です。寧ろ率先して抱いて下さい』
そっと父の手が私身体に差し込まれる。………むぅ、この男も抱き方が下手だな。しかし、私はそれに対する不快感は示さない。母が母親初心者であるように、この父も父親初心者なのだろう。誰にでも初めてな事はある。私は大人しく、父が母と乳母に正しい抱き方を習うのを待つ事にした。